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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第三章 勇魔大会狂殺
109/402

深淵の森、略して<深森>

いつもよりほんの少し長め...かも。

 ============================================



 ドサリ、と先ほどメェーちゃんの投石によって撃ち落とされた鳥が落ちてくる。



 ...遠くて見えなかったけど、結構奇怪な形をしている。翼4枚あるし、足5本だし、何より体が異常なまでに固い。



 死体とはいえ、ある程度の柔らかさはあるだろうに。おそらくだけど、この固さのままで空を飛んでいたのだろう。



 やはり魔獣っていうのは面白い。僕の人智をはるかに上回ってくる。



「まあ食べられないし。あまり深く考えすぎると戦闘に支障が出るよ?」

「僕が戦闘しているわけじゃないので...」



 薬をかけられ、血が噴き出したかと思うとすぐに何も出なくなる鳥の死体。



 熊は1分くらい出てるからね、生物によって血の量が違うのはどの世界でも当たり前なのかもしれない。



「処理終了、っと。それじゃあ先に進もうか」



 死体をそのままに、先へと進んでいく。



 空は暗く、いまだに太陽は登ってこないであろう時間ではあるけど、今この場にいる人は全員冷静だ。戦闘がいつ起こるかわからないのであれば、僕だって冷静でなきゃいけないしね。



 それに...



(魔獣反応。後方から4です)

「後方から追加来ました。4です」

「遭遇頻度も高くなってきた」

「上空には...あー、いますね。こちらも4」

「相変わらず多いね」



 数が増え始めた。そして来る頻度も増えた。



 最初は熊1匹だったのに、いつの間にかたくさんの仲間を引き連れてきているし。



 頻度の方もやばい。最初は10分かそこらだったのが、もう1分もたたずに来るようになった。



「まあ多くなったってことは目的地に近づいたってことだからね!」



 とはメアリーさん談。すでに最初の遭遇から1時間は経過してますよ..?



 などと考えつつ、僕は上空を見ておく。



 先に地上の奴らを殲滅しておかないと上空の奴らをたたきに行かせてくれないのだが、上空の奴らは地上の僕らを邪魔にしくる。



「来ました!<デイプファルコ>2体!」

「煙幕炊いた!」



 だからまあこんな感じで、来た時にすぐ伝えることが必要になるわけだ。少なくとも地上の奴らが殲滅されるまでは。



 地上と空中の板挟みになると流石のメェーちゃんでも対応が追いつかない。数が多いのもあるけど、特に空中の奴らの逃げ足が早く、攻撃しようとしてもすぐにリーチ外へ逃げてしまう。



 あいにく、僕たちは遠距離攻撃手段を持っていない。メェーちゃんやアナさんによる投石という手段はあれど、慣れてないせいか全然当たらない。



 当たったら一撃なんだけどね。奴らの避け方がうまいのだ。



「地上殲滅!」

(マスター!)

「っ!?つ、追加です!地上5!上空も5です!」

「流石に早くなってきたね...」



 そして、殲滅に手間取るとこうなる。しかも5体、また増えてるし。



(...奥にもいますね。5です)

「流石に頻度がやばいことになってるよ、これ」



 で、また5体くる。クールタイムという言葉はとっくのとうに捨ててきたのか、もはや休む時間すら与えられない。



 僕は戦っていないからまだまだ体力は残ってるし、メェーちゃん及び何も言わずに僕とメアリーさんを守ってるバーストは体力に関して何も考えなくていい。けどメアリーさんと、それ以上にアナさんに蓄積している疲労がやばい。



 継続して1体と戦うのは簡単だ。だけど、何体も何体も連続して戦うことには無理がある。いつか、確実に大変なことが起こる。



 ...選択するなら、地上部隊と戦っていない今しかない。



 選べ。考えろ。僕はどっちを選べば...



「...メアリーさん!確か僕たちはしっかりと奥へと進んでいるんですよね!」

「そう!でもこのまま逃げると奥地で戦うことになるわ!」



 この状況でも心読んでるのか。さすがに戦い慣れているな。



「奥地で戦うとまずいんですか!」

「<ダンジョンボス>とかとは比べられないけど、それなりに強いやつがいるわ!」



 ほう、それなりに強いやつか。



 それは...うーん。



 ボス的存在がいるってことは、基本的にそこじゃ魔獣が湧かないと考えられるわけで。



 でも、このまま魔獣を引き連れながらそこに向かうと、魔獣とボスの両方を相手にしなきゃいけない。



 ...<魔力解放>すればいけるよなあ。絶対。メェーちゃんは被害が大きいしダメかもだけど、バステトならギリギリ...



「しませんよ、私」

「え?」

「地中の中で魔力を使い果たした時の後遺症のようなものです。一定の期間の間は私に<魔力解放>は無意味ですね」



 あ、そんなデメリットあったんだ。まじか。



 まあでも理解できることではあるな。そうじゃなかったら召喚師はただのチーターみたいなもんだし。無尽蔵に敵を殲滅し続けることなんて簡単になってしまうだろうからな。



 でもそうしたら...



「んー、今日は大丈夫かも」



 と、いつの間にかメェーちゃんが目の前にいる。<思考加速>が働いている状態で。



 なんで。と聞きたいが、口を開けない。喋れない状況なのか。



 そしてメェーちゃんはニコニコしているだけ。その笑顔は...少し、悪いものを孕んでいながらも無邪気で、且つ...



 ...若干上を向いていた。



 はっ、となり上空を見上げる。



 雲一つない、晴天。そこにいる無数の魔獣は、月を遮って...いない。



 確かに月の光は届いていない。この世界にだって月はあるから、太陽光を反射した月の光があるはずだ。



 だけど...今は届いていない。それはつまり。



(次の援軍です!数は6!)

「っ!」



 もはや考えている暇は、ない。



「メアリーさん!アナさん!前進しましょう!」

「でも、魔獣と同時にあいつと戦うのh」

「僕らがなんとかします!ですから、今この状況で戦うよりもいいです!」

「...わかった。ついてきて」

「ちょ、アナも!?」



 全力疾走。何も考えずアナさんについていく、それだけ。



 ...



 ...



 ...



 ...ついた。



 ブレーキをかけ、急停止。



「はぁ、はぁ、な、なんとかするって、はぁ、どうやって?、はぁ」



 そのまま<魔力解放>の準備を始め、その状態で周りの確認。



 森の中、ではあるもののかなり開けている広場だ。足場はもはや地面が見えないほど木の根で覆い尽くされ、少し奥にある滝に近づけば近づくほど小石の割合が増えていく。



 そして、奥にある滝。大きくはないが、はっきりと滝だとわかるそれの前には大きな黒い何かが1体。



 ...ん、準備完了。



(クトーニアン!魔獣たちは!)

(しっかりとついてきています!)



 撒くことができてればもっと簡単だったけど、仕方ない。



「メアリーさん!アナさん!念の為、口と目を閉じて耳と鼻を塞いでください」

「え!?」

「いいから早く!!」



 アナさんがしっかりと閉じて塞ぐ。それを見て渋々メアリーさんがやったのを確認して。



「メェーちゃん!いくよ!」

「いつでもいけるよ〜」

「<魔力解放>!」



 状況が揃いすぎているのも相まってめちゃめちゃ詠唱したかったけど命に関わるのでしないで行う。



 瞬間、魔力が枯渇する感覚。



 気持ち悪い...が、<ダンジョン>で行った時よりはまし。



 やっぱり、一定の条件が整っている場合は<魔力解放>の反動が少なくなるのかもしれない。これはいい実験結果と言えるだろう。少し嬉しい。



 だがそれ以上に。



「あ、ああ...!!」



 目の前で姿を変える人形。その姿は、徐々に異形となっていく。



 あの時のお姉さんの姿。あれはこの状況を鑑みるに弱体化した<魔力解放>と定義できるのかもしれない。



 その時ふと気づいて見上げる。するといつの間にか雲が広がっていた。



 ...既に新月は空に顔を出さず、おそらくはこれから起きる惨劇を見て見ぬふりをするために。



 ドシン、と空間が揺れる。どうやらしっかりと<魔力解放>は行えたらしい。



 大きさはもはや森の外からも見えるであろうもので、その体格に見合わず細く僕らから見ればあまりにも大きい、その大量の脚と腕は、まるで何かを求めるように蠢いている。



 深淵。その色を持ってして動くその巨体。やはりアナさんとメアリーさんの五感を閉じさせて正解だった。



 僕以外の生き物、おそらくその全てが死に至るから。



「■■■■■■■■■■■■■■■■■)



 耳から聞こえるのか、それとも心から聞こえるのか。もしかすると両方から、イヤイヤ幻聴とも取れるその声。



 神話生物とはやはりこうなのか。初めての神話生物の真の姿はショゴスだったが、外なる神の初めてを奪ったのは...



 パシャリ、と弾ける音。そして段々と地面が赤く染まっていく。



 もちろん、僕も。天から降り注いできた赤い雨が僕らを濡らしている。



 足を動かし、僕らが来た方向に向き直り、



(■■■■■■■■■■」



 叫ぶ。ただ叫ぶ。



 ...音が、聞こえてきた。足音だ。



 だが人間のものではない。僕らよりもはるかに大きなものの足音。



 振り返って観たい、でもできない。なぜならば、だ。確かに僕は死んでいないが、



「はははハハはハハははははハハははははハハはハハハハハハハハハハ」



 さっきから笑いが止まらない。既に僕が狂っている証拠だ。



 そして同時に体も動かない。人は恐怖に染まった時金縛りが起こるというが、これがそうだろう。



 なんなら筋肉自体がいうこと聞いていない。既に体を支えていた足は折れたかのように仕事をしていないし、何も悲しくもないのに涙だって流している。



 心臓の鼓動は既に死者のそれと同じ、血液の一雫すら、僕の体内では動いていないだろう。



 でも生きているのは、ひとえにシュブ=ニグラス様の恩寵を受け取っているからだろう。



 こんな苦しみ、今まで味わったことすらない。全身火傷とか五体分裂で今まで○○よりましと言ってきたけどそれすら変わる。



 カミサマを見るよりまし。カミサマを聴くよりまし。カミサマを感じるよりまし。カミサマを嗅ぐよりまし。カミサマを味わうよりもまし。



 何より、狂うよりましだ。



 響き渡る笑い声、咆哮、魔獣どもの叫び、悲鳴。



 これらが聞こえているのは僕だけ、いやもしかすると見えないだけでメアリーさんとアナさんも見えるのかもしれないけどそこは置いとく。



 今一番重要なのは、今見えている景色。



 僕の顔は、なんの因果か滝の方に向いている。



 そして滝の前。その場所に今と合わない異物



 ...そこにあるのは明らかに神聖な空間。そして。



 あまりにも呆気なく汚れてしまった一輪の花。



 ============================================



 ...とりあえず、掃除は終わったかな?



「うん、終わったよー!」



 うし、じゃあ起こすか。もう朝だしね。



 メアリーさんのところへ近づき、肩を優しく叩く。



「ヒィ!?」



 っと、メアリーさんは重症だな。アナさんはどうか。



 ぽんぽん



「ん...もういいの?」

「ええ、はい。すみません、急に目を閉じろなどなど言ってしまって」

「ああいうのは判断が大事。流石にそろそろ...と思ってたところに君が逃げると言ったから、君の言っていることは正しい。だから謝らない」



 コツンと頭を叩かれる。



「ははは、褒めてくれるとは。っと、そうだメアリーさんが今ひどい状態なんです」

「あ...本当だ...」

「安全が確保できたことを知らせようとしたんですけどね...」

「ア...アア......」



 僕は精神科医じゃないけど、流石にこれはまずいということくらいはわかる。



 なんたって...



「くる...クル!嫌だ!やめて!......いやあああああ!!」



 ずっと叫んでるからね。これは流石に狂気に染まってますわ。



「め、メアリー?」

「誰!私を呼ぶのは!嫌なの...もう死にたくない!」



 あれかな、痛覚ありの幻覚を見てる感じ。



「...どうするの、これ...錯乱状態になっているみたいだけど...」

「まあ僕たち精神科医じゃないので。でも古今東西、こういう時にどうすればいいかっていうのは決まってます」

「え?」



 え?じゃないですよ。



「こうですよ、こう」



 シャドーボクシングを行う僕。それを見てキョトンとしているアナさん。



「...わからないなら言葉で伝えますけどね。もちろん無心になってグーパンです」

「え...でもこの状態でやっても」

「大丈夫、奇跡は起こります」



 と言って準備。



 まずはメアリーさんを持ち上げて。



「ひっ!な、何!?」



 次に脇の下に腕を回して肩をロック。これで腕は動かせない。



「や、やめてぇ!!!」



 そんでもって足は先ほどクトーニアンに掘ってもらった穴に固定。



「さ、やっちゃってください。僕よりも"メアリーさん"と付き合いが長いのはアナさんでしょう?」

「すごい怪力...じゃなくて、わかった。ただのパンチでいいの?」

「なんでもいいですよ。打撃であれば」

「...わかった」



 と言いつつ、深呼吸を始めるアナさん。



 そして軽く身構えて...



「ふん!!」



 脇腹に一発。



「ぐぁ」



 変な声出ちゃってるよ、メアリーさん。



 が、そんなこと気にも留めず。



「やあ!!」

「いぃ!?」



 今度は正拳突きを心臓めがけて一直線。



 しかしそれでも止まらずワンツーと顔面にパンチ。



 で、ラストは鳩尾に1発と



「せい!!」



 綺麗なアッパーカット。もちろん僕の押さえつけから逃れられるはずもなく。



「ぐっ、がはっ!」



 瞬間、暴れていた腕が落ちる。



 意識を失って力が抜けたのだろう。だらんとしている。



「よし、これで意識が復活したら元に戻ってると思います」

「...本当に?」

「まあ、どっかのタイミングでこの時のことを思い出したら発狂するかもしれませんけど」

「治ってないじゃん」

「あはは、まあそんなこと怒らないですよ。メアリーさんは強いので!」

「ところで」

「なんでしょう」

「<コリアン草>はこの<深森の守護竜>という神聖な滝の前でのみ生えるものなんだけど...」

「...」

「...まあ、1日経ったら咲くからいいか」

「ほんとですか!よかったあ...」

「ただし1日中反省会だけどね」

「うっ」

どっかの赤い鳥...とかかなあ。

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