成長の奇跡② ~発見~
………何もやることがない。いや、赤ちゃんだし当たり前だけども。
しょうがない、もう見飽きた片付けでも見てるか。
そう思って体を母親の方へ向ける。まだ首がうまく動かないので、背中側にいる母親を見るためにはこうするしかない。
母親は………どうやら離乳食を作るための材料っぽいやつを戸棚に片付けようとしているらしい。
てかあの離乳食は野菜とか使ってないのか、前世ではどうだったかはしらんけど。
と思っていたら身長がすこしだけ足りなくて、あともうちょっとのところで最後の材料っぽいやつを置くことができてないみたいだった。
必死に置こうとしているのがなんだか少しかわいいなと思っていたら、
「■■■■■■■■■■■■」
ため息をついたかと思うとなにかを言って、
なんの前兆もなく母親の右腕に何かが出てきた。
一瞬だった。だが、特徴的なそれは僕の知っているものではなく、僕の興味を引くことに成功していた。
形は腕時計、それもデジタル腕時計のような形だ。だが、時間が表示されるであろう場所には数字が出ていない。
色は真っ黒、それも吸い込まれるような感覚を……さすがに覚えないが、テカテカとしている黒だ
いまわかることはこれくらいか。あともうちょっと近かったらまだ色々わかったかもしれないんだだけど。
そんなことを考えていると、母親が操作をし始めた。前世における現代人なら、絶対に見たことのある方法で。
母親は腕時計(仮)の少し上で指を上げ下げしている。まるでスマートフォンを操作しているように。
何回か上げ下げ、いやフリックを繰り返した後、母親は少しずれた場所を押した。それは完全にタップだった。
すると、少し母親の目の前が青白く光った。って、赤ちゃんである今の目だとこんな光でさえきついのか。
少しの間目をつむり、開けてみると……………
母親の目の前に、見知らぬ箱があった。
思わず、息を呑んだ。
そのまま母親は箱を足元において離乳食の材料っぽいものを戸棚にしまった。
そして、さっきと同じように腕時計(仮)の少し上をフリックして、その後タップ。
すると、また青白く光ったので目をつむり、目を開けると………
そこには、もう箱がなかった。
しかも、前兆もなく腕時計(仮)が消えていた。
そして、そのまま母親はこの部屋を出た。
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興奮がやまない。こんなに興奮したのは遊んでくれる友達ができたとき以来だ。
あの腕時計(仮)は一体何なんだろう。30秒くらいの出来事だったけど、それだけで半日は暇をつぶせる。それくらい衝撃的だった。
少し過去のことを思い出そう。僕は確か、あの胡散臭いやつに自分の名前と性別と職業を決めさせられた。その後、何かのスキルを選べと言われて、[魔法の才]を選んだ。
そう、魔法の才を。
あの腕時計(仮)は魔法なのかもしれない。少なくとも可能性を否定できる理由がない。
あとはやはりあの箱だ。光ったら出てきて光ったら消えていたけども………
いや、多分あの箱自体にはなにもないね。やっぱり、あの腕時計(仮)に何か秘密があると思っていいのかな。
あとは………いや、今わかることはこれくらいか。これ以上は思考じゃなくて考察になってしまう。というかもうなりかけてる。
ただ、暇なときにこのことについて考察するのもいいかもしれない。赤ちゃんである今やれることは少ないしね………
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目が覚める。まだまだ成長途中の腕と足を伸ばす。
「■■■■■■■■■■■■」
今日で年齢は3歳。まだ自分の言葉すら理解できていない。が、理解した言語もいくつかある。
「……………マリア」
僕の、この世界での、名前。母親………アンナ母さんが僕のことを何度も言ってくれていたので自分の名前を最初に覚えることができた。母さんには感謝しかない。
「マリアー■■■■■■■■■」
母さんの声が聞こえる。少なくとも呼んでいることはわかるので、母さんの所へ向かうとしよう。
どうやら今日は何かがあるらしい。母さんが3日前からはしゃいでいた。おそらくだが、そのためにぼくを呼んだのだろう。
何があるかはわからないけど………何か冒涜的な何かに出会えることを楽しみにしていよう。
ようやく異世界っぽくなってきました。
てかもう3歳か…………