第八十五話~再開~
第八十五話~再開~
斗真たちと交わした約束も果たし、悪魔たちとも離別をした俺たち。いよいよこの銀河を、いや宇宙を旅することができるような身分へとなれたのであった。
フィルリーアを脱出した斗真が率いている悪魔たちの安住の地となる筈の惑星を旅だった俺たちは、一まずラトル共和国へと向かうことにした。フィルリーアを出てからこちら、悪魔たちの移住先の確保を最優先させてきたのである。惑星やステーションコロニーに立ち寄った際も、碌に見学などしていないのである。しかし、こうして悪魔たちの移住先も無事に確保したのだから、もうゆっくりと色々なところ回れるというものだった。
なお、斗真たちが移住した惑星の名だが、オオヤシマと名付けられている。この惑星名は、日本神話から取ったと斗真が言っていた。何で日本神話なのかと聞いたら、アシャン教は勿論だがアシャン教を生み出したフィルリーアとも完全に決別したかったらしい。そこで、日本神話から持ってきたと言うのが斗真の談であった。
またオオヤシマは、国生みにも通じるので新たに自分たちの国を作るという意味でもちょうどいいと考えた……のだそうだ。
「それで、斗真。本当にその名前でいいのか?」
「ああ。問題はないな」
正直に言わせて貰えば、たとえ日本神話といっても宗教関係から惑星の名前を持ってくるとは思ってもみなかった。しかしながら、斗真がそれでいいというのだからこれ以上こちらも干渉する気はない。
それに日本神話など、フィルリーアでも知っている者などまずいないだろう。恐らくだが、斗真と悠莉を除く悪魔たちさえも知らないと思える。そんな日本神話から名前を借りたのだから、二人が口に出さなければ誰にも分からないだろうさ。
何はともあれ、惑星オオヤシマから出発した俺たちは、ラトル共和国の衛星国となるグリット国の首都星、グリットへと立ち寄った。オオヤシマから一番近いところにある星系だし、オオヤシマを移住先として完全に確保してあと何度も通っていたから慣れていた。俺たちはグリッドにあるギルドで情報を集めたあと、行き先を決めるつもりだった。
さて、嘗てのオオヤシマのような未開拓惑星は別にして、通常であれば宇宙船が地表に降りることはない。大抵は、宇宙ステーションを兼ねたスペースコロニーに停泊させる。それというのも、宇宙船を地上へ降ろす場合、どうやっても広い場所が必要となるからだ。ことは飛行機であっても、空港を作るのに広い土地が必要となる。これが飛行機などとは比べる必要もないくらいの大きさとなる宇宙船では、さらに広大なスペースが必要となってしまうことなど自明の理である。ならば、宇宙に停泊させた方が有限な惑星上の土地を有効に活用できるからだった。
とはいえ、別に惑星に住もうとか現在では考えていない俺たちからすれば、あまり関係がないので興味も沸かない。この先、考えが変われば別だが、現時点でその気はないのだ。
「ネル。管理局へ連絡して許可をとってくれ」
「了解しました」
ネルへ指示を出してから暫く、ステーションコロニーを管理している監理局から入港許可が下りる。その後、俺たちはゆっくりと指示されたドックへ船二隻を停泊させたのだった。
基本的にガイドビーコンに従ってオートマティックで停泊できるので、まず事故は起きない。中には自分の手で操作したがるパイロットがいるらしいが、そのようなパイロットは非常に少ないと聞いていた。
だが、それはそうだろう。
もし入港に失敗でもしようものなら、間違いなく損害賠償が発生する。そんなリスクをわざわざ被ろうなどと考えるのは、極一部の酔狂だけだからだ。
但し、そんな一部の物好きが持つ気持ちも分からなくはない。俺も、自分の手で操作したいと思ってしまうからだ。だが、仲間に迷惑を被らせてまで自らの手で操作して停泊しようなどとは思わない。あくまで自分で責任が取れるなら、そうしたいと思うだけなのだ。
「さて。エンジンを落したあとは、整備班に任せる」
「マウノには伝えてあります」
「そうか」
補給に関する手続きはネルに、船の整備はマウノ率いる整備班が行うので問題はない。そこで俺は、ギルドで情報を集めることにした。登録の時は自分がギルドにまで行かなければならないが、情報を集めるだけならアクセスすればいいだけだ。
だから本来であれば、わざわざギルドにまで行く必要はない。ならば何で出掛けるのかといえば、単純に物見遊山である。つまり観光がてらステーションコロニー内を散策して、ギルドにまで行こうと考えたのだった。
辺りを見学しながら、ゆっくりと歩いていく。ただ前回の失敗もあるので、周囲の警戒には気を付けていた。するとやはり、狙っているかのような雰囲気が感じられたのである。前よりもましだとは思うが、それでもお上りさんの行動に変わりはないと捉えられたようだ。いささかガラの悪い輩から見れば、いいカモに見えたのだろう。それに何より、連れている女性陣が押しなべてレベルが高い。いわゆる美女・美少女たちになるので、その点からも狙われているのだろうことはまず間違いなかった。
こちらに近寄ってこようとする余計な虫どもを、俺は殺気を乗せた視線を向ける。同時に武器をあえて見せることで、そいつらを追い払う。すると祐樹たちも流石に気付けたたようで、俺ほどではなくても周囲を警戒するようになっている。お蔭で、大分楽ではあった。
「悪いシーグ。浮かれていた」
「いいさ祐樹。こればっかりは慣れが必要だと思う。それより、さっさとギルドへ行こう」
「だな」
それから程なくしたあと、俺たちはギルドへ到着した。
しかしてギルド内の雰囲気だが、たとえ場所が違ってもあまり変わらない。そこは相変わらず、役所的な雰囲気を醸し出している。情報端末からアクセスして、欲しい情報を手に入れていく。グリッド国の産品については、オオヤシマでの滞在時に散々調べたので把握している。だから求めた情報は、その産品を高く売れる地域についてであった。
とはいえ、こちらに関してはついでと言っていい。メインで手に入れたい情報は、運送関係となる。やはり金になるのは、運送関係なのだ。何せ宙賊が闊歩している世界なので、どうやっても運送に危険が伴う。この案件に関して言えば、運送量の大小は関係ない。関係はないのだが、やはり運送量が大きくなれば損失もまた大きくなる。だから、運送量が多い方が仕事の報酬が割高になるのだ。
俺たちは戦艦と駆逐艦という、自前で大きな戦力を維持している。その点で言えば、報酬が高い仕事も受けやすくなるだろう。だが、全く実績がないので、そうそう上手くはいかないだろうとも思ってはいた。
「さて、どうするかな」
「やっぱり、小さな仕事からコツコツと地道に行きましょう」
「……それが、無難か」
俺がこぼした言葉に反応したシュネからの言葉を聞いてから、皆に目を向ける。すると全員がシュネの言葉に頷いていたので、ここでは大きな仕事は選ばないことにする。もっとも、選びたくても選べないだろうな。
幾つかの候補に選んだのは、それほど大口ではない仕事を数件だ。シュネたちと話し合い、それから一つの仕事を選び出す。その仕事は、近隣星系への運送となる。運送量もそれほどでもないので報酬も少ないのだが、先にも言ったように今は実績が優先される状況なのだ。
さて、選び出した仕事を受けたい旨をギルド側へ伝えると、すぐに承認された。どうやら報酬があまり高くないことが災いしたらしく、塩漬けとは言わないまでも請け負おうと考えた者がいなかったようだ。一まず向かう為に、荷の搬入を開始する。しかし、すぐに終わるというわけでもなかった。
その一方で大型駆逐艦には、買い付けた商品を積みこんでいる。こちらに関しては、カズサに積みこんでいる荷物ほどはないので、それほど時間は掛からずに終わっていた。しかしながらカズサへの搬入は、まだ終わっていない。一日二日も掛かるわけではないが、今すぐ終わる様子でもなかった。
「じゃ、各々自由で」
『了解』
通信機能を持たせた端末は全員に渡しているので、別々に行動しても問題にならない。何より連絡さえしてくれれば転送ができるので、転送範囲内ならばどこにいてもまず問題はない筈である。
因みに転送の有効範囲はというと、惑星グリット上並びにステーションコロニー内となる。つまり、宇宙船などで宇宙へと出ない限り、余程の条件が重ならないと問題が発生する可能性はない筈であった。
えーっと。
取りあえずの問題も解決したので、気軽な身分となりました。
ご一読いただき、ありがとうございました。




