第八十八話~買物~
第八十八話~買物~
緊急輸送の依頼を受けてレアメタルを運んだ俺たちは、宙賊と思わしき相手から攻撃を受けた。しかし、俺たちが抱える戦力からすれば問題ない相手であった。
依頼品であるレアメタルを無事に届けた俺たちは、戦場でサルベージしたことで得た戦利品の売却を行う。同時に返り討ちにした。宙賊についての賞金も受け取っていた。襲ってきた宙賊は全員賞金首であり、賞金額もなかなかである。少なくとも貰える賞金の総額だけで、ここまで航行した分でかかった経費は十分に相殺できる。いや、それ以上の賞金額が得られたので、完全に黒字だった。
さらに言うと、依頼の方も急遽ねじ込まれたということもあって、報酬も通常の相場より上乗せされている。ぶっちゃけて言えば、懐は温かくホクホクだったというわけだ。
こうして、ギルドから撃破した賞金と依頼を完遂した報酬。そして、得た戦利品の売却を終えると、コロニーステーションより出発する。まだ残っているもう一つの依頼を、終わらせる為だった。
「なぁ、シュネ。何で宙賊の奴ら、逃げなかったんだろうな?」
近くに襲撃をしてくる宙賊もいないので暇になった俺は、先の戦いで少し疑問に思ったことをシュネへ尋ねてみたのである。すると彼女から、意外そうなニュアンスの答えが返ってきた。
「え? 何を言っているのよ、シーグ。宙賊は、逃げたじゃない」
「いや。それは、一隻だけだろ。他は、逃げていない。特にカズサに向かった奴らなんか、自殺願望でもあるのかと思ったぞ」
あの場合、俺は逃げを打つと思うのだ。
勝ち目がない戦場に残ったところで、碌なことはない。足搔いたところで、余程運でもよくない限り、死ぬまでの時間が引き延ばされるだけでしかない。三十六計、逃げるにしかずともいう。相手が強く叶わないと分かっているなら、逃げたって別にいいのだ。
「うーん……予測でいいなら答えるけど」
「ああ。それでいい」
「多分だけど、カズサが戦闘艦に見えないからだと思うわ」
「……え?」
「設計して建艦した私が言うのも何だと思うけど、あの外観だからね」
「あー、あー。そう言うことか」
納得した。
カズサはぱっと見、つるっとしているだけである。武装も……まぁ、あれだ。有り体に言って、見当たらないのだ。いわゆる光学系となる武装に関しては、魔術と併用していることもあって砲門を作る必要がない。ミサイルなどの実弾兵器に関して言えば別だが、こちらに関しては通常時は船体に格納されているのでやはり見当たらないのである。そんなシルエットの宇宙船を見て、これが戦艦だと一発でしかも初見で見抜ける人物などいないだろう……多分。
要するに、認識が違ったのである。俺たちは自分たちが乗る船だから、カズサが戦艦であると知っている。これは、随伴する大型駆逐艦についても同様だ。しかし始めて見る相手……いや初めてではなくてもカズサの詳細や戦闘を目撃した者も、カズサが戦艦だとは思わない。なぜなら武装が乏しい船など、それこそ輸送艦ぐらいしかないからだ。
つまり普通であれば、カズサも駆逐艦も戦闘艦の範疇に入らない。カズサは大型の輸送船と判断するだろうし、大型駆逐艦に至っては中型の範囲に入る輸送艦としか思わないからだ。
「だから、カズサに向かってきた二隻は、大型輸送艦だと思って襲撃したのだと思うわ」
「そして実際には、羊の皮を被った狼。いや、虎だったと」
「それと。キュラシエに対する認識の無さも相まっていると思うわ」
そう言えば、宇宙に出てからこっち人型の兵器というものを見ていない。
少なくとも、二十メートル前後はある人型の機体はシュネ―リアで対峙した大型のゴーレムを除けばキュラシエシリーズ以外に見掛けたことはなかった。他に人型であったとすれば、パワードスーツぐらいだろう。タイプは装甲の厚さや出力によって分かれるが、それでも最大で人型であれば三メートルを超えるぐらいの大きさにしかならないのだ。
そう考えると、二十メートルぐらいはあるキュラシエは脅威に見えるかも知れないが、残念ながら現実そうは認識されていないようである。何せ小型の宇宙船でも、キュラシエより倍近くの大きくなる。ゆえに、脅威とは感じないのかも知れない。恐らくだが、幾ら大きくなっても所詮はパワードスーツが発展したぐらいにしか考えていないのではないだろうか。
「なるほどな」
「無知って怖いわね」
「確かに。っと、そうだ。あと一つあった」
どうせだから、ついでとばかりに聞くことにする。それは、酷くアンバランスに見えた船についてだ。武装としての威力が高いが、あの動作の遅さは問題とならないのかと思えたからである。
「何かしら?」
「あのアンバランスな船、あれってどうなんだ?」
「アンバランス? ……ああ。あの軽巡洋艦クラスの船に無理矢理重巡洋艦に使用するような砲を乗せたあの宇宙船のこと?」
「そう。それだ。で、どうなのさ」
「そうねぇ。初見殺しなら、有効かも知れないわね。でも一撃で仕留められないと、あとは推して知るべしよ。相手をしたシーグなら、理解できるでしょ?」
それは……そうだな。
はっきり言って鈍足だったし、接近したあの状態では全く怖くなかった。パイルバンカーの一撃で沈んだので、なおさらそう感じている。もっとも、あの船がまともであってもパイルバンカーの一撃を受けたら沈む。それこそ戦艦であっても一撃で致命傷は与えられるのだから、それ以下の大きさしかない宇宙船が耐えられる筈もないのだ。
「なるほど。わかったよ」
「そう」
聞きたいことは聞けたので、宙賊の話は終わらせたのであった。
その後、無事に目的地へ到着したわけだが、そこは控えめにいっても田舎である。さらに観光地というわけでもなく、これといって目を引くような物もない。典型的な、The・田舎であった。
兎にも角にも、俺は依頼を終わらせる。だが、このような場所でいい依頼があるとは思えない。事実なかったので俺たちは早々にその惑星系から離れ、緊急依頼の届け先だった星系へと戻ってきたのだった。
「……それで、これからどうするの?」
「どうって、一まず自由かな。それから、次の依頼でもないか探すさ。もし見つからなければ、バウンティハンターまがいでもいいかな」
「了解したわ」
そして俺は、シュネと共にコロニーステーションへと繰り出していた。
もっとも、シュネと共にというより彼女のお伴として、もしくは荷物持ちと言った方が適切かもしれない。さらに言えば、同じ立場の男は一人だけではない。俺の他に四人ほど、同じ状態に甘んじていたのだった。
「あー。まだか?」
「……まだまだだと思うぞ。祐樹」
「やっぱりか」
俺の他に、オルと祐樹と俊とクルドが揃ってベンチに腰かけている。そんな俺たちの視線の先では、シュネとキャスとセレンとサブリナがそれぞれに服を選びながら嬉しそうにしていたのである。ぶっちゃけ彼女たちは、ショッピングに興じているのだ。
自由行動とした俺は、まず自分の部屋に戻った。そこでこれからどうしようかと考えているうちに、いつのまにか寝落ちしていたのである。とはいえ、何時間も寝ていたわけではない。大体一時間ぐらいだろうか、それぐらい寝ていたのだ。
「ありゃ、寝ていたか……うーん。このまま今日は部屋でダラダラしているのもいいか」
何となく口に出しながら今日の予定を決めた矢先、呼び出される。俺を呼び出したのはシュネで、その要件は外出用の格好できてとのことだった。お誘いかなと思いつつ、着替え始める。別に緊急の用はないし、ついさっきまではだらけて過ごそうかと考えていたぐらいなのでお誘いに乗るのも吝かではなかった。
とりあえず着替えると、武装を身に着けて部屋を出る。別に治安が悪いというわけではないが、宇宙はフロンティアだ。治安が良くても荒くれ者は一定数いるので、手を出させない為という意味でも武装は必要となる。実際、シュネたちでも出掛ける際は武装しているのだ。
もっとも、宇宙に出てからこっち、シュネ―リアで使っていたような実弾も発砲できる銃は使っていない。使っているのは、レーザーガンのようないわゆる光線銃に似せた武器となる。これは、周りに合わせてそうしているのだ。
因みにシュネの設計によるものなので、見た目は普通に町中で売られている光線銃と変わらない。しかし実際は、これも魔道具と言っていい。銃のエネルギー源が、魔力だからだった。
そんな見た目と中身があまりにも乖離している光線銃もどきを、ホルダーに入れる。それとは別にツインマジックブレードを腰の両脇から下げると部屋から出て待ち合わせ場所へと向かう。そこはカズサの搭乗口近くで、到着するとそこにはシュネ以外にも複数いたのだ。
そこにいたのはシュネたち女性陣と、俺以外の男性陣である。その時点で何となく、俺は察してしまう。お誘いはお誘いでも、荷物持ちなのだなと。
その後、前述したようにシュネたちは待ちでショッピングに興じ、俺たちは荷物持ちに甘んじていたのだった。
そんなシュネたちを見ていたのだが、間もなく俺を含めて男性陣が女性陣より呼ばれる。その彼女たちだが、それぞれに服を複数持っていた。
これはアレか? どれが似合うのか聞かれるのか?
そう考えながら近付くと、果たしてその通りだった。シュネが両腕に一つずつ服を持っていて、どちらがいいか聞いてきたのだ。そんな俺なお頭の中では、あることが思い出される。それは、まだ斗真と共に行動していた頃のことだった。
その頃に、偶々だが斗真と二人きりになっていた。そこでとりとめのない話をしつつ過ごしていたのだが、その途中で理由は忘れたが女性とのショッピングの話となったのである。そこで斗真に、ある忠告をされる。その忠告こそ、今俺がシュネより尋ねられているミッションと同じであった。
「いいかシーグ。女性が服でも装飾品でも何でもいい、どれが似合うかとか聞かれたら注意しろ。大抵は、お気に入りは決まっている」
「そ、そうなのか?」
「ああ。何でそんなことを聞いてくるのかは、流石に分からない。だが、俺の経験上、間違いない筈だ」
「えっと、それじゃあ。どう答えればいいんだよ」
「よく観察しろ。さっきも言ったように、大体、女性の方で決まっている。だからからか、気かけている割合が違う。仕草とか視線とか、兎に角、色々とよく見れば分かるだろう。それを見逃すな! いいな。決して見逃すんじゃないぞ」
そして実際にその立場になってみたわけだが、今は斗真に感謝しかない。
確かに、気に掛けてみれば違いはある。あからさまではないが、それでもあるように感じるのだ。俺は嘗て斗真からあった忠告に従い、シュネが気にいっているのではないかと思われる方の服を選ぶ。するとシュネの表情が、目に見えて明るくなった。
「そう? やっぱりそうなのよね。私も、そう思っていたの」
そういうと俺が選ばなかったもう一つの服を戻したあと、会計を済ましている。その時、俺は視線を上にあげる。するとそこには、ある筈の天井はない。代わりに俺の目に映っているのは、満天の星空とサムズアップしている斗真の幻影であった。
まぁ、実際は死んでもいないし天井もあるんだけどな。
一応、お出かけ回です。
実際は、内容通りただの荷物持ちですけど。
ご一読いただき、ありがとうございました。




