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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第三章 勇魔大会狂殺
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処理の合間の処理

さあさあ大変なことになりました。



人が生き返る...死ぬ?どっちだろうか、まあいいか。

「し、質問なのですが!」



 おお...まさか質問までしてくれるとは。



 いいぞ、こうやってクトゥルフ神話の深淵に飲まれてしまえ。



「こ、これほどまでに強力な存在をどうやって召喚したのですか?」



 どうやって、か。どうして召喚できたのかではなく、どうやって。



 うーむ、この子は絶対に僕より頭がいいと見た。



「どうやっても何も、普通に<魔法陣>で召喚したよ。まあミ=ゴとショゴス、クタニド様はいつの間にかここにいるけど」



 理由があるのかは知らないけどね。



「そうなんですか...あ、あの!」

「ん?なんだい?」

「そ、その召喚の様子を見せてもらうことは可能でしょうか!」



 おお、ガッツリきたな。召喚時の様子も見たいと申すか。



 でもなあ、さすがに<勇者>に見せるのは



「いいよ。そもそもクトゥルフ神話生物はたくさんいるし、全員が全員危険な状況を全部ひっくり返せるわけじゃないしね」

「あ、ありがとうございます!」



 まずい。うん、そうなんだよ、さすがに<勇者>に見せるのはまずいんだよ。2回繰り返すくらいにはまずいんだよ。



<勇者>は敵だ。もうクトゥルフ神話生物の1割弱を伝えてしまった後だから遅いかもしれないけど、そもそもっこっちの戦力を情報を敵に教えるなんてあり得ない行動なんだ。



 特にクトゥルフ神話生物は若干初見殺しの要素がある。対策が練れるかどうかは別として、明確に設定されている弱点を突かれるとどうしようもない方々も多い。



 わかりやすいのはシュド=メルだろうか。水に弱く、巣穴に大量の水を流し込まれるとなすすべもなくやられてしまう。



 さすがにないとは思うけど、自分達の卵を囮にされるのにも弱い。産卵の周期がとっても長くて種が増えにくいんだよね。



 こんな感じで弱点を数多く抱えている神々も多いし、退散の呪文系を唱えられてしまうと帰る他なくなってしまう。



 さすがにそこまでは言っていないから大丈夫だとは思うけど、今の興奮している僕の精神状態じゃ何を言うかわかったもんじゃないし、そもそも僕は隠し事が苦手だし。



 絶対言ってしまうだろうなあ...






 でもしょうがないか!



「そしたら...そうだな、可能なら汎用性の高い生物の方がいいな。特に水性の生物は出番はかなり後だろうし」



 南の方に海があるらしいけど、南に行けば行くほど魔獣が強くなるからね。



 メェーちゃん達が全て蹴散らしてくれるだろうけど、万が一のことを考えると僕もそれ相応に強くなった後じゃないとまずいだろう。



 そう考えながらいつの間にか出現していた<ネクロノミコン>のページをめくっていく。



 段々とこの本の扱いにも慣れてきたかな?



「...でもないんだよなあ。適当に描くかあ」

「て、適当ですか?」



 まあ適当に描くしかないから...



「...そういえば、僕<魔法陣>の本来の描き方知らないな」

「え、そうなんですか!?」



 驚く<勇者>。そりゃそうだよね、描き方知らないのに召喚しているっていう矛盾が生まれることになるんだもん。



「基本的に急いで描くときが多かったからさ。こう、手首をぶった斬って出てきた血で描いていたね」



 右手の手首あたりに手刀をして表現する。ミ=ゴの鎌とかメェーちゃんの手刀で切ってもらっていたから断面はとても綺麗だけど、やっぱりまあまあ痛いんだよね、あれ。



「なんて野蛮な...そんな召喚でよく上位種を呼べましたね」

「メェーちゃんの時なんか、壊れたベットの脚の断面で傷をつけてやったからなあ」



 フルフルと震えて固まるクタニド様。さすがのクタニド様でも驚くことはあるらしい。



「ほら、あの時はとりあえず適当に呼べばなんとかなるでしょ、っていう感覚だったからさ」

「......シュブ=ニグラス、あなたはそれでよかったんですか?威厳とか、外なる神の幹部的存在であるあなたにはないんですか?」

「メェー」

「棒読みですかああそうですか」



 メェーちゃんが特に何も言及しないのは多分そこまで考えてなかったからなんだろうな。来た時もあれ?って感じだったし。



「はあ...全く。いいでしょう、私が直々に召喚に使う<魔法陣>について教えてあげます」

「え!?」



 まじすか。クタニド様がですか。



「当たり前でしょう。マリア、あなたに召喚された体でここにいる以上、あなたが変であれば私に泥を塗りたくっているのと同義なのですから」



 ああ、なるほど。確かにそれはそうか。僕はクタニド様に、いやクタニド様以外の神話生物にも泥を塗る可能性があったのか。



「ええ。よかったですね、私がいて。これでも魔法に関しては旧神の中でもかなり上手であると自負しているので、いい感じに使えるようになると思ってもらって結構ですよ」



 よーし、いい感じに使えるようになるぞ!



「...あのー...私は無視されるのでしょうか...?」

「大丈夫デす、無視されることにはイずれ慣れますよ」

「え、ええ...」



 ============================================





 深淵を見る。まず、そこに自らがいる。




 次に探す。自らの、自らを表すそのものを。




 それができたら、今度は集める。収集、集約、全てを我が元に。




 終えたなら移動。塊を、ゆっくりと且つ素早く。霧散しないよう、中央から末端へ。




 そして、圧縮。滲み出して、でも絶対に離さない。押し潰し、固めて、自らにアンカーを突き立てるかのようにそれを抑え込む。




「...いいでしょう、目を開きなさい」



 そう言われたので目を開いて自分の右手を見る。



 ...光ってる。いや、かなり淡い感じではあるけど、確かに自分の右手が光っている。



 ただぼやけているだけかも、と一瞬思ったけど、振り向いて自分の影があるから本当に光っているんだと認識する。



「本当に光った...」

「言ったでしょう、成功したなら光る、と。それとも、私の言ったことを信用しなかったのですか?」

「いやそう言うわけじゃないんですよ。ただ、本当に自分にできたと思って」



 右手に<魔力>を集める、ここまではやったことがある。<魔力撃>とやっていることは同じだからね。



 ただ、そこから手に滲み出して押さえつける、っていうのが難しい。触ってもいないのに押し付けるわけだから、かなり想像がしにくい。



 特に、<魔力>という力が実際にあると認識していると尚更。前世にはなかったものを使えと言われているのだから、自分の常識の範囲外であり、ゆえに難しいのだ。



「一応言っておきますが、地球にも<魔力>はありますからね。この世界のように質が良く数が多いわけではありませんが」

「そんなこと言われましても...この世界で<魔力>を操るまで<魔力>が存在することすら知らなかったんですよ?」



 神話生物視点でみればちっぽけかもしれないが、人間は最終的に科学の道を選び、そして発展していったからね。



「魔女とか魔法使いとか、地球にはほとんどいないでしょ?」

「情報統制しましたから。下手にクトゥルフなどを起こされると面倒なことになりますし」

「人間が科学で起こしたときは?」

「もちろんあらゆる手を使ってもみ消しましたよ。一部それらを覚えていたもの達が本を執筆したようですが、なんとか空想上の話として捉えさせることもできましたし。それでも知識欲の凄まじい人間は真実を知り得てしまうのですが」



 oh...大変な事実が発覚してしまった。僕の前世には実際に神話生物がいたらしい。



 なんてこったい、もしかすると僕は地球で発狂エンドを迎えることになってたかもしれないのか。



「まじかあ。そしたら僕はいつかクトゥルフに会いにいっていたのかもかあ」

「.........さて、魔力を手に集められたのなら、次は<魔法陣>です」



 あ、話を変えられてしまった。もっと聞きたかったのに。



 ...まあ、今重要なのはこっちか。



「先生!何を召喚しようか考えていなかったので<魔法陣>もわかっていません!」

「なら適当に、そして綺麗に図形を描いていくだけでもいいでしょうね。この世界は...確か円形が主流でしたか、カミラ?」

「え?あ、はい!基本的には円形で、そこに文字や図形を描いていきます!」



 あ、君カミラっていうんだ。



 覚えとこ。



「まあしっかりとしたものが描ければ特定の神話生物を呼び出すことができるでしょう。最も、できれば旧神を読んで欲しいものですけどね」

「なぜ?」

「最近ストレス性の胃痛に悩まされているので」



 おっと、どうやらクタニド様には悩みの種があるらしい。



 クタニド様ほどの存在が悩むこと...一体なんなのだろうか。



「あ、あのー...召喚するのであれば早くしたほうがいいのでは?やりたいこと、たくさんあるんですよね?」

「おっと、そうだったそうだった」



 すぐに右手に意識を集中。次いで床に触れて、描き始める。



 感覚は万年筆に近く、右腕を万年筆に取っ替えた感じで描いていく。



 無限に出てきそうだけど全然有限な<魔力>、それを再現なく使う。



 円形を描き、その次...



 とりあえず中を十字に切って、いや上の部分を塗りつぶして...



 下に部分に文字を敷き詰めるか。何がいいかな...



 うーん、適当に"人"を敷き詰めるか。



 えーと、人人人人人人人人人......



 ...こんなもんか。



「描けました!」

「ふ、不思議な形ですね...」

「最初から不定型ですか。まあ挫折もまた知識になるでしょう」



 ほっといてくれ。教えの元書いたのはこれが初めてなんだ。



「そうしたら、次は<魔法陣>に<魔力>を流し込むのです。召喚に成功するなら、しっかりと<魔法陣>が反応を示すはずです」

「わかりました」



 一応血で描くこと以外はまあ当たっていたんだな、僕。



 で、<魔力>を流し込む...



 すると、だんだん<魔法陣>が強く光り始めていく。



 とりあえず、周りが光に包まれるまでは<魔力>を流し込んで...!






 強い光。それに流されて気付けば壁際にいた。



 もはや物理的に押し出されているに等しい力が僕にぶつかったのか、いやでも痛みとかは全くなくて。



 ただ一つ言えるのは、失明するのではないかと疑えるほどの光の奔流の中、確かに僕は目を開けたままそれを見ていたということだ。



 床の、<魔法陣>の中央に()()が現れる様を。



「あ、ようやく目の前が見えるように...」






「...一応、成功?」



 それは、本だった。



 全部で...12冊。12かあ、あれかなあ。



 神話生物ではなく、本。もうその時点で何がきたか予想が立てられるのに、全12巻はもうアウトなのよ。



 念の為、壁際のまま動かないでいる。とりあえず見ただけでは引かれないあたり、精神汚染は効かなかったらしい。



 まあ中身は見ていないし。まさか表紙を見ただけで汚染される人なんているはずはないよな?



「...これは、面倒なものが届きましたね」

「メェー!」

「本物は初めて見たが...なるほど。この不気味さは確かにあのお方のものだと言って差し支えないだろうな」

「汎用性...高イのでしょうか?」

「お、おお。面白そうな本がやってきました!」



 いたよ。目の前に。まじかあ...<勇者>がこうなっちゃうかあ...



 止めるべきか...いや、ここはあえて...



「あー、読んでみる?」

「いいんれすか!」

「滑舌回ってないけど、その状態で読むのならどうぞ」



 時に。狂気あるいは狂乱等の、すなわち狂うという事象は自覚がないことが多い。



 というかどう自覚しろという話だ。狂っている、つまりは冷静に物事を考えられない状態で自己分析というのは無理だろう。



 特に、精神がまだ幼い子供に関しては尚更だ。そもそも狂うということがなんなのかすらわからないだろう。



「おおー、これは興味深い............あ」



 だから、気づいた時にはもう遅いのだろう。



 彼女は、読んでしまった。いや、厳密にはそれに惹かれてしまった。



 めちゃくちゃ僕が知識を披露した時、僕は確実に言った。クトゥルフ神話の中で特にやばい特級呪物として。



「あ、あああああああああああ!?」



 メーノの首が弾け飛ぶ。しかし全く血は噴き出してこない。



 当たり前だ。既に肉体は犯されて、もはや人間とは言えないものになってしまったのだから。



「...はっ!思わず全巻読んでしまいました!それに首も飛んでしまいましたし、直さなければ!」



 飛んでいった首が動く。同時に頭のない肉体が動いて、首を持ち上げて自分にしっかりセット。



「これで、よし!どうでしょうか、<魔王>様!」

「うん、やっぱり他人に寄生するのはどうかと思うわ。人間じゃなくなってるし、頭つけるのキモすぎるし」

「全くもって同感です」



 クタニド様もそう思いますか。やっぱりそう思いますよね。



「あ、ところでお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」



 ...それは、かつて地球を侵略しようと画策した旧支配者が1柱。



 それを読み、それを認識したものになり代わり生きる背徳の神。



 無限に増える、自らの眷属を携えんとする首のない巨人なり。



「はい!カミラ改め、カミラ・イゴーロナクです!」

「...イゴーロナク様?」

「えっと、私はカミラですよ?カミラ・イゴーロナクになりましたが、カミラであることに変わりはないですよ?」



 ...なんかちょっとおかしい?

イゴーロナクは首のない真っ白な巨人です。



でもなぜかしゃべるのは置いといて、とある本を読むことでミーム汚染を行い、他人の意識及び肉体を自分のものへと変えてしまう恐ろしい生物です。



旧支配者、ということもあって人間の敵ですね、はい。

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