大好きなあの人
某やきうゲームの手紙バットエンドを思い出した今日この頃
「さて。もうだいぶ体調は戻ったみたいだし、目的の<ギルド/パーティ会館>に向かうとしましょうか」
そう言いながら銀色の鍵を出すメアリーさん。
本来はおかしいことだが...
「その鍵は、サオさんから?」
「そうよ。使う時が来るから、って私に渡してくれたの。ただの護衛<クエスト>を受けただけなんだけどね」
「へえ」
...思うところはあるが、奴らのことだ。考えていることは僕が理解できる範疇ではないし、サオさんに詮索するのはやめておいた方がいいだろう。
銀色の鍵、それを空間に挿すメアリーさん。現れたドアノブを引けば、そこにあるのは少しだけ活気が戻ってきた街並み。
まあ二日酔いなのか路上で寝ている人たちもいるんだけど。僕たちが出てきた路地裏にも何人かいた。顔が真っ赤の状態で。
「あ、そういえばアナさんって」
「大丈夫、すでに<ギルド/パーティ会館>...長いから私たちの間では会館って呼ぶんだけど、すでにそこにいるわ」
やはり僕は寝坊してしまったのかも知れない。
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「たのもー!」
「お、メアリーの嬢ちゃんか。いらっしゃい」
「嫌だなあ、私ももう80だよ?嬢ちゃんなんて言われる歳じゃないって!」
「いやいや、あんたはべっぴんさんなんだから。私なんて120でこれだからねえ」
僕から見るとどちらも30代にしか見えないんですけどね。どうなってるんですかね、この世界の人間の年齢って。
というか、会館に向かってるはずなのになんで服屋にいるんですか。
お話進まないよ。メタメタにもなっちゃうよ、僕。
「で?今日はなんの用で来たんだい?」
「おお、そうだったそうだった...いやあ、久しぶりに会う人とはやっぱり話し込んじゃうわ」
「話し込んじゃうね、じゃないです。大方、僕の服でしょうけどね」
何せこの店に通りかかる前、あからさまに周りの目がすごかったからね。昨日の夜も同じ服だったけど、多分みんな肉に集中していたんだろう。
今着ている僕の服、まあ少なくとも地球じゃあ外に出られない服装だろう。マリア的には問題ないので今もこうやってきてるけど。
所々破れた制服とブレザー。それらには内側からも外側からも血が染み付いていて、なんなら袖の部分はほぼ無いに等しい。
風呂に入れていないのもあるのだろう、髪もかなりボサボサになっている......元養父母宅、あと寮にも風呂という名の水ためがあったからなんとかなったけど、拉致られる直前は疲れて入っていないし、拉致られた後ももちろん入る余裕はない。
そういうのもあって、自分で言うのもなんだがかなりみすぼらしい姿である。そりゃあ周りの目もヤバくなるだろう。
ギリ見えてはいけないものは見えないけど、まあ人はそんな姿にこそゲフンゲフン。
「そうそう。だから、彼女にとびっきり可愛い服を着せてあげたいの」
「そうだねえ...お嬢ちゃん、名前は?」
久しぶりに聞かれた気がする。知らない人と会う、っていうのも久しぶりか。
「知らない人に名前を聞くときは、まず自分から名乗れ。と死んだ母さんに教わりました」
なのでこれを返す。
「おお、そうだったのかい......ん?死んだ?」
聞き返してくる店主のお姉さん。まあ当たり障りのないことなら大丈夫だろう。
「はい。僕の母さん...アンナは数ヶ月前、僕と一緒にシウズ王国王都から村に帰る途中に盗賊に襲われ、亡くなりました」
本来は、その時の死体が〜と続くのだがそこまでは企業秘密。
しかし...やっぱり胸が締め付けられるかのように痛いな。数ヶ月前の話だけど、僕は全然忘れていないらしい。
まあ、数ヶ月で大事な人の死を忘れられる人間がいるのであればむしろ見てみたいけど。
「そうだったのかい...それはすまないねえ、嫌なことを思い出させてしまった」
「いえ、大丈夫です」
店主の顔を見る。こういうときは前を見ておくとすぐに前向きになれるという持論があるからだ。
表情は謝罪の気持ちで溢れかえって...ん?
いや、違うな。目線、それだけが僕のことを考えていない。僕と目が合わないから...あ、目があった。
さっきまで左を見ていたけど...左...メアリーさん?
ちらりとメアリーさんを見る。おそらくここまでずっと心を読んでいたのだろう、目線をあさっての方向に向けている。
何か、あるよなあ。一体何なのかといわれると全く想像がつかないからなんともいえないんだけど。
あ、メアリーさんホッとした。なんか、バレなかったあ感が滲み出てるけども。
今の所僕にバレてほしくないことを僕目線で考えると、すなわち養父母と母さんを殺した殺人鬼についてと、僕が<魔王>であるからして、<勇者>のスパイとか、そんな感じ。
いや、でも店主のお姉さんは僕が<魔王>であることを知らないはず...つまり、殺人鬼がらみ。
ん?でもそもそも母さんが殺されたことも知らなかったんだよな...
...まさか?と思いもう一度メアリーさんを見る。
すっごい冷や汗出てる。アニメだったらダラダラとすごい勢いで流れているだろうし、同時に体も震えている。
...頭の上を見ると、そこには寝ているメェーちゃん。起こすようで悪いが、抱き抱えさせてもらう。で、だ。
可能性はあるかもだけど...まあ母さんではないか。
あんなにも目を逸らしているとはいえ、やっぱり顔が違う。
流石に整形とかの可能性、いやあるか。あの殺人鬼の被害者が生き残っているとなると、殺人鬼側も殺しに来るかもだし。
んー、謎が深まっていく。まあそもそもあの殺人鬼の殺す方法がやばいからね。
ダゴンとか、そういう神話生物ならまだしもね。心臓さして首吹っ飛ばして、魂も同時に殺すわけだから。
わずかな隙間を縫うようにしてその攻撃を回避したのかも知れないけど...ならあそこに死体があるわけがない。
...だからまあ、うん。メアリーさんは母さんじゃない。
「...?メアリー、何かホッとすることでもあったのかい?」
「い、いいや?何もないわ。うん」
「それよりも...僕の服を買いに来たんじゃないんですか?」
「そうよ!そのために来たんだから!」
「そういえばそうだったねえ...そしたら、まずはお風呂からだね」
「風呂があるの!?」
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水風呂でした。残念。でも久々に髪の手入れと体の掃除を行うことができた。
前世でも、今世でも何度も行ってきたことだからね。もはや手慣れている。
「6歳なのに一人でできるのね、すごいわ」
こんなことを店主のお姉さんにいわれるくらい。
あと、体を洗っている時に気づいたけど。左腕がいつの間にか治っていたことにちょっと驚いた。
自然治癒というやつなんだろうが、腕切ってから2日ほどじゃなかったっけ。
縫っただけなんだが...まあ種族■■■だしね。起こりうるであろうことではある。
「次はこの服だね」
「この服はキープにしておくわよ」
「いや、この服は6歳児が着る服じゃないと思うんだけど」
「でも一回着てみて」
「ええ...」
そんなことを考えつつ、僕は2人、否遅いからと心配して戻ってきたアナさん含め3人からお人形として扱われていた。
僕の好みとかはちゃんと考えてくれているのだろうけど、それ以上にふざけ半分でいろいろな服を着せてくる。買うわけじゃないのにいいのかそれで。いや、店主も交えてだしいいのか。
ただ、これらの行為自体はとても僕にとっては有意義だ。知らない服とか、なんか他の国の民族衣装とか、高くて絶対に買えない服とか着れるし。ぶっちゃけ楽しい。
自然と鏡の前で笑顔になっているから、おそらく彼女らのリフレッシュも兼ねて行っているのだろう。みんなが優しくてよかった。
僕は遊ばれているだけなんだけどね。楽しければそれでいい。
あとメェーちゃんも服を選んでもらっている。人形サイズなんだけど、むしろ人形用の服が気になったみたいで。
「意外とこの娘、なんでも似合うかもしれないわね...」
「メインで着る服は、それこそ当人が選ぶべき」
「私もそれには賛成ね」
当人とは一体どちらなのか。まあメェーちゃんも着せ替えさせられて嫌な顔はしてないむしろ可愛いし、よかったよかった。
そして。
「「「おおー」」」
僕は髪をそこまで伸ばしていない、つまりは黒髪のショートカット。
それに合わせる、最終的に決めた服...一言で言えば、某アリスの服を黒メインで作った感じの服。
スカートがふわふわして動きにくいと思っていたけど、着てみると意外と動きやすい。
というか基本的にアリスはロングのイメージがあるけど...さて反応はいかに。
「可愛いわね」
「いいところのお嬢様みたい」
「お持ち帰り?」
...なぜだろう。自分の姿に関する意見を聞くと、毎回お持ち帰りという言葉が聞こえてくる気がする。
気のせいだな、気のせいということにしておこう。
ちなみにメェーちゃんはゴスロリからメイドになった。
可愛い。
「あ、本来の目的忘れてた!会館に行かなくちゃいけないのに!」
「そうだったのかい。それじゃあお題は後で払ってもらおうかね」
「ありがとキイ!さ、いくわよマリア!」
僕の腕を掴み、走り出すメアリーさん。
それに追随するアナさんの顔は、ため息でも吐きそうな表情をしている。
というか結構痛い。右腕を掴まれているんだけど、僕はその速度に引っ張られている。足が地面についていないのが何よりの証拠だろうが、その状況で右腕だけがメアリーさんとの接点なのは右腕が引きちぎられそうになる感触を引き起こしている。
だけど...
...悪くない。
黒髪ショート、黒目、6歳児
が黒い某アリスの服。
個人的には可愛いと思うけど、どうなんだろう。
まあ、価値観は人それぞれだと願うとしよう。