処理③ 行動
伝え忘れていたので、改めて<勇者>側の役職と名前をここに書いておきますね。
一部のところで自分が名前を間違えていたところがあったのでそこは修正しました。
シート・サントニー/弓使い
カミラ/鑑定師
ソルス・バミア/剣士
メーノ/魔法使い
マイゲス/クズ
「...そうだったんだね......」
「そうだったんですよ」
まさかそこまで暗い内容だとは僕も思わなかった。
前世で習った黒人差別というやつも実際はここまで酷かったのかな。もしそうなら...
いや、今は僕に関係ないことか。
「...少なくとも僕には関係ない。<魔王>としての僕に協力してくれている陣営があるのは知っていたし、その陣営の司祭とも何度も会話したけど、君を傷つけた者たちとはなんの関わりもないはずだからね」
ただ、それに関連して一つ言えるのは。
「だけど、たとえそうだったとしても僕はカミラに謝る。だって、悪いのは<魔王>側の人間だからね」
加害者は、被害者に謝るべきだ。そんなことで許されるわけじゃないだろうけど、それでも。
最低限ではなく、当たり前。悪いことをしたのだから、謝るのは当然なんだ。
「すまなかった、<勇者>カミラ。一人の<魔王>として、<反聖教>の教徒が君に行った卑劣な行為をここに詫びよう」
頭を地につける。許されるためにではなく、当たり前の行動として。
「そして、こんなこと言って良いわけがないのに言わせてもらう。僕たちの仲間として、<魔王>に協力してくれ」
僕としては、仲間にならなかったとしてもしょうがないことを彼らはしたと思っている。
だって、なんの罪の持たない子供を殺そうとしたのだから。親に洗脳されながら育った、謝るべき対象を。
もちろん、彼女は<勇者>なのだから敵。殺し合いを行うことになるのは必然と言える。
が、その拷問じみた行いは少なくとも許されないのだ。
「...そもそもイゴーロナク様になっテいるのですから、なんであったとしてモ協力してくれるのでは?」
「いいえ。彼女はイゴーロナクに対しては何も言ってませんよ。そうなる前の、カミラという一人の女の子に言っているんです」
なぜなら、カミラはカミラなのだから。
「......あの、謝らないでください。私は、謝られるほど良くできた人間ではないですよ」
「だったとしても。これは僕が謝りたくて謝っているんだ。僕の中でケジメをつけないと、君のためにマジになりそうで怖いから」
「そ、そうなんですか...」
こういうことにどっちが酷いとかはない。だから、<反聖教>も酷いし<聖神信仰教会>も酷い。
特に<勇者>。聞く限りだとソルス以外は真っ黒みたいだし、<勇者>どもに神話生物をけしかけて殺すかもしれない。
ただ...それは違うだろう。怒りに身を任せるのは良くないし、本当に無関係と思われるソルス・バミアを殺すことになる。
謝罪の意味合いが強いこの土下座だけど、その中には僕が冷静になるためという理由も込められているのだ。
「...では、対価を貰ってもいいでしょうか」
「許すための、ということ?」
「そうですねそんなところなんですけど...」
ガサゴソと色々やっている音が聞こえる。
今の所頭はずっと地につけたままだから前が見えないんだよね。
「...これでいいかな。あの、顔を上げてください」
言われた通りに顔を上げる。すると...
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深淵。ここは、そう深淵だ。
この世で最も暗いであろう、僕の心の中だ。
「おー!ここがマリアの心の中なんですね!」
「そのはずなんだけど、なんでカミラがここにいるの?」
なぜか目の前に、いや理由なんて分かりきってるか。
「覚えてませんか?私、<魔王>様の顔の前に<グラーキの黙示録>12巻の最後の方を開いておいたんですよ」
「で、僕も体を乗っ取られかけているわけだ」
対価ってそういうこと。まさかの僕の体そのものを要求してくるとは。
しかも僕からの返事を待たずに奪ってるあたり、さすがイゴーロナクさすが神話生物と言えるだろう。
「あはは。そんなに褒めても、何も出ませんよ?」
「褒めたつもりないんだけどね」
人間に人権はないからね。こんなことになってもしょうがない。
「でも、こんなもので良かったの?僕、そもそも殺人鬼を殺したら2日くらいかけて読み込もうかと思っていたんだけど」
というか奪われるのはむしろ僕にとってのご褒美に近い。奪われて、飲み込まれる。そういう気分を味わうには最高の方法だ。
「いえいえとんでもない!そもそもイゴーロナクネットワーク、通称INが使えるようになると私の報告がとても楽になるので使えるようにしたかったんです!」
INか。まあ確かに彼らは同一生物と言っていいから、その意識同士で繋がることのできる回線があっても不思議じゃないな。
「あ、ちなみに肉体にはイゴーロナクの要素が追加されましたよ!なんか元々たくさんの要素が混ざっていたみたいですけど、関係ないですよね!」
「関係ないね」
この世界の人間という型に、転生者の要素とシュブ=ニグラスの乳を混ぜたものだからね。そこにイゴーロナクが加わったと。
うん、1つだけでも頭痛くなるのに4つはもはや楽しくなってくるぞ。
「兎にも角にも、この回線を使えばいつでも会話が可能です。質問があるときとか、いつでも話しかけてくださいね!」
そう言われて、気がつくとそこはさっきの顔を上げたタイミング。
この会話方法、時間が全くかからないのか。便利だな。
「この方法を使えば安全に<勇者>側の情報を渡せますから!私から直ではなく、回線をいくつかまたげばさらに安全です!」
「あ、そうだ言っておきたいことが」
土下座を直し、立ち上がる。
真面目な話だからな、姿勢を正さなきゃ。
「カミラ、無理はしないでくれ。確かに<魔王>側が<勇者>側の情報を得られるのはとてもいいことだけど、君は<勇者>から数々のひどい仕打ちを受けている。我慢できなくなったら、回線で直でも言わないでこっちに来てもいいから、すぐに逃げ出してくれ」
人間としてカミラという存在に言っておきたかったことを言う。ひどいことをしない、と言うのはちょっと無理だけど、少なくとも<勇者>側よりはマシだと思っているからね。
そもそも僕と一緒に行動している限りはそんなことさせないけど。
「大丈夫です!」
すると、彼女はそう言いつつ胸を叩いた。
「私には味方ができましたから!」
「そう言ってくれるのなら嬉しいよ」
<勇者>であり神話生物であるカミラが味方になったのはとても大きいからね。
...そろそろか。
「それでは私は<勇者>のいる部屋に戻りますね!<勇者>が待ってるはずですから!」
「...ああ。これからよろしく頼む」
「任せてください!」
部屋を出るカミラ。その顔がしっかりと陰っていたことを僕は見落としていない。
やせ我慢だろうか。だが、だとしてもこれは彼女の選択なのだ。
「......さて、サオさん!!」
「なんすか!もう俺を一人にさせて欲しいっす!」
「「だめ」」
「あうう...上司がどっちも鬼畜っす...」
部屋のすみっこで三角座りしていたサオさんは、涙を流している。
イゴーロナクが僕の仲間?に加わったことが信じられない...いや、どちらかというとクタニド様か。
「どっちが鬼畜でもいいけど、とりあえず外出るから扉開けて欲しいのだけど」
「わかったっす...」
この顔は...そうだな、「これからはもっと大変な日常になるんすね...胃に穴が開くってこういうことだったんすね...」という感じだろう。
事実、僕の思考と彼が発した言葉は一致しているからね。
「心を読まないで欲しいっす...」
と言いつつドアを開けるサオさん。ドアの先には、真っ暗な街道。
ドアをくぐり抜けて外へ。既に月が真上に座っている、つまりは今は真夜中と。
(さて、クトーニアン!)
(マリア様!ご無事でしたか!)
呼ぶとすぐにくるのはクトーニアン。
相変わらずミミズだけど、性格はなかなか愛嬌がある。
(一回死んで、それから生き返ったけどね。無事だったよ)
(おお、そうだったのですか!後ろのお方は...)
(クタニド様だ。僕を生き返らせてくれたお方さ)
(く、クタニド!?しょ、少々お待ちを!?)
(あ、シュド=メルの挨拶は後にして。それよりも大切なことが今はあるからね)
というかシュド=メルがこの場に来たら街が大惨事になるから。
(あ、す、すみませんでした!私どもとしたことが...)
(まあまあ...状況は?)
とは言っても、少なくとも今日は街を大惨事にしてでもあいつを殺すけどね。
(はい。マリア様が倒れてしまってから、マリア様を殺した者を追っていました。我らでは敵わないと考えたので)
(今も居場所はわかっているの?)
(時間停止は確かにクトーニアンにとって辛いですが、リーダーなら問題ありませんから!もちろん、現在不眠不休でリーダーが追っております!)
うーん、有能。本当は使い方が違うのだろうけど、この世界ではクトーニアンたちは色々と便利だな。
「私ノ存在意義が徐々に薄れていきますね...」
「でも、ショゴスがいなかったら僕は今ここにいない。それは絶対に君が誇るべきだ」
そう。ショゴスのおかげで助かった場面はいくつもあるのだから。
「ただまあ、今回は確かに仕事は何もないかも。だって...」
「僕自身が、動くからね」
和解というより、同調かな?