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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第四章 猫又狂獣人叫
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"本物"

戦争とは悲しいもの...早く終わって欲しいですね。

 町の中心部に向かって進む。そして同時に幾つかの説明を受けた。



「ニャージーランドは幾つかの生活圏が層のように折り重にゃってできているにゃ。今私たちがいるのは観光層あるいは守護層と言って、外から来た人間の応対をする層で、時にはここで観光を、時にはここから先に進めさせないようネコマタを守護する役目がある場所にゃ」

「となると、今は後者の方の仕事中というわけか」

「そういうことにはにゃるんだけど...実はちょっと違うんだにゃ。詳しい説明は王宮でしてもらうことになると思うにゃ」



 ボロボロの町を見渡せば、まずこんなとこが観光名所だなんて思わないだろう。



 だが、実際に観光名所が火の海になったらこうなるのも事実。僕が生まれる頃には戦争なんて起こらない世界だったけど、前世の時も戦争中の国の観光名所とかはこんな状況だったのかもしれない。



 血が溢れ、建物が崩れ落ち、悲痛な叫びがそこらじゅうから聞こえる。そういう状況に。



「む、もうすぐこの層を抜けるにゃ」



 そこには、まるで何もかもを遮ろうとしていたかのような門の成れの果てがあった。大きく崩れているのを見れば、すでにこの地点は陥落していることに誰だって気づくことになるだろう。



 そしてこの門があるのは、まさにこの層とここの奥の層を遮らんとする巨大な壁、の残骸。一体どれほどの大きさだったのだろうか。



「よっ、とと」

「マリア、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、クタニド様」



 なんとか登って周りを見渡すと、そこはやはり地獄絵図だった。



 しかも、



「ネコマタ風情が!!」

「死ね、死ねえええ!!」

「人間どもめえええ!!」

「は、早く逃げ、がはぁ!!」

「いや、いやあああああ!!」



 さっきの比ではない。絵図ではなく地獄そのものと言っていいだろう。



「あまり周りを見ずに走り抜けるにゃ。今私たちができるのは王宮に可能な限り早く向かう、それだけにゃ」

「そんなこと、この状況を見ればすぐわかるよ」



 さっきの層と違いこの層はいまだに建物が崩れ落ちたり火事になったりしている。走っている時に真隣の家が爆発したし。



 それに、層の全体を見ていないから詳しくはわからないけど、あまりにも広すぎる。僕らだけでどうにかなったりはしない。



 ...だが、ここに猫保全委員会名誉会長が1匹。



「メェーちゃん、バーストはもういないね?」

「メェー(この町に入った時にはもう走ってたよ)」



 だと思ったよ。可能な限り助けるだろうけど、果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。



「さすがバースト様、ということにゃね...ここは生活層、買い物とかは基本ここですることができるのにゃ。まあ人間が必要にゃ大概のものは<ドリューニ商店>で集まるにゃ」



 む、出たな<ドリューニ商店>。おそらく奴隷に関するうんたらをこのニャージーランドで行っているやばい奴ら。



 いつかはそこをぶっ潰すことにはなるだろうけど...まあ、それは後の話だね。



「ちなみに観光層で暮らすか生活層で暮らすかは住民の権利によっていつでも選べるし変更が可能にゃ。それぞれメリットとデメリットが存在するからにゃ」

「なるほどね、例えば観光そうなら色々な人と交流できる可能性はあるけど、今みたいなことが起きた場合は最初に攻め込まれることになる、ハイリスクハイリターンみたいな感じか」

「...まあ、そういうことだにゃ」



 走る。怪我人を横目に、死体を見ずに、爆風を避けて。



 舗装があまり良くないのか、観光層よりも走りにくいがそんなこと言ってられない。



「いたぞ、ネコマタだ!」

「な、見つかったにゃ!?」



 こんなことが起こった時に。



「メェーちゃん!」

 ボコスカ

「ぐばああああ!」



 こういう風にすぐ対処できるようにしないといけないからね。



「あ、ありがとうにゃ...おかげで助かったにゃ」

「と、いってもタマさんほどの実力があればこれくらいは突破できそうですけどね」



 走っているとやはり何度も見つかる、そしてその度にボコボコにする。



 奥へ向かえば向かうほど出会う頻度は大きくなり、そして一度にくる人数も同時に増えてくる。



 まるで<深森>みたいだ。



「...ここまでくれば、もう目の前ですにゃ」



 そして、町を走り抜けた僕たちの目の前にあるのは、一つのでかい門だった。



 まるで<ダンジョンボス>のいる部屋の入り口にあるような、そんな門。



 無論、それに合わせたとても大きい壁もある。何があっても通さないという意思を感じるな。



「でも、どうやって開けるんですか?」

「それは、こうするにゃ」



 閉ざされた門を3階ノックするタマさん。



「我、守護の者。要人を連れてきた」



 そういうと、奥から声...いや、これは超音波か。



 おそらく普通の人間じゃわからないようなもので、ネコマタのみ理解できる会話ともなればそれはかなりいい通話方法だろう。



「人間が2人、うち1人は召喚師でありバースト様を連れている」



 今いませんけどね。ちなみに今僕の近くに出てきている神話生物はメェーちゃんとクタニド様のみである。



 クトーニアンは地中に今もずっといる。おそらく話しかければすぐに出てくるだろうけど、今はそういう場面じゃない。ショゴスは今僕の左腕になってて、ティンダロスの猟犬は<インベントリ>の中。



 で、人間が2人ってことは、やっぱりクタニド様は人間としてみられているってことだ。うん。



「大事なことなので2回言いました」

「それほど私の義体が完璧であるってことですね」

「義体?擬態ではなく?」

「ヌトスに作ってもらったの」



 ああ、そういう。



 そんなこんなしているうちに、ついに門が開いた。



「メェーちゃん。そろそろバーストを呼び戻してきて」

「メェー!」



 頭から飛び降り、スタスタと駆けて行くメェーちゃん。かわいい。



 完全に開き切ると、そこはまさに王宮と言える煌びやかさを持っていた。ただ、その煌びやかさは王宮を飾っているわけではない。



 まず、王宮よりも先に目が行ったもの。それは、巨大な樹だ。



 それこそメェーちゃん本来の姿よりも大きい、下手したら狂気山脈すら凌駕しているのではないかと錯覚するほどのでかい樹。それを取り囲むのが、先ほど見た煌びやかな王宮。



 言い換えるとするなら、樹の飾りとして王宮がある。そういって差し支えないだろう。



「ほう、<魔力>が他の場所よりも潤沢ですね」

「そりゃそうですにゃ。なぜなら、この場には<創樹>様がおられるのですから、にゃ!」

「<創樹>。何かを創り出す樹、この場合は<魔力>を創り出しているってこと?」

「大正解ですにゃ!そして<創樹>様のおかげでニャージーランドは発展を遂げたのだにゃ!」



 なるほどねえ。本当に世界樹とかの話みたいだな。



「ささ、早く王宮に向かうにゃ、と言いたいところにゃのだけど...これ以降は私は立ち入りが許されていないにゃ。王宮には2人だけで行くにゃ」



 あ、僕たちだけなのね。



「内部をどう進めばいいかわからないのですけど...」

「それは大丈夫にゃ。王宮内にある部屋は女王様の謁見室だけにゃ」

「それなら...大丈夫かな?って、女王だったのか」



 とりあえず王宮の目の前までくる。



 ...相変わらず他の場所を見ても赤く染まっているだけだからだ。行く理由もない。



「それじゃあ頑張ってくるにゃ〜」



 そう言うと、タマさんは門の方へと駆けて行った...それもとんでもない速度で。



 僕に合わせてくれた、ということなのだろう。



「さて...準備は大丈夫ですよね、クタニド様」

「聞かれるまでもないことなのですが」

「それは失敬」



 王宮の扉を開く。扉の大きさは先ほどまでの門とと変わらないが、異常なまでに重いのはそれまでとの違いだろう。



 一応開けなくもなかったから、良かったけどね。



 キイイィィィ...ドシーン!



「はあ、はあ...よ、ようやく開けた...」

「遅いですね、もう少し鍛えなさい。それでも私の眷属なのですか?」

「ぜ、善処します......」



 疲れたが、止まっている暇はないだろう。



 すぐに進む...というか扉を開けたらそこは謁見室だった。






「ソナタらが、妾に謁見しようとしてきたものたちか」

「いや違いますね。なんか詳しい話は王宮で聞けるとかなんとか言われたからここにきました」

「なんならそれを言った人物はこの場を離れていますよ」



 女王陛下と思わしき人物が言った返答に即座に切り返す僕たち。



 すると、女王陛下?は頭を抱え始めた。



「...タマか。なるほど、確かに妾の元にこれば詳しい話が聞けるが...ぬう」

「あ、邪魔なのでしたら帰りますけど」

「いや、帰るな。お前たちにいくつか聞きたいことがあるからな」

「そうですか、まあ僕たちに答えられる範囲であれば答えますけど」



 うーんうーんと頭を悩ませている女王陛下。



 今のところやることがないので、とりあえず辺りを見回すとしよう。



 まずやはりというか、謁見室は女王陛下のいる場所が少しだけ高くなっている。自らはお前よりも上の立場にいるんだぞという意思表示だ。無論、女王陛下の近くには護衛であろうネコマタの男性がいる。



 女王陛下は、まさに女王であることがわかりやすい。薄めの茶髪ロングの上に輝くティアラをのせ、それらを着飾るようにシンプルなドレスを着ている。普通に美しい。



 そして、その女王陛下が座っている煌びやかな椅子の後ろにはめり込んで、いやおそらくはそうなるようにこの謁見室を作ったのだろうが、とにかくそこには大きな幹の一部があった。おそらくは<創樹>だろう。



「...それではまず、自己紹介をしてもらおうか」

「そうですね、僕の名前は」

「そうではない。しっかりと、自らの素性を晒せと言っているのだ」



 おん。つまり[<魔王>の芽]を所持していることまで言えと。なるほど。



「ですがそうなると、人払いをして欲しいものですね」

「で、あろうな」



 この反応、僕がどういう存在かわかって言ってるな。意地悪な人だ。



 だが、同時に頭は回るらしい。



「ノア、並びにベルよ。人払いを。この謁見室に誰も近づけるな」

「しかし、それでは女王様の身の安全が!」

「安心せい、奴らは妾を傷つけようなどとは思っておらんよ。思っておるのだったら、既に妾はその奇怪な<召喚獣>の手によって殺されておる」

「...わかりました。ノア、行くぞ」

「ぐぬう...わかった、ベル。ですが女王様、何かあったっらすぐに言ってくださいね!」



 外へ出る護衛の人たち。多分その何かは起こった瞬間に既に遅いんだよなあ。



「さて、人払いは済んだ。自己紹介をしてもらおうか」

「僕、母さんに人の名前を聞くときはまず自分から名乗れと言われて育ったのですが」

「まだその設定なのですね...」



 設定いうなし。しっかりと相手の情報の前に自分の情報を渡さないといけないという、れっきとした交渉だよ。



「そうか、では妾から名乗ってやろう。妾はムギ!このニャージーランドを統べる女王である!さあ、お前たちの名を聞こう!」

「では、そうですね...」



 何て名乗ろうか。特段<魔王>として動くことがあまりなかったから、<魔王>としての名乗り方とか知らないんだよな...



 ...適当にカッコつければいっか!



()の名はマリア。[<魔王>の芽]をもつ、<魔王>になる運命を背負った者。そして、私の隣におられるのが」

「クタニド、といいます」

「姿だけではわからないでしょうが、このお方は私よりもはるかに強い存在。<召喚獣>という枠に収まらないのですから、私は敬意を込めて<神話生物>と総称させていただいています。無論、総称なのですから...ショゴス!クトーニアン!」



 瞬間、僕の左腕の感覚がなくなり、それが現れる。同時に地震が起こり、1匹の生物が現れる。



「彼らもまた、<神話生物>です。私の左後ろにいるのがショゴス、右後ろにいるのがクトーニアン。本来であればもう2体、見せなければならないのですがご了承ください」



 そしてわざとらしく胸に手を当て、頭を下げる。



「以上、これが私のスキルである[召喚魔術]です。ご期待に添えるものではありましたかな?」



 ちらりと女王を見る。その顔は平静を保っており、やはり心の強さは女王である...



 ...否、手が震えている。神話生物を大量に、しかも一斉に見たのだ。発狂しないだけこの人はすごい。



「...調べた以上のことを見せる、となればお前のことは信用するしかないのであろうな」



 しかも、声は全く震えていない。とんでもない人だあ。



 ともなれば、だ。



「私も、あなたを信用するしかないでしょう。<神話生物>は見ただけで恐怖を与える存在、普通ならショゴスを見ただけでも失神してもおかしくないはずなのに...あなたは倒れていないのだから」



 それはつまり、神話生物に対抗できる可能性があるということ。今の所校長に次いで2番目の警戒人物だが...そもそも相手はこっちに攻撃する意志はない。こちらのことを調べたにもかかわらず、ノーガードで自己紹介を行ったのだからね。




「ふふふ、お前とはいい取引ができそうだ。<魔王>よ」

「ははは、それは()もですよ。女王陛下」

ムギさん、超つおい。

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