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第七話~合流~


第七話~合流~



 行商の為にと立ち寄った村で、住人のオルトスという少年から「奴隷として買ってください」などという予想もしてなかったお願いをされてしまう。もっとも、していた方がおかしいともいえるが。

 ともあれ事情を聞けば、妹の治療の為だという。正直にいって同情したこともあって、シュネと相談した上で再度、夜になったらくるようにと告げて一旦オルトスを家へ帰らせたのだった。





 一まずオルトスを家へ帰したあと、行商を任せているアリナとビルギッタの元に戻る。そこで、彼女たちにも事情を説明した。


「では、シュネ―リア様もこちらへ?」

「そうだ、アリナ。それと、ヘリヤも同行するらしい。それで何だが、これからガイドビーコンを埋めてくる」

「候補地は決めてあるのでしょうか」

「ああ」


 これからガイドビーコンを埋めてくると告げると、二人は目配せをしている。彼女たちはガイノイドということもあり、瞬間的にお互いで通信することができるのだ。

 無論、距離的な限界はあるのだが。


「では、私も同行させていただきます」

「……お前たちからなら、そういう言葉が出ると思ったよ」


 念の為なのだろう、護衛としてビルギッタが付いて行くことになる。多分だが彼女たちは、先程のやり取りで瞬時に通信しあい、役割分担を決めたと思われた。以前は兎も角、AIエーアイを備えてからの彼女たちは時間がたち経験をつむと共に性格のようなものが出てきている。ガイノイドということもあって基本的には冷静沈着なのだが、いわゆる好みというものができているのだ。

 そしてアリナだが、可愛いものが好きらしい。そういったことあってか、人当たりがガイノイドの中では柔らかである。いわゆる愛想がいいとまではいかないのだが、彼女たちガイノイドの中では一番接客に向いているといっていいだろう。恐らくその辺りを考慮して、アリナが店番として残ることになったのだと思われた。

 因みに、ビルギッタは料理好きである。野宿の際でも、食事を中心になって作るのは彼女だということを考えてみれば納得できるものであった。

 何はともあれ村を出ると、ビルギッタと共にある地点を目指す。その道中だが村に近いということもあって危険などなく、偶に小動物を見かけるぐらいである。そんな長閑のどかな景色の中を歩み続けたあと、目的の場所に到着した。

 果たしてそこは、村に立ち寄る為に近づいた時にも見掛けた場所である。理由は分からないが、村からさほど離れていない場所に小さな岩山があったのだ。標高もなく、大きさもたしたことはない。もしかしたら一つの岩かも知れない、そんな岩山である。そしてほぼ利用価値もないからであろう、村人も利用したり近づいたりしている様子が見えない場所だった。

 そして、この岩山自体が目印となるので、目印を作る必要もない。正に、ガイドビーコンを埋めるにはうってつけの場所なのだ。そんな岩山に到着したあと、念の為に周囲を確認したが、やはり周囲に村人などがいる気配はない。また、危険な野生動物や魔物がいるような感じもなかった。

 この周辺で目立つのは、この岩山を利用して巣でも作っているのか鳥ぐらいである。周辺の警戒はビルギッタに任せると、岩山の麓から少しだけ離れた場所にあった少し大きめの岩陰にガイドビーコンを埋めておく。場所的には村と岩山を挟んでいるので、目立つ場所でもなかった。


「終わりましたか?」

「まあな」


 ビルギッタへ返事をしたあと、ヘッドセットを取り出して電源を入れる。そしてアリナを呼び出すと彼女に中継を頼み、そこから研究所にいるシュネを呼び出した。

 すると通信先に出たのは、やはりエイニとなる。シュネを出すようにいうと、間もなく通信先がシュネとなった。彼女にガイドビーコンを埋めたことを告げると、すぐに何かの操作を行っている雰囲気が感じられる。どうも、動作の確認をしているようである。やがて問題ないことを確認したのか、シュネからの返信がきた。


≪問題はないわ。それと私たちだけど……夕方ぐらいにそちらに行くわ≫

「連絡をくれれば、ここまで迎えにくる」

≪お願いね≫


 あと数時間はあるだろうから、一度村へと戻る。その後、この村へ来た本来の目的である行商を行いながら、もう一度シュネから連絡が来るのを待っていた。

 やがて日が大分傾いてきたので、店じまいの為に片づけを始める。するとその途中シュネから連絡が入ったので、店の片づけはアリナとビルギッタに任せた。それから一人、ガイドビーコンを埋めた岩山付近へ向かう。既に、村の周辺の危険度について把握したからだろう。今度は、ビルギッタも同行するとは言い出さなかった。

 村を出て、沈みかけているフィルリーアにおける太陽に相当する恒星を見ながら、ゆっくりとガイドビーコンを埋めたところまで歩いていく。程なくして到着すると、すぐ近くにある岩に腰かけながらシュネへ連絡を入れて、こちらに問題ない旨を告げた。

 すると通信を切ってから間もなく、辺りに光が広がる。但し岩陰であり、しかも村との間には小さいながらも岩山まである。つまりよっぽどの条件が重なるか、またはこの場所へ近づくかでもしなければ光は見えないだろう。そもそも連絡を入れる前に周囲は確認しているので、人などがいる心配もないのだ。


「どうやら、無事に御到着だな」

「当然でしょ」

「それもそうか。シュネ構想作品、だもんな」


 実は転送装置など、古代文明期にもなかった。

 何せ現代のフィルリーアでは知られてもいないが、代わりとなる移動系魔術があったので作る必要がなかったのだ。そもそも魔科学自体が、古代文明でもマイナーな分野である。なおさら、こんな装置をこしらえようとは、それこそ先代のシーグヴァルドでも考えなかったのだ。

 もっとも、考えなかっただけで技術がなくて作れなかったのではない。だからこそ、シュネが作り上げることができたのだ。


「それはそうと、村はどっち?」

「そこの岩山の向こう側だな」

「そう。では、行きましょうか。ヘリヤとエイニもね」

『はい。シュネーリア様』


 シュネと共に転送されてきた医療用バイオノイドとなるヘリヤとシュネ付きのガイノイドであるエイニを伴って、村へと向かう。村に入る為に必要な彼女たちの手続きを終えたあと、借りている家へと向かった。

 やがて借りた家の近くまでくると、微かに食事のにおいがする。その直後、すました顔をしていたエイニの表情が笑みにとってかわっていた。実は彼女は、美味しいものが好きなのである。恰好よくいえば、美食家なのだ。

 ガイノイドなのにである。

 そして借りた家の中で食事を作っているのは、料理好きというか趣味のビルギッタである。美味いもの好きのエイニが笑みを浮かべるのも、当然といえば当然だった。

 余程楽しみなのか、ほんの少しだけだらしない笑みを浮かべているエイニを連れて借りた家へと近づく。だが、家へと到着する前に、ちょうど死角となっている場所に誰かがいる気配を感じる。誰かと気になった俺の仕草に何かを察知したのか、表情を引き締めたエイニがすかさず手にした明かりでその場所を照らしていた。

 するとそこにいたのは、オルトスである。夜になってからといったのだが、もう来てしまったらしい。よく考えてみれば、ことは妹の話である。多分、いてもたってもいられなかったのだろう。そう考えれば、オルトスの行動も納得できる。もっとも、家の死角になるような場所にいた理由は、分からないのだけれども。

 なお、オルトスの存在にシュネやエイニ、そしてヘリヤは驚いていない。既に事情は知っているので、オルトスのことは認識しているからだ。


「シュネ。あの子がオルトスだ」

「そう。初めまして。私はシュネ―リア。シュネと呼んでね」

「あ、はい。シュネ……さん」

「それで、彼女がエイニでもう一人がヘリヤだ」

「どうも、オルトスです」

「それと、ヘリヤが医者だから」

「え!!」


 まさか医者がいるなどとは、夢にも思っていなかったのだろう。オルトスがとても驚いて、大きな声をあげてしまった。その直後、料理道具を持ったアリナとビルギッタが家から飛び出してきた。

 しかも飛び出して二人のうち、アリナはお玉を手にしている。そして、ビルギッタが手にしていたのはフライパンとフライ返しだった。


『何ごとですか!? シーグヴァルド様! それに、シュネ―リア様も!!』

「すまん。驚かせたな」

「二人とも、ごめんね」


 警戒もあらわなアリナとビルギッタに対して、落ち着くようにと促す。その甲斐もあってか、二人から感じられた雰囲気が収まっているようにも感じられた。しかし、全く落ち着いたという感じでもないので、一まず二人にオルトスを紹介した。

 昼に彼女たちへ事情は伝えてあるので、問題とはならない。すると、その段になって漸くアリナとビルギッタが警戒を解く。それから、全員で家の中へと入ることにした。

 その家の中だが、まずテーブルがあり、そして椅子が三つある。これは家を借りた時に、村長から渡されたものだ。普段は完全な空き家なので家具などはおいていないらしい。家具は村長が預かり、家を貸した時に必要な家具も貸すというやり方をしているらしいのだ。

 そして、椅子が三つしかない理由は、俺とアリナとビルギッタの三人しか村長宅を訪問した時にいなかったからである。村長にはシュネたちが合流するとは告げていないし、そもそも当初の予定ではシュネとエイニとヘリヤが合流する予定などなかったのだ。

 オルトスのことがあったので、こうして合流するという運びとなっただけである。それがなければ、シュネたちがこの村にいることなどなかった筈であった。

 そのような理由から、家の中にいる人の数から比べて遥かに椅子の数は少ない。そしてその椅子の一つには、オルトスが座っている。ある意味で依頼者であり、またある意味でお客でもあるオルトスだから使うのは当然だろう。そして残りの二つの椅子には、俺とシュネが腰掛けていた。

 何せアリナやビルギッタ、エイニとヘリヤは自分たちが椅子を使わないことを頑として譲らないのである。それゆえに俺とシュネが椅子を使い、彼女たちは全員がうしろに控えているのだ。

 その後、オルトスから改めて事情を聞く。既に彼が抱える事情の概要は全員が把握しているが、やはり当人から聞くのが一番いい。それと、実際に治療を行うことになるヘリヤが直接聞いているということも大事だろう。医学知識を多量に持つヘリヤに比べ、俺は日本で一般的に知られていた以外の医療知識は、肩の骨が外れたから治すとかそういったたぐいの物となる。言い方は悪いが、相手を倒すには骨格など体の知識があると効率がいいのだ。

 またシュネは、ヘリヤやイルタやエルヴィといったバイオノイドを創造する際に、先代となるシュネ―リアが持っていた医学知識に触れているので俺よりも医学の知識はあるだろう。しかし、先代のシュネ―リアが持っていた医学知識を全て活用できるようにとして創造された上に、既にその知識を生かしているヘリヤこの場にはいないイルタやエルヴィたちには太刀打ちなどできない。

 ただガイノイドやバイオノイドたちは知識を共有できるので、必ずしもそうはいえないかもしれない。しかし、知識を十全に生かそうとするならば、ヘリヤかこの場にはいないもう一人の医療用バイオノイドとなるイルタに任せるのがいい。何せそれを目的として、創造されたのだから。

 何より、この場にいるのはヘリヤだけなのだから、必然的に彼女がオルトスから話しを聞くことになる。そのオルトスから大体の症状を聞き及んだヘリヤは、少し考えるような素振りをしてから立ち上がる。そして、これから患者のところへ行きたい旨を告げてきた。


「事情も話も聞けましたので、ある程度の予測はつきます。ですが、やはり実際に患者を診てみないことには何とも断言はできかねます」

「それもそうか。オルトスも、病気にかかっている当人というわけではないし」

「そう、でしょうね」

「というわけで、オルトス。これから家へ案内をして貰いたいが、いいか?」

「……それで……妹を治せるのなら」


 こちらからの提案を聞いたあとで多少は間が空いたことから、オルトスが完全に納得しているのかどうかは分からない。とはいうものの、この場で頼れるのは医者だと紹介したヘリヤしかいないというのもあるのだろう。オルトスは少しの逡巡のあとで頷くと、椅子から立ち上がりすぐに家から出て行こうとした。

 そんなオルトスを、俺が引き留める。その上で、こちらも出掛ける用意を始めた。すると、アリナとビルギッタは、既に完成していた料理を持っていこうとしている。多分、向こうで食べさせようとか兄妹の家へ置いておこうとか考えていると思われた。

 さて、出かける用意といっても、食事を詰めているアリナとビルギッタだけである。何せそれ以外の者は、俺を含めて家に戻る途中だったからだ。服装も外出する格好のままであり、着替えずにいたのだから当たり前である。

 それから間もなく、アリナとビルギッタの支度が整う。それからオルトスを先頭に、病気の妹がいるというオルトスの家に向かったのであった。


連日更新、何とか続いたよ。


ご一読いただき、ありがとうございました。


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