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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第四章 猫又狂獣人叫
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幕間 とある生物の物語

幕間(幕間じゃない)

 本名 なし。元が魔獣ということもあり、彼には名前がないのだろう。



 魔獣<イマジナリーフレンズ>としてこの世界に生まれた彼は、本来サマナル諸島沖に存在する<実体欠損>という<ダンジョン>にて成長するはずだった。



 ...彼は、とある場所で生まれた。そこは、人間が住む場であり、まるで家の隅に住み着く蜘蛛のように、そこで暮らすことになってしまった。



 というのも、<イマジナリーフレンズ>に近接戦闘能力はない。その貧弱な肉体では、そこにいるとバレた瞬間死ぬことは生まれ持った高い知能、これは生物学的な突然変異によるものだと推察できるが、それによって理解していた。



 最初は、なんとかバレないように、陰で生きていた。自身のサイズは人と同じくらいあるために、路地裏などで人間に見つからないよう暮らしていた。



 無論生物である以上食事は必須。エネルギー補給のために残飯を漁っていた...



 一応これも記しておこう。<イマジナリーフレンズ>の食事は言うまでもなく、人の精神である。それを得られないと言うことはすなわち、衰弱につながる。



 だが、しかし。彼は魔獣としては最悪の存在だったのだ。



 ============================================



 え、友達?僕にそんなのいないけど...



 ...イズのこと?あいつは遠くに行っちゃって、会うことはできないよ。もう会えないって言われたし。



 ...イズについて教えて欲しいの?まあ、いいけど...



 あいつに初めて会ったのは路地裏で僕が泣いていた時だったんだよ。ほら、僕ってよくいじめられるんだよね。見た目からして根暗そうでしょ?実際根暗なんだけど。



 その時にたまたま見ちゃったんだ、あいつが、イズがゴミ箱をのぞいて何かしてるのをさ。



 わあ!!って声を出しちゃったんだよ。だって、見たことないくらい虹色で、見たことないくらい不気味だったから。



 そしたらあいつが近づいてきて...僕、怖くて震えちゃって。おしっこだって漏らしちゃったんだよ。



 そんな僕の状態なんてお構いなしに僕を持ち上げてさ。すごかったよ、だって僕が暴れたらそのままスルッと抜けることができたんだもん。



 そしたらあいつ、慌てたようにさ。しぃーってやったんだよ。口元に人差し指を当ててさ。



 んで、「俺のことは秘密にしててくれ」って。



 僕、疑問に思ったんだよ。だから、「おじさんはなんで僕を食べたりしないの?」って。



 だって、ものすごく怖いんだよ?顔がなくて、虹色で、しかも僕はイズを見ちゃってるんだし。



 そしたらさ、あいつなんて言ったと思う?「俺は人間を食べることが嫌いだからだ」って言ったんだよ。



 また聞いたよね。「じゃあなんで秘密にして欲しいの?」って。



 あいつ、答えたんだ。「俺はお前と同じ、のけものなんだ」ってさ。



 ============================================



 人を食べない、つまり寄生しなかった理由はわかっていないが、おそらくは人間社会に長い間いたことで自分のことを人間だと思っていた可能性が最も高いと言われている。



 彼はその後、会った幼い人間の男性と共に過ごすようになったという。



 どちらものけもの、深い理由はなくとも惹かれあったのだろう。



 しかし悲劇というものは誰しもに起こるもの。



 その街は突如魔獣に襲われてしまった。<咆哮の軍勢(ハウリング・ストーム)>という<イベント>で、この世界では1ヶ月に1度は起こる有名な<イベント>だ。



 難易度は(ウュゥ)。簡単なわけではないがそのレベルの中では比較的楽なイベントだ...そうだったはずだ。



 調べたところによると、どうやらこの街の近くには<生存不可地域>が存在した。そこからやってきた<咆哮の軍勢>は、黄には収まらず、おそらく(コー)の域に達すると思われる。



 その時にいた人間で戦闘ができる人間は少なからずいた。しかしここは(ヌル)の、それも辺境も辺境。その<生存不可地域>とは大きな河川が自然の掘として機能していたからこそその日まで何も起こっていなかったわけだが、<イベント>にはそんなこと関係なかった。



 およそ10年前に起こったこの悲劇は、死者5桁生存者1桁という絶望で世界を震撼させた。現在でもこの<イベント>の被害は少なからずあるが、基本的に死者は2桁で多い方である。<生存不可地域>からの<イベント>というものがいかにヤバいものなのかを世界中に示したこの一例は、教科書にすら載るものとなったのだ。



 ============================================



 あの日はね、僕はトイレにいたんだ。



 お腹が痛かったとか、そういうわけではないんだよ。ただ単純に、閉じ込められていただけ。



 個室で窓もなかったし、目の前の扉はつっかえ棒で開かないし、まだ4歳だった僕にはどうすることもできなかったんだ。



 ...外の騒がしさは聞こえてたんだよ。個室自体の壁はボロボロだし、隙間が空いてたからそれで外の様子も見れた。



 声を出したら死ぬ。それは誰だって理解できることだったから、僕は必死で口を押さえたんだ。



 ガタガタ震えて。涙と鼻水をドバドバ出してさ。でも、あいつらは目だけじゃない、鼻でも視えるんだ。



 バシン!バシン!って扉が叩かれてさ、外は唸り声でいっぱいなの。もう本当に怖くて、うずくまっていたんだ。



 その頃には恐怖で口を抑えることもなく、ただただ大声で泣いていたんだよ。怖い、死にたくない、って。



 そしたら...イズが来てくれたんだよ。ああ、イズっていうのは僕が名付けたんだよ。あいつ、名前がないって言ってたし。



 確かに言ってたよ?「怖いめにあったら俺が助けてやる」って。でもあの時はそんなこと覚えてなくて、ただただ怯えてたなあ。



 天井を破ってさ、降りてくるんだよ。でも魔獣たちもその天井から入ってきてさ。



 大きいんだよね、あいつら。大人4人分くらいはあったんだけど、無理やりその空間に入ってきたんだよね。



 ...潰れちゃったんだよ、あいつ。僕との腕相撲だって負けちゃうほど弱いのにでかいやつが入ってきて潰れないわけがなかったんだよね。



 でも、あいつ死ななかったんだ。まあ肉体は死んだみたいなんだけどさ、精神が僕の方に移動してきたんだ。



 ...まさか!ただただびっくりしたんだ。確かに今は<イマジナリーフレンズ>だったんだっていことは知ってるけど、だとしてもあいつは怖くないさ。



 だって、すごかったんだぜ!僕の体を操って、バッタバッタとその魔獣を投げ飛ばしたんだ!



 もちろんすごく重いものを無理やり持ち上げていたから、すごく重かったし痛かったよ。でもそれ以上に爽快感があったよね。



 僕でもこんなことできるんだって。あの時に、僕は自信がついたんだ。僕自身に対する、ね。



 ============================================



 肉体を乗っ取られたその人間は命に別状はなかったらしいが、肉体のおよそ7割の筋肉が破損する大怪我を負っていたらしい。建物の倒壊に巻き込まれてそうなってしまったという説が有力だそうだが、本人はそうは考えていない模様。



 しかし、彼は理解していた。このままだと精神を食らい尽くすことになってしまうことを。



 そのためその事件の10日後、馬車を運転していた140代の男性に寄生したと思われる。



 その後の動向は不明だが、1年前に行われたステータス調査時、ガイラウズ・ドーレリアに寄生中にそれを行われてしまい、発見に至ったとされる。



 かの<魔王>の持つスキル、[超反応]はとても強いスキルだ。



 本来避けられないような攻撃を、まるで予知していたかのように避けられる。肉体が勝手に動くのだ。



 それは全て、<イマジナリーフレンズ>が行ったことであり、そう言っているだけのスキルでもある。



 ...実際のところ、これは推測でしかないが、おそらく寄生している人間の数秒先に起こる未来を予知できるのだと思われる。



 そうでなかったら弱すぎる。例え間一髪避けられたとして、次の攻撃を無理やり避けていればいずれ限界が来る。



 だから、予知。相手の攻撃を見て、それを一体どう避ければ全て安全に避けられるかを考える。彼の演算能力ならそれは容易いだろう。



 ところで、この<イマジナリーフレンズ>という存在は不思議なもので、基本的に人格はなく、寄生先の人間の元の性格と同一のものになるとされている。



 つまり...奴に性格はないのだ。そして、操りきれない力は身を滅ぼすことになる。



 それがこのスキルの弱点である、肉体が追いつかず、また覚えることもないというものだ。



 毎回のようにどう避けたらいいかを考えている以上、確かに最適化はされるがその分の労力を必要とする。また、あの<勇者>も言っていたらしいが回数をこなすことによる筋肉記憶も起きない。こうすれば避けられるという答えの記憶ではなく、毎度のように暗算するしかない。



 記憶力の低下、ということにも繋がっているのだろう。事実、あの<イベント>の被害者であり一度寄生されたKさん(仮称)は幼少期のほとんどの記憶を失っていたのだ。



 ...そろそろこのレポートも終わりだが、最後にもう一つ。



 奴は精神に干渉する系統の魔法を扱っていたが、それは<イマジナリーフレンズ>が編み出したものだ。



 本来の性格、というものはないが自分から人間を喰らうことをしなかったのは事実。優しき人間に寄生していた時にではあると思うが、次の寄生時にも精神を傷つけないように魔法を独自に編み出していたものだと思われる。



 ところで話は変わるが、単位<精神干渉系>の授業で一番最初に習う魔法は<幻覚(イマジ)>らしい。




 ...採決を下そう。



 奴は死んだ。世界にほとんど痕跡を残さなかったが、最後に全てを明かされて死んだ。



 結局のところ<魔王>は死んでしまう運命なのだろうか。それを止めることは全く持ってかなわない。



 最後の寄生時、ガイラウズ・ドーレリアに寄生できたのは良かった。彼らは裕福だったが故に暮らすことには困らなかったからだ。



 しかし運が悪かった。最後の最後で神に見捨てられてしまった。なぜなら...






 ...なぜなら、神を怒らせたのだから。

Q.あいつに勝ち筋はあったのか


A.神話生物、それも神に匹敵する存在が4体と戦うのを想像してください。ね?勝てないでしょ?



ちなみに「血楽の魔王」にはこういうレポートはありません。



だってあいつ、書くことないし...





残る<魔王> 3


残る<勇者> 4

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