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第九十四話~逍遥~


第九十四話~逍遥~



 途中で立ち寄った連星が主星の惑星系で、天体ショーとも言えるような情景に目を奪われてしまった俺たち。仕事を受ける際にこの惑星系の情報を得たので寄ったのだが、その価値は十分にあるものだった。





 連星が主星の惑星系から離脱した俺たちは、再びハイパードライブを使い目的地となる惑星系へと辿り着いていた。やがて到着したコロニーステーションに連絡して寄港の目的を伝えて停泊の許可を得る。問題なく許可を得た俺たちは、無事に宇宙船を停泊させてから積んできた依頼品の荷下ろしを始める。そちらに関してはネルに任せることにした俺は、下船してギルドへ向かう。その理由は、依頼を受けた星系から出る前に返り討ちにした宙賊団に掛けられていた賞金を受領する為だった。

 流石に公的機関の代行ということもあってか、賞金首を討ったという報告だけでは賞金は渡してはくれないのである。ちゃんとした手続きを経る必要があるので、その為にギルドへ足を運んだのだ。当初は俺だけが行こうかと思っていたのだが、どうやらシュネはついてくる気でいるらしい。別に断る必要もないので、了承して一緒に行くことにした。

 その後、問題なくギルドに到着したあとで、手続きを済ませて賞金を受け取る。もっとも賞金は振り込まれるので、貰えるのは明細だけであるのだが。


「さて、依頼料は荷下ろしが終われば振り込まれるからいいとして、だ。これから、どうするかねー」

「ステーション内を歩くのもいいけど、今日は降りましょうか」

「そうだな。それもいいか」


 俺が話を振ると、シュネから惑星へ降りようと提案された。そこで、カズサに惑星へ降りるという連絡をする。それからコロニーステーションと地上を結んでいる連絡艇に乗って、地上へと向かった。もっとも、惑星上に降りたからと言っても何かしたいことがあるわけもない。ただ単純に暇潰しでしかないので、目的もなくただぶらぶらと町中を歩いていた。

 こうして二人して歩くその通りには、色々な人種が歩いている。一番多いのは、人間型だろう。見た目的に、俺やシュネと変わらない容姿である。そして意外と多いのが、獣人タイプだ。オルとキャスの兄妹のように、耳と尻尾以外ほぼ人間と変わらない容姿の者から、二足歩行する動物のような容姿まで実に様々さまざまである。とはいえ、彼らが別に裸で歩いているわけではない。あくまで見える範囲、具体的には顔が毛に覆われているとかで判断しただけだった。

 他には、爬虫類系が進化したのではと思われる容姿を持つ宇宙人もいる。見ている分には、本当にバリエーションが豊かであった。そのまま何とはなしに通りを歩く宇宙人たちを見ながら歩いていたのだが、視界の先に見える姿を見て思わず驚いてしまう。まさか見ることができるとは、思ってもいなかったからだ。

 というか、何でいるんだよ宇宙に。


「マジかよ!」

「どうしたの、シーグ」

「いや、だってよ。シュネ、前見ろよ」

「ん? ああ、エルフね。それがどうかしたの?」

「え? いや、その……はい?」


 あれ?

 何か、俺の予想した反応と違うのだけれど。いや、だってエルフだよエルフ。ファンタジーものの定番、あのエルフですよ。よく、自然と共にとか表記されるあのエルフが、宇宙が当たり前の世界にいるのだ。

 それで、何で驚かないんだよシュネ!


「本当に、どうしたの?」

「いや、だからさ。エルフが、その……いるんだけど」

「ええ、そうね。だから、何?」


 そう、普通に対応されると上がったテンションが激落ちしてしまう。やっぱり、俺の反応がおかしいのだろうか……やっぱりおかしいのだろうな、シュネの反応を見る限りでは。

 さっきまでのテンションが上がった状態とは違って、何ともいえない気持ちで通り過ぎるエルフの女性を見送っている。相手もこちらに気付いた様子もなく、エルフはそのまま通り過ぎていった。


「……はぁ」

「本当に大丈夫? もしかして、体調でも悪いのかしら」

「そんなことはない、大丈夫だ。ただ、エルフがいたことに驚いただけだから」

「えっと……さっきも聞いたのだけれど、何で?」


 本当に不思議そうに尋ねてくるシュネに対して、俺は一つ溜息をついてから説明を始めた。もうさっきのように舞い上がったと言っていいテンションなど、どこにも存在していない。それこそ、淡々たんたんに俺は説明をする。すると、シュネが納得したような表情を浮かべていた。


「そういえば、実際に会ったことはないわよね。わたくしも、そしてシーグも」

「確かにそれもそう何だけど、俺が言いたいのは普通に宇宙時代の町にエルフがいるんだぞ」

「う~ん? ん? ああっ! そういうことね!!」


 初めの方は理解できていないようだったが、どうやら俺の気持ちを理解してくれたらしい。そうだよな、俺はおかしくないよな。やっぱり、宇宙が当たり前の町にエルフがいるなんておかしいよな。

 そう思っていたのだが、他でもない目の前にいるシュネから否定されてしまった。それは、流石に予想できなかった。彼女に言わせると、エルフという種族は数こそ少ないがちゃんといるらしい。まさかの言葉に、驚いしまっていた。


「そういえば、言ってなかったわね。シーグも、気にしていなかったみたいだし」

「えっと……どういうこと?」


 その後、シュネから続けて説明を受けたことで、俺は改めて驚いた。

 この宇宙にいる魔術を扱える者……まぁ、場所によっては魔法ともいうらしい……兎も角、魔術にしても魔法にしても扱える種族と言うのは、エルフが多いらしい。中にはエルフ以外でも扱えるようだが、大抵はエルフであることが多いのだそうだ。寧ろ、フィルリーアのように種族問わずに魔術が使えるのは珍しいというのが宇宙での常識らしい。勿論、全くないということではないらしいが、それでも珍しいのだそうだ。

 初めて知ったわ、俺。

 前にシュネから宇宙における魔術を使う者……魔法もそうだが。何であれ、魔術について調べて貰った際に扱える者が少なくて希少性が高いということだけ分かればそれで十分だと思っていたから、魔術を使う者がどういう者なのかなど聞かなかったのだ。

 こんなことになるなら、ちゃんと聞いておけばよかった。



 その後、どうにか気を取り直した俺は、シュネと再び通りを進む。殆どデートかはたまたウインドショッピングかという感じとなってしまったが、まぁいいだろう。宇宙にエルフが普通にいるという事実に打ちのめされた俺としても気分転換になるので問題はない、ないったらないのだ。そう思いながら歩いていると、前からくる人の服が目に映る。その服とは、日本にいた頃も似たような物は見たことあるものだからだった。


「あっ! 文化は遥かに進んでいてもあるのか、あの手の服」

「え? あ、本当ね」

「まさか、ゴスロリを見るなんて」


 俺はゴスロリ服としか知らなかったが、正確に言うとゴシック・アンド・ロリータというらしい。そう、シュネが教えてくれた。そのことを聞いた時は、よく知っているなと思わず感心してしまったが。もっとも、感心したのはその一瞬だけだ。どうせ知っていたところで、正式な言い方をする機会などまずないからである。何より、この惑星でも同じように言うのか分からない。あくまで俺の認識では、ゴスロリだということでしかないのだから。


「ゴスロリかぁ……」

「何? もしかしてシーグ、興味があるの?」

「ああ、そうだな……って! まて!! その聞き方だと、俺があの手の服を着たいと思っているように聞こえるぞ! そもそも、何で、俺が、女装をしなくちゃいけないんだよ」


 俺の認識から言わせてもらえれば、ゴスロリ服は女性向けの筈である。似たような服にロリータファッションとかいうのもあったと思うが、違いがよく分からない。何か、似たような服に思えてしまうのだ。

 ともあれ、もし俺に女装趣味があるというならば、まだ分からなくもない。だが、少なくとも俺にそんな趣味はないのである。ゆえに、ゴスロリファッションにしてもロリータファッションにしても俺が着るなどごめんこうむるのだ。


「あら。男性向けもあるわよ」

「え? あるの? 男性向けって……」

「ええ。流石にロリータファッションにはないと思ったけれど、ゴスロリにはあるわ。ただゴスロリというより、ゴシック服と表現するのが正しいのかも知れないわね。それで、興味はあるの?」

「あるか! そんなもん!! ただ俺は、シュネが着てみたら似合うかと……あ」


 そう。

 俺が思ったのは、シュネが着たら似合うかな? そう、思っただけである。本当に、ただそれだけだったのだ。思わず勢いに任せて暴露してしまったのが、すっごく悔やまれる。ふと見ると、シュネは不思議な表情をしている。嬉しいようでもあり、照れているようでもあった。


「ふ、ふーん。わたくしに着て貰いたいの。そうなんだ、なるほどねぇ」

「な、何だよシュネ。その、含んだような物言いは」

「そぅねぇ。着てあげても、いいわよ。た・だ・し。シーグが頼めばね」

「お願いします」


 シュネの言葉を聞いた直後、すぐに言われた通りにお願いをする。本当に俺は、彼女に似合うと思えたのだ。今まで、少なくとも日本にいた頃には、そんな機会はなかった。何よりゴスロリ服を……これはロリータファッションも同じなのだが……その手の服を着る人をまじまじと見たことはない。だから、今までそんなことを思ったことなどなかったのだ。

 だが、今回たまたま日本ではないこの場所で見掛けた為か、長い時間ではないにしても実際に人が着ているのをしっかりと見てしまった。それで何となくであるが、シュネに似合うような気がしたのである。


「か、間髪入れなかったわね」

「その、さ。本当に似合うと思ったから、見てみたい。そう思った次第であります」

「そ、そうなのね……分かったわ、着てあげる」

「マジ!」

「ええ。だけど、買ってくれるのよね」

「勿論だ!」


 シュネの言葉に、俺は力強く頷く。あくまで俺の感覚に過ぎないが、きっと似合うそう思えたのだ。その為の出資なら、受け持つことに躊躇いはない。シュネはいささか呆気に取られていたようだが、そんなことはどうでもいい。今は、シュネがゴスロリ服を身に着けているところを見る。それでいいのだ。

 因みにその後、検索して見付けたゴスロリ服を扱う店に入って試着したシュネの姿は、想像以上であった。それは実にいい、目の保養であったことを明記しておく。

 御馳走様でした。

日常(?)の一コマです……多分。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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