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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第四章 猫又狂獣人叫
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<ダンジョン>攻略⑥ 道のりはまだ先

極寒の地ってどんな環境なんでしょう。一度体験してみたいです。

「...驚いた。一見貴族のお坊ちゃんだから料理はほとんどできないと思ってたのに...全然できるじゃん」

「すごい偏見だね。俺のように料理ができる奴だっていると思うけど」

「いや、できるとかじゃないだろこれ...」



 あの後、僕は警戒をティンに任せて彼の行動を見ていた。まさか自分から料理するといってきたのだから、その勇姿を見届けてやろうとね。



 だが、そこにいたのはただの料理人だった。氷で即席の竈を作り、持ち込んでいたのかおもむろにフライパンを取り出して調理開始。



 ...一応、僕も人並みには料理ができると思う。この世界ではやったことはないけど、前世ではやったことがあるのを記憶している。



 ただ、難易度の高い料理とかは無理だろう。



「...ふう。とりあえずこんなものかな」



 僕はずっと見ていた。だが、なぜかそもそも調理が早すぎた。上記の言葉だって調理開始から2分の、そして調理終了時の言葉だ。



 全く何をどうやって調理していたのかわからないレベルの速度で、しかもこの男。



「器具が少ないから3品くらいしか作れなかったけど、まあ今の状況なら問題はないか」

「...驚いた。一見貴族のお坊ちゃんだから料理はほとんどできないと思っていたのに...全然できるじゃん」



 鯛の煮付け、鯛の刺身、鯛のあら汁。



 これらが3品が難しいかは置いておくとして、なんで2分でこれら全てができるのかがわからない。



 しかも美味しいし。めっちゃ美味しいし。



「新鮮なお刺身は美味しいですね〜、醤油をつけなくても全然いけます。煮付けはご飯が欲しくなってしまいますが、今はないので我慢ですね。あら汁も鯛の全てを余すことなく使ってあらをとっているからすごく深い味わいになってます」

「いや出てこれるんだ」

「少し我慢すればですが。でもこの料理の匂いを嗅いで耐えられるものはいませんよ」



 その味はクタニド様のお墨付きである。やばいねこれ。



「あはは...気に入ってもらえて何よりだよ」

「しかしあなたは賢いですね。この極寒の地では氷とは岩と変わらない、故に竈門として使っても解けないとは」

「それ僕も気になる。どうやって火をつけたの?君MPに余裕があったの?」



 さて、本題に入ろう。食べながらだけどね。



 現在この空間の気温は火を付けるまでは-50°Cを下回っているだろうと思われていた。



 でも、火をつけたおかげで-25°Cくらいまで戻ってきた。だけども、だ。



 現在僕たちにはMPが枯渇している。おかげで<魔力解放>も<召喚>も行使できないのだけど、この状況だと...



「いや、あの火はちょっと違うかな。[料理]のスキルが50を超えると、料理をするとき限定且つある程度の条件を満たした場所をいつでも自然発火させることができるんだ」

「は?」



 パイロキネシスかい。強すぎだろ。



「とはいっても料理に使わないと10分ほどで消える。ほらね」



 といって竈を指差すソルス。すると、確かにそこからは火が消えている。だんだんとさっきまでの寒さが戻り始めてきているのも感じ取れた。



 が、あったかいあら汁のおかげで大丈夫。結構余裕である。



「あら汁は多めに作ったから、これを水筒に入れてけば...」

「あったかいのも入れられるのか」

「ほら、君の水筒も出して」

「ああはいはい」



 いっぱいになった水筒をしまい、準備終了。クタニド様も一緒だ。



「ふふ、あら汁のおかげですね。美味しい料理、ごちそうさまでした」

「いえ、気に入っていただけて何よりです」

「うん、美味しかった。ありがとう、ソルス・バミア」

「<魔王>にそう言われる火が来るとは思わなかったけど...まあ一応受け取っておくよ、マリア・ヒルド」



 そして部屋を出る。料理の入っていたであろう皿や器と、その横に座っているティン。



「ティンも美味しかった?」



 頷くティン。よかったよかった。



 ...というかこれ、餌付けみたいだな。僕たち、<勇者>に餌付けされたのか。



<勇者>にペット呼ばわりされるのか。どうなのか。



「さて...そろそろ向かうぞ。道のりはまだ半ばだしな」

「はーい」



 口調が変わったソルスについていく。無意識なのかは知らないけど、気を張り詰めすぎると口調が変わってしまうらしい。



 1ヶ月前はそうだったか...どうだったけか。まあどっちでもいいんだけどさ。



 ============================================



 奥に進むにつれ、地面などに変化が生じる。


 先ほどまでは綺麗な彫刻が施された石の壁、それがどんどん氷に侵食され、30分ほど歩くと完全に氷と化していた。



 そこに飾りはなく、まるで鏡のように自分たちを映し出すのみ。



 ...ここまで来ると寒すぎるのか、人間の死体の跡すら無くなっている。寒すぎて湧くことができないのだろう。



「次は...右」



<勇者>の唇もすでに青く、何度か休憩をとっているにもかかわらず震えが止まっていない。低体温症はすでに発症、風邪も引いている可能性が高いだろう。



 そしてそれは僕も同じ。いかに僕の体が魔改造されていようと人間は人間、寒すぎる場所では生きていけず、現在体がだるすぎる状態である。



 ...これだけなら、まだよかった。そもそも僕は耐寒装備を整えていないけど、ソルスは整えている。



 でも、だ。



 ビュオオオオオ!!



「!!」



 前からの突風。すぐに戻って横にそれることで風を回避する。



 ...体感ですでに-100°Cは超えている。こんな世界でまともに吹雪を喰らったら死ぬ。というか一回くらって死にかけた。



 ここまで来ると水筒の保温機能の死んでしまうのだろう。<勇者>が持っているお高めであろう水筒の中身はすでに氷でしかなかった。



 水筒を投げ捨てる<勇者>。僕はそれを10分前にやっているんだけどね。



「...」

「...」



 お互いに体力がないのはわかっている。ティンですら短時間しか行動できず、一度角に戻っているのだから。



 だから、もうすることは一つだけ。



「...」



 進む。風は止んだからもう進めるはず。



 ...こういう時左腕があれば擦り合わすことで少しは、いやそもそも素手を出したら即刻壊死の危険性すらある。そういうことに詳しいわけではないが、基本的に腕は服の中にしまっておいた方がいいだろう。



「左」



 1時間ほど前の迷路地帯よりも曲がりくねっていないが、だからこそ道が広く、寒さを感じさせてくる。



 限界は近い。そろそろついてくれないとまずいが...



「...左」



 声が掠れているソルス。それでも進み、左へと曲がる。



 ...扉、それもとても大きいやつの残骸。



 隙間は...一応あった。ここからなら...



 体を入れてなんとか扉の残骸の奥に行く。かなり広い場所だ。







 広いということは、そう、ボスが待っているということ。



 天井にいたのだろう。落ちてきたそれは大型のペンギン。しかもかなりデフォルメされたやつ。可愛い...いや、目が死んでいる。



 普通のペンギンじゃない。そう思ったのも束の間、口がぱっくりと開いて中からセイウチの顔が飛び出してくる。



 ...目は複眼。まるで寄生虫とでもいうべきセイウチだな。



 でもなぜボスがまだいるんだ?バースト様ならこれくらいチョチョイのちょいだろう。



「...!」



 しかしそんなこと考える余裕はなく、氷の礫が飛んでくる。



 避ける...しかしか体が動かない。なんでだと横を見てみると、同じように動けない<勇者>。



 おそらく、僕たちはこのペンギンもどきをみることに夢中になって足を止めてしまったのだろう。足が凍ったように動かなくなったことで避けられるものも避けられず。



 ザクザクザク!



「「!!!!」」



 体に突き刺さる氷がさらに体温を奪っていく。まずいぞ、体温まで奪われると流石に...



 体が凍りついてくる。最後の壁がなくなったことにより、急速に死が迫ってくる。



 ...ここで、終わりなのだろう。せめてやつを殺したかったけど...






(あとは...頼みますよ...)



 その瞬間、<魔力>が体の中にもどってきた。回復か?いや、違う。これは強制的に魔力を得ているに過ぎない。



 ...つまり。



「あれ?バーストの声が聞こえたような気がして...あ、マリア!」



 黒山羊さん(メェーちゃん)がきたのだ。

救世主メェーちゃん

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