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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第四章 猫又狂獣人叫
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<ダンジョン>攻略⑦ お手紙の内容は誰にもわからない

神話生物はたくさんいますからね。ガンガン呼び出しちゃいましょう。

 ともなれば諦めるという思考は捨てるべきだろう。が、そうなると疑問が出てくる。



 メェーちゃんを<魔力解放>した時、メェーちゃんは2種類の状態に変化する。でかいお姉さんとシュブ=ニグラスだ。



 そしてこの二つ、どちらも声色および性格が全く違っていて、なんならいつもの人形状態とも違う。そのため、実質的に<魔力解放>が行われているのであれば声とか言動で判別ができる。



 のだが、今のメェーちゃんは人間だ。どうやってこの極寒の中を耐えているのだろうか?



 ...その答えは、ただ一つ。



「ぜえ...ぜえ...ああ、もう!なんでこいつの先導についていかなくちゃ...って、ソルス!?」



 もう一つ声が聞こえる。確かあの魔法使いの声だったか。



「なんで氷漬けに、あ、まさか...」

「メェー!」



 あのペンギンもどきは、また氷の礫をばら撒いた。すでにカチコチに固まっている以上礫が当たっても僕やソルス・バミアには意味がないが、メェーちゃんと魔法使いにとっては別。



「っ!<火壁(ファール)>!!」



 叫び声が聞こえる。その瞬間、



 ジュワジュワジュワ!!



 氷が水になり、それが水蒸気になり、それが冷気によって固まる。これがサイクルで繰り返されているようなうるさい音。



 ファール、と言っていたけど、何か熱するものとかを出したのだろうか。残念なことに首が動かせないので見ることができない。



 その頃一方、ペンギンもどきは首を傾げていた。なぜ防がれたのか理解ができていないのかも。



「今のうちに...<解凍(ディスコール)>」



 隣で何かをやっているのか、段々とソルス・バミアの氷が溶けていく。



 しかしその瞬間だった。強烈な風が、それも氷や雪玉と一緒に吹雪いてきたのだ。



 ペンギンもどきに意識を向ければ、<魔法陣>を作ってなんらかの魔法を使用しているように見える。この吹雪はこいつが原因...



 ...いや結構やばいな。この吹雪、すでに20cm以上の厚みがあると思われる氷に囲まれた僕にすら影響があるようで、さっきまでも確実に襲ってきていた極寒による壊死がさらに加速してきている。



 ステータスが見れないからどんな状況かわからないが、今の僕は五体が使い物にならないと言って過言ではない。暑さは脱水症状によって死ぬが、寒さはこういうふうにじわりじわりと死ぬわけだ。脱水症状もじわりじわりだけどね。



 ともかく。今はとんでもなくやばい状況だ。呼び出すMPはあるにしても体が動かないので書くことができない。



 さて、どうしたものか...



「くうう!!」



 吹雪は止まず、絶える事などあり得ないかのように思えてくる。



 この状況からの脱出は困難、つまりこの状況からなんとかする必要がある。



 なのに僕の体は動かない、と。絶体絶命なわけだ。



「あ、しまった!<暖房(ウォーム)>が切れて、さ、寒っ!!」



 うーむ、でもこの状況を打破する方法なんてあるのだろうか。さっきからメェーちゃんも...そういえばメェーちゃんどこn



「えーい!」






 体が崩れる。いや、厳密には氷の崩壊に巻き込まれて壊死していたことにより力が抜けていた体の部位がいくつも僕の体から剥がれていった。



 氷は割れ、粉々に。僕の体の6割も一緒に持っていかれた。



 傷口は一瞬だったのにも関わらずすでに流血が凍りつき、血管の中も凍り始めた。じきに僕の体が完全に壊死するだろう。



 ...それまでに、できることは。



 単純、賭けだ。



「ショゴ、ス!」



 なんとか神経が繋がっている右腕で<ネクロノミコン>を開いていく。暇だった1ヶ月間の間、やっていたことといえば<ネクロノミコン>を何度も読むことくらいだったもので、どこになんの神話生物がいるのかは把握している。



 ...5段の折れ目をつけたところから24ページのところにあるその神話生物は、今の状況において唯一の希望だ。まあ僕はどちらかというとこいつの敵対種族側だから味方してくれるかどうかはわからないけど。



 すでに眼球も機能せず、耳もほとんど聞こえない。一体目の前で何が起こっているのかはわからないが、奥の方で何かを喋っている声が聞こえてくるのはわかる。



「!?」



 そして、急に来た痛みで目が覚めた。全身の痛みであるしけど、なんで僕がこんな痛みを食らっているのだろうか。



 でも痛みと死は密接な関係であり、最も遠い位置付けにある。痛みは死んでいない証拠、僕はまだ生きている。



 段々と触覚も戻ってきて、体の部位がない部分からの出血で痛みを味わっているのが理解できるようになる。



 相変わらずその他の五感は機能していないけど、それはそうだ。あの時氷と一緒に巻き込まれた鼓膜と眼球が戻ってくるはずもないし、全身の皮および一部の筋繊維が持ってかれている以上全身からの出血もやむなし。



 全身火傷の時はまだ良かった。完全に火傷している以上動かさなければ痛みはない。だけど、今回はそうじゃない。動いても止まっても痛いままだ。



 ...その痛みを味わいつつ、僕の体を貪りながら蠢く何かがいることを知覚する。ショゴスであろうそれはおそらく、僕の右腕が見せているそのページに描かれた<魔法陣>を完全再現しようとしているのだ。



 描くのは、強さの象徴とも言えるもの。生命が畏怖し、人間のみが扱えるその存在は、まさに人間の叡智の発端とも言えるだろう。



 ...炎とは、人間が生み出したもの。自然発生は噴火とかそういうのが起こらない限り滅多になく、故に人間が生み出したものであると言える...よね?



 そう、そのはずだがしかし、今から呼び出される神話生物の存在がそれをあり得ないことであると物語る。



「さあ神よ。ご笑覧あれ」



 声が聞こえた。すでに鼓膜がないこの状況で聞こえるのは明らかにおかしい状況だが、心に響く声というものもあるのだろう。



 ...聞いたことのない声であることを除いて。僕はその声を信用して聞き続けた。



「。それは彼の地にて寝転ぶ旧支配者が1柱



 。周囲の一切合切を焼き尽くすだけの、ただそれだけの神



 。眷属を携え、人間を支配せよ、混沌なるものを打ち砕きし生命持つ炎よ



 来い、クトゥグア」






 まず、理解したのは気温だ。極寒である以上ここは寒いはずなのだが...なぜだか暑い。



 汗は出ないが、今までの-100℃を下回るあり得ない寒さが一瞬にしてかき消され、むしろ真夏どころかマグマの近くにいるかのような暑さへと変わっていく。



「......鼓膜修復完了、マスター、聞こえていますか?」

「あ、ああ。聞こえている...いつの間にか声帯も治っているな」



 段々と嗅覚も治っていき、砕けた僕の体の一部が焼けている、そんな肉の匂いでいっぱいになっていく。



「あっっつ!!何よこれえ!?」



 そんな声も聞こえてくる中、最初に見えたのはペンギンもどきの成れの果てだ。



 ペンギンみたいに見えるその皮は真っ黒に焦げ、中身は全身の火傷に悶え苦しんでいる。何よりおよそ僕の真上の方にいる彼を肉眼で見たのだから、おそらく複眼の全てが死んでしまった。



 まあ全く可哀想に思えないけど。むしろその程度で済んで良かったね。



「っ、そろそろここに止まるのもキツくなってきたか。一度部屋を...」

「おっと、そうはいかねえ」



 ストッ



 目の前に着地、そのまま炎の触手で僕を持ち上げるその存在は。



 見た目は青年、声も青年、服装も青年、全てが青年爽やか系だ。



「まだまだヒートアップしていくんだぜ!メインがいなきゃあ、楽しめるものも楽しめねえだろうが!!」



 ...言動を除いて。あと身に纏っている真っ白な炎も除く。



 そのままぶん投げられ、悶絶中のペンギンもどきをクッションがわりにしても勢いが全く衰えず壁を突き破る。



 ...ボロボロになったバーストがそこにはいた。



「おっと、そうだった!!!自己紹介を忘れていたぜ!!!!俺の名はクトゥグア!!!!!よろしくな!!!!!!」

クトゥグア。生きる炎と呼ばれていて、その周りに炎の吸血鬼と呼ばれる眷属を携えてやってくるとされています。



呼び出すことがまあまあ簡単な方ではありますが、呼び出した場合の被害は折り紙つきです。最高神を呼び出した時の被害の10歩くらい手前ですからねえ。ああいや、100歩か?

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