無茶振り、それもやばいやつ
急な無茶振りに驚かない人はいないと思います。
さて、どこに行っていたと言われましてもね。
「いやあ、あはは。実は...」
...言い淀む。まさか校長にミ=ゴというクトゥルフ神話生物に誘拐されていましたなんていえないし、だとしても賊に攫われたわけでもないし...うーん。
「...あー、知能の高い魔獣に攫われまして。まあ<勇者>様に助けていただいたんで問題はないわけですけども」
"ふむ、そうか。どうやら今期の<勇者>はかなり質が良いようだな"
...騙せたかな。いやもう騙せていると信じるほかない。
"ところで、先ほど<勇者>から連絡があってな"
ビクン!と体が跳ねる。そしてワナワナと震えて止まらなくなる。
ま、まずい。もし<勇者>が言っていたことと違ったりしたら...下手したら<魔王>である、いや厳密にはまだ[<魔王>の種]だけど、とにかくバレるとまずいことになる。
確実に...殺されるっ!
目の前に校長がいるわけでもないのに僕は目を瞑った。さてどうなるか...
"マリア・ヒルド。貴様、あの>コボルド・オブ・キングウォーリア/シュリーク<を単独で撃破したようだな"
「...へ?」
目を開けると同時にポカーンとしてしまう。
というか単独って......あー、確かに単独か。
神話生物の皆様のおかげで何とか討伐したけど、<勇者>がやったことはそれの誘導及び時間稼ぎ。実際は怪我が酷い勇者が半分でそれすら行えたか怪しかったし、そういう意味では単独と言えるか。
"しかも、現在お前の召喚した<召喚獣>が深い傷を負った<勇者>を治しているらしいな"
「そ、そうですね、はい」
これは完全に正しいだろう。今ミ=ゴとイスの偉大なる種族が手術をおこなっているところだからね。
"まずはそれらについて褒めてやろう。戦った貴様には既にわかっていることだろうが、>コボルド・オブ・キングウォーリア/シュリーク<はおよそエルワルセルヌルに1ほどの範囲にいる人数だけ増える<ダンジョンボス>。大人数で戦うと帰って不利になるが、背後に動こうとすることができないという特殊な<制限>がある"
せ、<制限>ですか?何ですか?それ。
「<制限>は一部の<ダンジョン>や<結界魔法>の内部での...ルールみたいなものね。例えば魔法を使うことができないとか、HPが少しずつ削れてくとか」
「はえー」
追加ルールとか、特殊ルールとかそういう感じか。
"そしてこの<制限>、戦闘において近接戦闘を封じられているようなものでな。マリア・ヒルド、貴様は<勇者>のように剣を振るうわけではないからわからないだろうが、近接武器を扱うとき、必ず一回は退くという動作が生まれる。突っ込んで勝てるような魔獣じゃないからな、なおさら攻撃後に距離を置く"
なるほど。まあ、わからんでもない。僕は少しだけしか時間稼ぎをしなかったけど、それでも奴らの動きは今でも鮮明に覚えている。
ずっと攻撃してくるわけではない。連携し、隙をつき、リスクを避けながら攻撃していた。
だからそもそも僕の<魔力撃>は一度も使えなかったし、メェーちゃんだって苦戦してた。
"だが、この<制限>があるとそれの行動がほぼできなくなる。敵前逃亡、とまでは言わないが魔獣の前で背を向けるとはすなわち死だ。この俺も、例えそこら辺にいる魔獣に不意に背中から攻撃を受けたら対応できずに死ぬだろう"
「「「いや......流石にそれは嘘でしょ」」」
お姉さん達と声がかぶる。と、そこで気づく。
この<通話>ってやつ、周りにも聞こえるのね。
"いや、嘘ではない。今俺はサマナル諸島にいるからな"
...サマナル諸島。あれ、どっかで聞いたことが...あったけか?
「南の海に浮かぶ最も危険な国...どうしてそこにいるの?」
とアナさん。あ、あれだ。校長の授業で一回聞いたんだ。
"今は<生存不可地域>が増えてかなり縮小してしまった国ではあるが...もしお前がここにいるとしたら、現状の<国立学園>の戦力だと俺だけしか行けないからな"
...ん?校長先生だけ?
「そんなに危険な場所なんですか?」
"ああ。海...大量の水が溜まっている場所に肉を投げ込む。すると瞬きのうちにそれがなくなると思っておけばいい"
「...わぁお」
酸なのか、それとも水棲の魔獣なのか。どちらにせよやばいな。
「まあ確かにそんなにやばい場所にいるならあの例えも納得ですね」
"納得したな。では話を戻すぞ......マリア・ヒルド、貴様は<勇者>を既に見ているだろう。つまりは<勇者>達が戦闘を行うとき、何の武器を使って戦うかわかるだろう"
と言われたので思い出してみる。
えっと、全部見たのは...あの蝙蝠バカが殺された時だな
「となると...長剣、短剣の二刀流、大弓、魔法、あと一人は謎ですけどそもそも戦闘をしない人ですかね?」
"正解だ。それらのうち、先ほど言った近接武器を扱う者と戦闘を苦手とする者を抜くと戦えるものはいくついる?"
「...2です」
魔法を扱う、確かカミラとか言ったっけ。それと...あとシート・サントニーってやつ。
でも、確かこいつらってめちゃくちゃ負傷がひどくなかったっけ。
"そうだ。だから、あいつらは優先的にその者達をねらう。うまくタゲを...ああいや、マリア・ヒルドには通じないな。相手が狙ってくる対象を自分に移すように近接武器を扱う<勇者>が戦ったらしいからな、だからこそ長く耐えることができたのだろう"
タゲ。多分ターゲットのことだよね。ゲームとかだとヘイトとも言ったりするけど。
そういうの管理しなきゃ勝てない相手だったのか。まじか。
"本題はこれからだ。先ほど俺は言った、貴様が単独で倒したと"
あー、ああ......言った、言ってたね。うん。
"はっきり言ってやろう。6体の>コボルド・オブ・キングウォーリア/シュリーク<を単独で突破するにはかなりのステータスが必要だ。それも世界に数えるほどしかいないであろう、俺と同等のな"
「あ、そうなんだ」
"お前もその一人だぞ、メアリー。そこにいるであろうアナもな"
まじすか、え、そんな強い人たちなのか。
ま、まあ流石に校長を友達って言うくらいだからそれ相応の戦闘力はあると思ってたけど...校長と同等か。
"だが、貴様はそうではない。そうだろう、マリア・ヒルド"
「...まあ、そうですね。流石に校長先生と同じくらいのステータスは持っていません」
下手したら<勇者>と比べても弱い、かなり貧弱なステータスだと思ってるし。
"そうだ、貴様は弱い。となると別の方法...すなわち"
一呼吸おいて校長が言う。
"奴らのステータスでは回避が困難なほどの超極大広範囲攻撃。それも魔獣が学習する前に叩き潰せる威力で、しかもたった1回だけでな"
......僕がおこなったのは、確かに超と極と大がつくほどの広範囲に大穴を開ける行為だ。シュド=メルとクトーニアンがいればそれくらいのことは容易い。
そんでもってその大穴の中にショゴスを仕込み、落ちてきた犬戦士王を食べてもらう。シュド=メルの酸液添えでね。
これなら奴らは逃げることはできないし、背を向けて逃げたタイミングで襲われることはない。頭の上以外が地面とか、その状況でクトーニアンの群れに勝てる生物なんて(神話生物を除いて)いないに等しいし。
一応500mほどの穴にするように指示していたから逃げることはできない。壁を掴もうにもクトーニアンたちの掘り進めた場所はツルツルになっていて掴めないし、地面一帯がショゴスに覆われている状況では流石の犬戦士王達も500mの壁を飛び越えることはできない。
まあだから、1回だね。うん。確かに攻撃は1回だけと言っていいだろう。
"..."
「...」
若干の静寂。それを切り崩したのは...
「...それで、バルバトス校長先生は何がおっしゃりたいのですか?」
僕だった。
"そうだな...貴様、既にかなりの日数の間<国立学園>にきていないのはわかっているな?"
「はあ。まあそうですね。聞いた話だと、7日ほどだとか」
意識を失っていたらしいからそれ以上はわからないけど、そうらしい。
"ああ。そこで、<国立学園>的にはマリア・ヒルドに対して補習を行わなくてはならない"
まあ、そりゃあ学校だしね。
1週間分の学習を行わなくてはならない。
"だが...正直に言ってそんなことしなくてもお前は十分卒業資格を掴むチャンスがあるだろう"
「えっと...確か<国際競技大会>、<単元対抗大運動会>、<新魔法発表会>に<ザ・コロシアム>で優勝しなければならないってやつですね」
"よく知っているな。大方エリカの入れ知恵だろうが"
ですね。エリカ先輩に教わりました。
"そうだな、<新魔法発表会>は少し難易度が高いな。<結界魔法>は個別で授業を行うとして..."
"ふむ、マリア・ヒルド、<クエスト>をいくつか達成してこい"
.........はァ!?
血楽の魔王 <<< コボルド・オブ・キングウォーリア/シュリーク
見やすくするために<>と><をはずしましたが、力関係はこんな感じです。