第九十五話~建艦~
第九十五話~建艦~
ギルドで受けた依頼の品を無事に届けたあと、俺たちは自由行動とした。その自由行動のさなか、俺はシュネと惑星に降りてデートと洒落込んだのであった。
その日は、カズサに戻らずにホテルで部屋を取って一泊する。一応恋人同士なので、部屋で運動に邁進していのは言うまでもないだろう。
あくる次の日、ホテルをチェックアウトすると、俺たちは一まずカズサへ戻る。しかしながら、全員が戻っていたわけではなかった。俺と同じく自由行動で惑星上に降りた祐樹たちは、戻ってきていない。ただ前日に、連絡はきているので心配などしていなかった。
どのみち、すぐに次の仕事を受けるつもりはない。だから彼らがいなくても、何ら不都合はないのである。
「さて、次はどうするかな」
「どうしようかしら」
「うーん……あっ! いっそのこと、船を増やすかぁ」
「あら、シーグ。それも、いいわね」
元々、宇宙に出る際に計画していたのは戦闘空母一隻、巡洋艦一隻、軽巡洋艦一隻、大型駆逐艦三隻という構成を予定していた。つまり当初の予定では、戦艦を建艦するはなかったのだ。しかし斗真、即ち悪魔と手を組んだことでその予定を変更せざるを得なくなったわけである。
俺が宇宙に出ることを聞いた斗真が、同行してフィルリーアから出たいとの希望を伝えてきたからだ。手を組んだ以上、見捨てるという選択をする気もなかったので、予定を変更したというわけだ。
当初の予定では旗艦となる筈だった戦闘空母だが、悪魔たちを運ぶための移民船に改造している。そして、その代わりに旗艦としてカズサを建艦したのだ。また軽巡洋艦は取り止めて、その分をつぎ込み巡洋艦を重巡洋艦へと変更したのであった。
こうしてフィルリーアから出た際の艦隊構成は、戦艦一隻、重巡洋艦一隻、移民船一隻、大型駆逐艦三隻となっていた。その構成で宇宙という大海原に乗り出し、ついには悪魔たちの移住先を見つけて斗真たちと別れたのだった。この時、斗真たちへ大型駆逐艦二隻と移民船と重巡洋艦は斗真に譲渡しているので、今は戦艦一隻、大型駆逐艦一隻、そしてクルドから譲渡された小型艦一隻という、フィルリーアを出立した時と比べるとかなりお寒い艦隊となっていたりする。
「問題は発注するか、それとも自前で造るか何だけど……やっぱり自前だよな」
「そうね。そもそも、一般的な宇宙船とは完全に隔絶しているからね」
シュネが建艦している宇宙船は、ある意味でそれ自体が大きな魔道具なのだ。そのような構造を持つ宇宙船を、この銀河で普通に流通している宇宙船に組み込むとなると、返って建造費用が高くなってしまう。何せまず宇宙船を一隻購入して、そこから改造することになるのだから当然だろう。それならば、初めからシュネが一から建艦した方が安くなる。少なくとも、シュネの試算ではそうなっていた。
「そうだよな。やっぱり、自前で建艦する方がいいか」
「それで艦種はどうするの?」
「うーん。ここはやっぱり、そもそも旗艦だった船を建造しようか」
「戦闘空母を? そうね、悪くはないわね」
戦闘空母だが、別名航空戦艦ともいう。このタイプの船は、戦艦としての長所と空母としての長所を相殺してしまう兵器と認識されているらしい。しかしシュネが建艦する場合、実はその認識が当て嵌まらないのだ。
そもそも論なのだが、何ゆえに戦艦の長所と空母の長所を相殺してしまうといわれているのか。それは、構造上の問題があるからだ。戦艦は、特に大型の砲塔を持つような場合となると、艦の中心軸上に砲塔を配置する必要がある。しかしそのような構造にしてしまうと、今度は空母に必要な飛行甲板を設置することができなくなってしまうのだ。
さらに言うと、発砲時に生じる衝撃も問題となる。衝撃が発生することで、扱いがデリケートな航空関係に損傷を齎してしまうからだ。
一方で、シュネ建造する船は先に上げた条件は発生しない。まず、砲塔自体がないので配置を考える必要がない。それに主兵装はレーザーのような光学系となるので、発砲時における衝撃もまず発生しない。つまるところ、何ら問題はなかったりする。だからこそ、シュネも戦闘空母を建造しようと考えたのだ。
とは言うものの、今すぐに建造を始めるというわけにはいかない。宇宙船を建造するに当たって、ドックが必要となるからだ。流石に、何もない宇宙空間で宇宙船を作り上げるなどできるわけがないとは言わないが難しいのである。ゆえに俺たちは、ドックの情報を得る為に、取りあえずギルドで情報を閲覧することにした。
喫緊の予定もなく暇となっていることもあって、いまだ戻ってきていない祐樹たちは一まず置いておく。今は、カズサにいるメンバーでギルドへ向かうのだ。道中、談笑しながらギルドへ向かったが、もう以前のように素行がよろしくない輩にカモ扱いされて狙われる心配はまずない。何より、治安が悪いようなエリアを通るわけでもないの。ゆえに、俺たちは、そのような問題に遭遇することなく無事にギルドへと到着していた。
「ふっ。以前が懐かしいぜ」
「シーグ。何を言っているの?」
「……いや、なんでもない」
独り言を零したつもりだったのだが、シュネには聞こえていたらしい。その彼女から素で問われてしまったので、何となく気恥ずかしくなったので誤魔化すことにした。その後、ギルドの建物に入ったのだが、彼女はまだ首を傾げている。しかし、俺は決して視線を向けなかった。というか、何となく恥ずかしくて視線を向けられなかったのである。
だから聞くなよ、これ以上は。
「シュネ姉。そんなところで立ち止まって、どうしたんだよ」
「え? ああ、ごめんなさい」
その場で止まって相変わらず首を傾げていたシュネだったが、オルに声を掛けられたことで思考を止めたらしい。すぐにこちらへ走ってきて合流したのだった。
よくやった、オル。
ギルドにある情報端末からドックの情報を探索すると、この星系内では残念ながらヒットしない。いや、正確に言えばヒットしないわけではないのだ。あるにはあるのだが、大型の艦船を作れるほどの宇宙船建造用ドックがないのである。そこでさらに今いる星系の外にまで探ってみると、離れた星系にあることが分かった。
「これならいけそうだな……」
「そうね。高いけど」
確かにドックはあった。だが、そこを借りようとするとレンタル代が高い。これには勿論、理由がある。宇宙船を手に入れる場合、造船会社に発注するのが普通である。つまり俺たちのように一から自分たちの手で宇宙船を、しかも大型の宇宙船を建艦しようと考える者などまずいないのだ。
だが中にはいるので、全くいないわけではない。だからこそ大型艦船建造用の貸しドックなどが存在しているわけだが、やっぱり数は少ないのだ。それに、宇宙船を購入してから自分好みにカスタマイズするという者もいる。そういった需要を満たす為に、貸しドックは存在しているのである。
「だけど、他に手はないだろう」
「ないわけではないけど。今は、借りた方がいいわね」
「え? あるのか」
「あるかないかと言われればあるわ。だけど、すぐには無理よ」
「じゃあ、決まりだな」
レンタル代が高かろうと、すぐにできる手立てがない以上は受け入れるしかない。駄々をこねたところで、宇宙船のドックが使用できるわけではないし賃貸料が安くなるわけではないのだ。
「ではせめて、依頼でも受けましょう。少しでも資金が増えれば、それに越したことはないのだから」
確かに、シュネのいう通りだな。
お金は、幾らあっても困ることなどない。それに大きな出費が決定しているのだから、少しでも稼いでおきたいと思うのも道理だろう。それにもし依頼がなかったとしても、向かった先で高く売れるような物品を仕入れておいてのちに売れば、それだって立派な収入源となるのだ。
ああ、そうだ。
ついでに、賞金首の情報も手に入れておくとしようか。あいつらも収入源という意味では、立派に対象となるのだから。
その後、賞金首の情報を得てからギルドへ話を通して依頼も探してもらう。狙い目は輸送依頼だが、必ずしも拘らない。どこまでいっても今回は、貸しドックへ向かうついでに受ける依頼だからだ。
その結果、目的地星系の一つ手前の星系までの依頼を紹介される。しかも内容は、輸送依頼だった。まさにうってつけの依頼なので、早々に受諾する。しかも日付的にも余裕があるので、今すぐに出発するという必要がなかったのもよかった。
「この依頼を受けるか」
「そうね」
「いいんじゃない?」
俺の提案に、シュネとセレンも同意する。その向こうで、オルとキャスの兄妹も頷いているので、二人も異論はないようだ。まぁ、祐樹たちはいないが、そこは仕方がない。いやでも、飲んでもらう。もっとも、嫌などと言うとは思えないけどさ。
兎にも角にも、紹介された輸送依頼を受諾しておく。運ぶ荷の搬入に関しては、ネルに連絡を入れておけば対応するだろうから問題はないだろう。その後、仕事を受けたことを連絡入れたあとで、ギルドの建物から出てカズサに戻る。やがて到着すると、既に搬入は始まっているが、まだ殆ど積み込まれていなかった。
その様子を視界の隅に収めながら、カズサに乗り込んで待つことにする。この搬入ペースなら、今日中には終わるだろう。あとは祐樹たちが戻ってきたら、彼らを収容して出発という運びになるようだ。すると予想通り、輸送する荷の搬入は今日中に終わる。そして翌日の昼過ぎ頃になると、祐樹たちが戻ってきた。
「昨夜は、お楽しみでしたね」
「だー! シーグ!! てめえ……人のことが言えるのかよ!」
「さー。それは、どうでしょう」
それから、祐樹たちに依頼を受けたことと新しい船を建造する旨を伝えた。しかして彼らからも、予想した通り異論が出ることはない。と言うか、祐樹辺りは積極的に賛成している。しかも新しい宇宙船が戦闘空母だと聞いて、かなりテンションを上げているのだ。
そんな祐樹を、舞華と俊は苦笑してみている。ただ一人、サブリナだけは不思議そうに首を傾げていたのが印象的だなと思えたのであった。
新しく、小説を始めました。
タイトルは「劉逞記」
古代中国、漢後期からの歴史ものとなります。
ご一読いただき、ありがとうございました。




