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AIBO学園恋物語  作者: AIBO学園教育課
12/20

12.孔雀に負ける日がくるなんて

秋風です

どっかの別視点です。作者は見ていた。

「先生! 孔雀に勝つにはどうすればいいですか!」


 とある教室で彼女に聞こえないように、だが声を高らかにあげて先生に質問する。その質問に先生は頬を掻いて少し悩んでいるフリを見せて口を開いた。


「逆に君は、どうすれば勝てると思っている?」

「どうすればって……」


 そもそもどうして孔雀に勝たないといけないかーーそれは彼女が生物部に入ってきた時に遡る。

 彼女ーー『町田 ちえみ』は、生物部に最初は興味がなかったらしいが、外から孔雀を眺めていると先生に勧誘されてそのまま孔雀の事を好きになってしまい、今では必ず先生が鍵を開けるとすぐに部室に来ている。部員としてはなんと優秀なことだろうか。

 そんな彼女に俺は引かれてしまった。金色の短い髪は外国を思わせるが、茶色い瞳でそれは否定される。そして少し絡んでいる先輩達の影響だろうかちょっとだけ制服を着崩している。金髪なのも相まって、不良だと思われるが彼女の性格を知ってしまうとそう思う人物はゼロになるだろう。なぜなら彼女はーー優しい。

 コンタクトレンズを落として困っている人がいれば迷わず探し、迷子の子供を見つければ即座に声かけからの周囲に迷子センターがあればそこに向かう。部室もちゃんと掃除するのは彼女だけだし、本当に善人という言葉が似合うだろう。

 そんな彼女の優しい性格に……いや容姿かもしれないが、そこに引かれて好きになってしまった。


「自分の性格?」

「……近からず遠からずだな。一応正解にしておこう」

「自分の性格なんてただの少し真面目な生徒ですよ」


 俺が素直に答えると、先生は無駄に、絶対に無駄に大きくため息を吐いて、わかってないなと言って続ける。


「君の性格は動物達と同じなのかね? さらに言うと世間で賑わせてるギャップを知らないのかね?」

「……ギャップ?」

「そう、ギャップさ。動物達は見ていても明確なギャップ……正確に似合わない行動はしない。けど、人間はどうだ? 稀ではあるがギャップ行為をするものがいて、それを見て好意を抱く者がいる。それを利用するんだ」


 声に熱意が籠っている。単純に先生がギャップが好きなだけかもしれない。だが、それでもこの先生から与えられたヒントを彼ーー伊藤 龍牙(りゅうが)はありがたく頂戴せざるを得ない。なぜなら龍牙は恋をしたことが今までないからだ。

 ていうか、みんながみんな恋愛をするのが早すぎるだけだし? 高校が初恋なんて普通だし。恋人繋ぎ? キス? そんな経験ないない。そんな恥ずかしい事中学ではできないもん。……女々しいっているか乙女かよ自分。

 口には出していないが今の下りは全て行動には出ている。先生は脳内ボケツッコミをしている龍牙を見てニヤニヤしている。他の部員がいたら全員がニヤニヤしているだろう。龍牙自身無自覚の行動で、少し真面目な彼の性格を知っているとギャップを感じてしまうかもしれない行為。少し面白い行為。龍牙に教えたら面白くないから誰も言わないが。

 この脳内の会話が手振り素振りで出てしまうのをちえみは知っている。印象はーー悪くない。むしろ気に入ってるまである。それを龍牙が自覚できたらどれだけいいことやら……。いや、むしろ自覚しては出来なくなるかもしれないので教えないでおきたい。これは部員、先生。そしてこの作者とて同様だ。


 時は経過し、とある日。

 読者は既に見てくれていると信じたいあの日だ。正確に伝えると、ちえみが孔雀といちゃつく日だ。

 その日、龍牙は少し遅れて教室に向かっている。単純に連絡を見るのを遅れただけだ。それでも他の部員より早いのは悲しいことだが事実で、それが龍牙にとっていい空間……。先生がいるのと孔雀からほとんど目を離さないのを除けは。

 教室の前に立つと先生の声が聞こえる。年に似合わずにヒューヒュー! と何かいいことでもあったかのような高いテンション。もう三十中盤なんだから辞めて欲しいところだ。

 手を掛けてドアをゆっくりと開けた時、ガラガラと音が少しだったのが幸いーーいや災いだった。先輩に……町田ちえみが好きな孔雀に対しての会話が聞こえたのだ。


「……愛してる、って言ったら重いですかね」

「----」


 返事はない。当たり前だ。孔雀だから。でも、負けたと思った。いや実際負けた。負けたんだ。

 俺は何分何時間扉を開けた体勢で固まっていたのだろうか。もしかしたらそれほど時間は経っていないかもしれない。でも、俺にとって、あの言葉が、なんども木霊して、脳内を何度も駆け回って、そして震えて、鼻が痺れて、目から涙を流していた。時間が経てば経つほど、震えと涙が止まらなかった。

 ーーどうして。過去を振り返って後悔する。一から百まで全て。

 もっと大胆に行動すべきじゃなかったのか。そうすれば放課後に遊びに行く仲にはなってたかも。その後に、一杯かっこいいところみせて。その後に、先生に教えてもらったギャップ、とか見せて、その後に、その後に、ね……。

 どれだけ先に言ってももう過去の事だ。わかってる。でも、後悔は止められない。

 龍牙は嗚咽を出そうとなった時、先生と目が合った。気まずい、という考えよりも先に先生が横……龍牙に別のところにいけと、そして携帯を指していたから、そこで携帯を見ろと指示を出していた。

 龍牙は扉を閉めることなく走った。変に頭が冴えているもので、扉を閉めたら不振がるかもしれない。走れば、部室前を走り抜ける生徒を演じれる。だから、走った。

 先生はその様子を見ることが出来なかった。こんな可哀想なことなんて見てられないのだ。作者だってその様子は見てない。

 でも、一人。ちえみだけは。孔雀のマキキタ君から顔を僅かに逸らした時、龍牙の、泣いて聞こえないぐらい小さな嗚咽で肩を上下しているのを、本人に、先生に見られないように、見ていた。

この後は続き欲しいと言われるまでご想像にお任せします。では、次話をお楽しみに。

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