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第七十二話~船出~


第七十二話~船出~



 アシャン教が秘匿していた転生の秘術を手に入れ、その上で皇王などといったアシャン教でも転生に関わっていると思われる中枢の者たちを討った俺たち。そして、斗真が所有していた飛空艇の最期を見届けたあとで研究所へと転送したのであった。





 まさかの事故が!

 などといったようなイベントなどが発生することもなく、俺たちは無事に研究所へと転送された。

するとそこでは、転送装置を直接操作するスタッフとは別に、研究所に残ったメンバーがシュネを筆頭に雁首揃えて出迎えてくれていた。そんな彼らに対し、親指を立てながら笑顔を浮かべることで答える。すると、誰からともなく歓声が起きたのであった。


「お帰りなさい」

「ただいま、シュネ……そしてこれが、アシャン教が秘匿していたブツだ」

「そう、わかったわ。ご苦労様」


 代表するというわけでもないのだろうが、先頭で俺たちを出迎えたシュネに対し、無事に戻った挨拶をする。そのまま彼女へ、隠し部屋で手に入れた巻物を手渡した。ねぎらいの言葉を掛けつつ受け取ったシュネは、一まずしまい込んでいる。どうやら、この場では確認するつもりはないらしいようだ。

 すぐに確認するかと思っていただけに首を傾げながら俺は、巻物を指さしながら中身の確認をしないのかと尋ねる。すると彼女は、軽く首を左右に振っていた。


「あとで、たっぷりとするわよ。それより今は、シーグたちよ。取りあえず、お風呂にでも入ってきなさい」

「ん? あぁ、そうだな」


 何であれ、懸念したことが終わったのだ。これからのことはこれからのこととして、今は気分を変えるという意味でもシュネが言うように風呂にでも入るのはいいかも知れない。俺もそう判断して、彼女の言葉に乗ることにした。

 そしてそれは、斗真たちも同じらしい。何より彼と悠莉は、それこそ五十年越しの宿願を果たしたと言えるのだ。それこそ色々いろいろと思うことや考えることはあるだろう。何せ聞いた限りの話となるが、アシャン教への復讐は、それこそたった二人で始めたことらしい。幾ら俺たちの拠点である研究所と同じように一万年という長き時を越えて維持されていた研究所があったとはいえ、苦労は相当なものだったのだろうということは想像に難くなかった。


「さて、じゃあご助言に従い風呂にでも入ってくるか。斗真に悠莉はどうする?」

「俺は……うん俺、いや俺たちも入ろう」

「……そうね……」


 俺の問い掛けに対し答えた斗真の声には、何かを一つやり遂げたような達成感が籠っているように思える。そして悠莉の声には、感慨深いと言っていい何かが込められていた。その二人の返答に対して一つ頷いてから、俺は視線をオルたちへと向けた。


「シーグ兄貴、無事に戻ってきて嬉しいよ」

「ありがとう、オル」

「ボクも、嬉しいな。シーグお兄ちゃん」

「そうか。キャスもありがとうな」


 今まで空気を読んでいたのか黙っていたオルとキャスの兄妹だったが、視線を向けると同時に駆け寄ってくると労いの言葉をくれる。その言葉には嬉しさが込められていると感じられるし、そのことを表現する様に二人の尻尾が激しく左右に揺れており、二人の頭に鎮座する両耳も忙しなく動いていた。

 そんな兄妹の様子に、気持ちがほっこりしてくる。俺は殆ど無意識にオルとキャスの頭に手を置くと、慈しむように撫でてしまっていた。するとオルは照れ臭いのか、少し顔を赤らめながらそっぽを向く。そんな兄とは対照的に、妹のキャスは嬉しそうに笑いながら受け入れているようだった。そんな兄弟の態度またいとおしく、少しのあいだ、二人を撫で続けたのであった。





 ここで、その後にアシャン教がどうなったのか。それを語るとしよう。

 あの聖都襲撃からおよそ一月、アシャン教及びアシャン神皇国は混乱のただ中にいた。だが、それも当然だろう。何せアシャン教とアシャン神皇国のトップとなる皇王の行方不明を含め、アシャン教の上級幹部がごっそりと消えたからだ。これで混乱しない組織など、まずないと言っていいだろう。だが、混乱の坩堝るつぼとまでにはなっていなかった。

 その理由は、やはり上級幹部にある。実はアシャン教の上層部だが、完全な一枚岩というわけではなかったのだ。上層部の主流となっているのは行方不明扱いの皇王を含めた者たち……いわゆる主流派なのだが、彼らとは別に非主流派と言える者たちも存在していたのである。彼ら非主流派の主張は、なるべく転生の秘術は使わないという考えの持ち主たちである。これが絶対と言わない辺り、やはりアシャン教の関係者だと思えてしまうのだがそれは一まず置いておくことにしよう。

 そんな非主流はと言える彼らだが、アシャン教内で大勢を占める主流派に対して勢力が小さい。それでも一応は、幾人かが上級幹部に名を連ねていたのである。その彼らが中心となり、何とか聖都襲撃、幹部の大量死亡及び皇王の行方不明という事態に見舞われたアシャン教とアシャン神皇国の維持に全力で邁進したのだ。

 それにより、かろうじて二進にっち三進さっちもいかなくなるという事態だけは避けることに成功する。しかしそれが限界であり、アシャン教やアシャン神皇国の混乱は、一月を経過したあとでも収まっていなかったのだ。

 なお、この事態に際して彼らは、現在の勇者である祐樹たちの招集をこころみている。要は旗頭を一先ず据えて事態の打開をと考えたのだろうが、残念ながら祐樹たちは俺たちが庇護したこともあり行方は掴めていない。そこで彼らは密かに冒険者ギルドや各国に問い合わせもしたようだが、祐樹たちはルドア王国を最後に忽然と消えていることぐらいしか分からなかった。

 当然のように、ルドア王国へ密使が派遣される。しかし当のルドア王国も、祐樹たちの情報など持っていないので知らない返答するしかなかった。

 そんな返答にアシャン教側が納得したわけもないが、皇王が不在で勇者一行もいないという状況では、アシャン教もアシャン神皇国も大胆な動きがとれない。内心で歯ぎしりしながらも、その返答を受け入れることしかできなかった。

 しかしながらこの件が引き金となりアシャン教とアシャン神皇国、ルドア王国と彼の国となかば同盟関係にあるエリド王国の間に、不穏な空気が流れ始めたのだ。

 さらに悪魔王である斗真の方針転換があったので、悪魔による各国への攻撃やテロ行為が全く行われていない。このことも、両勢力の関係悪化に拍車を掛けているのは皮肉なことだった。

 なお皇王が行方不明扱いとなっている理由だが、それは他の上級幹部と違い遺体が見つかってないからである。彼の遺体は現皇王が生きていなければ入れない隠し部屋にあるので、ほぼ見つかることがないからだ。

 しかも、現在アシャン教を率いている上層部の面々も元は非主流派である。そんな彼らに、主流派のトップだった皇王が皇王控えの間から続く隠し部屋の存在など教える筈もない。ましてやそこに、転生の秘術を行う為の手順を記した巻物があるなど彼らへ皇王たち主流派が伝える筈もない。実は現在のアシャン教上層部が、やはり行方不明状態の祐樹たちを諦めて、現状を打破する為にと新たな勇者転生を行わない理由もそこにあった。

 とはいえ、彼らもこのまま混乱していることをよしとしているわけでもない。まずは体制の立て直しを図り、皇王は死亡したということにして新たに選出するつもりであった。しかしながら、それも今すぐに行うことは難しい。もう少しアシャン教内とアシャン神皇国内の混乱が治まらない限り、実行へ移すには無理があるからだった。


「これは、当分駄目だろうな」

「でしょうね。現状、皇王と勇者と言う二枚看板失った状態だし。よしんば立て直しが図られたとしても、わたくしたちがそれを見ることもないでしょう」

「そうだな。間もなくだしな」

「ええ」


 シュネとのベッドでの一戦を終えたあと、寝物語としては随分と艶のない会話をしていた俺たちだった。

 何せあとひと月もしないうちに彼女が言った通り俺たちはフィルリーア世界、いや惑星フィルリーアより離れて宇宙を旅することになる。そのまますぐに惑星系外へ旅立つというわけにはいかず、多少はこの星系内で慣熟航行を行うことになるだろう。

 その理由は、俺たち人類側にある。宇宙船自体はかなり自動化がされているし、スタッフもガイノイドやアンドロイドがいるので運航自体は難しくもない。しかし、宇宙を旅する以上、最悪は想定しておく必要がある。万が一にもガイノイドやアンドロイド、また彼らと宇宙船を司るメインコンピューターとなるネルトゥースなどに問題が発生などした場合、実際に乗り込んでいる俺たちでどうにかするしかないからだった。


「あ、そうだシュネ。話は変わるけど、お前に渡したアシャン教が所有していた転生の秘術、どうなった?」

「あぁ、あれね。ちょっと、アレだったわ」

「……アレ? アレって何だよ」


 そう尋ね返すと、シュネは肩を竦めてから教えてくれた。

 アシャン教に伝わっていた転生の秘術だが、実のところ完成度という意味では先代のシーグヴァルドが完成させた転生の術に比べると格段に落ちる代物らしい。何せ転生を行う為には、引き換えとなる代償が必要なのだ。

 しかもその代償だが、何と命らしい。しかも命なら何でもいいというものでもなく、高位の僧侶や魔術師の命を代償にして実行するというものだった。

 さらに言えば、一人転生させるのに引き換えも一人というわけにもいかないらしく、一人の転生に最低でも二人は必要らしい。その二人にしても、稀代のという枕詞まくらことばがつくぐらいならばの話であり、通常なら三名から四名は必要だというのだから驚きだった。

 因みに、先代シーグヴァルドの完成させた転生の術だが、別に他者の命など必要としない。こちらが必要とするのは転生先となる器、即ち魂がない肉体と魔力、ただそれだけなのだ。


「……なるほどねぇ。それは、シュネがアレとか言うわけだ」

「ええ。よくも、あのような欠陥品を使っていたものね」

「それだけ、先代のシーグヴァルドが完成させた術は優秀だったということだろうな」

「そう、でしょうね」


 先代シーグヴァルドが完成させた転生の術と、アシャン教が秘匿し続けていた転生の秘術。この二つを比べてみれば、先代シーグヴァルドの優秀さが垣間見えるというものだった。



 シュネとの寝物語から二十日ほどたった日の夜、ある山に光が走る。その山とは、地下に研究所があった山だ。山のほぼ中央から生じたその光は、そのまま上下に山を二分するようにと走っていく。やがて光が収まると、先ほど走った光をなぞるようにして山が割れていった。

 そこに鎮座いていたのは、一隻の船である。その船を設計し、そして建造を行ったのはシュネに他ならない。彼女が建造した宇宙戦艦カズサ、それが船の名前であった。

 実は彼女が作り上げた船だが、この船だけではない。他にも重巡洋艦が一隻、駆逐艦が三隻。そして、最大規模を誇る一隻がある。その一隻とは、移民船であった。

 元々もともとは宇宙戦艦と駆逐艦二隻を建造する予定だったのだが、悪魔たちの他惑星の移住という事態も追加されたことで、さらに重巡洋艦と駆逐艦と移民船がそれぞれ一隻ずつ追加で建艦したというわけである。もう船団と言っていい規模となった俺たちだが、いよいよこの惑星より船出の時が来たというわけだ。

 因みに、船団を率いるのは、俺であった。


「では、提督殿。号令を」


 数隻とはいえ一応は船団なので、リーダーの俺が提督ということらしい。なお、実戦となった場合、俺はキュラシエに乗り出撃することになるだろうから、実は名前だけ提督だったりするのは秘密だった。


「では……ゴホン。戦艦カズサ! 発進!!」


 俺の号令一下、都合六隻の船のエンジンに火が入る。そしてカズサを先頭にして次々と離陸すると、フィルリーアの大気圏を突破していくのであった。


今回で、フィルリーアでの話は最後となります。

思ったよりかなり長くなってしまいましたが、漸く舞台が変わります。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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