第九十七話~追討~
第九十七話~追討~
思い付いた船の建造をする為、大型の貸しドックがある星系まで移動する。ついでにギルドで仕事を受けて、建艦の足しにとしたのであった。
到着したコロニーステーションにあるギルドに赴いて、依頼品を持ってきた報告をする。その後、運送してきた荷をギルドへと引き渡した。間もなく、カズサからギルドの職員へ荷が引き渡されるだろう。しかしその辺りは、ネルに任せておけば問題はないのだ。
その運んできた依頼の荷とは別に、個人で購入した荷を降ろす。この辺りの星系ではいわゆる嗜好品となるものを中心に購入した物なので、高く売れる筈である。実際、高額で売れたので、さらに懐は温かくなったのだった。
積んできた荷を引き渡し、そして自前で購入した品を売り捌いた俺たちは、目星を付けていたドックへ連絡する。事前に連絡はつけておいたし、既に先方へ前金も納入している。だから、ドックを使用することに何ら問題はないのだ。
その後、ドックのオーナーと会って顔合わせをしてから、早速シュネが陣頭指揮をとって宇宙船……いや工作船の製造へと入った。
とても嬉しそうな表情と雰囲気を醸し出しているシュネを見て、本当に好きなのだと思う。そんな彼女の近くでは、セレンや俊も手助けをしていた。事実上、二人はシュネの魔科学における弟子と言っていい。彼ら曰く、まだ師匠となるシュネには及ばないらしい。だがそれでも、二人がシュネから魔道具についての教えを受けていることに変わりはない。前述したように、シュネが建造する船はそれ自体が巨大な魔道具と言っていい存在である。ゆえに、シュネの弟子となるセレンや俊が建造するに当たって手伝いをしているのだ。
「このまま見ていても仕方がない。出かけるぞ」
何とはなしに見学している祐樹やオルたちに対して、促すように声を掛ける。すると、動き始めた俺に続く形でみんなが動き始めた。もっともシュネとセレンと俊、そしてサブリナ以外である。シュネとセレンと俊は、ドックに残って宇宙船を作るのだから当然である。しかしフィルリーア出身で、しかも俊のように魔道具作成に興味を示さなかったサブリナが何ゆえに残ったのかというと、どうやら俊と離れたくなかったからのようだ。
完全にプライベートなので立ち入っていないが、どうも俊とサブリナはお互いに意識しあっている節がある。実際、俊とサブリナが二人きりで出掛けているところは、俺もそう多くはないが見ているので間違いないだろう。それに、二人と元から仲間であった舞華も同じことを言っていたので、俺の勘違いという可能性は低いと思われた。
なお、祐樹は気付いていないらしい。これもまた、舞華が言っていたことなのだ。
まぁ、二人が付き合っているかは置いておくとして、今は出かける方が先だ。先に上げた四人と、建艦の人員としてのアンドロイドやガイノイドを必要数分だけドックに残して、俺たちはカズサへと戻る。そのカズサに乗り込むと、コロニーステーションの管理局へ連絡して出港の手続きを行う。程なくして許可を得た俺たちは、僚艦の大型駆逐艦と共にコロニーステーションから出港したのだった。
そんな俺たちが向かったのは、今いる星系内にある小惑星帯である。この星系には、太陽系のアステロイドベルトほどではないが、小惑星が集まっている領域が存在している。そこに向かい待ち伏せして、宙賊たち賞金首や犯罪者を狙うのだ。
もし、この方法が上手くいかなかったとしても、別の方法を使って狙えばいい。それこそ以前使った手となるが、大型駆逐艦を囮にするというやり方だってある。そういった方法などを、行えばいいだけなのだ。
俺たちは、現在いる惑星系外縁部に近い場所にある小惑星などといった小天体が集まっている領域でじっと潜んでいる。当然だが、盗掘をするだろう標的に見つからないように重力魔術を使っている状態である。これで電波的にも、そして光学的にも発見されにくい。要するに、全ての艦がステルスモードとなっているのだ。
さらにエンジンの出力を目いっぱいにまで上げた偵察用の小型機を放出して、周辺の情報収集も行っている。この小型機だが、いつの間にかシュネが作っていた機体なのだ。彼女が「こんなこともあろうかと」と言って紹介した表情だが、いわゆるどや顔であったと思う。
さて偵察機全体の大きさとしては、最大で十メートルもない。はっきり言って、高出力エンジンに翼を付けたような代物なのだ。そして武装もなく、完全に情報収集へ特化している。シュネ曰く、哨戒機をモデルにしていると言っていた。
「それで、反応はあるか?」
「まだ、ないわよ」
基本的に待ちなので、一度潜めば俺たちが大きく動くことはない。そのような状況の中、俺は暇を持て余しながらブリッジに座っていた。そして気を紛らわせる為にシュネに話し掛けたというわけだが、彼女から返ってきた言葉は芸も愛想もない事務的な一言だった。
あっという間に終わってしまった会話に、話し掛ける相手を間違えたなと思いつつブリッジ内を眺める。すると祐樹やオルたちも、俺と同じように暇を持て余している様子だった。
しかし、それも仕方ないだろう。俺が暇を持て余したのだから、他にも暇を持て余していたとしても何ら不思議なことはない。そのようなことを漠然と考えながら、さらに視線を巡らした俺は、ふとブリッジにあるメインモニターへ送られてきている映像に目を向けた。そこには、複数飛ばしている哨戒機からの映像が流れている。だがそちらにも、これといった変化はないようだ。
「宙賊の野郎。現れて欲しくないときは出没するくせに、出てきて欲しい時は全然姿を見せないな」
「そんなものじゃないか? よくあることだろう?」
「ちくしょう、物欲センサーめ。仕事すんな」
一向に現れず、影も形も見えない宙賊に対して愚痴を漏らしたのを聞いた祐樹からの言葉に、俺はやや不満げな気持ちを乗せつつ言葉を返す。それから相変わらず変化が乏しいモニター映像を一瞥したあと、視線を外してから目を閉じた。
どうもこのままでは、中々に獲物が現れそうもない。そこで監視はネルトゥースやネルたちに任せて、俺はひと眠りするつもりだったというわけである。しかし思いのほか疲れていたのか、間もなく眠気が襲ってくる。勿論、その眠気に逆らう気もない。俺はそのまま眠りに落ちようとした瞬間、ネルから警告が発せられた。
「反応あり! メインモニターに出します」
半ば眠りかけていた俺だが、ネルから出た警告を聞いた瞬間には覚醒した。これは、まだ日本にいた頃からのものである。俺はたとえ眠っていたとしても、すぐに意識を覚醒できるようにと散々に師匠の祖父に叩き込まれたのだ。
意識ともども即座に覚醒した俺は、すぐにメインモニターへ目をやる。すると分割された映像の一つに、見覚えがない四隻の宇宙船が映り込んでいた。それなりに武装した宇宙船が三隻と、中型と思える輸送船が一隻という構成だ。その小艦隊だが、全くもって統一性がない。武装も、そして宇宙船の形状もバラバラなのだ。当然だが、ギルド所属の艦船でもない。もしギルドに所属しているならば、ギルドに所属しているという反応が出る。その反応もないので、少なくともギルドに所属している船ではないのは確定なのだ。
また、ギルドに所属していなくても、通常の艦船であればどこに所属しているかという反応も出る。しかしいずれの反応も出ていないので、このモニターに映っている四隻は不正規艦船に間違いない。
「十中八九、宙賊だろうな」
≪たとえそうでなかったとしても、これは普通に盗掘に当たるんだろ?≫
「ま、そうだな。じゃ、祐樹。任せた」
≪おう、任せろ≫
いつもならシュネに任せて俺も出撃するのだが、そのシュネがこの場にいないので俺がカズサに残っている。柄じゃないことはなど十分に分かっているが、こればかりは仕方がない。すると間もなく、祐樹たちが次々に出撃していくのがモニター越しに見えた。
「シーグヴァルド様。出撃をせずによろしかったのですか?」
「仕方がないだろう、シュネがいないんだから」
前線に出ないでブリッジに座っているなど似合わない。そんなこと、俺が一番分かっている。とはいえ、相手も四隻しかいない。その程度の数なら、祐樹たちなら問題なく勝てるだろう。今までの戦闘から判断しても、間違っているとは思えなかった。
「ですが、大丈夫なのですか?」
「何がだ、ネル」
「それです」
「それ?」
ネルの言葉に視線を向けると、彼女は俺を見ている。いや、よく見れば彼女は俺が腰掛ける椅子のひじ掛けを見ていた。そこで漸く気付いたのだが、俺は無意識に自分が腰掛けている椅子の肘掛を、そこに置いた指で叩いていたようだ。どうも出撃できないことを紛らわす為に、無意識にしていたみたいだ。
そのことを指摘されて何となくばつが悪くなった俺は、誤魔化すように肘掛けに置いていない反対の手で後頭部を掻く。それから咳払いをしてから、俺は視線をモニターへと向けた。
因みに標的となった宙賊もしくは盗掘業者だが、あっさりと祐樹たちに負けて宇宙に散華している。今までの戦闘から負けないとは思っていたが、実に短時間でしかも盛り上がりもなく決着がついていたのだ。
まぁ、予想通りではあったが。
その後、カズサを発進させて祐樹たちと宙賊の戦闘が行われた宙域まで移動する。その場所に到着すると、ここでドローンを放出してその宙域のサルベージを行う。あらかた目ぼしいものの回収が終わると、俺たちは再び待ちの体勢へと戻ったのであった。
別連載を始めました。
タイトルは「劉逞記」
古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。
ご一読いただき、ありがとうございました。




