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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第四章 猫又狂獣人叫
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奴隷(どれい)とは、人間でありながら所有の客体即ち所有物とされる者を言う。

引用はWikipediaから。

「マリアにお聞きしましょう。魔獣とは、どんな存在ですか?」



 おっと、最初から質問か。



 魔獣とは何なのか。僕にとっては...



「<神話生物>よりも弱い存在、かな」

「<神話生物>?」



 ソルスが僕に聞いてくる。そういえば<勇者>の前ではこの表現で言っていなかったか。



 神話生物(日本語)だとおそらくこの世界の人には伝わらない。だから<神話生物>なんだけど、わからないか...



「僕の<召喚獣>のこと、っていえば大体わかるかな?」

「...魔獣ですらなかったか」



 険しい顔をするソルス。別にそんな目で僕を見なくてもいいじゃないか。



 まあ多分<勇者>の中での神話生物の評価はかなり強い魔獣ってところだったんだろうな。



 考えを改めてもらわないと。



「そりゃあね。どれくらい強いかは.........言わないほうがいいな。まあ察してくれ」



 前言撤回、どうせなら初見殺しの要素も含めて後々対応してもらおう。



 すでに何度も見せているんだ、それくらいはいいよね?



「そう、察せるほどにあなたの<神話生物>は強い。それこそ魔獣が道端に落ちているゴミと同じに見えてしまうほど」



 そそ、強いのよ。この世界のどんな生物よりも強いのよ。



「ですが、それはあなたがここにいなければ比較できないもの。500年前にはいなかったのです」

「あー......確かにそうだね」



 厳密にはいるのだが...この場で話してもややこしくなるだけだな。うん。



 あと秘密の方が面白いだろうし。



「ですが、今ほど魔獣は強くなかった。むしろある程度の共存関係にあったとも言われています」



 魔獣との共存、今の世界ではもはやあり得ないに等しいだろうな。



「そのため魔獣を殺すことがない、そのため<召喚獣>というのが存在しなかった」

「殺す価値はなく、あるいは友や家族と同義であったってことか」



 頷く女王。



「でもその代わり...今ではできない<ロストスキル(あり得た技術)>である[テイム]というものがありました」

「[テイム]...つまりは調教者(テイマー)がいたってこと?」

「その通りです」



 おおー、まじか。そんなレベルまで魔獣っていうのは弱かったのか。



 確か[召喚魔法]を行うには...どうするんだっけか。なんかあやふやだな。



「[召喚魔法]は実際にその魔獣を倒す、あるいは倒された現場に居合わせる必要があります。ですが、[テイム]は仲良くなればその時点で仲間になります」



 言葉で戦うか武力で戦うか。仲良くなる条件なんかも決まってるのかもしれないな。



「というか倒された現場に居合わせても召喚できるんだね。結構判定が緩いっていうか...」

「元々この[召喚魔法]というスキルは[テイマー]が殺された自分の(魔獣)を生き返らせるために開発されたと伝わっていますから」



 ああ、そういう。つまり...



「魔獣が弱かったのに魔獣を殺さなくてはならない問題が生じたわけか」

「そうですね」



 目線を動かし、ホログラムの町を見下ろす女王。



 町は活気に満ちている、がとてもじゃないが人が多いとは言えない。町というより村だろう。



「500年前、突如として魔獣の性格が凶暴化しました」

「今のように、ってこと?」

「ええ、それは[テイム]の壁を突き破りはしませんでしたが、しかし魔獣によって多くの人間が殺されました」



 ...読めてきたぞ。なぜなら人間は未知を既知に変えたがる生物だから、だから...



 だから、おそらく決めつけたのではないだろうか。前世で言うなら魔女裁判というやつみたいに。



「人間は考えました。魔獣が凶暴化したのはなぜなのか」

「答えは...テイマーがやったんだ!!...違う?」

「...おおむね正解ですね。厳密には、[テイム]というスキルそのものが悪いとされました」



 スキルそのものですか。それはそれは、病原菌がたくさんある方を選びましたなあ。



「そのスキルを持つものは全て悪であると、でっちあげた証拠があったのもあり世界中の人々が信じました」

「で、迫害が起こった...」

「見つかったら殺される世界、というふうに伝わっています」



 思わず身震いしてしまう。迫害よりもタチが悪いや。



「テイマーたちは何とか一つの場所に集まり、しかし殺されないように<ダンジョン>で暮らすようになりました。一部の人間が魔獣が凶暴化してから<ダンジョン>で暮らすようになったと聞いて、その方が安全だと思ったのでしょう」

「...そうか、それがネコマタの先祖か!」



 頷く女王。まじか、てことはこの<フィンナの森>が逃げ込んだ先ってことか...




 ...え、でもなんで猫と人間のハーフみたいな姿になっているんだ?



「というか奴隷についての情報が一切合切でてきてないし」

「これから出てきますよ...<ダンジョン>で暮らし始めたテイマーたち、ですが暮らし始めてから数年が経過したある日、とんでもない事実がわかってしまったのです」



 とんでもない事実?






「端的に言えば、テイマーが減っていたんです」

「...食料問題?」

「いえ、食料は十二分にありました。ここは太陽があるので、作物を育てれば問題ありません」

「じゃあ...何だろう」



 同士討ちとか、心中とか?



 自分達がイカれた奴らなんだと錯覚したのならあり得る話だけど...



「...凶暴化しているのは外の魔獣だけではなく、<ダンジョン>内の魔獣もそうだった」

「80点ですね」

「これで80点となると...」



 ソルスが勝手に答えて、しかもそれが80点かよ。



 ...となると、だ。



「殺された人間と生まれた人間、天秤に乗せたら殺された人間の方が重かったのね」

「そう、繁殖という問題点があったのです」



 繁殖行為。一応僕だって知ってる。



 つまりは...



「げ、現代だと大人になってから死ぬまでに子供を最低2人作るのが義務になっていますが!」

「でも昔にはそんな法律はなかったのです」



 魔獣に殺され、でも自由な恋愛によって子供を産まないものもいた。



 そして生と死のバランスが釣り合わなくなって...



「気づいた頃、いや気付けた頃にはもう遅かった。すでに数千人いたテイマーは十数人ほどまで減少、しかもそれが女性だけでした」

「男の方が自分から戦っていたわけだ」



 どうしても戦闘となると男の方がステータス高いだろうしなあ。愛する人を守ると決めた人もいただろうし。



「...決断は早かったそうです。すぐに種を、いやテイマーの技術をどうにかしてのちの世代に継承させようと動いたのです」



 即断即決。緊急時にはそれが一番大事だろう。



「でも、普通の人間を産むことは叶いません。すでに男のテイマーは誰もいなかったのですから」

「無論外部の人間に継承させることはできないですね。そもそも迫害されているのですから」

「だから...猫と交わった、と?」



 ゆっくりと頷くと、女王はまるで溜め込んでいたものを吐き出すかのように話し始めた。



「それ以外に道はなかった、と伝わっています。結果として我々が生まれていますから、この道は正しかったのでしょう」

「テイマーの技術の継承はどうなったのですか?」

「できています。ネコマタを生み出した十数人の<最後の真人間>が死ぬ前に綴った巻物が、代々妾の家、つまり王家に伝わっているのですから」

「...でも奴隷に関してまったく出てこないのだけど」



 僕がそういうと、女王は顔を顰め、もう一度話し始めた。



「200年ほど前、それは起こりました。この<ダンジョン>で生活するための食料が底を尽きたのです」

「...数が増えすぎたか」



 今までは耕作で何とかなったけど、数が増えてくるにつれ足りなくなったんだね。



「しかもこの<ダンジョン>、出てくる魔獣が食べれたものじゃないんです。そもそも消化されないので」

「まずいとかそういう問題じゃなくて、食料じゃないのか...」



 となると食料を得るには...



「............ああ、そういう」

「わかっていただけましたか」






「交易でしか食料が手に入らない状況にまで追い詰められた。でもこっちが出せるものは、そもそも[テイム]のことがバレないようにしなきゃいけない上何でバレるかわからないのであればものを出すこともできない。でも、ネコマタには唯一無二の特徴として、魔獣のような姿なのに魔獣ではなく人であったことがある。それを価値として見出したわけだ」

「...反論は、多かった。でも、それをしなければネコマタは生き延びることができなかった.....」



 俯く女王。その顔はひどく歪んでいて。



 罪を犯した者が悔いているような表情だった。



「元々いた数の半分を売りました。相手も付加価値として十分なのはわかっていたはずですが、それ以上にこちらから搾り取れるだけ搾り取ろうとしたのですね」

「結果食料を得ることができ、それ以降他の方法で外貨を得るために観光などができるように町を整備し、今の私たちがいるのです」



 先ほどまでの顔をまったく見せずに、覚悟だけを見せて話す女王。



 ...売り出す時の感情など、考えたくもない。でも想像できる自分が本当に...



「...売り渡したのはどこの商人なのですか?」



 女王に頭の上から聞く猫が1匹。



 ...嫌な予感というものは、必ずしも当たるわけじゃない。



 だが、残念なことにこういう場面に直面したやつの"嫌な予感"というものは必ず当たる。



 おそらく、ソルスも当たったんだろうな...






「<ドリューニ商店>。ですから、ええ。妾達の国は現在奴らの支配下に置かれていると言っていいでしょう」

どこまでいっても、クズはゴミ箱へ。

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