第七十七話~事情~
第七十七話~事情~
小惑星帯で発見された宇宙船の中には、コールドスリープ状態の人物が一人だけ生存していた。しかも設備の故障等の理由によるものか、宇宙船では彼らを目覚めさせることができないのだ。
このまま放っておくというのも忍びないし、何より宇宙船のメインコンピューターからも頼まれたということもあって、俺たちが目覚めさせることになったのであった。
宇宙船の中で見つかった男性をカズサに移動させてから大体一週間弱、コールドスリープ状態にあった彼が目覚めの時を迎えた。シュネたちも色々と勝手が違うということもあってか、殊さら慎重にことを進めたらしい。それゆえ、当初の予定以上に時間が掛かったようだった。
何であれ目覚めた彼に対する説明だが、俺たちが……というのではなく彼の乗っていた宇宙船のメインコンピューターが行っている。一応、コンピューターから何でこの惑星系にいるのかという説明は聞いてはいたが、所詮はまた聞きでしかない。そんな俺たちが上手く説明できるかと言えば、疑問符の方が大きいだろうということでメインコンピューターに下駄を預けたわけだ……もっとも、シュネなら可能かもしれなかったが。
何より、見ず知らずの俺たちから聞くよりは彼らが実際に知り得ているコンピューターからの方がいいだろうという判断もそこにはあったのだ。
さて、その彼がこの惑星系にいる理由、それは俺やシュネ、祐樹たちからするとあまり馴染みがない話である。ただし、フィルリーア出身の三名からすれば身近な話であるようだった。
「お家騒動、ねぇ」
「そう、らしいわ」
貴族制度などない日本出身であり、家督を継ぐだの継がないだのと言う話はせいぜい長男が当事者となるぐらいである。しかも、そういう話もある程度でしかない。家の後継ぎという意味ではありなのだろうが、俺自身が長男ではなかったのでそんな話がでることはなかったのだ。
実際にはドラマや漫画、小説などといったフィクションの中の方が多いぐらいの話である。だがフィルリーアでは、普通に貴族制度があった。平民出身のオルやキャスでも、話ぐらいには聞いたことがあるらしい。そしてセレンに至っては、護衛などといった立場で何度か関わってしまったこともあるとのことだった。
因みに、俺たちの中で一番そういったことに関わっていたのはサブリナである。何せ彼女は、斗真が討ったアシャン教トップとなる皇王の先代の娘となるからだった。
「だけどさ。そのお家騒動だけど、今さらな話なんだろう?」
「それはそうでしょうね。もう、数百年も前の話らしいから。ただ、当事者からしたらどうなのかしら」
彼が実体験していたお家騒動だが、実は既に数百年もたっている話なのだ。
彼の家は、アーマイド帝国という国家の子爵家となる。しかし当時の当主と妻、つまり彼の両親が相次いで亡くなってしまったのだ。その為、お家騒動が発生し、亡くなった当主唯一の実子であったオルと同い年ぐらいの彼……名前はクスルドフ・ド・アループというらしいが……その彼が、命を狙われてしまったのだ。
それでも何とか宇宙にまで逃げ遂せたらしいのだが、執拗に追われてついには乗っていた宇宙船もかなりの損傷を負ってしまったらしい。だが家臣の手引きでかろうじて別の宇宙船で脱出を図り、それはからくも成功はする。しかし、何らかの理由で想定以上にエネルギーの干渉があったようで、とんでもない距離を移動してしまったのだそうだ。
彼らの船は、いわゆる超光速航行が可能であるらしい。それこそ光速ならば何十年も掛かるような距離も、短時間で移動できる。その超光速航行を使っての離脱だったのだが、前述したような理由があり、当初の想定をはるかに超える距離を移動してしまったというのだ。
しかもその時に無理があったのか、宇宙船そのものに負荷が掛かってしまい通常航行すらもままならない状態になってしまったらしい。そこで、救援用の電波を発信しつつ使用するエネルギーを最低限にまで絞って、その上でコールドスリープを行っていたということだった。
つまり、彼の宇宙船がぎりぎりの状態であったのは、少しでも長い時間、コールドスリープ状態の彼を生き残らせる為であり、同時に予想外の長距離移動によって生じた宇宙船そのものへの負荷による故障等が重なった結果であったのだ。
「何だろう。これって、運がいいのか悪いのか判断がつかないな」
「そうねぇ。これは、何とも言えないわ。故郷へ帰るのもままならなくなったのだから、運は悪いのでしょう。だけど生き残ったのだから運はいい……というより悪運が強いと言った方がいいのかしら?」
「うーん……やっぱり生き残ったのだから、運はいいんだろうな」
生きているからこそ、次があるし何かができるのだ。死んでしまえばそこで終わり、正に「死んで花実が咲くものか」といったところだろう。
「そうね。だけど、いきなり数百年の時間がたっていますというのも、どうなのかしら」
「それこそ、分からん。何せ、経験したことないから」
「それは、そうよねぇ」
シュネが彼の身の上を考え感慨とも哀れみとも取れる言葉を漏らした時、ネルトゥースから呼び掛けられる。どうやら、説明が終わったらしいのだ。
すると俺は祐樹たちや斗真たちへも声を掛けて促したあと、はっきり言って小惑星帯で遭難していた彼と面会するべく移動を開始するのであった。
さて、どうなりますやら。
クスルドフがいる部屋に入ると、彼は数名のアンドロイドたちによって周囲を固められた状態で座っている。その彼から少し離れたところで、俺たちも腰を降ろしていた。
既に事情の説明は終わっているからだろう、クスルドフも表面上は普通にしていると見える。だが、彼の仕草からそれだけとは思えない。確かに不安はあるようだが、それ以上に周囲へ興味をひいているように感じられるのだ。
ある意味で、いい度胸をしている。いやこの場合、貴族という生まれゆえ危機感が欠如しているのかも知れないが。
「……救助、感謝する。私は、クスルドフ・ド・アループという。それで、名は何というのか?」
「俺はシーグヴァルド。一応、リーダーということになる」
「分かった。それと事情は聴いたが、本当なのか? この地が、帝国の領外だというのは」
「そういわれても、答えようがない。俺たちは、帝国出身というわけではないから」
本来なら貴族という立場の相手には、丁寧な態度を取った方がいいのかも知れない。だが、あえてそうはしないつもりだった。何せ俺たちは、アーカイド帝国とやらとは縁も所縁もないのである。子爵嫡子に対して見下したような無礼な態度を取る気はないが、かといって遜る必要があるとも思えなかった。
「それも、そうだな……」
「それで、そちらとしてはどうしたいのか?」
クスルドフの乗っていた宇宙船のメインコンピューターに頼まれたとはいえ、彼を俺たちが目覚めさせたのは事実である。だが、それだけではない。何より俺たちが、ある意味で報酬に近いような物を手に入れているということもあった。
さてその報酬とは何であるのかというと、航路などに代表される様々な情報である。クスルドフの乗っていた宇宙船のコンピューターに記録されていたデータを手にしたことで、多少なりともこの宇宙というか銀河の状況が分かったからだ。
ただ、数百年もたっているので最新版というわけではない。だがそれでも、情報は情報だ。まずは銀河を旅することを考えているこちらとしては、多少古くても重要なものであることに間違いはないのだから。
「……」
「もし、子爵領へと帰りたいと願うなら、送り届けよう」
そう言いつつも、俺は内心では望まないで欲しいとも考えていた。もし故郷へ帰ると望まれてしまった場合、幾ら時間がたっているとはいえお家騒動後というよからぬ状況に巻き込まれそうな気がするからだ。
確かに彼が経験したお家騒動が数百年前である以上、もう時間切れだとは思う。俺はそう思うのだが、それと災難などがどこからこちらに降って湧くかなど判断しようがない。実際、フィルリーアでは、結果として悪魔関連の事象に巻き込まれたといっていいのだ。
「……いや。もう、アループ家には戻りたくない」
「一応尋ねるけど、それでいいんだな?」
「ああ。既に時間がたっているのだから、家は叔父が継いだだろう。今はその子孫が当主となっているだろうし、何より骨肉の争いなどもうごめんだ」
どうやら、お家騒動などに関わりたくはないという俺のささやかな望みは叶えられるようである。そのことに内心でほっとしているのだが、そうなると彼の扱いをどうするかという事態が発生する。何より、貴族の嫡子だった男がいきなり世間へ放り出されたところで、問題なく生きていけるとは思えなかった。
「じゃあ、帰らないでいいわけだな」
「まぁ。すぐにとは言わないが、できれば一応様子だけは見たい。いいだろうか?」
「こっちから提案したのだから、その子爵領とやらに送るぐらいはいい。それは何れの話としてだが、現状で当てはあるのか?」
「それは……」
まぁ、答えはでないだろう。
第一に、時間がたちすぎているので、生きている知り合いなどいるとは思えない。それにクスルドフは今まで貴族だったから、誰かにやってもらえばよかった。しかし家に戻らないとなれば、全て自分で行わないといけない。少なくとも、俺たちが召使のようにクスルドフにそこまでしてやる必要は感じなかった。
それに何より、世間を知らないいいところのボンボンである彼が、この状況で社会に放り出されて上手くやっていけるとは到底思えない。騙されてボロボロになるのが、目に見えるようだった。そんな未来が予想できるだけにどうしたものかと思いつつ、俺は何気なくシュネへ視線を向ける。すると、彼女は静かに頷き返してきた。
ふむ……毒を食らわば皿までともいう。それに一人ぐらい、今さら増えたところで影響などないだろう。今現在でも、千人弱の人員を抱えているのだから。
「だったら、さ。俺たちとくるか?」
「え?」
「だって、当てはないのだろう?」
「それは、そうだが……いいのか?」
「だめなら初めから提案はしない。ただ貴族の出だからと言って、特別扱いはない。ちゃんと、やることはやってもらうことになるがな」
「……他に手はないな……お願いする」
暫く考えたあと、クスルドフはそう返答する。とはいえ、ここで駄々をこねれば、その時点で放り出すだけだったけどな。
まだ先のことは分からないが、何はともあれ同行者が一人加わることになったのであった。
取りあえず、メンバーが一人増えました。
そして、色々情報も得ました。
シーグたちからすれば、助けた甲斐はあったかな? という感じです。
ご一読いただき、ありがとうございました。




