deserting
ところで、猫の逆鱗に触れたら人間はどうなるんでしょうかね。
「!?、へ、へっ!この程度で終わりかよ!なんだよ、ただのネコマタ風情がイキってるなって思って遊んでやったのによお!」
...余裕がある、とは到底思えない。なぜなら、今現在ガウスの体はボロボロだからだ。
腹に空いた3本の穴からはただの出血以上の血が流れ出ているし、その影響か足はガタガタと震えている。
充血しきった目玉からは焦りと恐怖が滲み出ていて、肉体的にも精神的にもバースト様に負けているのが伺える。
なのに、自分は負けていないという。それはまるで...
フフ、と思わず笑ってしまう。それだけでも体力のない体にはきついのか、すぐに過呼吸へと陥ってしまった。
「んだよ!何がおかしい!」
奴がなんか言ってるけど、残念ながら僕は今喋れない。体力がないのでね。
ただ心の中でならいくらでも叫べるだろう...さっきまでの、なんとかして絶対に勝てない相手に勝とうとしている僕と似ているから、それがあまりにも滑稽で笑ってしまった!とね。
「...なんかもう、呆れてきました。あなたはそこまで猫を馬鹿にするのですね」
低い声でバースト様が呟く。怒りを通り越して呆れた、ということだろう。
まあそもそもバースト様が一体どういう存在なのかを知っているのであれば、バースト様の前で猫を貶したりしないからね。今まで会ってきた人間のほとんどは例え猫が大っ嫌いだとしても好きと答えていただろうし、ここまで目の前で馬鹿にされたのは初めてなのだろう。
「あったりめえだ!ネコマタはただの奴隷だろうがよ!」
でもね、流石に誰でも目の前の猫の姿をした存在が猫を愛してやまないことを半ば強制的に理解すると思うんだ。
なのにこれは...ちょっと、ね。
「...ふむ?もしかしてですが、この世界では猫が社会的に弱い立場にいるのですか?」
「んなこと教える義理はねえ、よっ!」
ガウスはそう言って、瞬時に消えた。時間停止を使ったのか...
いや、それなら少しでもバースト様が動いているはず。さっきから微動だにしないところからs
「マリア」
は、はいなんでございましょうか!
「考察は今はどうでもいいです。おそらく彼自身の時間速度を変えて移動したのでしょうが、まだまだ追いつける距離にいますので」
あ、そうなんですね。わかりました。ということは、あいつは逃げたのか。
「いえ、違いますね。街中を駆け回っているようですが、おそらくなんらかの大規模な<魔法陣>を描いていますね」
大規模<魔法陣>...あいつが使ったのは<氷属性>...いや、この場合だと<時属性>の何かってことだな。
でも時間停止である<静止>を簡単に発動していたし、それよりももっと大規模となると...
あれ、そういえばあいつ何もしないで<静止>を発動してたな。時間速度の変動、早くなるってことは時間加速なんだろうけど、それも<魔法陣>は見えなかったし詠唱もしてなかった...
「<無詠唱>というものですね。面倒ですが、しっかりと魔法の才能はあるようです」
<無詠唱>、校長先生の口から聞いただけではあるけど、本当に実在するんだな。
というか<時属性>って絶対難しいよな。それを<無詠唱>で使うのはすg
「さて、そんなことはいい間はどうでもいい。つい先ほど、あなたへの処罰が決まりました」
はいなんでしょうか!
「教える義理はない、とあの男は言っていましたが、ネコマタという生物が社会的に低い立場であることを強いられているのは確かでしょう」
そ、そうですね。あいつも奴隷風情とかなんとか言ってましたし。
「あの男を処理した後、あなたはネコマタの社会的地位の向上に努めなさい」
は、はあ。でも、それは僕個人でやるにはとてもむずかしいy
「返事は?」
謹んでお受けいたします。
「よろしい。では、あなたはここで待っていなさい。もうすぐミ=ゴがここにやってくるでしょうから、治してもらうといいでしょう」
はっ。バースト様の御慈悲、感謝します。
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「...うーし、これで8割がた完成したな。あとは魔力を」
「意外と早いものですね。完成するのはもっと先かと思ってました」
「な...なんで俺に追いつける!<加速>で10倍に加速してるんだぞ!?」
「身体能力の違い、という奴です。その程度なら余裕ですよ」
「チッ、あの<魔王>の周りには化け物しか居ねえのかよ!」
カキ、パキン!
「がっ...!?」
「脆い爪ですね。この程度で剥がれてしまうとは」
「ーーーっ!痛っってえなあ、クソが!」
「その程度の痛み、我慢しなさい。まだまだあなたには受けてもらう処罰がありますので」
「んなもん...いつも通り蹴っ飛ばすに決まってるだ」
...ブス
「ろう...がはっ!」
「私がそんなことさせるとでも?猫を貶すお前を?」
ジャキン!
「許すと思うのか?私が?」
スパッ!
「そんなわけないだろう。貴様は私の前で大罪を犯したのだから」
スパパパ!
「っか...く、そ、があああああ!!」
「...ほう、まだ腕を生やす力が残っていたか。私も少々手加減をしすぎたようだな」
「はあ...はあ...っ!」
「がはっ!」
「時間停止は無駄だと言ってはいなかったが...シュブ=ニグラスに効かなかったのだ、私に効くはずもないだろう」
パチン!!
「お前が犯したその罪、それを全て償うには死すら足りぬことを教えてやろう」
「なん...だと...」
「と言っても、私はお前を美味だとは思わんだろうし...そうだな、犬の餌にでもなってもらおうか。猫に食べさせるわけにはいかんしな」
「......くくく、ハハハハハ!」
「?、何がおかしい。私は特におかしいことは言っていないのだが」
「俺に罪を...償わせる?はっ、できるわけねえだろ。なんせ...」
パアアァァァ...
「こればっかしはお前でも追いつけねえからな!」
「<時属性>の大規模<魔法陣>ですね。それで何をすると?」
「...いいぜ、どうせもうお前は追いつけねえ。俺は今から過去へ飛ぶ。どうやら世界そのものに干渉する<静止>は効かねえらしいが、俺自身が過去に飛べばなんら問題はねえだろ!」
「まあ、そうですね。時間を超えることは私にはできません。旧神の中にはそもそもいないでしょうし」
「そんで、目一杯過去に飛べば何があってもお前は俺を殺せねえ!残念だったなあ、ハハハ!」
「...フフフ」
「...あ?、何が可笑しい」
「いえ、なんでもありませんよ...フフフ」
「そうかい。ま、せいぜい舐めプしないで殺しとけばよかったと悔やむんだな!ギャハハハハハ....」
シュウウウウン...
「ええ、なんでもありません...その方法が、およそ最もしてはいけない逃げ方だと知らないのですから...フフフ
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「...ぷはっ!」
渡された薬液を飲み干す。いちご味で飲みやすかったぞ。
「......」
「どうです?試作品ではありますが。相当体が良くなったはずです。HPとMPのどちらともを回復するほか。美容効果や痩せる効果も期待できますよ」
「...あー、あー。うん、だいぶ戻ってきた。ありがとう、ミ=ゴ」
そういうと、ミ=ゴは深く礼をしてくれた。試作品でこれなのだ、完成して量産体制が整えば相当回復に関して楽になるだろう。お金も稼げるやもしれんね。
「ショゴスもありがとう。周囲の警護やら僕の体の再生やらで疲れたろう、<インベントリ>で休んでくれ」
「でスが、そうナるとマスターの左腕が」
「元々ないようなもんだから大丈夫だよ。そもそも僕の左腕1本はショゴスと天秤にかけられないほど軽いんだ、気にしないで安静にしてくれ」
「...デは、お言葉に甘えテ......」
そういうと、僕の左腕が溶解、<インベントリ>にスルスルと入っていく。本になっている時が一番楽なのは今までの様子を見ていてわかっている。
ショゴスを失うわけにはいかないからね、彼?にはしっかり休んでもらおう。
「ふむ、しっかりと回復したようですね。これなら償いもしっかりと行うことができるでしょう」
「は、はい!おかえりなさいませ、バースト様!」
「ええ、ただいま帰りました」
そして、バースト様が戻ってきた。行ってから30分も経ってないのを考えると、やはり神話生物は本気を出すと止められないのだ...
「ああ、あの男には逃げられました」
...へ?
逃げ、逃げられた?バースト様なのに?
「ええ。流石に私が油断しきっていたので、奴は逃げることに成功したようですね」
「な...え、じゃ、じゃあどうするの!?あいつを殺すつもりだったのに」
「そこはなんとかなるでしょう...なんでも、遠い遠い過去に逃げるそうですよ?」
「あ、それなら大丈夫だ」
い、一体どうやって過去に逃げた男を殺すんだ...
次回、新たな神話生物の登場です。