10.アイドル宣言
お待たせしました。
ポカ猫です。
今回はアイドルの話です。
では、本編をどうぞ!
この学園にはアイドルがいる。
文化祭、体育祭、合唱祭、その他華やかなイベントの殆どに出ている学園のアイドルグループ。
そのアイドルグループの名前は……
MON
5人組のグループで仲の良い友達同士で最初は結成されたグループだ。
今日はそのグループメンバーが3年生ということもあり、最後の文化祭ライブとなる。
なんで僕がここまで詳しいのかというと……
「祐也!」
僕の名前を呼び、一人の女の子が抱きついてきた。
文化祭前日、学校にはほとんど生徒が夜遅くまで準備のために残っている。
もちろん僕もその一人だった。
備品を取りに体育館の横を通った時に抱きつかれたのだ。
「珠美。いきなりどうしたの?練習中だろ?」
「ちょっとだけ会いたくなったの」
そう言って僕たちは誰もいない体育館裏に向かった。
「練習の調子はどう?文化祭最後のライブだよね。みんな気合入ってるんじゃない?」
僕はMONのメンバーの浜井珠美さんと隠れて付き合っている。
学園アイドルだからスキャンダルが怖いとかそんなことではないんだけど、学園スターのMONのメンバーと僕のようなオタクが付き合ってるっていうのが知られれば、彼女に迷惑をかけてしまうと思って言わないでもらっているのだ。
「明日のライブ来てくれるよね?」
「もちろん、最前列で応援するよ。だから目一杯パフォーマンスしてきね。輝いてる珠美は素敵だからさ」
「ん〜!!ありがとう祐也!大好き!」
珠美は僕にキスをしてから軽く手を振り、体育館に戻っていった。
僕はキスの余韻に浸りながら、体育館奥の備品倉庫から目的であるクラス用備品を持って自身のクラスに帰った。
僕のクラスは体育館からかなり近いこともあり、練習している音楽や声がBGM代わりになっていてクラスメイトたちの準備の士気をあげている。
「MON本当にいいよな〜あの中の誰かと付き合いたいぜ」
「お前じゃ無理だって、ちなみにだれがいい?」
「やっぱ珠美だろ!性格といいスタイルといい最高じゃんか。あいつと付き合える男は幸せだろうな。ついでにエロいじゃん?」
作業をしながら男子生徒が珠美の話をしていた。
確かに珠美はスタイル抜群、性格もいいし他の人で珠美に目をつけている人間はたくさんいる。
しかし、珠美は今まで何度も何度も告白をされてきたが、僕を選んで珠美自身が僕に告白をしてきたのだ。
最初はなにかドッキリかと疑ったけど、実際過ごしているうちに彼女の性格や気持ちに嘘がないということに気づき、しっかりとお付き合いすることになった。
基本的には学校では話すことができず、休み時間にスマホのチャットアプリで会話をするという毎日だった。たまに珠美が我慢できずに先程のようにお忍びで会ったりして、珠美に抱きつかれたりしてる程度である。
後一緒にいれるのは下校くらいだろう。珠美の練習が終わるまで図書室などで時間を潰し、図書室に来た珠美と少し談笑して人が履けたのを確認してから一緒に帰るのだ。
そして、明日彼女の卒業ライブとも言える最後のライブが開催される。
もちろんほとんどの生徒はその時間帯体育館に集まるだろう。
珠美のこの学園での最後の晴れ舞台。見逃さないようにしたい。
結局文化祭の準備が終わったのは夜の9時過ぎだった。
最後片付けだけ終わらせ、校門を出ると影から珠美が出てきた。
「祐也。お疲れ様、大丈夫?」
「先に帰ってていいって言わなかった?寒いし暗い中一人で待つなんて危ないんだから」
「う……ごめん」
「でも、ありがとう。一緒に帰ろうか」
手を繋ぎながら寒空の下を二人で帰る。
時折覗く月の明かりに照らされる時、世界には今僕ら二人しかいないんじゃないかという錯覚に陥りそうになる。
それくらい、彼女は綺麗で素敵だった。
「ねぇ、祐也。祐也は私の活動が終わってもずっと一緒にいてくれる?」
不安そうな声でそう珠美が話を切り出した。
「そんなのずっと一緒にいるに決まってるじゃん。アイドルだろうが、無かろうが珠美は珠美でしょ?」
それを聞いて珠美は安心したのか、涙を流し始めた。
「ずっと不安で。今日の練習中もずっとそのことばかり考えててさ。私、アイドルやめたら何が残るのかなって……」
「大丈夫だから、何があっても僕は珠美の味方で珠美の側にいるからね」
そう言って優しく抱きしめるくらいしか僕にはできない。
何か僕も彼女に恩返しをしてあげれたら良いんだけど
彼女を無事家に送り届けてから、商店街の中をゆっくり歩きながら先程のことを考える。
「なにか恩返ししたいけども」
そう思っている時に、一つのジュエリーショップが目に入った。
「アクセサリーか…… 何かあったときのために金は貯めてたし、ちょっと見てみようかな」
ジュエリーショップに入ると、やはりそこにはきらびやかなアクセサリーが並んでいた。
珠美に似合うものは何かと考えていると、きれいな装飾をされたブレスレットが目に入った。
「これ、珠美にすごく似合いそうだな……」
そのブレスレットに一目惚れしてしまい。珠美へのプレゼントにと購入した。
気分よく、自宅に向かって歩いている自分に気づき、浮かれているんだと実感した。
「珠美気に入ってくれると良いな……」
文化祭当日、一般客をさばきつつ料理をするという無理難題が押し寄せる中で、僕たちは学園生活最後の文化祭を楽しんでいた。
ちなみに、僕たちの出店はクレープとベビーカステラの店で子供や女性客がかなり押し寄せてきている。
顔の良い男子数名が客の女性に捕まってしまったということもあり、かなり忙しい状態だった。
お昼がかなりピークでライブ前ということもあり、ライブを見ながら食べれるベビーカステラを皆が買いに来たのだ。
「あー!忙しい!!裕也!女子に捕まってた男子連れ戻して来たからお前休憩行ってこい!」
「あ、うん。わかった」
運良くライブ10分前に解放され、会場の体育館に向かうことが出来た。
約束通り、最前列で珠美達が出てくるのを待つ。
時間になり拍手と共にMONのメンバーがステージに現れた。
「みんなー!!元気にしてるかー!?」
珠美が大声で叫び、それにつられて観客も叫び出す。
本物のアイドルのライブのような一体感だ。
「今日で私たちはこのグループを卒業するから……卒業前にみんなに言うことがあるの!」
突然始まった珠美の報告枠、周りもソワソワしだしている。
「私!付き合ってる人がいます!!」
「…………!?」
珠美……ライブ前に何を言うつもりだ……?
案の定会場からはザワザワと誰だ誰だと、珠美の彼氏探しが始まっていた。
しかし、メンバーは驚き顔どころか嬉しそうな楽しそうな顔をしている。
もしかしてメンバーはもう知っていたのだろうか。
「私が付き合ってるのは…………」
そう言って珠美がステージから降りた。
一直線に僕の方に走り……
そして思い切り飛びつくように抱きついてきた。
「この裕也だよ!!」
満点の笑みで、そのまま俺にキスをしたのだ。
最初は僕が相手と知ってまたざわついた観客達も、珠美が僕にキスした瞬間、ざわつきが全て歓声に変わった。
「ほら、裕也!こっち!」
僕の手を引き、珠美とステージに一緒に上がる。
ステージの上から改めてお客を見ると、そこには推しの結婚を全力で応援するような、そんな心優しいファンの顔をした同級生や後輩、一般客の姿があった。
ああ……なんだ、僕が不安になっていた事は……
こんな小さなことだったのか……
「珠美……」
「なーに?裕也」
大勢の観客に見守られながら、僕は昨日買ったブレスレットを珠美に渡した。
「え……?」
「これ、僕の気持ち……これからもずっと一緒にいてほしい」
珠美の腕にブレスレットをつけてやり、突然のことに涙している珠美にキスをする。
再び僕達は歓声に包まれ、僕は最前列の客席に戻った。
MONの珠美の……いや、僕の彼女の晴れ舞台を見るために。
「みんな……!最後のライブ!やるよ!!今日の主役は……!」
涙を拭いている珠美を横目に、他のメンバーが話し始めた。
「もちろんこの人!た・ま・み!!」
合図のように観客と一体となり珠美の名前を呼ぶ。
ちょうど涙が止まったのか、珠美が笑顔で両手をあげる。
「みんな!!今日は私から目ェ離すんじゃねぇーぞー!!」
「おおおおおおお!!!!!」
珠美の合図と共に、MONの最後のライブが始まった。
今までのライブの中で1番の一体感と踊っているMON自体の楽しさが伝わってくる。最高のライブだった。
文化祭が終わり、後片付けも終了して。
僕達は片付けが終わった体育館で隣同士で座っていた。
「文化祭……終わったね」
「うん、最高の文化祭だった。珠美の行動にはびっくりしたけど」
お互い今日のことを話して笑い合う、良い時間だ。
こうやって誰の目も気にせずに話せる時間を実はずっと望んでたのかもしれない。
「それはこっちのセリフだよ。プレゼントなんて聞いてないよ?」
「そりゃ昨日帰り道で思いついたことだからね」
2人で肩を寄せ合い、空いた扉から入ってくる風を感じながら、2人だけのこの空間を噛み締める。
「アイドル卒業したけどどう?気持ちは……」
「卒業なんてしてないよ。私はいつまでもみんなの心の中にいるし。しかも、私は裕也だけのアイドルだよ!」
珠美を抱きしめて、頭を撫でる。
絶対に幸せにしよう。この僕だけのアイドルを……
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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