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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第三章 勇魔大会狂殺
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簡単にうまくいかないもの

でまあこれも過去の分ですね。

 夜、もう同年代の子は寝ているであろう...いや、この世界に限って言えばそうではないか。



 訂正しよう、そろそろ眠くなってくるくらいの頃。



 僕たちは、まだ滝の前にいた。



「それじゃあ<コリアン草>を採取するわ。アナは何度も見ていると思うけど、マリアは見たことないだろうからしっかり見ててね」

「わかりました」



 その理由は単純。<コリアン草>の採取のみ。



「その前にさっき教えた<コリアン草>という<薬草>の軽い復習からね。<コリアン草>は見ての通り1日に1輪しか咲かないとても希少な<薬草>で、花の状態で採取することからもわかる通り、花が咲いていなければ<薬草>としての効能は現れないの」



<コリアン草>を愛でるメアリーさん。



「しかもこの<薬草>は夜にしか花を咲かせない。だから徹夜になるっていうことであまりすきじゃない人が多い<クエスト>ではあるわ。でもこの<薬草>自体に需要が結構あるから報酬はいいの」

「つまり、僕は残り物の処理且つ採取という名目の護衛<クエスト>をしていたわけだ」

「ま、まあありていに言えばそうなるかな?」



 ...否定されないのがちょっとだけ悲しい。まあ事実なんだからしょうがないんだけどさ。



「ただ、これだけなら他の<薬草>にもあるレベルの難易度なんだけど...基本的に採取<クエスト>は(ペウ)から(オイ)くらいの<色別階級>なんだけど、この<コリアン草>は(ジン)、採取系の中でもかなり上位の部類なのはもっと別の理由があってね」



 えっと、確か紫が下から2番目で橙が下から4番目、緑は下から6番目で上から4番目だったはず。



 青、紫、赤、橙、黄、緑、銅、銀、金、白金だからあっているとは思うけど、どうだろうか。



「あってるよ!」

「おお、よかったよかった。で、確か別の理由っていうのは確か毒のことでしたよね」

「大正解!<コリアン草>の中には水分の代わりに強力な毒液で満ちていてね、下手に傷をつけるとこっちが毒に侵されることになるの。幸いなことに治せないわけではないんだけど、それでもリスクが高すぎるんだよね。それでなくとも<深森>は尋常じゃないくらい魔獣が湧くのにね」

「このエリアに来た時にはボスみたいな存在もいましたしね」



 本当は簡単なはずの採取<クエスト>だけど、<コリアン草>はかなり面倒。だから人も来ない、と。



「ただまあ長年の研究によって毒に侵されずに茎を折って採取する方法が確立されたから問題はないんだけどね...今からやるのはその方法、慣れれば誰でもできるから、さっきも言ったけどマリアは特にしっかりと見ててね」



 そういうとメアリーさんは花の前でしゃがみ込んで<インベントリ>から...ナイフ?を取り出した。



「とは言っても結構なゴリ押しなんだけどね...まずは、っと!」



 そして茎の根元を目が追いつかないほど速く切り落とすメアリーさん。茎の断面からは少しだけ液体が漏れ出始めている。



「切り落とす、ただしこの時に茎を潰すと毒液が飛び出てきちゃうから注意。そして...」



 花弁の根元部分を持ち、素早く移動。切り落とした断面を池に突っ込むメアリーさん。



 ちなみに地面に残った茎の断面からは噴水と見間違うレベルで勢いよく毒液が飛び出している。



 近づくのはよしておこう。



「すぐに水洗い。本来は対毒用の<ポーション>で洗うんだけど、<深森>のこの場所に咲く時はこの池でも問題ないわ。元々この池の水は理由はともかくとして<聖属性>を纏っているの。その<聖属性>が毒液を中和してくれるのね」



 へぇ、なるほどね。



「そして、ある程度断面を洗ったら保存容器に突っ込む」



 と言いつつ取り出したのは、試験管。...試験管?



 一応花のサイズはメアリーさんの手より大きいのだけど...ああ、そのまま突っ込んじゃったよ。



「ああ、<コリアン草>に関してはこんな感じにグシャっとさせた保存方法が一番適しているの。そもそもこの花、<ポーション>の材料としての使い道が一番多いからね。むしろこの中に水を入れとくだけで色々...っと、これ以上は企業秘密で」



 企業秘密って...メアリーさんは企業でもなんでもないでしょうに。



「はい、ということで採取完了。この試験管ごと<ギルド/パーティ会館>の受付に渡せば、晴れて<クエスト>クリアね」

「「おおー」」



 僕が声を出すと同時にアナさんも出している。



 この状況、アナさんって声を出してしまう理由あるか?



「いや、マリアはまだわかるとしてアナは何よ」

「まともにしっかりと教えているから」

「教えている...メアリーさんは何度か採取について教鞭を?」

「うん。ただ...今日はやけに丁寧だった。心も読みつつ教えなければいけないところをしっかりと教えていた」



 まるでいつもはまともじゃないかのように言うアナさん。



 あれ、でも確か元教師だって校長は言ってたような。



「まあもし私が正しいことを教えちゃうと私の稼ぎが少なくなっちゃうことに繋がるからね。ほら、私って採取が得意だから」

「...わざと嘘を教えてたり?」

「そうだよ。採取が簡単であることを広めちゃうと、採取をたくさんの人が行なってしまうからあえて嘘を教えてたりしたの。おかげで何度か危険な目に遭ったりしたけど、お金の価値はそれくらい高いからさ」

「何度かマッチポンプもしたし」

「そうそう」



 いやそうそうじゃなくて、それはダメなのでは?メアリーさんに教えを乞うているのだからしっかりと教えてあげるのが普通でしょ。



 いかにお金が大事とはいえ...



「ふっふっふ、マリア、君には一つ人生において大切なことを教えてあげよう」

「え、大切なこと?」

「...ああ、あれだね。この世界、魔獣が闊歩し人類がそれを乗り越えようと強くなり、それに合わせて魔獣も強くなっていったこの世界で生きるのに必要な知識のこと。つまり...」

「つ、つまり?」






「「命はお金より軽くなってしまったと言う事実」」

「...は?」

「もちろん命をお金で買うことは出来ないのだけども。ただ、お金は命をかけてでも高い金額を稼がなきゃ生きていけないんだ」

「そもそもいつ魔獣に殺されるかわかったもんじゃないから。いつ死んでも悔いのないよう、楽しく生きていかなくちゃならない」

「そう!そしてそのためにはお金が必要不可欠ってわけ」



 ...なんだろう、頭が痛くなってくる。



 なんか、正しいことを言っているのはわかるんだけど、それを拒むというかなんというか。



「もちろん稼ぎ方は様々だよ。服屋もそうだし会館の受付だってしっかりとした稼ぎ場なんだ」



 それはそうだ。給与というものはあるだろうし、ないと店という概念がなくなってしまう。



「だけど、それらで稼げるお金魔獣との戦いや<ダンジョン>の探索、<クエスト>の報酬などによって得られるお金とは比べ物にならないくらい、命をかけるとお金は稼げるの」



 そりゃそうだ、命をかけているのだからお金だって当然それくらいもらわないと話にならない。



「...この世界では基本的に魔獣以上の脅威はない、だから結局のところお金だって魔獣との戦いのためにつぎ込むことになる。強い武器防具を買い、強い魔獣と戦い、それによってお金を得て、また強い武器防具を買う」



 ...よくあるゲームみたいだな、これ。強くなるためにお金をかけて、お金を得るために強くなる。意味のないように見えても結局やってるし、僕もやってた。だってまあ、どーせゲームだし、死んでもセーブからやり直せるし。



 まさか、本当にこの世界はゲームだったとか?いやいや、流石にそれはないな。今までにあった目の前で飛び出ていく自らの血とそれに付随する痛み、それらがしっかりと現実なんだと僕に教えている。



「そう、現実なんだよマリア。どこかの転生者が言ってた、この世界は命が軽すぎるって。覚えてる?<国立学園>の入学式で言われた合格者と死者(それ以外)の数」

「確か...合格者が10400人、脱落者は4700人ちょいだったような」

「うん、つまり4700人も1日で死んだの。合格者が多いからわからないかもしれないけど、小さな村なら1個滅んでいる死者だよ」



 まあ、確かに。



「でもね、私たちにとってはそれがどうしたって感じなのよ」

「はあ」

「そもそも()()()()で死ぬのであればこの世界の魔獣に襲われれば死ぬの。入学できずに死ぬか、入学した後死ぬか。その程度の差でしかないわ」

「命が軽すぎる。これは本当に覚えとかなきゃいけない。だって...マリア、私たちが言っていたことに違和感はあった?」



 違和感......



 いや、僕にはなかったと思うけどなあ。聞くということはあったのだろう。



 うーん。あったかなあ。



「...なかったような」

「そう。なら魔王であるあなたはいつか知ることになるかもしれないわね、マリア。なぜこの世界ではこんなにも命が軽いのかをね」



 そう言ってメアリーさんは<コリアン草>の入った試験管を<インベントリ>にしまった。



「さて、話が脱線しまくっちゃったわね。このままさっさとこの森から出るわよ」

「夜のうちに?」

「え、夜ってことは魔獣も結構湧くのでは...」

「いや、なんでか知らないけど、ちょっと前からずっと寒気が止まらないのよ」



 ...なんかトラウマになっているメアリーさん。



 シュブ=ニグラスのことかあ。そうだよなあ。



 一応誰にも言ってないけど...信じないよなあ、流石に。



 ...



 ...狂気に満ちているのは周りなのだろうか。



 正しいことを言っているとは思うのだけど、なぜか納得いかない。



 違和感はないんだけど、それは違うと心の底が伝えてくる。



 今の所クトゥルフ神話を知っているのは僕だけだ。だからそれによって周りが狂っている、なんてことはあり得ない。



 だから、可能性は2つだけ。そもそもこの世界の成り立ちにクトゥルフ神話が関わっているか、僕が狂っているのか。



 それ以外はあり得ないだろう。だって.....



 こんな狂気、耐えられる人間は少ない。



 メアリーさん達の言っていることが正しいのであれば、この世界の人間はいつでも死ぬ可能性を考えているわけで。



 つまりは、魔獣などから人間をを助けていて且つ崇高なる使命を持っている<勇者>と人間を殺す殺人鬼を捕縛あるいは殺害する<クエスト>に...意味は、あるのだろうか。



 ...まあ、いいか。今は考えるべきではないのかもしれない。メアリーさん達は先に行っちゃってるし。



 後で考えることにしよう、うん。

若干怪しさが滲み出てきた...よね?

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