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AIBO学園恋物語  作者: AIBO学園教育課
17/20

17.不穏な世界

やしかです。

不穏。暴力表現等あります、お気を付けください。

「なんであんたなのよ!あたしだけ見てくれるって言ったのよ!」

 金切り声に近い叫び声。それを発していたのは地味な女子生徒だった。

「落ち着きなさい!ほら、包丁なんて放して」

「放してよ先生!」

 体育担当の教師が止めに入っている。女子生徒は包丁を振り回しており、両腕を掴んでいる教師の顔も青ざめている。

 ここは人気のない放課後の廊下。女子生徒が髪を振り乱しながら放せ、私が一番、殺してやると叫んでいる。

 それに対し、小さく縮こまっている女子生徒。同じく地味な方の生徒ではあるが、どちらかというとこちらの生徒の方が、顔が整っているだろうか。

「こいつを殺すの!殺させてよせんせーっ!」

 涙交じりの金切り声がずっと響く。不穏な世界が広がっていた。



 時は一か月前に遡る。

「ごめん、別れよう」

 いつもの帰り道に、佐伯光(さえきこう)は、彼女の今井ゆうにそう告げた。帰り道、2人が分かれるY字路での出来事であった。

「え、なんで?どうして」

「いや、その、ごめん。俺が悪いんだ、だから」

 そういうことだから。そう告げられるとゆうはその場に座り込んで泣きじゃくった。

「なんでよ……なんで……」

 楽しかったデート。一緒に帰った思い出。一緒に撮った写真。お揃いで買ったぬいぐるみ。

 お前が好きだ。やっぱりお前しか見えねぇや。お前の優しいところ、やっぱり好きだな。

 光の言葉。体温。笑顔。そしてたまに泣いた顔。

 すべてが、ゆうの中で何の価値もなくなっていく。どうしてこうなったのか。全く心当たりがない。

 一体どうして。光に何があったの。あの時、私しか見えないって言ったのは嘘だったの?その問いの答えを、ゆうは探すことにした。


 ゆうは次の日から、光の周りを調査しはじめた。別れを切り出した時の光から考えて、光を問い詰めたところで何も答えてくれないだろう。男友達から話を聞きだすことにする。

 しかし、男友達に聞いてみても、全員知らないと答えた。口裏を合わせているようだとゆうは感じた。何かを隠している。そう感じたのは女の直感だろうか。

 次は、同じ部活の生徒に問いただしてみた。光が補習のタイミングを狙って尋ねに行った。すると、相手は簡単に情報を吐き出した。

 ゆうと別れる前から、光には好きな人ができたようだった。その生徒は、どうやったら今の彼女と穏便に別れられるかを先輩に相談していたのを目撃したのだという。

 誰だ。相手は誰だ。その生徒に依頼して呼び出してもらった先輩にも聞いたが、憎き相手までは知らないようだ。

 こうなったら実力行使だ。そう思ったゆうは、登校前に両親の目を盗んで包丁を取り、学校へと向かったのだった。


 昼休憩。光が一番信用している男友達を、人気のない廊下に呼び出した。包丁が入ったカバンを片手に持っている。すぐ出せるようにセッティングもしている。

「もう一回聞くけどさ、光の好きな人って誰?」

「だから知らないって」

 そう答える男友達は困惑しているようだが、そんなことゆうには関係なかった。

「知ってるんでしょ」

 ゆうの口調が強くなる。

「知らないってば」

 男友達の口調も同じように強くなる。


 これじゃあ、らちがあかない。そう思ったゆうは、カバンに手を入れ、包丁を突き出した。

「これでも教えてくれない?」

「ひっ」

 情けない声を上げる。男友達が動揺しているのは火を見るよりも明らかだった。作戦成功である。

「ねぇ、教えてよ」

 じりじりとにじり寄っていくゆう。男友達は腰が抜けたようで、化け物と対峙しているかのように、しりもちをつき、ガクガクと震えている。

「あ、天音(あまね)だよ。俺とぉ、同じクラスの白雲(しらくも)天音っ。そいつが好きになったみたいでっでっ。俺もっ、いろいろとっ相談受けてたんだけど、お前を傷つけたくないから黙ってろって」

「白雲天音」

 宿敵の名前を繰り返す。クラスも分かったことだし一石二鳥だった。

「ありがとう。後、このことを誰かに話したらどうなるかわかってるよね」

 ゆうは包丁をちらつかせる。話すことはないと確信は持っていたが、念には念を入れておきたい。

「わっわっ分かってるよ!絶対言わないから!っじゃあ!」

 そう言って立ち上がると、男友達は早々に走っていった。

 笑みがこぼれる。光の心を奪った悪魔。早く葬り去らなければ。

 その後、ゆうは急いで包丁を隠すと、白雲天音のいるクラスに向かった。

 意外と行動できるもんね、私。ゆうは自分でも驚いていた。これも憎き相手を葬り去るためだ。



 放課後、特別活動室の前に来てほしい。突然の依頼を、天音は何も考えず引き受けた。

 知らない人からの誘いだけど、一体なんだろ?見当もつかないな。

 ここで天音が誘いを断っていたら、事件は起きなかったのだろう。残念なことに、天音は思慮深い性格ではなく、どちらかというとぼーっとしている生徒だった。

 そして天音はゆうと出会う。にっこりと笑い、カバンを持ったゆうに。



 そこからもう、不穏な世界は始まっていた。

人間って怖いですね。

次の方どうぞ。

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