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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第四章 猫又狂獣人叫
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<ダンジョン>攻略⑧ 前哨戦

クトゥグアさん、一体どんな活躍をするのでしょうか...?

 壁、いや本来は扉があってそれが壁のように閉じられていたというだけなのだろうが、その奥はまたもや広い空間だった。



 でもペンギンもどきの部屋より断然大きい。東京ドームが5つ分くらいはすっぽり収まるのではないだろうか。



 そんな広い空間には、僕以外の生命体が2体。



「っ...ようやく、来ましたか。遅いですよ...?」



 すでにボロボロになっている家猫と、



「ちっ、>フェーク・ペンギン・キング<がやられたか。やっぱボスの判定にするには弱すぎたな...」



 中央、少し盛り上がっているところにある、まるで王様が座るような権力を示すための椅子のように豪華なそれに座っている青年。



 ...服装がだいぶ変わってるな。薄汚れた一般市民の服装から、まさに<魔王>と言って差し支えないような漆黒の衣装に身を包んでいる。



「まあいい。おめでとうと褒めてやろう、ここがこの<ダンジョン>の最深部だ」



 後ろをチラリと見ると、氷が解凍され少しずつ動けるようになった<勇者>がこっちを見ていた。視力がよければあの男も見えるのだろうが...



「...一つ問おう。お前は「探久の魔王」だろう?なぜ「久苦の魔王」と名乗った?」

「お?ようやく気づいたか。そうさ、俺は「探久の魔王」。そして...それと同時に「久苦の魔王」でもある」

「はあ?」



 まるで意味がわからないのだが。



「ま、わからないのであれば教えるわけがないけどな。冥土の土産とかいうやつがあるらしいけど、それで俺が死んだら本末転倒。煽るのはこっちの価値が決まった瞬間だけだ」



 パチン!ビュオオオオ!



 指が鳴ると途端に吹いて来たのは極寒の風。今までも苦戦して来たやつだ。



 ...だが。



「さっきから思ってたけど、ここら辺って結構涼しいよな!俺いっつも暑苦しいって言われるから助かるぜ!!」

「...また面倒なものを...」



 全く寒くない。それは生きる炎がここにいるからだ。



 すでに人の姿であり<魔力解放>は行っている。おかげで寒くならない。



「...すでに対抗策は作ってあるか。なら、こっちはどうだ!」



 パチン!ゴオオオオオ!



 もう一度指が鳴ると、今度は部屋の空気が暑くなっていく。まさかの暖房機能付きだったか。



 いやまあ、暑すぎる世界が存在するのもこの<ダンジョン>の特徴だけど、さっきまで極寒にいたせいで温度差で風邪をひいてしまいそうだ。



 ...とは言っても、暑さに対する対抗策なんてないのだけども。



 気温が上昇し続ける。そもそもクトゥグアがいるので気温はさらに上昇する。



「うおっ、今度は真夏になったな!!!」

「ふん、いかに寒さに耐えたところで暑さに耐えられなければ意味がない。ほら、あの芋虫どもを呼んでこいよ。あいつらを呼べば耐えられるんだろ?」



 確かに、耐えられる。が、それだけ。



 クトーニアンの中でも結構暑かったし、それにその中にいる間は何もできない。何もわからない。



 本当に無理なのであればやるべきだろうけど...あの言い方、クトーニアン対策はしっかりとできていそう。



 さて、そうなるとどうしたものか。すでに今日だけで2体も呼び出していて、HPもMPもすっからかんな僕は今の所やることがない。



 メェーちゃんがいるから段々とMPは回復して来ているけど、それを待っていたら確実に熱気にやられて死ぬ。



 ...下す手段はただ一つか。



「クトゥグア様、僕の名前はマリア・ヒルドと言います」

「お、ようやく名乗ってくれたな!!!!よし、なら俺はお前のことをマリアと呼ぼう!!!!!んで!!!!!!俺は何すりゃあいい!!!!!!!あと様付けは結構!!!!!!!!」



 のうきゲフンゲフン。



 とにかく、クトゥグアが仲間になったのなら話は早い。



「あの椅子に座っているやつをボコボコにして欲しいのだけど、できる?」

「んなもんちょちょいのちょいだぜ!!!!!!!!!」



 一気に全身から炎が吹き出すクトゥグア。熱で僕の服も燃え始め、とりあえずすぐに脱いで一個前の部屋に投げ込んでおく。下着はあるので最低限ではあるが大丈夫だろう。



 というかクトゥグアに関しては裸になっていた。服とかもうない。



「熱い〜」

「な、メェーちゃんが溶けている!?」



 可愛い、じゃなくてすぐに救助して<インベントリ>の中へ。あと同時に家猫も。



「私は、問題ありません。それよりも...」



 家猫が指差した方向には、死体。



 女王のだ。綺麗に下腹部に二つの穴が空いている。傷口も綺麗だから相当鋭い何かで穴を開けられたんだろう。



 ...えぐいことするな、一体誰がやったのやら。よく見るとその穴の中がぐちゃぐちゃになっている。手か何かを突っ込まれて掻き回されたってとこか。想像するだけでも吐き気がする。



 しっかりとその状態のまま<インベントリ>にしまう。本来生命体はしまえないはずだけど、死体なので問題はない。



 ちなみに<インベントリ>の中では神話生物は物になっている。ショゴスは本になったりメェーちゃんは人形になったりと、そういうことだ。



「うしゃあああああ!!!!!!!!!!行くぜえええええ!!!!!!!!!!!」



 吠えるクトゥグア。走り出すと、そのまま「探久の魔王」へと一直線。



 殴りかかる...が、避けられる。当たり前だな、直線的すぎる。



 だが背もたれに拳が当たると、そこから一気に亀裂が入り玉座が壊れる。しかも割れ目から炎を吹き出しながら。



「うおっ!あっぶないなこいつ。あと少しで丸焼きになってたとこr」



 無論玉座程度の破壊の衝撃からは避ける「探久の魔王」。しかしすぐに追撃が入る。



 ...しかもさっきより早い。もちろん避けられたけど、まだ左手が残っている。



「まだまだまだぁ!!!!!!!!!!!!」



 加速する拳の連打、それを至近距離で躱し続ける「探久の魔王」。



 燃え盛る背中の炎はいつの間にか蒼炎の領域に達し、もはやそこにいるだけで周囲の地面が、壁が、土が、燃えて溶けていく。



 これが、クトゥグア。焔の化身。生きる炎というわけか。



 そして。煙によってもう何も見えないが、



 ドゴン!!



 という音が聞こえた。やったか?



 まあそんなわけもなく、煙が晴れるとそこには地面に突っ伏しているクトゥグアとその頭に足を乗っけている「探久の魔王」がいた。



 付近の地面を見ると地面が凹んでいる。つまり拳が地面に当たったところを狙われた、という感じだろう。



「くっそ、まだまだあ!」



 そういって体を起こそうとするクトゥグアだが、なぜか立ち上がらない。立ち上がれない。



 なぜか...よく見ると、クトゥグアの炎が赤色になっている。火力が弱まった、とでも言いたいのだろうか。



「はあ。でも素直すぎるぞあんた。もうちょっと騙し打ちとかしてみたらどうだ?」

「くっそ、全然あがんねえ!!」



 まずいな。今の所戦闘できるのはクトゥグアだけだ。<勇者>達は...解凍がそろそろ終わるけど凍傷の治療が先だなあれは。



 となると...



「ティン!」



 名を呼ぶ、が来ない。いや来れない。流石にこの灼熱の環境下だとティンダロスの猟犬とて難しいのだろう。



 むう、そうなると本当に策が尽きてくるぞ。僕自身が戦う、いやすぐに死ぬだけだな。



 ...<勇者>が治るまでの時間稼ぎくらいはできるか。



「...どうやら、僕は本当に万事休すって状況に追い込まれたらしいね」

「そうそう。お前は俺の<ダンジョン>に入って来た時点で負けが確定していたんだよ」



 なるほどね。<ダンジョン>生成っていうのは侮れないらしい。



「いやいや、でも僕はここまで死んでいないのだから、まだ死なずに生き残る可能性もあるだろうよ」



 歩いて「探久の魔王」に近づく。



「おいおい。時間稼ぎをしたところで<勇者>は俺には勝てねえぞ?」

「いやあ、わからないよ?もしかすると奇想天外な方法で君を殺すかもしれない」



 どんどん近づいていく。暑さがどんどん増していっている状況だから倒れたら最後起き上がれないだろうけど、体力を使い切るつもりで歩いていく。



「へえ。それはあれか?俺が不死身になっていることを知ってもか?」

「何?不死身だと?」



 足を止めすぐに問うが返事は返ってこない。くすくすという笑い声だけだ。



 不死身か。それは初耳だけど...あ、僕みたいに肉体改造を施しているとかか?



 それなら僕もやっているのだから、バカにされることではないと思うんだけどなあ。



 そんなことを考えていると、ふとやつは思いついたように言った。



「ああそうだ、いいことを教えてやる。<魔王>は覚醒した時に人間という枠から逸脱するんだぜえ?例えばあの「血楽の魔王」なんかは吸血鬼になっていたよなあ。バカだったからさっさと死んだけど、ハハハ!」

「な、そうだったのか」



 つまり僕も覚醒したら人間を辞めてやばいやつになったりするのだろうか。すでにやばいやつだけど。



「ま、だから俺は倒せねえ体になったってわけだ。わかったか?わかったならさっさと諦めるんだな」



 なるほど...いや、でもそれはないな。



 さっきまで止まっていた足を再び動かし、近づいていく。



「...まだ動ける体力あんのかよ。化け物か?」

「自称不死身に言われたくはないなあ」



 その瞬間、炎を纏った何かが僕の足を貫いた。



 がまあ倒れはしない。そのまま歩き続ける。



「いや、お前こそ不死身じゃねえか。もう覚醒でもしたか?」

「覚醒?してないに決まってるでしょ。第一、覚醒したかどうかなんて君にはわかってるんじゃないの?」

「それはそう。でもどうにかして隠す手段があるかもしれない。警戒は解けねえな」



 さらに一発、今度は右肩。



 ...<無詠唱>か。通りで傷口がしっかり火傷しているわけだ。



 おそらく、彼は<無詠唱>で<火球(ブレイズ)>を唱えることによって僕に攻撃しているんだ。



 さらに腹部、右胸、左足先端、さらには右頬を貫いていく。火傷のおかげで出血はなく、この肉体はまだまだ僕を動かしていく。こいつ自体の攻撃方法は弱いのかも。



 そして、彼の目の前で立ち止まる。



「さて、ここまで来たわけだけど」

「んだよ、攻撃でもしてみるか?」



 そんなわけないんだよなあ。<魔力撃>はまだまだ危険すぎるし、そもそも今の体力で使ったら再生する前に死にそうだ。



「いいや?少し疑問になったことがあってね」

「俺が答えるとでも?」

「いいや別に。ただ、時間稼ぎにはなるだろう?」



 彼の返答を待たずして僕は続けて言う。



「「探久」であり「久苦」、これってやっぱ普通じゃない。あり得るとしたら、例えば肉体を交換したとか、そう言うことなのかなあと思っているのだけど、違う?」



 聞いてみるが返答は返ってこない。まあ答えたらまずいかもだしそりゃ答えないよね。というか当たってるとも僕は思っていない。なんならでっち上げまである



「でもねえ...それ以外に考えられないんだよねえ。<魔王>が2つも<スキル>を保有しているなんて考えづらいんだよね」



 すぐに右手に魔力を溜め、解き放つ。



 少量だが、かなりの大爆発。半径20mくらいの爆発。



「チッ、避けようと思ったがこけおどしかよ」



 ...彼は当たっていた。しかも僕から10mくらい離れた位置にいる。



 ...カミラが言うには[超反応]であれば意識内のすべての攻撃を避けられるはず。なのにこれが避けられないのは...



 ...肉体が、追いついていないとかか。



「こけおどしって、まさか。弱い攻撃であれば君がわざと当たってくれると思ったからさ」

「なんだと!」



 すると「探久の魔王」はすぐに身体中に魔力を溜め始め、そして一気に解放した。



「ふう、危なかったぜ。あと少しで乗っ取られるところだった」

「...いやあ、あと少しで乗っ取れるところだったのに」



 乗っ取られる、ねえ。僕1度もそんなこと言っていないんだけどなあ。

い、一体どういうことなんだ...?



次回へ続く

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