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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第四章 猫又狂獣人叫
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「探久の魔王」戦

第2形態。気合い入れていきましょう。

「はあああああ......」



 力を溜め込んでいく「探久の魔王」。先ほどまでと同様に<魔力>を体の中に溜め始めるその姿は、なんらかのチャージを行っているとも言えるだろう。



 ただ、先ほどまでと違ってその姿までもが変わり始めているのは奇妙な光景だった。



 人間の肉体であるはずのそれが、徐々に虹色に変色。同時並行で皮膚がこう、ツルッとした感じになっていっている。



「全員、手を出すなよ。<変異>中に近づいたら巻き込まれて魔獣になる可能性もあるし、そもそもこいつは本気を出させてから倒さないと討伐できないからな」



 ソルス・バミアはそう皆に告げると剣を構えた状態から動かなくなった。まああんな<魔力>の渦の中に入ったら何が起こったかわかったもんじゃないしね。



 いや、でも本気を出させてそれを倒さないと討伐できないってどういうこと?確かに対応した<勇者>だけが<魔王>を倒せるとはカミラからは聞いたけども...



「端的に言えば私のこのスキルが、相手に"敗北した"というのを認めさせるものなんです!」

「ああ...100%攻略をすることが条件だから、<ダンジョン>をくまなく探索している。とそういうわけか」

「はい!」



 だからこっちでも完膚なきまでに叩きのめす必要があるのね。了解。



 そんな思考を終えて目の前を見ると、そこにはまさに異形と言うべき存在がいた。



「ふう...待たせたな。この変身をするのは久しぶりだから、少し手間取ってしまった」



 全身が虹色に染め上げられ、そのツルツルの肌を誇張するかの如く布という布が存在しない。目はすでに生気を失い、機械と言っていいもの...カメラのレンズと似たようなものに(しかも虹色。色というか立体だから目の位置がわかるだけで多分一枚の絵にしたらただの虹色の人型。バケツか何かでベタ塗りしてる)。



「これが俺。どうだ?怖いか?」



 そう口を動かしてしゃべってくるあたり、性格は変わらずただ肉体が変わっているだけらしい。ならまあ...



「いや全く」

「マリア・ヒルドの...<神話生物>?の方が恐怖を覚えるな」

「お、それは嬉しいねえ」

「誰も褒めていないぞ」



 いやいや、そもそも神話生物はクトゥルフ神話、つまりコズミックホラーのお話に出てくる生物たちなんだから、怖がらせる存在なわけよ。



 そんな生物が怖いって言われて、それはそれは嬉しいよ。うん。



「チッ、まあいい......改めて名乗ってやろう。俺はガイラウズ・ドーレリア、<魔王>として「探久の魔王」の名を授かった者だ」



 と...これはすごいな。今の言葉、その一つ一つに<魔力>がこもっていた。まるで吹き荒れる風と言い表せるような勢いが、僕の頬を掠めていく。



 そしてその頬を触ってみると、なんと熱かった。何が?



「...これ、血液か?」



 暑いではなく熱い。まるで沸騰しているかのようにボコボコと言っている血液が僕の頬から垂れていた。頬が焼けるような痛みを訴えてくる。



 傷口を抑えようとするが、ダメ。血液が熱くなりすぎて触れることさえ困難になっている。



 ...僕自身何も起こっていないが、おそらくあと少ししたら僕の体内にある血液も沸騰し始めるのだろうな。これ。



「時間がないな...俺の名はソルス・バミア!<魔王>を討伐せし<勇者>である!いざ!」



 名乗りあげると同時、いや走りながら名乗り上げてそのまま切りかかったソルス・バミア。



 無論その攻撃は当たらず、その代わりに玉座が真っ二つに切断された。



「おいおい、名乗りあげくらい普通にやろう、ぜ!」



 その隙に後ろ回し蹴りが飛んでくる。がそれを体制を一気に崩すことで事なきを得るソルス・バミア。



「はあああああ!」



 そこに混ざるのがクトゥグア。猛烈なラッシュを繰り出すが、そのことごとくは<魔王>に当たらない。



「そこだ!」



 そして逃げ場がなくなったところに鋭い一撃が飛んで来る。しかも今回は剣自体が光っている、つまりは<魔技>を使用している。



 色は赤。灼熱の炎を纏ったその一撃が「探久の魔王」に吸い込まれるように振るわれ......と、ここまでは見たことのある光景だった。






「おいおい、そんなところで突っ立ってていいのか?いつ攻撃されるかわかったもんじゃないぜ?」



 耳元で、k



 グシャア!!



「...かはっ」

「せめて警戒くらいはしねえと、なあ?」



 痛みが身体中を広がっていく。目線を下げれば、そこには一本の虹色の腕。



 それが引き抜かれると同時に襲ってくる、熱による痛み。それは耐えられるものではなく、足から崩れ落ちてしまう。



「な、マリア!!」



 クトゥグアの方を見ると、そこにはすでに「探久の魔王」はいなかった。つまり、彼は一瞬であの包囲網から僕のところへと来たということ。



 見た感じソルス・バミアもクトゥグアも、そんなバカなという表情なので、彼らも知覚できないほどの一瞬で移動したということなのだろう。



 ...はっきり言って異常としか言葉として表すことは叶わないだろう。



「どう...やって...」

「俺が教えると思ったか?」



 ドン!という強い音が鳴るほどの強烈な蹴り。モロにくらった僕はそのまま吹き飛んでいき、壁に激突した。



「教えたら、お前らが勝つ可能性が高まるだろ。面白いとか面白くないとか関係ねえ、教えたらまずいもんは教えられねえな」

「...!?」



 首をもたれて持ち上げられる。気道が塞がり、呼吸ができなくなる。



 もがいてみる...しかし全然やつは動じない。腕を握っても意味がないことから、おそらくステータスの数値が桁外れのものになっているのかもしれないな。



 ...酸素と血液がなくなっていき、意識すらも消滅し始める。端からどんどんと暗くなっていく視界には景色が何個も何個も映し出され...



「さて...このままお前の体も拝借すっかね」



 そんな声が、最後に聞こえた。



 ============================================



 思考の中、それは深淵の中だ。これが僕に限ったことなのかはわからないが、意識を手放した後も思考が続いていた。



 拝借、とやつは言った。つまり僕の体を借りようとしているわけだ。



 乗っ取り、ともいうがそういえばただの広範囲の衝撃に過剰反応し、しかも僕はまだ何も言っていないのに乗っ取られるかもと言っていた。



 広範囲の攻撃に当たったら乗っ取られるって、じゃあ複数人に当たったらどうするんだ。という疑問はさておくとして。



 なぜ、彼は最初に乗っ取られることを危惧したのか。その答えがおそらくあの言葉に詰まっていた。



「つまり、僕の意識を失わせた後に、もぬけの殻となったはずの体に自身の精神を入れることによってその体を自分のものにするというわけだ。いやあ、本当に面白い能力だね、君のそれは」



 そう、目の前の縛られている人型生物に話しかける。口輪もされてるんで全く喋れないが、残念なことにここは僕の思考の中。心の声は聞こえてしまう。



「な、なんで思考をし続けられるんだよ!意識は失っただろうが!」

「いやあ、まあ、そうなんだけどね」



 少しだけ、思い出す。それはこの世界に来たばかりの頃。まだ六年目だから来たばかりと言っても問題はないけど、まあそれこそ一年前の頃。



 僕は、何度も何度も意識を失うようなやつだった。そしていつの間にか知らない空間に行ったり、拉致られたり、また知らない空間に飛ばされたりした。



 そのせいなのか、少しばかりあの時から思い出していたことがある。前世のことだ。



 ...意識を失うというのは、普通はとてもヤバい状況だ。基本的に人間の体はとてもヤバいことが起こるか自主的に寝ない限り意識を手放さない。なのに手放してしまうのだから、つまりそれはヤバいことが起きていることになる。



 それが不幸なことなのか、はたまた嬉しいことなのかはわからない。



 ただそれでも一つ言えるのは、僕は前世でも何度も意識を失っているし、その理由はとても不幸なものであると言うことだ。



 何が不幸だったか、までは覚えていないけどね。



「で、意識を失いすぎてそれに慣れた結果。今のようことができるようになった。昔はできなかった、というか今まさに初めてできるようになったわけだけど...そうだな、[思考維持]とでも呼ぶか」

「な...」

「そして、ここは僕の世界。僕の中。主人が僕の空間で好き勝手できるとでも...」



 ふと、思い立つ。そういえばあの<ダンジョン>は...



「...とにかく、残念だったね。僕の体は如何様にしても奪えない。そもそも僕の体が奪われたらメェーちゃんが僕を殺すだろうし、まあ君はこっちに来た時点で詰んじゃったね」

「あ.....ああ........」

「さて...君はどうする?このままここに居残るか、帰るか」



 ガタガタと震え、涙を流し、涎を垂らし、漏らしているそれは。



「ああああああああああああああああああああ!?」



 ついに、発狂した。僕という深淵を覗いたが故に、覗かれた。



 すでにSAN値は下限を乗り越え、嫌な意味で限界突破してしまったことだろう。



 ...ただ、それは意識だけの時の問題だ。帰ったらその発狂も収まってしまう可能性がある。



 とはいっても返さない理由はないし、一体どうしたr



「魔王様!そろそろ私が到着するので、奴を返してください!どうせ神話生物を見せればまた発狂します!」

「あ、ならいっか」



 ============================================



 意識が戻ると、そこはさっきまでの状況。



 首を握りしめられ、息苦しいことこの上ない。しかも腹には風穴が空き、スースーする。



「う、うわあああああ!!」



 ただ一つ、いや二つ違うのは、急速に気温が通常のものになっていくのと、こいつの反応。



 お尻から倒れ込むあいつと、それを見ている僕。あいつは自分から倒れ込んでいた。



「おいおい、さっきまで粋がっていただろ?どうしてそんな、僕をヤバいもの扱いするような目をして...」

「ひ、ひいいいいいいいいいいい」



 腰が引けているのだろう。両腕と両足を使って高速で後退りしていった。



「ああ、それともさっきのことがトラウマになっちゃったのかな?まあ僕を乗っ取ろうとしていたもんねえ」

「許せませんね。我がマスターを奪おうとするとは」

「お!ようやく帰ってきたか!」

「遅くなり申し訳ありません。私が存在できない環境だったものですから...」

「はは、大丈夫だよ。こうやって帰ってきてくれるだけ、僕は嬉しい。これからも自分の体は大切にするように」

「はっ!」



 風穴は徐々に塞がる。自らの失われた血液も、散らばったそれが腹の中に吸い込まれていく。すでに僕の血液すら、ショゴスの管理下に置かれているわけだ。



「さて...そろそろ種明かしをしようじゃないか。「探久の魔王」さん?まあそこまで難しいものじゃないけど」

気合い...入れる必要あったかなあ。

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