16.君の手に銃を
お待たせしました。
ポカ猫です。
今回はちょっと変わった部活動の話です。
では、本編をどうぞ
競技射撃というものを知っているだろうか。
ライフルまたはピストルを使用し、固定された標的に対して射撃をして得点を競うスポーツだ。
オリンピックの種目になっている正式なスポーツだ。
私はこの学園に入ってその競技射撃の部活動に入部した。
女の私は競技射撃をやると親に言った時はそれはもう反対された。しかし、私はその反対を押し切ってでも入りたい理由があったのだ。
一緒に銃を撃ちたい……いや、教わりたい。その撃ち姿をずっと見ていたいと思う人がいたのだ。
校内に咲いている桜が花びらを散らしはじめる頃、私は其の人に出会った。
入る部活動を決めるために、外、中と校内を歩き回り時間ももう下向時間ギリギリになっていた時。
ある部活動の活動場所と思われる場所から、とても大きな音が鳴ったのだ。
気になり見に行くと、そこには拳銃を持った男子生徒が一人。
300mほどの距離の先にある的を見ながら、その手に持った銃をいじっていた。
リボルバーというのだろうか、映画やドラマで見るような銃に弾丸を詰めて、的に向けてまっすぐと構えた。
銃口は確実に的を捉えている。
4回。花火のような音を立てて、銃から目に見えない物が撃ち出された。
的を見るとしっかりと4発的の中心を射抜いている。
銃を撃った後のその姿はなんと言えば良いのだろう……とても美しかった。
ここに来るまでたくさんの部活動を見てきたが、ここまで私の目に鮮明に映ったものはないだろう。
私はその場で立ち尽くすことしかできなかった。
「そこで何してんの?」
「へやぁ!?」
急に声をかけられ、私はおおよそ人間が出してはいけないような間抜けな声を出してしまった。
その声があまりにも間抜けだったからか、その男子生徒はくすっと笑い出し手に持っていた銃をしまい、私のところに近づいて来てくれたのだ。
「この部活に興味あるの?」
「えっと…… 部活動を探してたんですけど…… どの部活も微妙に見えて。帰ろうとしたら大きな音が聞こえたから見に来たんです。そしたら、とてもかっこよくて……どんな部活よりも素敵に見えたんです」
私は其の男子生徒に自分が思った気持ちを精一杯伝えた。
そしたら、私のことをジロジロと観察した後。静かに口を開けた。
「もし、入部するなら俺が教えてあげるよ。俺は2年の佐々木弘輝」
「1年の不知火夜子です。入部届け今書いてもいいですか?」
「夜子ね。不思議な名前だな。もちろんこの場で書いてくれていいよ」
その場で入部届けを提出し、私は先輩と別れ帰宅して親に説明をして無理やり入部の許可をもらった。
それが私と先輩の出会いだった。
私はその日、先輩にあの的のように心を撃ち抜かれた。
私が入部してから三ヶ月の月日が経った。
まぁ当然のことなのだが、射撃部には私と同じように入部した人もいるし、先輩以外にも先輩はたくさんいた。
しかし、入部初日には部活説明会にいなかった私を驚く生徒が何人かいた。
それに一番驚かれたのが佐々木先輩が私を教えると言った時だ。
他の先輩全員が大声をあげて驚き、先輩に対し熱がないかなどと体温計まで持ち出して確認するほどだった。
後に聞いた話なのだが、この射撃部では2年を1年をマンツーマンで教え師弟のような関係で部活に励むのだが、佐々木先輩には後輩はつける予定はなかったそうだ。
理由は、先輩自体が人に教えるのを極端に嫌うのと、先輩の競技レベルが頭3つほど飛び抜けているので後輩を教えるより、全国大会などに向けて練習をしてほしかったからだという。
そんな先輩に教えてもらえるなんて、誇りに思うのと同時にもしかして私にもチャンスがあるのではと錯覚をさせるには十分な材料となった。
「ぬいー?佐々木先輩の練習きついでしょ大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、どんどん成長できる気がして逆に楽しいよ」
「ぬいに、佐々木先輩の練習のこと聞いても無駄だよ〜。好きな人と練習してればどんな練習も楽しいんだろうし」
「そんなんじゃないって!!」
同級生にそう茶々を入れられて、必死に取り繕うが本音はやはりそうである。
どんなにきつい練習でも佐々木先輩と一緒に練習していると思うとどんな練習でも楽しくて仕方ない。
そして、どんどん成長していくのを本当に感じ、少しずつだが先輩に近づいてる気がする。
「おい、夜子。いるか?」
「あ、はい!私ですか?」
「下校時間、帰るぞ」
なんと私は先輩と物理的にも近くなったのだ。といっても偶然先輩が私の家と同じ方面に帰っているだけなのだが、部活が終わると一緒に下校というルーティーンが現に3ヶ月も続いている。
立派な成長だ。
「そうだ夜子、お前1週間後の大会2年の俺達と同じ部門で出場しろ」
「え?」
そんな幸せを噛み締めている時に、不穏な言葉が聞こえた。
「お前のレベルならもう2年のクラスで通じるから。そっちにでろ、良い成績残したらご褒美やるよ」
「ご褒美?」
「そん時のお楽しみってことで。もう2年の方の大会でエントリーしてるから、一週間死ぬ気で練習しろよ」
そう言って先輩と分かれ道になり、その場で別れた。
先輩は時折、かなり無理難題を放り投げてくる。
でも、それを乗り越えた後必ず私は1段階2段階と成長しているのだ。
今回もきっと成長してみせる。
しかし、1週間と言うのは虚しくも秒読みで過ぎてしまった。
いつも通り練習をしただけで特別なことなどは何もせずに大会当日を迎えてしまった。
同級生たちは当然1年の部なので、厳しいことなどはなく逆に言えば大会の雰囲気になれる為の練習と言う形でかなり緩いものとなっている。
「緊張して死にそう……」
「そんなぬいに朗報です。今から佐々木先輩の競技始まるよ」
「え!?見る見る!」
同級生の女子生徒に言われ、私は飛ぶように先輩の競技会場に向かった。
会場には先輩の他に4人の選手が横並びになり、目の前の的を撃ち抜く為に使う愛銃の手入れをしている。
しかし、その顔は浮かないものばかりだった。
唯一変わらずいつも通り手入れをしているのは先輩ただ一人だった。
「まぁ、佐々木先輩と同じグループになったら初戦敗退は確実だろうし、そりゃあんな顔になるよね」
笑うように同級生が言い放ち、結果がもう分かってるからいいと自分の控室に戻ってしまった。
それぞれ準備が終わり、それぞれの選手が銃を構える。
先輩が使う銃は高いものではないごく一般的なリボルバーピストルだ。
他の部員や今先輩と並んでいる選手たちはちょくちょくと銃を変えているのか、大会になると新しい銃を持っていたりする。
しかし、先輩は何があってもその銃を変えない。
前に疑問になり、先輩に聞いたことがあった。
「先輩は銃を変えないんですか?」
「変えない。俺はこの銃だけを使う、丹念に手入れして使い続ければ自然と一番手に馴染む銃になっているものだ。それが本当の愛銃ってものだよ。それに、負けるのは銃の性能で負けるんじゃない、そいつの実力不足で負けるんだ。決して銃のせいになんてしちゃいけない」
そういう思いから、先輩は今の銃を使い続けている。
「それでは12発での得点を競う、制限時間内であればどれほど時間をかけても良い。では、はじめ!」
開始の合図がされた瞬間、選手が両手で銃を構えそれぞれのタイミングで銃を撃ち始めた。
先輩はその中でただ一人、片手で標準を合わせている。
やはり何度見ても先輩のフォームは綺麗だ。
まるでもう撃つ前から、的の中心に当たるのが分かりきっていると言わんばかりの自信を感じる。
そして、それが思い上がりではないことは知り尽くしている。
6回の銃声がその場に響く。
先輩の特技は早打ちである。部活内の誰よりも早く、そして正確に的を撃ち抜く。
その姿はまるで獲物を狙う鷹のような美しさだ。
すぐさまシリンダーを振り出し、空になった弾を地面に落とし、3発ずつ変えの弾をシリンダーに装填して残り6発の銃弾を全て撃ちきった。
遠目から見ても分かる、全て的の中心を撃ち抜いた。
「あー……競技中止……フルスコアにつき、佐々木選手がこのブロックの突破者となります」
審判がそう告げた。
他の選手はすでに的の中心を射抜けなかったのだろう。
そうなると全てを中心に当てた先輩がブロック通過者になる。
選手も分かっていたようで文句一つ言わずに競技場所から退散した。
あの射撃を見て文句を言うものもいないと思う。
「佐々木先輩。お疲れ様です」
「次は夜子の番だ。お前の事を舐めきってる奴らを見返してやれ」
「わかりました。やってやります!」
競技場に入ると周りの選手の様子が明らかに違う。
ニヤニヤと笑いながら、あからさまに私の事をバカにしている。
まるでライバルが1人減ったとでも言うような感じだ。
「それでは、競技初め!」
こんな見た目や性別で判断するようなやつと私は違う。
私は先輩と同じステージに立つんだ。
片手で照準を合わせ、6発の弾を打ち出す。
私も先輩と同じリボルバー銃である。
すぐさま次弾を装填し、同じように的を撃ち抜く。全部中心ど真ん中だ。
「またか……競技中止。フルスコアにつき不知火選手がこのブロックの通過者となります」
その後、私と先輩は順調に勝ち進み遂に決勝の舞台まで進んだ。
「良くここまで来たな、大したものだ」
「先輩の指導の賜物です。なんせ、先輩の一番弟子ですから」
先輩と同じステージに立つことができた。
後は、全力を尽くすだけ……
大会は終わった。
結果としては先輩と私のワンツーフィニッシュだった。
先輩が優勝し、私が準優勝。
とても良い結果が残せた。だからこそ、私はこの後一大決心をする。
手が震える……
神様……もしいるというのなら最初で最後のお願いです。
「チップを弾むから、勇気を分けてくれませんか……」
そう、有名なガンマンのセリフを口にして私は先輩の元に向かう。
今度は私が撃ち抜く番だ。
「先輩、大会お疲れ様でした」
「夜子もな、良い結果残せたじゃないか。で、その顔はご褒美をせびりに来たか?」
「ええ、もちろん」
1歩ずつ先輩に近づき、適度な距離になるまで歩み続ける。
決めていた位置に止まり、銃を取り出し先輩に向ける。
「…………なんのつもりだ?」
「私はあの日、先輩に撃ち抜かれました。だから、今度は私が先輩を撃ち抜きます。私の気持ち聞いてください」
大きく息を吸い、銃口を先輩の胸に合わせる。
どんな大会よりも、先程の決勝戦よりも慎重に慎重に、確実に撃ち抜くように…………
「先輩、私先輩の事が好きです!あの日からずっと、先輩だけを見て来ました。私と付き合ってください」
「ああ、俺からも頼むよ。よろしく頼む」
一世一代の告白をすんなりと了承され、はんばパニックになってしまった。
「え?え!?え、えっと……ば、バーン!」
「なんだそれ?」
弾の入っていない銃の引き金を引き、そんなことを口走る。
先輩はあの時と同じように笑いながら私のところに来て、銃を私から取り上げ、そのまま抱きしめてくれた。
「今回は撃ち抜かれてやるよ」
「あ、ありがとうございます……」
私の手に銃を握らせた、その人を撃ち抜くことができた。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
では、次の方どうぞ