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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第三章 勇魔大会狂殺
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レポート提出

どちらかというと本編ですね。<勇者>視点ですけど。

「...以上が今回のことの顛末です。最も、俺にわかる範囲で、ですが」



 ふう、と息をつく。2時間も話していたら疲れるのは当たり前なのだから。



 "分かりました、詳しい説明をどうもありがとう、ソルス・バミア"

「いえ、お役に立てたのなら幸いです......それでは、失礼します」



 ピッ



「ああ...疲れた...」



 ただの報告、それがこんなにも疲れるとは。



 父上がいつも仕事が終わった後、いつも倒れるように寝てしまう理由がわかった。極度の疲労により、寝てしまうんだ。



「お、お疲れ様です!何かお飲みになられますか?」

「ああ、そうだね。それじゃあストッテを一杯、砂糖はなしのものを」

「分かりました!少々お待ちくださいね!」



 こうやってタイミングのいい時にカミラはやってきて、いつもお茶を淹れてくれる。助かることこの上ない。



 ...都合のいい小間使いみたいに俺自身がカミラに頼ってしまうのが少し嫌なのだけど。父上も、女性には優しくしなさいと言っていたわけだし、実家には小間使いどころか使用人もほぼいなかったし。



 何より、彼女は平民から生まれた<勇者>。俺なんかに使う資格はないのだ。



 "バミア家といえばこの世界でも屈指の資産家。使用人ならいくらでも雇えたのでは?"



 確かにそうなのだけど。ただ父上は人をこき使うことが嫌いだった。持っている資産もほとんどが自分一人で集めたものだって言ってるし。



 父上は、わざと使用人を雇わなかった。そのおかげで俺は家事全般がこなせるわけだし。



 ...でも、なんでこき使うことが嫌なのかは知らないな。なんでなのだろう...



 そんなことを考えていると、ふと自分がウトウトしてしまっていることに気づく。



 すぐに頭を振ってベットを降りる。そのままベランダの外へ。






 一面の、森。深く閉ざされたと言っていいこの場所は、まさに神聖な空間。罪なき者こそ、この場にいる資格があるというもの。



「あら、こんなところにいたの」



 振り向くと、そこにはメーノ。



「<ポーション>の準備は進んでいるのかい?」

「当たり前よ。見なさい、この私自慢の一品たちを!」



 ババっとテーブルの上に置かれた品の数々。[鑑定]はカミラが持っているし俺は専門外なのだけど...



「...少し、品質が悪い?」



 見たかぎり、そう思った。市販の回復薬の方が回復量は多いと思うのだが。



「ふっふっふ。やはりあなたの目は節穴よ、ソルス」

「[鑑定]も[魔道具]も持っていない人間に言わないでくれ」



 持っていなければわからないこともあるのだから。



「実はね、まだ試作段階ではあるんだけど、かなり<水薬(ポーション)中毒(アデクション)>になりにくくなっているの」

「おお、それはすごいな」

 "コボルト戦の時にも苦しめられたものですね。飲み過ぎた<ポーション>を飲むたびにダメージを受けるようになる状態異常です"



 あれには苦しめられた。いくつかの<ダンジョン>探索の時も、帰る頃には全員<水薬中毒>になってたし。



「回復効果が落ちたのはその副作用。<水薬中毒>にはなりにくいけど回復量は市販のものと比べて半分以下だから、緊急時というよりは休憩時に飲むのが最適ね」

「わかった。ちなみにその<ポーション>は計いくつある?」

「今この場に持ってきたもの含めて20本。市販のものと同レベルのものを作るのと同じくらいお金はかかるから、あと作れて40本ってところね」



 合計60。休憩した時に飲むと考えるのであれば問題ない量だな。一人12本もあれば効果量が半分以下とは言っても問題ないはず。



「よし。次の<ダンジョン>に行くまでに可能な限り作っておいてくれ。いつも飲んでいた回復薬は半分に減らして、その空いた部分に入れていこう」

「はーい。とりあえず報告は以上、なんだけど...」



 回復薬は問題なし、メンタルチェックも全員問題ない。となるとあとは...



<インベントリ>から地図を取り出す。次に行く<ダンジョン>、<地殻融解>のマップだ。



 すでに<ダンジョンボス>までのマップは公開され、誰でも周回が可能になっている。



 ...すでに20回は読み込んだが、今一度確認だ。見落としや、重要な要素はないな...?



「...はあ、相変わらずね」

「ん、何が?」

「ううん、なんでもない」



 後ろを向いて去っていくメーノ。何か言いたかったのかな。



「何か、他にも用事があったのか?」

「...もしかして、期待してるの?私に用事があるこt」

「流石に仲間の悩みを聞き入れないほど、不真面目なリーダーはやっていないと思っているよ、俺は」



 仲間の悩みは俺の悩み。父上からもそう教わってきた。



「...本当に、なんでもないわ。もう夜も遅いし、私は寝るわね」

「そうか...悩みがあったらいつでも言っていいんだからな」



「わかってるわよ〜」としまった扉の奥から聞こえてくる。本当に大丈夫なのか?



 気になる。が、自分から何が悩みなのか聞くのは少し違うような気がするし、うーん。



 コンコンコンコン



 ノックの音だ。4回やる癖がついているのは...



「入ってきていいぞ、カミラ」

「は、はい!」



 ドアを開けて入ってくるのは、びしょ濡れになったカミラ。手にはお盆とその上に1組のティーセット。



「お、おい大丈夫か。随分と寝れてしまっているようだが...」



 というか服が透けて見えてはいけないようなものが見えてる。



 それに気づいてすぐに後ろを向く。



「と、とりあえず俺のベットのシーツを使って体を覆い隠してくれ」

「へ...あ、ああ...」



 駆ける音、引っぺがす音が聞こえ、最後に巻き付ける音。



「これで大丈夫だと思います...」

「そ、そうか...」



 チラリと後ろを見る。シーツで隠れてはいるけど、結局ビショビショなことは変わらない。頭から濡れているからな。



「ご、ごめんなさい。さっきキッチンで転んでしまって。それで、紅茶を頭から...」

「それは、災難だったな」



 彼女は結構不幸である。よく転んで怪我をしてくるし、よく何かにぶつかるし、何より一番最初に魔獣に狙われるのも彼女だ。



 気をつけていても何かしら不幸なことが起こる。本当に大丈夫なのか心配になるくらいだ。



「とりあえず、紅茶はもらって」



 お盆を受け取る。



 うーん、やはりいい匂い。彼女の淹れた紅茶は毎回美味しい。俺のものよりもだ。



「このまま俺の部屋の備え付けのシャワーを使うといい。着替えは...」

「い、<インベントリ>にあります!」

「なら大丈夫そうだな。風邪になってしまう前に入ってくれ」

「お、お気遣いありがとうございます!ありがたく使わせていただきます!」



 そういってカミラはすぐに洗面所へと入っていった。



 "そういえば、彼女はいまだに<水薬拒否症状>が治っていない状況でしたね。<水薬中毒>になりにくいのであれば、それもなりにくなるやもしれません"



<水薬拒否症状(ポーションリジェクト)>。ダメージを受けるのではなくそもそも効果が働かなくなってしまう、<水薬中毒>の悪化した状態のこと。



[再生]が強いわけじゃないカミラは俺らよりも多く<ポーション>を飲む。だから<水薬中毒>に最初になるのは大抵カミラだった。



 でも、カミラにあの<水薬中毒>になりにくい薬を渡せば...それが起こる確率は低くなる。



 上位の<ダンジョン>で周回する人たちは相当なことがない限り<水薬中毒>にならないし、そもそもならない方がいいのは自明の理。



 味がどうなのかとかわからないけど、まずは使ってみるところからだな。



「...寝るわけには、いかないな。無防備な女性を守るのも男の務めだと、父上も言っていた」



 またベランダに出る。少し紅茶を飲んで...



 ...うん、美味しい。



「さて、素振りでもするか」



 準備は終わった、あとは寝るだけ。



 カミラを待ちながら、聖剣を振るう。



 心を無心にして...



 ...



 ...



 ...



 ============================================



「あ、あの!シャワーを貸していただきありがとうございます!」



 ふと、我に帰る。結構長い間やっていたらしい。



 空が赤みを帯びていた。



「すみません、シャワー長くなって...あ、汗がすごい量...」

「ああ、さっきまで聖剣で素振りをしていたからね」



 鞘にしまう。昔は両手がやっとだったが、今はもう片手でも問題ない。



「珍しいですよね、バスタードソードの聖剣。過去の聖剣はツヴァイヘンダーだったりショートソードだったのに」

「そうだな。過去の文献を見てみても、基本的に剣を扱う人は両手剣か片手剣に収まってた。なのに、俺は、まさかの片手両手両用というね」



 カミラからバスタードソードという種類であることを聞いて調べてみると、


 いわく、扱えると強いがそもそも扱うことがとにかく難しい装備。

 いわく、帯に短し(片手剣としては重く)襷に長し(両手剣としては軽い)



 武器自体が弱かったのか、持つものの熟練度が低かったのかまではわからないけど...



 "あら、私に不満ですか?"

「そんなわけないだろう。君の切れ味に満足しない剣士はいない」

「そもそも聖剣さんは今までの聖剣よりも遥かに強いんです!もっと自分を誇っていいんですよ!」



 そうそう。それに少なくともいらないと考えたことは一度もないし、失いたくないとも思う武器だ。



 だから、カミラに聞こえるほどの大声で喋るんじゃない。



 "まあ、それならいいです"



 ...なんか、ちょっと人間らしさが増したか?あった頃とは比べ物にならないのだが。



 "これでも学習機能がついているので。人間を学び、人間にちかくなることも、また聖剣の役目なのですよ?"



 そうだったのか...知らなかった。



「そ、それでは私はこれで!ソルス様、良い夢を!」

「ああ、そうだな。と言ってももう早朝だが...あ」



 行ってしまった...しっかりと寝ることはできるのだろうか。



 ...さて。



「寝るか」

 "はいソルス、おやすみなさい。私の心は、いつもあなたのそばに"

さて、これにて今回のお話は閉幕とさせていただきます。



次回からは第四章に...え?第四章では何をするのか?



そりゃまあ、世直しと、あと真ヒロインの登場ですかね。



...<魔王>らしいこと何一つしないかもだけど、まあいいか。



今後とも、「冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる」をよろしくお願いいたします。

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