<ダンジョン>攻略⑨ ボス戦
まだまだ行きますよー
「しっかし、久しぶりに<仕切直>を使ったからかな。体が軽いぜ」
先ほどの行動は<仕切直>と言うのか。おそらくは状態異常関連を解除するものであろうけど...
<詠唱>していなかった、で<魔法陣>もない。となると<無詠唱>あるいは<魔技>。
止めることは難しいか。毒とかは効かないと考えていいな。
「さて。そろそろ俺のターンかな?」
こちらに近づいてくる「探久の魔王」。一応警戒して進んできているのがわかるから、奇襲などは無理。
<勇者>をチラリとみるが、あともうちょっとでこっちにきてくれそうだな。ただ、問題があるとすれば...
「俺の方が先に着く。そうだろ?」
素早いパンチだ。顔面を狙ったようだが、まあ普通に避ける。
これくらいならもう慣れっこだ。
「へえ。んじゃあこいつはどうかな!」
回し蹴り。これも避ける...が、同時に放ってきた<火球>には当たってしまう。
火傷を負う。そして体の熱が高まっていく。外気温もそうだし、こんな暑い中で<火属性>を食らったら、それはそれは体感気温がひどくなる。
すでに汗は滝のように流れている。水たまりはできていないが気を付けるに越したことはないだろう。
...そういえば、こいつ汗かいていn
「まだまだ!」
さらに跳び膝蹴り。うまく受け止め...いや、いつの間にか体から刃物が飛び出している。回避の方が優先度は高いか、受けたら逆に手痛いダメージをもらいそうだ。
しかし避けたところには<火球>。跳び膝蹴りを避けるのだから、それは無論当たってしまう。
「チッ、やっぱ当たっても全然ダメージになってねえな」
「さっきから何度も当たってるのはそういうことだよ」
嘘である。普通に痛いしなんなら体温を上昇させてくるのがきつい。体力と水分を奪ってくるからね、時間稼ぎじゃなかったら絶対に避けている攻撃だ。
しかし、体から刃物か。およそ15cmくらいの刃物が膝から飛び出して来ているように見えるが...防具とかではないな、これ。
「んじゃ次はこいつだ!」
右足が光り始める。どうやら<魔技>を使うらしい。
緑色に発光する脚でどんな技を出すのかは気になるけど、当たったら普通にまずい。
...えっと、確かこう書いてから...<魔力>を流す、で合ってたよね。
描いた<魔法陣>が光り輝く。そして僕の目の前には壁が出来上がった。
透明な、<魔力>で出来た壁だ。中央にはうっすらと猫の顔が描かれている。
そんな<結界>が生成できた瞬間、その緑色の脚が振られて...
...大きな衝撃波となった。
バキーン!!
僕を前から包み込む、まるで投擲網のような形で襲ってきたその衝撃波は、その<結界>と対消滅した。バースト様が教えてくれたものだけど、どうやら僕にはまだまだ練度が足りないらしい。
ただ、そんなことを考える前に、僕は地に膝をついた。当たり前だ、僕にはすでにMPがない。
クトゥグアにそのリソースの全てを割いているが故に、この<結界>は自身のHPを犠牲にしたもの。
死ななかったからよかったけど、死んでいたら元も子もなかったな。体力的にあと2回は使えるけど、使わない方がいいだろう。
「お?効いてねえと思ったけど、案外効いてんな」
「いやあ、体の奥にズバズバと突き刺さったよ。流石にこれは連発されるとキツイかな...」
「んなこと言って、実際は避ける方法とか考えてあんだろ?」
「...バレたか」
そんな方法はもうない。強いていえば、こうやって相手に嘘の情報を吹き込んでおくことで少しでも僕に有利な状況に持っていくことが、今の僕にできることだ。
「んじゃ次h」
「その次は俺だぜ!」
いつの間に起き上がったのか、クトゥグアは思いっきり奴に殴りかかっていた。
が、避けられる。
「あのなあ。だからそんな短調な攻撃じゃ俺には当たらねえって」
「それがどーした!!」
殴る殴る殴る。避ける避ける避ける。
本当に必要最低限の動きだけで全てを避け切っていく。
「当たらない当たらないwもっとパンチとか勉強してきたらw」
「うおおおお!!!」
それも煽りながら。クトゥグアは何も感じていないようだけど、他の神話生物だったら何が起こっていたかわからないな。
しかも絶対僕たちまで巻き込まれるし。クトゥグアがああいう性格で良かった。
「まだまだまだあ!!!!」
「だからw当たらないって言ってるでしょw」
全てを避け続け、なおも平気な態度を見せる「探久の魔王」。
その顔、肌、肉体には汗の一滴も流れておらず、スタミナもまるで減っている様子はない。化け物か?化け物か。
ただ、流石にこの状況まできてそれはおかしい。<勇者>たちでさえ汗を流しながら...
...彼の元へ辿り着いているのだから。
「じゃあ俺の剣は当たるな」
「な!?急に来やがったな!?」
背後からの剣。全く見えていないはずのその攻撃をあっさり避ける「探久の魔王」。
しかし、避けた先にはクトゥグアが待ち構えている。
まるで置いてあるかのように、回避した直後に攻撃に当たるよう攻撃していたのだ。
「隙だらけだぜ!!!!!」
「な、ぐはあ!」
腹にクリーンヒットしたその拳があたり、そこから立て続けに猛攻を仕掛ける。無論相手は避けられない。一度攻撃が当たったことで、その痛みが回避に対する専念を許さないのだろう。避けようとする意思は垣間見えるが、全く避けられていない。
...クトゥグアの猛攻か。絶対喰らいたくないな。
「これで!!!!!!終いだ!!!!!!!」
「ごぼお!?」
まるで何が起こったかわからない表情をして彼は吹っ飛んでいき、そして壁にめり込んだ。
「うっしゃ!!!!!!!!スッキリしたぜ!!!!!!!!!」
「クトゥグア、怪我とかは大丈夫?」
「おうマリア!!!!!!!!!!全然問題ねえぜ!!!!!!!!!!!」
声が大きい。間近で聞いたら絶対に鼓膜が破れる声だ。
これだけ元気なのだ。まず持って問題はないだろう。
「...はあ、遅いぞ。あともう少しで僕が死ぬところだった」
「ならもう少し遅く行けば良かったな」
「ああそうかい」
戦闘の時の性格になり、かなり威圧感のある声で言われると少し背筋が凍えてくる。全く凍えないけどね。
「奴を殺す方法は?」
「ある。だが、その前に奴を倒さねばならん」
ほう、倒すとな。
「自称「久苦の魔王」だけど、その回避能力は本物だぞ?」
「わかっている。奴に仕掛けた時にそれは理解した」
「じゃあどうやって...」
話の流れだ。僕は壁に突き刺さった哀れな<魔王>を見ようとした。
だがそこに<魔王>はおらず、別のところにいた。
...あの玉座のところだ。
「はあ、面倒だなお前。少しは本気を出してやろうかと思ったが、やめてやろう」
「お、それはありがたいね」
「代わりに本来の力を見せてやる。確実にぶっ殺すためにな」
「...アリガタイナー」
構成の都合上ちょっとだけ短めです。ほら、よくある第2形態ってやつを次の話でガッツリと見せたかったので。




