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AIBO学園恋物語  作者: AIBO学園教育課
9/20

9.狂現はゲームではない

秋風です。

幸せだなぁ

「そもそも僕に挑もうとすること自体が恐れ多いというか、それ以前に馬鹿というか。自分の実力をわきまえてから僕に挑みにこいよ。僕はただでさえ時間がないんだからさあ!」


 少年は電話の向こうの相手にいつも通り叫んだ。いつも通りの圧倒的な実力差を見せつければ少年は必ずと言っていい煽りを必ずする。その煽り目的の者、実力を身に来ようとする者、様々な相手と三時間みっちりと対戦する。

 相変わらずの煽りを聞きながら、メールで隣にいる彼女ーー雪下 雫と連絡をする。

 その内容は少年に対する苦情などではなく業務的なやりとり。次の対戦相手の情報と既に待機されてるかの確認の共有だ。少しでも遅れれば少年は逆鱗に触れ今日は帰ってしまうかもしれない。それだけは避けたい。

 ここは『e sports部』通称『ゲーム部』だ。未だに煽り続けている少年が作った部活で、アシスタント募集と、なぜか部活なのにも関わらず給与が出ることを目を付けた自分と雪下が今残っている現状だ。最初は何人もの参加者が集まってきたが、少年のゲームセンスが常軌を逸しているもので、対戦を指定してきたゲームを一週間あれば極めてくる明らかな才能で圧倒するのだ。


「対等な部員となりたいのであれば勝負で勝て。その条件を達成できなかったら一生見学者と同じだ」


 彼は言っていた。

 雪下は圧倒的な知識力でクイズゲームを。俺ーー佐藤 友樹は今まで積んできた恋愛シュミレーションで勝利した。俺に関しては引きわけーー一週目でお互いが選んだヒロインとハピーエンドを迎えたので引き分けなのだが「恋愛ゲームを勝負に持ってくる考えを尊重して微勝利でいいとおもう。佐藤。君の微勝利だ」と言っていたので俺は微勝利らしい。

 そんな部員三名の部活はもう慣れたもので、次の対戦相手との準備を済ませて少年にコントローラーを渡した。


「今日も全勝行けそうですかい?」

「あぁ、もちろん。お前たち二人の前で負けるような無様は晒さない」


 少年はサムズアップして任せろと、コントローラーを握った。ジャンルはFPS。スナイパーの一対一。音を聞いて相手の動きを読んで確実に頭に当てる。相手もゲーム部の者だったらしいが相手は一点も取れずに終わる。そして始まる煽り。それを夕方の七時まで繰り返した。

 少年は終わりの時間になると満足そうに「お疲れ、また金曜日に会おう」と手を振って帰っていった。同じ立場と認めた相手には本当にフランクなやつだ。まぁ、俺はそこも含めて尊敬しているんだが。

 少年と一緒にいると気が狂うなんて噂を別の学校の連中経由で聞いたことがあったが、それはただの嫉妬であると思っている。だって、こんなにも俺は自我を堂々としているから。

 部室は二人になった。少年が帰ったのだから当然と言えば当然だが、今は二人だと強調されているかのように感じる。彼女と、二人っきり。雪下雫と二人っきり。

 ロングの髪の毛にきちっと正された制服。スカートも短くしてるわけもなく振る舞いも綺麗と言える。顔つきも綺麗で、性格も……。言い出したらキリがないだろう。隙があれば見てしまう。見て目線があったら顔が熱くなるのを感じる。恥ずかしい。


「佐藤君? 彼も帰ったことだし、一緒に帰りませんか? 話したいこともありますし」

「あぁ、わかった」


 身支度を済ませて部室を出る。鍵は掛けなくてもいい。先生が帰りに寄って閉めて帰るからいいらしい。何もよくないが。

 帰り道。

 少年が来た日に雪下と帰るのはいつからだったか。あまり覚えていないけど、今では週に二回雪下と帰っている。帰り道は同じで帰りの電車は混んでいないので隣に座って帰る。駅も同じで途中までは帰り道も同じ。正直毎日帰りたいところだけど、そんなことを誘う勇気はない。

 週二回の帰る予定だって彼女から誘ってきたことで……なにを話すために誘ったんだったか。これも覚えていない。覚えようとする気力がないのかもしれない。楽しくて幸せだから。でも話してるのは基本的に俺で雪下は話さない。笑って聞いてくれるのだ。


「それで金曜の予定なんだけど……」


 対戦相手は何十人もいる。その順序と時間を合わせる予定を雪下と組む。その話ですら楽しいと思える自分は幸せだろう。幸せで幸せでしあわせなのだ。

 彼女は何やら今日はあまり会話に集中してくれていない気がする。それが少し気がかりだ。少し? 少しじゃないかもしれない。でも幸せだ。幸せって何だろうと考えてしまうぐらいは幸せなのだ。それを彼女に分けてあげられたらいいのに。


「今って幸せ?」


 唐突に聞いてはいけない物を聞いてしまった気がした。

 幸せとは、己が満足した時に生まれる感情。それを共有しようなんて、どれだけ浅ましくて傲慢なのだろうか。それに強欲で、自分は大罪を犯しているみたいだ。いや犯している。そもそも雪下とこうして帰っているだけで幸せを一方的に感じているのに何を強欲的になって欲しているのだろうか。強欲。強欲だ。今自分がしているの幸せの押し付けであって幸せの確認なんかじゃない。確認した時点で本当の気持ちなんて図り知りえない。わからない。幸せが。

 だけど、雪下は困った顔もせず嫌な顔をしない。なんていい人なのだろうか。そんな人と話しながら帰れるなんてどれだけ幸せなんだろうか。幸せ。


「幸せですよ」


 あぁ、アァなんて俺は幸せなんだろうか。彼女に押し付けたとしてもそれを聞けたこと、それが幸せだ。自分という自我がそのことについて叫んでいるような気がする。自分が、幸せだと。僕は幸せだと。狂おしいほどに。

 彼女は僕に体を向けて真剣な眼差しで見ている。なにか重大な発表がここでされるような 気がして僕は押し黙った。……待った。彼女の開始の、口を開くのを。


「出来れば火曜と金曜だけじゃなくて、毎日一緒に帰りませんか?」


 幸せだ。幸せだ。感じる。俺じゃなくてボクの中で、自我が。叫んでる、幸せと。


「幸せだ」

「そ、そこまで言われると照れますよ……」


 彼女は顔を赤らめて言った。そんな情報を佐藤は見ているが入らず、自我を狂され、幸せだと感じている。

 幸せで、幸せで、幸せだと。


 ーー幸せ。幸せ。幸せ。幸せ。しあわせ。

幸せ

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