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第七十六話~綽然~


第七十六話~綽然~



 惑星系内にて様々なことになれる為にと行っていた航行中に見付かったのは、他文明によって作られたと思われる宇宙船である。その宇宙船内に入り、中枢とのアクセスに成功したのであった。





 旗艦であるカズサと下手に接舷して、そこで暴れられても困る。ゆえに見つかった宇宙船と繋いだのは、駆逐艦としたのだ。何せ見付かった宇宙船は、駆逐艦の半分ぐらいの大きさしかない。多少の時間は掛かるかも知れないが、駆逐艦からのエネルギー供給で十分賄えるので問題にはならないのだ。

 やがてどうにか動くことができるだけのエネルギーが供給されたことで、艦内の明かりも非常用から通常用へと切り替わった。これにより艦内での酸素精製も可能となったようで、やっと通信越しではなく直接会話ができる状態となれたのだった。

 さてこの宇宙船だが、現在は自動診断中らしい。どうやら相応の時間、稼働していなかったらしく、どこに不具合があるか分からないのだ。つまり、その診断が終わるまでは、本格的な活動は行えないのだ。


「……本当に、会話ができているよ」

「だから、言ったでしょう? わたくしは問題ないって」

「それは、そうだけどさぁ……」


 俺の当然な疑問に、オルとキャスや祐樹たちも頷いている。確かに会話は問題ないと聞いていたが、本当にそうだとは思わないだろう。だが、実際に会話が成立しているのだから否定のしようがない。もうこれは、そういうものだと納得してしまった方が楽だろうと思い、追及はしないことにした。


「まぁ、いいや。そういうものだと、納得する。それはそれで置いておくとしてシュネ……その、この宇宙船のメインコンピューターから頼まれたことって言うのは、何だ?」

「うん。実は、コールドスリープから目覚めさせて欲しいって」

『……え?』

「まぁ、そういう反応になるわよね」


 あー。えっと……ちょっと待て。

 コールドスリープを目覚めさせるということは、誰かがその状態になっているということに他ならない。しかし、仲間内でコールドスリープ状態などになっている人物は一人もいない。これは、フィルリーアを脱出する際に連れてきた悪魔たちに関しても同じだ。それであるにも関わらず、その状態にある肉体があるということ。

 それは即ち……


「おいおい! それはこの宇宙船に、俺たち以外に誰かいるってことか!?」

「ええ。まさしく、そういうことになるのでしょうねぇ」


 驚き慌てて泡を食った俺たちと違って、落ち着き全く慌てていないシュネの態度に毒気を抜かれてしまった。流石、元は科学者だなと思いつつよく見ると、若干だが目が泳いでいる風に感じる。さらに体も微妙に動いており、どうにもせわしなく見えた。

 その様子に、シュネも落ち着いているのではなく取り繕っているだけで、実際は動揺しているのが分かる。どうやら一種の現実逃避から、そんな態度となっているようだ。つまり、彼女にとっても誰かがいるというのは想定外だということだったわけだな。


「流石のシュネでも予想外だった。というわけか」

「……ええ、そうよ! シーグ、その通りよ!! 普通に稼働している宇宙船ならまだしも、殆ど活動を停止している宇宙船に誰かいるなんて、流石に思ってみなかったわよ!」


 ややキレ気味な反応だが、その気持ちは分からないでもない。俺はシュネの肩に手をおくと、宥めるように優しく動かしたのだった。



 宇宙船のメインコンピューターの案内に従って、艦内を進んでいた俺たちだったが、やがてある区画へと到着する。その区画には幾つかのコールドスリープを行う為の機器が置いてあり、その一つに十代中頃ぐらい、つまりオルと同じぐらいの青少年がコールドスリープされていた。


「これが、目覚めさせたい人物ねぇ。それで、何でこの船のコンピューターがやらないんだ?」

「どうやら、その辺りの機能が壊れているみたい。コールドスリープ状態を維持することはできるらしいけど、目覚めさせるとなると、かなり厳しいみたいね」

「それで、まだ安全にできそうな俺たちに頼むってわけか。まぁ、見殺しにするのも忍びないからいいけど、問題なくできるのか?」

「その辺りは、ネルトゥースとこの宇宙船のメインコンピューターによる情報交換で、規格変換を可能にすることができるようになったわ。勿論、専用の接続装置を作ることになるけれどね」


 要は、地球にいた頃の話で外国に行ったときに電化製品で使用する変換器みたいなものを作るっていうことなのだろうか? そう考えてシュネへ尋ねてみると、ニュアンス的にはそれでいいようだ。その変換器についても、既に作成に入っているらしい。何とも素早いことである。

 その後、搬入口を開くとコールドスリープが行われている彼を運び出す。なお目覚めさせるための装置は、カズサや悪魔たちが乗った移民船のどちらにもある。だが、今回はカズサにて行うことにする。その為、シュネと同行したイルタは掛かりきりになるので、その間はこの場所で停泊することとなった。

 因みに宇宙船だが、故障や時間の経過による劣化はあっても廃棄しなければならないほど致命的な損傷はないらしい。但し、中枢に近いところに損傷があるらしく、航行するなどは現状では難しいそうだ。

 そこで、この宇宙船はカズサ内に移動させる。そこで修理して、動ける状態に持っていくことをシュネが画策していた。ただそのお陰で、若干手狭となったが仕方がないだろう。無論、この場で放置という選択がなかったわけでもなかったのだが、シュネたちから反対されたのだ。


「せっかくのサンプ……ゴホンゴホン。有用な資料である宇宙船を捨てるなんて、もったいないこと許すわけない。絶対よ!」


 言い直しても微妙に自身の気持ちというか願望が現れているシュネと、彼女に賛同したセレンと俊によってその意見は却下されてしまった。現状、邪魔というほどでもない。最悪、武装などは使えなくしてカズサで曳航状態にしてもいいからだ。

 それより何より、三人の勢いに負けてしまったということが大きかったりする。その勢いに負けて、俺は頷き許可を出していたと言っていいだろう。とはいえ、油断はしない。ネルトゥースやアンドロイドたちで監視は続行させて、電脳と言っていいのか分からないがそちらでもそして物理的にも警戒はし続けることにした。





 シュネとネルトゥースと医療バイオロイドのイルタ、それとセレンに俊。さらには悪魔の中からこちらの持つ技術に興味を示した幾人かを中心として、コールドスリープ状態から目覚めさせる作業を行っている。しかもシュネは、同時並行で宇宙船の調査も行っているのだ。

 もっとも、コールドスリープ状態から目覚めさせるという行為は、ネルトゥースと彼女の移動用端末でもあるネル。そして、医療担当の一人であるイルタが中心となっている。その意味で言うと、シュネには比較的余裕があるらしい。その余裕の分、彼女はやはり興味があるらしい俊やセレンと共に宇宙船の調査を行っていたのだ。

 とはいうものの、機械的な調査と医療的行為を同時に行っていることに変わりはない。特にどちらでも中心となっているシュネに関しては、やはり心身ともに負担が掛かるようである。その為、シュネは癒しを求めていたのであるが、その結果がこの部屋での行動であった。


「あー。やっぱり、いいわぁ」

「そう?」


 シュネが求めた癒し。それは、キャスであった。

 どうも彼女の先祖返りの状態に、癒しを感じているらしい。キャスの先祖は、多尾の狐である。ざっくり分かり易く言えば、九尾の狐であった。シュネ―リアの神獣でも、狐は特に魔力の扱いに長けていたらしい。そしてその特性だが、子孫にも若干だが引き継がれている。その為か、獣人の中でも狐の獣人は、例外的に魔術を得意とした者がいたようであった。

 つまりキャスが、魔力過多症という獣人では殆どない症例に掛かってしまった素地は、あったというわけなのである。やはり、先祖返りという特殊な状況が影響していたことは間違いなかった……と言うのがシュネの見解だった。

 そのキャスだが、今は狐の状態となっている。流石に九尾はないが尻尾は四尾ほどあり、体も通常の狐よりは大きいようだ。しかし、先祖となる九尾ほどの大きさはない。何でも神獣としての九尾の狐は、体長だけでも数メートルはあったらしい。尾も長いらしく、体長よりは短いがそれでも確実にメートル級であったそうだ。つまり全長で言えば、五メートルぐらいはあったのとされているのだ。

 そしてシュネだが、体長は一メートルを少し超えるぐらいである。そして尾の長さは、一メートルよりは短いといったところだろう。そしてその体毛はというと、ふさふさである。日本人がイメージする狐よりもさらに長い毛足であり、流石に俺はキャスが獣人の女の子なのであまり触ったことはないが、本人の許可を得た上で触った時は、もふっとしていて毛足は手が隠れるぐらいであるのだ。

 しかも手触りはなめらかであり、感触はすごくいい。そんなキャスの先祖返り状態を、シュネは全身で感じているのだ。


「うん。気持ちいいわ。とても癒される」

「ボクも気持ちいいよ、シュネお姉ちゃん」


 事実上、シュネは抱き着いているわけだが、そのれ方はキャスとしても気持ちいいらしい。お互いにとって、ウィン・ウィンの関係なわけだ。

 とても、羨ましいことに。

 俺としても、動物の持つもふっとした感触は好きである。キャスの毛並みは正にそれであり、俺としても撫でてはみたい。しかし、なまじ獣人としてのキャスを知っているだけに、大の男がその行為を行うのははばかれるのだ。

 その時、俺の手にさわっとした感触がある。何かと思って目を向けると、そこにはオルが先祖返りの状態で寄り添っていた。オルの毛並みも、決して悪くはない。毛足や毛の極め細やかさはキャスに一歩負けるだろうが、撫でると気持ちいいというのはオルでも同じなのだ。

 そしてオルが先祖返りとなったのは、どうも撫でさせてくれる為のようである。それでも一応、目で訪ねてみると、小さく頷いてくれていた。


「ありがとうな」


 その言葉に、オルは小さく首を振る。その後、俺はオルの厚意に甘えて優しくそして感触を確かめるようにゆっくりと撫でていたのであった。

 あー、癒される。


シュネ―リアが存在している惑星系外からの異邦人です。

いまだに眠っている状態ですが。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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