表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/227

第七十八話~出立~


第七十八話~出立~



 小惑星帯で見つけた宇宙船の中でコールドスリープ中の人物、その人物の名はクスルドフ・ド・アループ。数百年に及ぶ眠りの渦中にあった為に行く当てのなかった彼を、俺たちは仲間として迎えたのであった。





 さて、クスルドフ・ド・アループことクルド……そう呼ぶように本人から言われた……を受け入れた俺たちだったが、そのあとも移動せずに小惑星帯へ留まっていた。その理由は、シュネたちがクルドの宇宙船を調べていたからに他ならない。何せこの船は、フィルリーアで栄えていた古代文明とは違う異種文明によって生み出された宇宙船である。本来は工学系学者となるシュネの触手が、そのような現物を前にして動かない筈がなかった。

 それに、せっかく手に入れた船を活かさないと言うのもかなり勿体もったいない。そういった理由もあっての、滞在だったのだ。

 嬉々ききとして宇宙船を調べているシュネたちを脇に俺たちが何をしていたかというと、これといったことはしていないというのが実情である。科学者でもない俺など、宇宙船の内部構造とか手の出しようがない。当然だが暇を持て余すこととなり、武術の鍛錬や愛機となるキュラシエの慣熟などに暇な時間を当てていた。

 しかし、全く収穫がなかったのかというとそうでもない。クルドが眠っていた宇宙船を調べたことで、分かったことがある。その一つに、この銀河では魔術が必ずしも全ての者に使えるというわけではないということだった。

 何ゆえ分かったのかというと、クルドが魔術を全く使えないのだ。そもそも彼には、魔力を感じたりすることがないのである。

 実はクルドの実家があるアーマイド帝国を含めて、この銀河内で魔術を使うことができる者は案外少ないらしい。そして魔術を使用できる者だが、ある条件がある。それは魔術を使う者の出身地となる惑星に、魔術かそれに類する何かが存在していることが必須だということだった。

 こう聞くと、魔術などを使える者が排除されそうな気はする。だが実情として、そんなことにはなっていない。というのも、宇宙空間で魔術を使えてもあまり意味がないからだ。宇宙では味方ならばまだしも、敵対している場合では距離をとっての戦闘となる。しかもその距離は宇宙的な感覚に準拠するので、とんでもないことになる。その時点で魔術の射程外であり、敵に当てること自体が無理なのだ。

 その上、宇宙では高速戦闘が普通であり、その意味でも魔術を敵に当てるなど難しい。しかも宇宙はほぼ真空なので、属性を持つ攻撃なども効果が薄いのだ。ただ幻術など精神的な影響を及ぼす魔術はその限りではないが、基本的に宇宙では通信越しとなるのでこちらも意味がない。機械に幻術を掛けたところで、それがどうしたということになるわけだ。

 結局のところ、魔術は対人でしか意味がない。しかも使用できる者が少ないので、それほど問題とならないというわけだった。

 それに実際問題として、科学兵器でも魔術と似たような効果は出せる。一々いちいち呪文詠唱をして攻撃しなければならない魔術師と違って、狙いをつけたあとで引き金さえ引けばそれでいい銃などの方が命中まで時間が掛からない。俺たちのように、呪文詠唱を破棄できる存在の方が稀有けうらしいのだ。


「なるほどね。これなら確かに、排斥など受けないわ。まぁ、惑星上ならば別だけど。それでも、魔術が科学兵器より有利かと言われれば微妙だしね」

「シュネ、そんなものか?」

「そんなものよ」


 もっとも、魔術は別の意味でうらやましがられることはあるのだそうだ。魔術など超常の現象は、いわゆるファンタジーの象徴と言ってもいい。その点では、魔術を使えることで羨望せんぼうの眼差しを受けたり、妬まれたりすることがあるとのことである。

 まぁ、その気持ちも分からないではないかなとは思う。俺にしたって地球にいた頃であれば、程度は別にして一度は使ってみたいという思いは否定できないからだ。

 因みに魔力自体だが、こちらは宇宙だろうが惑星上だろうが普通に遍在している。それであるにも関わらず、魔術を行使できる惑星と行使できない惑星があることは、シュネも頭を捻っていた。


「意外だな。シュネが分からないなんて」

「私も、万能というわけではないわよ」

「それは、そうだけどさ」


 シュネだと何でも知っている……そんな気がしていたのも事実である。それに、知らないことなら、彼女なら知ろうとする雰囲気があるだけになおさらなのだ。


「流石にリスクが高すぎるからね」

「リスク?」

「そう。検証の為には、比較対象が必要なの。だけどそれをやると、色々と問題が噴出しかねない。私だけならそれでもいいけど、今はほら。千人近い人たちを抱えているじゃない。流石に、その人たちを危険にさらしてというのはおいそれとできないわね……とても、とっっっても残念だけど」


 どういうことなのかさらにシュネに問い質すと、その現象を調査する為には惑星そのものを精査する必要があるらしい。これが統一国家などないただの惑星ならばまだしも、惑星内が統一されている場合だとその統一国家に喧嘩を吹っ掛けていると取られかねないのだ。

 俺たちの現状で、それをやるにはさすがにはばかれる。だからこそ、残念だがやらないというのが彼女の見解だった。

 それって、逆に言えば問題がないならやりかねないってことだよな。やっぱりシュネは、多少だと思うけどマッドが入っているかも知れない。そう思えてしまった瞬間である。

 そんな、調査の過程で発生したことは一まず置いておくとして、だ。

 ついに、シュネたちによる宇宙船の調査も完了の日を迎える。ついでに宇宙船の修理も同時並行で行っていたので、宇宙船は万全の状態となっていた。


「では、行くぞ」

『おう』

『ええ』

「カズサ! 発進!!」


生まれ変わった宇宙船を船内に抱えたカズサを先頭に、俺たちはこの惑星系からの旅立ったのだ。





 フィルリーアがある惑星系から離脱した俺たちは、クルドを助けたことで手に入れた航宙図に従ってラトル共和国へと到着していた。この国は、銀河の南方に勢力を張る国家であり、アーマイド帝国と並んで銀河内における主要国家の一つとなる。そして両国の関係だが、悪くはない。友好国というほど関係が近いわけでもないが、敵対するほど疎遠ということもない。いわゆる普通に、国交を持っている国同士であった。

 そもそも両国は銀河の中央を挟んで距離が離れているので、敵対する理由がないのだ。そしてクルドが仲間にいるので、アーマイド帝国から離れていてしかも敵対していない国家は実に都合がいい。その点を考慮して、ラトル共和国へきたというわけだった。

 そして俺は今、はっきり言って感動している。というのも、初めて宇宙ステーションに降り立ったからだ。少数ながらも艦隊といっていい構成をしている俺たちなので、カズサなどは適当なところに隠して停泊させている。これは、まだ情報が少ないので、色々と警戒している為の措置だった。

 いや。正確に言うと、悪魔たちを率いる斗真と悠莉が警戒したのである。通常の悪魔たちは、人と変わらない姿になれるので本来の姿にならなければ問題はない筈である。だが二人は、それでもあくまであることが原因で排斥される事態を警戒したのだ。

 これが悪魔たちを率いる者として責任からなのか、それとも彼ら独特の思惑があるのかは分からない。だが嫌だというのなら、無理強むりじいしたいと思わないので、二人の意見を汲むことにしたのだ。

 その為、俺たちは戦闘能力を持たせた駆逐艦より小型の宇宙船を作り上げ、その船で宇宙ステーションへ到着した。小型とはいえ、宇宙船の中には二機ほどキュラシエを積みこんでいる。俺の愛機となるツヴァイと祐樹の機体となるアインスがファルケⅡに合体した状態で積みこんであるのだ。

 さてここの宇宙ステーションだがその形はリング状をしていて、シュネに言わせるとその規模から考えてみるに宇宙ステーションというより宇宙ステーションの機能を持たせたスペースコロニー、要はステーションコロニーと言った方が正しいとのことである。そんなステーションコロニーへとドッキングしたあと、宇宙港の利用料支払いなど停泊の手続きを経て降り立った俺たちの見た景色が、リング状の内側にある町並みだったというわけなのだ。

 なお、停泊に掛かる料金に関してだが、フィルリーアが存在している惑星系から離れる前に留まっていた小惑星帯で集めたレアメタルなどの鉱物を現金化してそれで払っていた。特にレアメタルなどは、どこでも欲しがられる。この辺りの知識も、クルドの宇宙船から得たものだった。


「呆気に取られるほどの景色か?」


 始めて見る景色に、俺だけではなく皆も呆気に取られている。そんな俺たちを見たクルドの言葉で、俺は我に返った。確かに彼であれば、見慣れた景色かも知れない。しかし俺たちからすれば、初めての大規模宇宙施設である。感動しない理由が、なかったのだ。

 とはいえ、いつまでも感動していても仕方がない。そう考えて意識を戻したその瞬間、いやな気配を感じる。気配のする方に目をやれば、数人ほど嫌らしい笑みを浮かべている人物を確認できる。そして彼らの放つ雰囲気から、あまりよろしくない人種なのは間違いなかった。

 どうも俺たちは、お上りさんとでも思われているらしい。ここで下手な対応をするとつけこまれかねないので、俺はいやらしい笑みを浮かべている奴らや、他にも身に纏う雰囲気がよろしくない奴ら目掛けて少し強めの殺気を放っておいた。

すると相手も、一応は荒ごとをこなす程度の力は持ち合わせているようで、視線の中に込めた殺気を感じ取ると舌打ちして不機嫌そうに離れていった。


「危ない、危ない」

「シーグ。どうかしたの?」

「何でもない。それよりシュネ、それに皆も気は抜くなよ」

『え? え、ええ』

『あ? あ、ああ』


 俺は、忠告のつもりだったのだが、返ってきたのは意味が分かっているのか分かっていないのか分からない、そんな言葉であった。



 コロニーステーションに降り立った俺たちが今向かっているのは、通称でギルドと呼ばれている組織である。具体的に何をする組織なのかというと、ハローワークと人材派遣を合わせたような組織だ。

そしてギルドに所属すると、仕事の斡旋をしてくれる。その内容だが、主に運送と護衛。他にも情報の売買や傭兵の手配など、それこそ多岐に渡るらしい。

 その内容を聞いて、フィルリーアの冒険者ギルドと変わらないなと思ったのは秘密にしてくれたまへよ。ちみ。

 なお、ギルドに所属していなくても、金さえ払えば国家機密とかでない限り情報を売ってくれる組織でもある。そして今回、俺たちの目的は、その売ってくれるという情報だった。

 だが、ギルドに所属している者と所属していない者とでは情報に掛かる値段が全然違う。ゆえに、情報を得るのならばギルドに所属している方がお得となる。ただ、ギルドという組織の一員となるので、どうしてもしがらみは発生する。それが嫌で所属しないという者もいるので、どう判断するかは人それぞれであった。


ついに、というかやっと宇宙の大海原へと旅立ちました。

はてさて、どうなりますやら。


ご一読いただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ