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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第三章 勇魔大会狂殺
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お肉とお米と葉物の幕間

パーフェクト・テイスト

 店を出る。もう太陽が隠れ夜の帷が落ちている......はずがなく。



 もう夜、だがほとんどの夜店が灯りをつけて営業している。酒呑たちも外に出て夜店から色々買って、食って、楽しんでいる。



「大通りを歩いていたときは、みんな倒壊した家とかを片付けるのに必死になってたのに...」



 まるで、それまでの労働によって生まれた疲れや鬱憤を晴らすかのように、どんちゃん騒ぎがあちこちで行われているのだ。



「ちょっと前に魔獣に襲われたばかりなのに、なんでこんなに元気なんだろう」



 ふとした疑問。それについて答えてくれたのは....



「お、そんなことが気になってるのか。そうだなあ......この街の周り、森とか山とかがあってくることが難しいだろ?」



 かなり酔いが回っているように見えるおじさんだった。



「そ、そうですね。ここにくるのも結構大変でした(嘘)」

「だろう!だから、そもそも魔獣もこっちにくることが難しいんだよ。来たとしてもしっかりとした対大型魔獣用壁とか<魔獣防壁>が敷かれているおかげで入っては来れない」



 結構魔獣対策を行なってる...でも今回は突破されたのか。



 やばいな、魔獣。



「まあ<変異>によってやばいやつになる時もあるからな。今回もそうだったが...」



 その時、おおー、と周りからの声が町中に響く。



「お、きたな。嬢ちゃんたち、後ろを見な」



 と言われる。みんなそっちを見てる、どころかメアリーさんとアナさんも見ているので僕もそっちを見る。






 僕は一度、豚の丸焼きというものを食べたことがある。確かバーベキューの時に培養個体のものを食べたのを今思い出した。



 僕はそんなに食べることができなかったけど...なかなかに美味しかった。味、食感は今までの豚肉の忘れさせるようなものだったし、何より豚という生き物を食べているという実感が湧いたんだ。



 その時から、僕は食料というものはもともと全て生き物であることを自覚しながら食べてきた。パンの素になる麦だって植物、つまり生き物な訳だからね。



 ...だから、目の前のそれがかなり異質に感じるのは言うまでもないだろう。



 豚肉や牛肉は基本的に生きたまま剥いだりしない。当たり前だ、それはただただ可哀想だからだ。



 だが。



「キュー!キュキュー!」



 丸々と太った肉塊、いや生き物はこんがりと焼かれていい匂い。だが生きている。しかも若干嬉しそうだし。



「うっそ、>マゾボア<の丸焼き!?」

「アナさん知ってるの?」

「この世の三大珍味がひとつ、>マゾボア<...食通なら誰でも知っているわ。でも、あれって極低頻度且つ高難易度の<イベント>をクリアしないと...まさか!!」



 急にガバリと飛び起きておじさんの方を見る。



「おうよ!!今回来たのは<収穫祭>!!そんでもって<収穫祭>を攻略した後に現れる裏ボス、>マゾボア<を射止めたのが...」



 スゥーーーー、と息を吸い込み始めるおじさん。とりあえず耳をh



「この俺だーーーーーーーー!!!!!」

「キューーー!!!」

「「「「「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」」」」」



 キーンとなる鼓膜。すっごいうるさい。



 というかなんで>マゾボア<まで鳴くんだよ。



「め、メアリーさん!<イベント>について何も知らないのですが!」

「その説明は後!今は...」



 とメアリーさんが言うと一気に静かになる。もうこの時点で耳は塞いでいるが、果たして。



「「「「「「「「食うぞー!!!!!」」」」」」」」



 叫ぶ。うるさい。なんでこんなに暑くなるかなあ。などと考えていると、我先にとその全長10mほどの丸焼きを自らが持つ剣で削ぎ始める。



 ...ちょっと待って、目の前の丸焼きは確か生きていて...



「キュウ///」



 おい!!なんで悦んでいるんだよ!!



「はいこれ、メアリーの分。そしてこれがマリアの分」

「こ、これが...ゴクリ」

「はあ...」



 そしてアナさんが運んできたお肉。絶対>マゾボア<のお肉やんけ。



 だがそれに躊躇なく齧り付いてしまうのは、本能が目の前の肉を喰らえと言っているにほかならず。



 ...



 ...



 ...そしていつの間にか、目の前の皿には肉がなくなっていた。



「バースト」

「...」

「バーストとショゴスとメェーちゃんとクトーニアン達とシュド=メルと僕の分の肉を今すぐ取ってきて」

「了解です」



 秒も経たずに目の前に出てくる大きめの肉塊。おそらく家猫になっているバーストは持ち前の嗅覚によってその味を匂いだけで探り当てたのだろう。



「これはクトーニアン達の分です」

(クトーニアン、持ってって)

(わかりました!)



 そしてその肉塊が地面に突如として開いた穴に引き摺り込まれていくのを眺め、皿に置かれている肉を食べる。



「...これは三大珍味にもなるわね」

「でしょう!?もう...これで3回目だけど、飽きることは絶対にないかなあ...」



 隣を見ると、味わっているメアリーさんと興奮しているのか口調が激しいアナさんがいた。



 どちらも美味しそうに頬張っている。というかアナさんに関しては今までの暗い印象が嘘になるかのように顔がとろけている。



 フォークを皿に刺す。と思ったらそこに肉が運ばれてくる。どうやら相当にこの肉は美味しいらしいな、バーストの動きがいつもの3倍くらいになっている。



「って、メェーちゃんいつの間にかショゴス()の上で溶けているし」



 うまいんだなあ。実際美味いんだけど、まさか神話生物である神々すら魅了するほどの味とは。



 これもそれも>マゾボア<のおかげだな。と考えながら丸焼きの方を見ると...



 そこには、



「うめえ!!」

「キュキュキュ///」



 全く無傷の>マゾボア<とそれに齧り付くおじさんだった。



「え、ええ...??」



 困惑する僕。これでも既に4枚目、小さいとは言えどもバーストたちも食べているわけで。



 それに周りの大人達は異常と言ってもいいほどの大きさの1枚に齧り付いているし。なぜ無傷??



「>マゾボア<はねえ...食べる、ことに関しては貰ったダメージをHPに変換するっている<制限>があるんだよ」



 とアナさん。



「それって...<制限>になっているの?」

「ちなみに>マゾボア<はそもそも攻撃をあまりしてこないし、HPが高いくせして<治癒(ヒル)>と<魔力生成>を持っているから倒せないんだ」

「え」

「後もう一つ。実は以前に>マゾボア<が出てきた時に<召喚獣>にしようとした召喚師がいたんだ...まあ、"自分が生きているのは食べてもらうためだ!!"とかなんとか言っていて無理だったらしいけど」

「ええ...」



 つまりあれか、食べてもらうことが最高の悦びなのか。だから...



「キュウ〜///」



 めっちゃ悦んでいるわけだ。



 なるほどね、と思いながら7枚目を完食し8枚目を食べ始める。



「それにしても...これ、絶対レタスとか合わせたら美味しいよなあ...」 モグモグ



 生姜焼きとか豚カツとか。シャキシャキとした水気の良い葉物と合わせると肉はうまい。



「レタス?」

「転生する前の世界にあった植物です」



 この世界には野菜という文化はない。野草とかもあるし植物もあるし畑もあるんだけど、野菜という分類がないと言ったほうがいい。



 じゃがいも、とか、にんじん、とかの日本の名前がついた植物とか、パセリ、アップルとかの英語圏の名前もある。



 なんならモイドという名前のゴーヤとか、おそらく他の世界からの転生者が名付けたのだろう。



「水々しくて、シャキシャキとしてて、それの間に肉を挟むと...これがまたうまいんです」

「...じゅるり」

「アナ、肉を食べながら涎を垂らさないで。みっともないわよ」



 そう、うまい。うまいが、だが...



「でも...日本人なら、こういう時は真っ先にこう言います」

「なんていうの!?」



 肉。それは日本人の主食に適した最高の食材。



 なればこそ...



「お米が欲しい、と」

「お、お米...」

「あっつあつに炊き上げられた出来立てホカホカの白米」

「お、おお...」

「それを肉汁たっぷりのステーキと共に一口....!」

「おおお!!」

「...うまい、という感想以外は登ってこない。そんな食材です」



 とは言ってもこの世界にはお米及び白米が存在しない。



 畑はあっても田んぼがないからね、しょうがないね。






「...?ねえ、バースト」

「なんでしょう」

「畑で育つお米ってなかったっけ」

「ありますよ。陸稲というもので、水分の少ない土地で育つ稲が」

「「何ぃ!?」」



 そ、そんなものがあったのか。初めて知ったぞ。



「...ん?じゃあこの世界でもお米がある可能性がある...?」

「一生の命題にしよう。お米を探すという、私の旅の終着点が決まったよ、メアリー」

「そ、そう。よかったわね」



 ...というかすんなりと喋ったけど、いいの?わざと他の人の前ではメェーとかニャアとかにしてたのに。



「「あ」」



 まあ、誰も気づいていないし、いっか。そう思いつつ、僕は15枚目の肉にフォークを刺したのだった。

イベントについてはまた次回

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