別レギュの並走
あっちでも、こっちでも。
みんなで<魔王>討伐!
「...なるほど。2人同時の覚醒か」
館の跡地に向かう道中、急に話しかけてきたカミラから聞いた話を飲み込む。
やはりというか続々と<魔王>が覚醒し、それに続いて<勇者>も覚醒している。
僕も覚醒の時が近いのかもしれないな。
「あり得ない話ではないですが、<聖神信仰教会>及び神聖皇国イマジの方々も驚いたようです!」
「だろうね、過去の文献にも書かれていないのだから」
「私も最初は驚きました!あと、まさかこんなにも使いやすいスキルになるとは思いませんでした!」
あ、そっか。覚醒によって<勇者>たちはスキルが手に入るのか。
えっと、確かカミラが手に入れていたのは...
「[予備知識]、って言ってたっけ?」
「はい!<ダンジョン>や鑑定物の名前を理解すればその詳細がわかるというスキルです!」
言ってしまえば[鑑定]の上位互換。さらに考えると[試練]のスキルが生み出す<ダンジョン>である<地殻融解>のマップを理解できるというわけで。
<地殻融解>。どうやら<結界魔法>を使って生み出された<ダンジョン>のようで、実は普通に一般人も入れる。だからこその一般公開でありマップも無償で提供されているのだが...
「今日に限っては侵入禁止になっているんです!宝箱の中身も美味しいので、たくさんの人が困っているみたいですよ!」
「つまるところ[試練]の練習で生み出していたわけだね」
多くの人間の収入源になるほど<地殻融解>は人気。そういうものを生み出せるというのは、意図しているのか意図せずなのか。どちらにしても覚醒後の[試練]は相当強力なものだろう。
とは言っても、だ。<勇者>にはその中にいる<魔王>を殺すという目的があるからいいが、別に入らなければ問題ではない。
つまり...
「まあ、更地にすれば問題はないってことだね」
「<ダンジョン>の跡すら残っていませんね」
跡地に着き周りを見渡す。一面の地だ。
雑草すら生えないくらい地面が耕され、水さえ流れてこれば農耕ができるくらい栄養豊富な土地に仕上がった...とはシュド=メル談。
もはや木屑などといった館というものがあった痕跡すらなく、ここにあるのは耕された土地だけだった。
...いや、一応いるな。人間が1人と...あれが<魔王>か。
1人は髭を生やしたいい感じに雰囲気がある白髪のおじさん、そして1人は結構かっこいい顔立ちをした好青年。
普通の女性なら二度見でもして顔を確認するだろうが...
「ふっ」
土で薄汚く汚れたその姿だと、そんなことも起こらないだろうな。
「くっそ...お、お前が我々を...」
おじさんがそう言ってくる。いやいや、風評被害は良くないなあ。
「いえ、違いますよ?実行したのはシュド=メルという私の<神話生物>です」
「神話生物...?なんだ、それは?あの汚いワームが、その神話生物というやつなのか?」
「...あなたは知らなくてもいいでしょうねえ」
残念なことに趣味が合わないらしい。僕は嫌いな人に布教するつもりはないので、どうぞこのままあのかわいいシュド=メル様を汚いワームなどと侮辱していてください。
「...知らない言葉、そしてそのオーラ...なるほどな、あんたも<魔王>か」
「ええ、そうですよ。お互い名乗ります?」
「いや、いい。あんたに名乗るほど低俗な名前じゃないからな」
あらそう。そんなに高潔な名前なのね。
ところで、こいつの名前は?
「聞いておきました。ガイラウズ・ドーレリアと名乗るそうです」
「だ、そうだが。あってるかな?」
まるで小馬鹿にするかように聞いておく。無論、なんか自意識過剰な目の前の男は、
「...ああ、そうだよ。そういうお前はマリア・ヒルドだったか?ええ?」
少しキレ気味に言葉を投げ返してきた。
「そうそう。いやあ、君のような野蛮そうなやつが言えるなんて、私の名前はとても覚えやすいね」
「あんたの名前より俺の方が覚えやすいだろうが」
「少しは考えろ。私は作中で何度も名乗っているんだ、残念なことに君の名前よりも私の名前の方が定着しているのさ」
変なところでマウントをとっていく。
「ま、<魔王>ともあろうものが我々に何の用だ!」
何の用か、だって?そんなもの決まってるじゃないか。
急に現れるシュド=メル。それに飲み込まれるおじさん。
一瞬だった。瞬きの間にそれは行われた。
あの<魔王>も、何が起こったかよくわかっていないらしい。それはそうだろう、音もなく一瞬で死んだのだから。
「な...は?」
力量の差、ではない。これは得意不得意によるものだ。
彼は特段戦闘が得意ではないのだろう。だから自らを守るために強固な<ダンジョン>を創り出す。
そして、確かに僕も戦闘が苦手だ。一般魔獣と戦ってもすぐに死ぬと自信を持って言えるが、それを<神話生物>によってカバーしている感じ。
まあそのカバーが大きすぎるのだけど。
「訂正です。数々の改造が施された今のマスターなら、橙までなら倒せるかと」
「...じゃあ、うん。今までのことは言わなくて正解だったね」
恥をかくところだったぞ。
「く...こんなところで終われるかよ!」
「いやあ、まあ終わるだろうね」
吠えた瞬間、目の前の男のその喉が掻っ切られた。
「!?!?!?」
わけがわからない、という感じだろうな。
まあ、そりゃあそうだろう。
「まあね、確かに僕は別にいいかなと思うんだよ。君を殺さなくたっていいじゃない、ってさ」
目の前にいる猫を拾い上げる。
そして、後ろからやってくるネコマタに道を通す。
「!!」
「でもねえ...残念なことに僕以外の関係者が君を許すつもりがないらしい。あーあ、あんなクズと手を組まなきゃ生き残ってただろうに」
ミミズが地面から出てきて、僕に何かを渡す。
...地図。地下の様子みたいだけど...
「まあ<ダンジョン>を創れるのだからこういう使い方をするよね」
そこには、ちょうどこの土地を下に進み、そのまま国外に逃げることのできるルートが確立されている旨が記されていた。
<ダンジョン>の中は外からだと確認がかなり難しい。それこそシュド=メルと同等の存在で穴を開けたりするほかないが、それはつまり<ダンジョン>を通路にすればかなり安全だということでもある。
カミラから[試練]は<ダンジョン>を創造するものだと教えてもらったのですぐに調べたけど...やっぱり当たりだったね。
ただ、だ。別にこの国では<ドリューニ商店>の交易は全面的に許されている。それこそ国同士で互いに禁止していることを除けば。
だから普通の交易に必要なものを持ってくることであれば別にこの国を出入りすることは可能だろう。こんなもの用意しなくても余裕で門を通過できる。
...そう、普通の交易に必要なものであれば、ね。
「...<魔王>が協力していたのだ、やはり<勇者>にはきてもらって正解だったな」
手から長い爪を伸ばし、構えながら目の前の敵に近づく女王。
「それに、マリアがいなければこんなにも楽にこいつを殺すことはできなかっただろう。感謝をしても仕切れんほどの恩が生まれてしまったな」
喉を押さえて逃げる「久苦の魔王」。その目には涙を浮かべていて。
だが無慈悲に刃が背中を貫いた。
「いえいえ、僕はただバースト様の命として動いたまでですから」
...考えを改めるには、もう遅いのだろう。
「く、そ、が、」
「!?」
爪が抜けない。女王がそれに気づいた時点でもう遅かった。
「ただで、死ぬ...わけには、いかねえ、だろうが...ええ!!」
その瞬間、「久苦の魔王」が光る。
その強すぎる光に思わず目を瞑る。かなり眩しいなこれ。
そして同時にゴゴゴゴゴという音。一体何が...
...まずい!女王が!
すぐに目を開くがそこに女王と「久苦の魔王」はおらず、あったのはそびえ立つ大きな壁。
...壁?そうだ、これは通路。幅にして5mのT字路に僕はいた。
「ハハハハハ!!」
声が、聞こえた。上か?下か?
あるいは、自分自身からか?
「どうだ!俺だって本気を出せばこれくらいはできる!」
その声はまるで矮小な存在を見下すかのような響きを持っていて。
つまるところ、僕は閉じ込められたのだ。彼の<ダンジョン>に。
「女王はどこに行った!」
「女王?無事じゃねえか?ああ、<地殻融解>に放り込んだから実際は無事じゃねえな?ギャハハ!」
...心底、ムカつく。ただそれを表面に出す筋合いは僕にはない。
なぜなら、私が彼を煽ったから。煽ったのだから煽り返されるのも致し方ない。
「...ああ、そうかよ」
...この怒りだけは、心の中に収めることはできないだろうけど、ね。
「改めて名乗らせてもらおう。私はマリア、マリア・ヒルド。<神話生物>と共に今を生きる<魔王>だ」
「そーかい、んじゃあ冥土の土産に教えてやるぜ。俺はガイラウズ...ガイラウズ・ドーレリア![試練]のスキルでこの世界を滅茶苦茶にする「久苦の魔王」だ!!」
奴がなぜ、こんなことをしたのか。動機、理由、そんなもの必要ない。
バースト様の命は、一つ。ネコマタの地位向上。そして...
「なるほど...それが死にゆく者の最期の名乗りですか。あまりにも情報量の少ない名乗りですね」
かの神は、あいつの死を望んでらっしゃる。
「と、いうわけだ...手加減なんてクソ喰らえ、覚悟しろよ」
まだまだ続きます、マリア視点。




