<ダンジョン>攻略① 解析
これは...昨日の分だ。
そして次のが、遅刻の分だ!
「ゆけ!私の子らよ!この迷宮の全てを見てくるのだ!」
アイホート様がそういうと子蜘蛛が各方面へと散っていく。サイズがサイズだからね、相当強い魔獣でもない限りバレないだろうし、探索してもらうにはぴったりの存在だろう。
「ちなみに子蜘蛛ってどれくらいいるのですか?」
「まあ5000はくだらないはずだ。最近は全く人間が迷い込むことがなくなって、普通に産むことが多くなったからなあ」
5000。クトーニアンのおよそ50倍。数だけなら完全に上位互換だな、これ。
「わ、我々はお役御免ということですか!?」
いや、そういうことじゃない。というかむしろ神話生物で役割が被ってるの見たことないからね。
ショゴスが僕の左腕兼最終防衛ラインになっているのもあるし、クトーニアンにはクトーニアンにしかできないことがある。
例えば、だ。
「アイホート様、子蜘蛛に戦闘能力はあるのですか?」
「あったら迷宮に閉じk...ゲフン、待ち伏せしていないで攻め込みに行ってるぞ。それができないから姑息に待ち伏せしているんだ」
「人間くらい、あなたなら楽勝でしょうに」
「数の暴力って怖えぞ。下手したら核兵器二十発とかお、いや私に撃ってくるかもしれん」
ということでやはり戦闘能力は皆無。僕にやったような感じで人間に産みつければその人間をある程度操れるだろうけど、子蜘蛛単体じゃ非力だから使い方がこういう感じでしかない。
「まあそこらへんの生物よりは強いぞ」
「いや...多分この世界ではそれはないと思う」
「この世界ではあり得ないでしょうね」
「魔獣よりも強くないとは思いますが」
「多分魔獣よりも弱いよ」
「酷評多いなおい!」
仕方ない。ここはそういう世界なのだ。
で、とは言っても利点がないわけじゃない。例えば今回みたいに範囲とか関係なく一気に探索をする場合は強い。
「まあ我々は<魔力>の反応を追っていますからね。地形などの把握は少し難しいです」
「だろう?探索を人海戦術でできるっていうのは相当な強みだよ」
子蜘蛛自体が弱いので集まって攻撃してもなんの足しにもならないけど、戦闘以外のことでも基本的に数というのはとても強みになる。
1秒に一個作れるものを5000匹でやったら1秒に5000個作れるわけだからね。
「だから、敵の数などを把握したりするのはクトーニアンが、大規模な探索を行うのがアイホート様みたいな役割分担になるのかな」
「おお!となると俺は戦わなくていいのか!」
「敵がアイホート様の方に来なければ、ですがね」
まあだから使えない神話生物はいない。さっきも言ったけど被る生物が全く存在しない。
ドールとクトーニアンとか、神様の眷属とか、似たような存在はいるけどどれも少しだけ違う。例えばドールとクトーニアンだとサイズが全く違う。
クトーニアンがミミズならドールは...もぐらかな。
「さて。アイホート様、クトーニアン。理解されましたでしょうか」
「つまりいつも通りということですね、はい!」
「安全ということが理解できて本当に良かったよ」
「それは重畳。では...」
説明が終わったからそろそろ1個目の本題に入るか。
「ありがとう、ショゴス。こいつら抑えてくれて」
「いえ、問題ありません。とりあえず死なないように手加減をしましたから、まず話し合いはできるかと」
「おっけ、話し合いするとしよう」
男がショゴスに巻きつかれた状態でそこにいた。
一応五体満足だが...打撲がヤバすぎて体のあちこちが青くなっている。
まあ別にいいんだけどね。
「喋れる?」
「...」
返答なし、俯いたままか。まあそりゃそうだろうねえ、捕まっているんだもん。
「死にたい?」
「...」
うーむ、会話ができないのはきついなあ。
「ショゴス、声帯とか潰してないよね」
「潰していません。情報を聞き出すと思っていたので」
さすがショゴス、有能だ。
ただ、そうなるとどうやって会話しようかね。
「死か生か、君はどっちを望む?」
「...」
ふむ、答えないか。なら...
...ちょうどいいところに剣が落ちているな。多分こいつの持ち物か。
それを持って剣先をそいつの首に向ける。
...剣を見てるな。それも何か言いたげな様子で。
「もう一度聞こう。どうしたいんだ?」
「...」
静かだねえ。ここまでくるとしゃべれないのは何か他の理由がある可能性があるぞ。
僕とて無益な殺生はしたくない。敵対していたから殺したけど、何かしゃべれない理由があるのであれば...
剣を放り投げる。およそ彼には届かない方へ。
目線は...剣の方か。
「ショゴス、右腕の拘束だけ外して」
「了解です」
右腕が自由になる。すると、彼はその右腕を一瞬だけ剣に向かって伸ばそうとし、そして諦めた。
「この剣が欲しいか」
剣を持ち上げて見せる。
「...」
返答はない...が、右手は剣の方へ動いてるな。
...まあ危険になってもこいつ一人なら問題はないか。
「よし、なら返してやろう」
投げて返す。まるで吸い付くかのようにその剣は彼の右手に収まった。
そして、その剣を振るってきた。全然届かないところにいるから当たらないけどね。
...でも無駄に振ってるな。ショゴスの拘束を切ろうともせず、ただただ振っている。
「ショゴス、拘束は続けて。強めなくてもいいよ」
「はい」
となると...剣を振る以外のことができないとかかね。剣を振るという意思はあるのだから、思考ができない状況とかそういうのではない。
脱出のそぶりも見せていないわけだし...
...少し、試してみるか。
「よーし、今から君に質問するとしよう。はいなら縦切り、いいえなら横切りだ。できるか?」
言った瞬間、ピタリと手が止まる。そして...
...そして、縦切りをした。それ以外はしない。
「大当たりのようだな」
「ですねえ。なんで剣しか振れないかはわかるか?」
少し脱力した後に横切り。さすがにそこはわからないか。
「なんでここにいるかは?」
縦切り。それはわかるのか。
ただ説明はできないのだろう。物理的に。
となると...
「それにはガイラウズ・ドーレリア、あるいは「久苦の魔王」が関わっているか?」
すると彼は、なんと袈裟斬りをした。まさかの斜め。
あっているけど、ちょっと違うとかか。となると何が違うとかになるけど...
...待てよ。そういえばすっかり忘れていた。「久苦の魔王」って確かスキルは[超反応]だったよな。
で、あいつがやったのは<ダンジョン>生成...ええ?
<ダンジョン>生成ができるのは、確か「探久の魔王」ってやつだ。でもあいつは「久苦の魔王」って名乗った...
「関わっているのは「探久の魔王」か?」
縦切り。やっぱりそうか。
おそらく、ガイラウズ・ドーレリアは「探久の魔王」。なぜか「久苦の魔王」と名乗っていたわけだ。
であれば...
「なぜかあいつは自らのことを「久苦の魔王」と言っていた。その理由はわかるか?」
少し時間が経ったのち、まるで閃いたかのようにブンブンと縦切りを振るっている。
理由がわかるのか、なら...
...いや、ダメだな。はいかいいえだとまず無理だ。一体どうやって聞くべきk
ガラガラガラ!!
次の瞬間、天井が降ってきた。しかもすごい勢いで。
「っ!?」
すぐに横飛びをして避ける...が、あの男とショゴスは避けられず。
ガシャーン!
降りてきた棘付きの天井に、下敷きになってしまった。
...否、剣だけは、こちらに投げられてきたが。
「...ショゴス、戻ってこい」
すぐに左腕に戻ってくるショゴス。心なしか大きくなっているような気もする。
剣を拾い上げる。ただの剣だが...ん?
いや、これただの剣じゃないな。少しだけあったかいというか、人肌の温度があるというか。
刀身に触れるとわかりやすい。さっきまで強く握られていたとしても、それは柄だけであり刀身は冷たいままだろう。本来なら。
でも、この剣は違う。刀身がほんのりあったかく、しかも鼓動まで伝わってくる。
...まさか、これ剣の方が本体とか、そういうことか?マジで?
確かに校長のあの戦斧とかはしゃべってたし...可能性はありそう。
念の為、拾っておくか。もしかすると何かに使えるかもだし。
「えー、それ不気味じゃないか?」
「武器だけに、ですか?」
「...」
「...」
「...」
「な、何か反応してもいいでしょう!?」
次は24:00ですね。今しばらくお待ちください。