第九十三話~連星~
第九十三話~連星~
襲い掛かってきたスカレー宙賊団を返り討ちにして壊滅させた俺たち。その後、戦場をサルベージしてお金になりそうなものを回収すると、本来の仕事である輸送の依頼を果たす為にその場を離れたのであった。
今、天体の奇跡を目の当たりにしていた。
俺たちのいる場所からいささか離れた場所には、連星が存在している。その連星同士の距離だが、観測によると連星を形成している二つの星がそれぞれに持つ半径の十倍はないぐらいとのことである。シュネに言わせると、これはかなり近いらしい。こういった連星同士の距離が近い場合、近接連星というのだそうだ。
そしてこの連星の間には、お互いの恒星が放つガスによって作られた流れが形作られている。その為か、まるで連星が一続きのように見えているのだ。さらに言うと、ガスによる流れの中になぜか岩塊が多く含まれている。その岩塊だが、ガス流の動きに従ってそれぞれの恒星を巡回するように動いているのだ。
「すげーな、これ」
「本当だな」
『きれい……』
ガス流に乗って流れる岩塊たちが光を遮るので、その瞬間だけまるで明滅しているように見える。それはあたかも、イルミネーションのごとく瞬いていた。その瞬きを見て、シュネたちが見惚れている。彼女たちが漏らした先程の呟きも、女性陣が異口同音にこぼれ出た言葉である。彼女たち女性陣は完全に見惚れているので、どうやら意識せずに呟いていたようだった。
だが、気持ちは分かる。俺だって、この景色を見たときは一瞬だが息を飲んだくらいなのだ。無論、俺だけではなく祐樹たちも同じである。もしネルトゥースやネルたちがいなければ、その間は周囲に対して無防備になったかもしれない。それぐらい、目の前に広がる天体ショーは、見事であり美麗であった。
「なぁ、俊。この岩の塊だけど、どっからきたんだ?」
「え? どこって、祐樹。それは、どういう意味だ?」
「だってさ。岩があるということは、当然その元になった物があるんだろう? だけど連星の周りには、何もないじゃないか」
「……あ……」
いみじくも祐樹が言ったように、連星の周りには岩塊の元となるような物は何もない。一応連星を中心とした惑星系を構成しているので、この連星の周りを回る惑星は存在している。だが、それでも連星からは距離があるのだ。
だからといって、連星の近くにはアステロイドベルトのように惑星にまで成長せずに小惑星のままで軌道上に存在している様子もない。つまるところ、岩塊がどこから供給されたのかが全然分からないのだ。
確かに、不思議ではある。連星の近くを偶々通った小惑星などが捕らわれた可能性もあるが、それにしては岩塊の数が多いように感じられるのだ。
「もしかしたら、準惑星クラスが一つ、壊れたのかも知れないわね」
「シュネ、それはどういうことだ」
「あくまで想像だけど、この連星の近くに惑星ほどまでには大きくなれなかった準惑星があったのかも知れないと言うことよ」
シュネからの言葉を聞いても分からない俺は、首を傾げてしまう。それは、祐樹たちやオルたちも同じようである。そんな俺たちを見てシュネは苦笑を浮かべたあと、説明をしてくれたのだった。
シュネに言わせると、準惑星ぐらいの大きさまで成長した岩塊が連星の近くに嘗て存在していたのではないかというのだ。その準惑星だが、偶然にも連星の近くを通りかかった存在なのかそれとも初めから惑星系にそんざいしていたのかは分からないらしい。ともあれその準惑星が、連星の持つ重力に引き寄せられたのである。ついにはロッシュ限界を超えて、崩壊したのではとのことであった。
普通、そのような事態となった場合は、リングを形成することが大半らしい。だがこの連星の場合、どのような事情があったのかは分からないが、リングを形作らずに連星同士をつなぐように流れているガス流に取り込まれたのではないかとシュネは予測していたのだ。
えーっと。ロッシュ限界って何だろう。
ふと俺は疑問に思い聞いてみようと思ったが、結局は聞かずにスルーしていた。恐らく尋ねれば答えてくれるとは思うが、その答えを聞いても理解できる気がしない。ここは、あまり細かいことは気にしないことにしよう。やっぱり、餅は餅屋と言うからな。
「うん。よく分からないことが、よく分かった。専門的なことは、シュネに任せる」
「私、天文は専門ではないのだけれど?」
「俺よりはましだろ」
「それは……そうだけれど、ね」
俺のある意味で丸投げと言っていい態度に、シュネは苦笑を浮かべるだけだった。
取りあえず専門的なことはいいとして、出発前に聞いた通り天体ショーとしては十分に楽しめたと言えるだろう。実際、見る価値はあったと思う。とは言うものの、いつまでもこの場所にいるわけにもいかない。依頼の目的地は、ここではないからだ。さっさと依頼の届け物を、先方に渡すとしよう。
みんなへ出発する旨を伝えると、ネルへハイパードライブを行うように言う。すると間もなく、俺たちはハイパースペースへ突入したのであった。
さて、ハイパースペース内と言うのは、結構カラフルだったりする。ラメ色とか蛍光色とか、その他様々色がハイパースペース内を走っているからだ。
「相も変わらず派手、だよな」
「祐樹。これはこういうものとして、受け入れればいいと思うわよ」
「それもそうだな。それに見ていると、目がちかちかしてくる。舞華は、そう思わないか?」
「そうね。それは分かる気がするわ。一応、奇麗だとは思うけれど」
確かに舞華が言った通り、奇麗と言えば奇麗なのだろう。ただ俺としては、祐樹に同意する。奇麗さよりも、色の変化が激しくて目がちかちかとしてくる。ただ、例外もいる。それは、キャスとセレンとサブリナの三人だった。
彼女たちの場合、ハイパースペース内の変化に対して見惚れているような雰囲気がある。実際、じっと見ているのでその通りなのだろうと思えた。
「そのうち、気にもならなくなるでしょ」
「そんなものか?」
「ええ。多分だけど、彼女たちは慣れていないのよ」
「えっと……慣れていない?」
「私たちの場合、夜のネオンだとかアニメとかの表現で全く経験したことがないとは言わないでしょう? だけどフィルリーアは、基本的に中世ヨーロッパと同じぐらい文化だったのよ。その時代であれば、流石に経験はしないと思うわよ」
そう言えば、コロニーステーションや商業施設などに繰り出した時、三人……いやオルも入れると四だな。この四人は、かなり舞い上がっていたように思える。ただ、俺たちや祐樹たちも当初は四人と変わらなかった。しかし今となっては、以前のように舞い上がることはない。流石に物珍しいものがあればその限りではないのだろうが、それだって何時までもというわけではなかった。
そう言えばオルの様子はどうなのだろうと思い探してみると、やはりハイパースペースの様子が気に掛かっている雰囲気がある。ただ、先に挙げた三人のようにあからさまにしているわけではない。気にしてはいないような素振りを見せているが、視線と耳はしっかりと向けているからだ。
でも、船外の音など聞こえないのに、何で耳まで向けているのだろうか。
「気になるなら、ちゃんと見ればいいだろうに。聞こえないのに、耳まで向けてまでさぁ」
「男の子よね。恰好が悪いとか考えているのよ、きっと」
オルの現在の年齢だが、十五才ぐらいの筈だ。フィルリーアでは、一般的に成人したと考えられている年齢である。しかしながら行動に関して言えば、地球の同年代と比べてもそれほど変わるところはないと言えた。
確かに考え方自体はシビアなところがあるが、それは環境の問題でしかないだろう。フィルリーアは日本に比べて死が簡単に訪れるのだから、それはシビアにならざるを得ない。だからと言って、明らかに隔絶するほど仕草などが変わるわけでもなかったのだ。
「あー、なるほど……何と言えばいいか、むず痒い」
「どうしてかしら?」
「おい、シュネ。お前、分かって聞いているだろう。コノヤロウ」
小さく笑いながら聞いてくる辺り、絶対に分かっているのは間違いないだろう。それにオルの仕草など、多分俺が同年代の頃は似たようなことをしていたと思う。それこそ、ほぼ間違いなく、だ。それだからこそ、むず痒くなるのである。まるで昔の自分を見ている、そんな気になるからだった。
俺の肉体年齢こそ十代後半だが、日本で列車事故に遭った時は二十二才だった。当然だが、今のオルの年代も経験している。つまり、その頃の自分を見ているような気分になるのだ。
「あら、シーグ。私は、野郎じゃないわよ」
「そういうことじゃねーだろうが。ったく。この話は終わりだ、終わり」
「あら、私としてはまだ続けてもいいのだけれど?」
「オ・ワ・リ・ダ!」
「はいはい。分かったわよ、終わりね」
何だか、聞き分けのない子供に言うような仕草を見えるシュネに何となく腹が立つ。だが、ここで蒸し返すとさらに突っ込まれるような気がするので反論はしない。代わりにというわけではないが、相変わらずハイパースペース内を見ている三人をチラ見する雰囲気を出しながら、実際はしっかりと船外を観察しているオルを見ていたのだった。
なお、祐樹と舞華はというと、既に興味を失くしているのが見て取れる。祐樹と舞華、それと俊は俺やシュネと同じく日本出身だ。祐樹たちがフィルリーアに召喚される前の話を聞く限り、多分だが同じ時間軸に生きていたのだろう。つまり趣味などにより嗜好の差はあるだろうが、それでも経験がそれ程まで変わることはないのだ。
勿論、高校生と大学生と社会人という差はある。だが、それでも世代的には離れているわけでもない。いわゆる、ジェネレーションギャップが生まれるほどの差はないのだ。
「ところで、祐樹と舞華はもういいのか?」
「……飽きた。それより何より、目が疲れるんだよ」
「私も似たような物かなぁ?」
祐樹と舞華の返答に、さもありなんと俺は納得したのであった。
途中の寄り道です。
ただ今、観光中といった感じです。
ご一読いただき、ありがとうございました。




