世界すら跨ぐ威光
今回もバースト様のお話です。大活躍ですね、バースト様。
「えっと、ところで僕はあなたに勝ったということでいいんですよね。この先へといきたいんですが...」
「にゃにゃにゃ...そ、そういえばそれを忘れていたにゃ...」
よろよろと立ち上がり、ボロボロの体を引き摺ってこちらにくるタマさん。
これは...大丈夫じゃなさそうだね。どうやらバーストは手加減をしなかったらしい。
「あの、一応回復はやろうと思えばできますけど...」
「い、いいや、大丈夫にゃ。私たち門の番人の使命はある程度の強さのラインを超えたもののみこの国の門をくぐらせることにゃ、こ、これくらいボロボロになることには慣れているのにゃ」
絶対慣れてない。すっごい声震えてるもん。
多分今まで見た中で一番強かったのだろう。というか最速記録じゃなかろうか。
扉を開けた瞬間ボコボコにしたみたいだからね。
「ま、まあもちろん君たちの実力はこの門をくぐるにふさわしいものにゃ。特にこの<召喚獣>たちの強さ、しかと目に焼き付けたにゃ」
「目に焼き付ける暇すらなくボコボコにしてしまいましたが...いやあ、僕の<召喚獣>がすいません」
「謝ることはにゃいにゃ。むしろ今までは誰でも入ることのできたこの国に入国制限をつけている王国が悪いにゃ」
ふむ、やっぱり僕が呼び出した神話生物群は基本的に<召喚獣>として見られるのか。ただ人間の瓜二つの場合はそうでもないみたい。
今の場合だとクタニド様とか。今後人間として現れるような神話生物がいたらそういうふうに対応せねば。
...で、今なんかちょっときな臭い匂いをした言葉が聞こえたよ?
「今までは誰でも入国できたのですか?」
「そうにゃ。確か、30年くらい前の時までは問題にゃく入国できたにゃ。ただ...」
すると、少しだけタマさんの表情が曇った。確実に何かあったっぽい。
「...まあ君には関係にゃいことにゃ。この門をくぐって、ニャージーランドを堪能するといいにゃ」
「元々そうするつもりでしたから...あ、そういえば僕名乗ってませんでした」
忘れていた。タマさんはいつの間にか名前がバラされていたのに、僕は一度もタマさんに名乗っていない。
「僕はマリア、マリア・ヒルドです...もしかすると聞いたことはあるかもしれませんね」
「にゃにゃ!?お前がシウズ王国の<国立学園>の中でも最高難易度、<ギルドズパーティ>の<ダンジョン>攻略テストを!」
瞬間、めっちゃ寄ってくるタマさん。
すごく近い。顔と顔がくっつくくらい近い。なんなら額が当たってる。
「生還し!しかもボスを倒し!それも単独で成し遂げた召喚師だにゃ!?」
「そ、そうですけど...」
「じゃ、じゃあ、ここ、こちらにいらっしゃる<召喚獣>、いやこのお方は...!?」
...ん?バーストを見て震えているが......もしかしてそういうこと?
一応バーストに目線を合わせて...と。
バーストの名を出しても?
「いいでしょう」
「承知しました。それでは...こちらに仰せになられるのが、猫の女神であり猫を率いるもの、バースト様でございます。またのなをバステト、とも」
エジプトの女神としてはバステトなんだよね。まあ性格が全く違うけど。
どちらかというともう一方の片割れn
「はうう!!!」
その瞬間、タマさんは後ろにぶっ倒れた。
かなりの勢いで倒れたため、バーストから受けた傷がまた開いて出血が始まる。
が、そんなことをタマさんは気にする様子がなく。
「ああ...バースト様から受けた傷が...もう絶対体を洗わないようにしよ...」
うわあ、流石にそれは僕も引くぞ。致命傷なのに、それがいいとか。
.....................いいなあ。
「なるホど、これがブーメランというヤつですね。とてもわカりやすい例です」
「いやいやショゴス。確かに神話生物の攻撃は嬉しいし致命傷を受けるのもとても気持ちいいけどさ、体を洗わないはやばいよ。不潔だよ」
「イえ、誰もそこについて話していませン」
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全ての猫を救いし女神、バースト。
かの猫が現れた時、全てのネコマタに降りかかる厄災は全ていなくなってしまうであろう...
「っていう先祖代々のネコマタから継いだ言い伝えがあるのですにゃ!」
「マジかよ」
急に三つ指をついて何を言い出すかと思えば、そんな言い伝えがあったとは。
さすがバースト、遠い異邦の地にもその名は伝わっているのだろう...解釈違いはあるかもだけど。
「というか、これがただしい言い伝えとなると、今現在進行形でネコマタに厄災が降りかかっているっていうことになると思うんだけど」
「そうですにゃ!今、ニャージーランドは結構やばい状況ですにゃ!なんならネコマタという種が存続の危機に陥っていますにゃ!」
「ほう...それは一体どういうことですか?」
お、バーストが喋り出した。さっきまでなぜか沈黙していたのに。
これは少し口を閉ざしたほうがよさそうかな。
「実はですにゃ...最近ニャージーランドに誰も観光に来ないんだにゃ!このままだと誰も稼げなくなっておしまいだにゃ!我々門の番人の給料も低くなってくばっかですし...」
って、ええ...そういうこと?
「それはこの門の番人という制度が悪いのでは?これがあるままだと誰も来なくなるでしょうし、何よりこの場の行き来は認められたものとしかできないのでしょう?」
「そうだにゃ...でも、それは正しいのにゃ。バースト様がおっしゃられた通り、この門の番人がいなくなってもっと外交を広げていけば景気は復活するにゃ...でも、できないにゃ」
「それはなぜです?」
ふむ、なぜ観光に来ないのかの問題からなぜ門の番人というものが存在するのかに変わったけど...
こっちの話のほうが重要そうだね。
「...多分、街を見ればわかるにゃ」
その場で立ち上がるタマさん。ギリギリ見えないのもまたいい。
「とりあえずこの門をくぐるにゃ。詳しい話は街を見ればわかるにゃ」
「......わかりました。マリア、いきますよ」
「はいただいま!」
僕らも立ち上がり、そのまま門を開きに行く。
重厚なように見えるが、触ってみると全然頑丈じゃない。まるで紙か何かなのかも、この門。
「それじゃあご開帳...」
音もなく開いた、その門の向こう側。
そこには、色とりどりの家が立ち並ぶ石造りの町が広がっていた。
森の中である証拠なのか、木々に隣接あるいは木々の侵食されている部分もあるようで、ただそれと石造りというものがなぜか妙にマッチしている。神秘的、というやつだろう。
そして何より、すごい奥に一本のとても大きい樹木があるのがわかる。ゲームとかなら世界樹みたいな設定になっててもおかしくはないだろう。
その近くになればなるほど木造の建物が多くなる。普通なら全然見えないはずだけど、これに関しては度重なる肉体改造(物理)の結果だろう。
...これが、表向き。いや本来の風景なのだろう。僕にはそういう幻視が見えた。
実際はそんなことはない。
ドゴーン!バゴーン!
音。おそらく爆発音であろうものが町中で響いている。
綺麗なはずの石畳は血で染まり、住宅の6割は倒壊。
あちこちに死体と思われるものがあるから、言うなればここは紛争真っ只中の国の中。
「...これ、は...」
バーストも驚きを隠せない様子。一体何が起こったらこうなるのだろうか。
「...まずは王宮へ向かうにゃ。話は、それから詳しくするにゃ」
「わかった。急ごう」
すぐに返答、タマさんとともに王宮に向かうのだった。
今のウクライナもこういうふうになっているのかな...と考えてしまいます。