第七十話~発見~
第七十話~発見~
アシャン教が秘匿する転生の秘術を消滅させる為にアシャン教の本部となるアシャン神皇国の宮殿へと侵入を果たした俺たちは、皇王の間と呼ばれる場所にて皇王率いる手勢と対峙する。そしてついに皇王を倒したことで、雌雄が決したのであった。
俺が皇王を倒したあと、戦いはあっさりと決着した。
人数的には、若干俺たちの方が不利かなという戦いであったが、そもそもの戦力で言えば負けていないどころかこちらの方が上だといっていい。その上、俺の手によって皇王が倒され捕縛されているのだ。こうなると、動揺がアシャン教側に動揺が走るし迂闊に動けなくもなる。その隙を逃すほど、俺たちも愚かではないのだ。
斗真たちは、伊達に五十年近くも戦い続けたわけではない。そしてビルギッタたちに至っては、有り体にいえばロボットとなる。その計算は、正に冷徹といっていいだろう。そんな彼らたちが、敵に生まれた隙を逃すなどといった、愚かな行動などする筈もないのだ。
こうして、皇王の配下のうちの殆どは斗真たちによって積年の恨みを果たす対象とされていく。いわゆるなぶり殺しとはなっていないが、それでも容赦なく次々と討たれていき、残ったのは皇王だけだった。
「さて、皇王。貴方には一つ、役立って貰おう」
「ふん。神をも恐れぬ所業の貴様らの役になど、ごめん被る!」
「神だと! そのような存在がどこにいる!!」
皇王の言葉が癇に障ったのか、斗真が声を荒げて反論した。しかし、その彼を見る皇王の目は憐れみを帯びている。それは、戦いに負けて追い詰められている皇王が、追い詰めた側である斗真に対して向ける目ではないだろう。俺からすれば、よくもそのような目を向けられると思ってしまうのだが。
もしかして、この男は現状を把握できていないのだろうか。
「神は、我らの傍にいる。そして、我らの心を見ておられるのだ」
「ふざけるな! ならばその神とやらが、何をした! 勝手に転生などさせて、自分たちに都合がいい勇者を出現させた、それが神の所業だと貴様は言うのか!!」
「偉大なる神の思し召しによって、転生が成される。神のお役に立てるというのに、何かおかしいのか?」
あー、なるほど。これはだめだ。
いわゆる宗教家だか、俺のように宗教に関心がない者から見れば狂信者にしか見えない。つまり彼は、本気で神の存在を信じているわけだ。彼らが崇め奉る神のお役に立つこと、それが第一義でありそれ以外は考慮していないのだろう。傍から見れば拉致や誘拐とたいして変わらない転生も、問題にすらならない。彼らにとってみれば、神のお役に立つことこそがフィルリーアの平和なのかも知れない。
全く、理解はできないけどな!!
「あー。すまないが、それまでにしてくれ」
「だがっ!」
「狂信者に宗教論議したところで、答えなど出ないからやるだけ無駄だ。そんなことより、うるさいから黙らせる」
「誰が狂信者か!」
「お前だよ」
その一言と共に、皇王の鳩尾へ蹴りを入れる。どうやら僧侶ではなく騎士出身らしく鍛えてはいるようだが、不意打ちならあまり変わりはしない。しかも、デュエルテクターを纏ったまま一撃だ。一瞬のうちに白目を剥くと、皇王は気絶していた。
ここで斗真に預けてもいいが、さっきも言った通り役立って貰うことがある。それが終わるまでは、生きていてもらった方がいいのだ。
気絶させた皇王を、米俵のように抱えて皇王の間から出るとそのまま皇王控えの間へと向かう。すぐに到着すると、ウエストポーチから道具を取り出した。その道具とは、探知機である。この皇王控えの間から転生の秘術などが保管、管理されている場所へ続く隠し通路の存在自体は把握しているのだ。
だが、控えの間の壁のどこから入るのかまでは掴み切れていない。そこで、手っ取り早く現地で測定してしまおうというわけだった。
そして控えの間を探知機で調べると、皇王の間を背にして左手の壁に空間が存在している。そこで早速にでも、皇王には役立って貰うことにした。なお、役に立つ為に別に彼が起きている必要はない。必要なのは皇王の存在と、彼自身が生きていることなのだ。
米俵よろしく抱えていた皇王を肩から降ろし、シークレットドアがあるだろう場所へ近づける。すると壁の一部が光り、やがてその光った部分が奥へと下がる。恐らく皇王控えの間の壁の厚さの分だけ下がったかと思うと、そのまま横へスライドした。しかもその直後に、明かりが灯る。何かと思えば、光を放つ魔道具のようだ。その魔道具に照らされ、中の様子が分かる。どうやら階段となっており、しかも先がカーブしている。多分、螺旋状になっているのだろう。
俺たちはお互いに頷きあうと、先に進む。やはり階段は螺旋状になっており、下へと向かっている。そんな螺旋階段を、静かに進んで行った。
因みに皇王だが、変わらず肩に抱えている。あのまま皇王控えの間に置いていき、万が一でもアシャン教側に見付かると厄介だからだ。それに、階段が終わった先でも皇王が必要かもしれない。皇王でなければ開かない場所が、さっきのような場所だけとは限らないのだ。
ただ、最悪の場合は力押しでぶち破る気である。何せ皮肉なことに、先の皇王率いる者たちとの戦いで可能なことが実証された形なのだ。あの時、床を殴った際に威力は階の間を貫通している。つまり同じ材質の壁も、壊せるということだ。
ともあれ階段を降りていくが、思いのほか長い。あくまで予測だが、建物の地下にまで続いている。そんな気がしていた。
「長いな」
「そうだな……ん?」
「どうした、斗真」
「どうやら、終点が近いみたいだ」
斗真の言葉に俺は、改めて階段の先を見る。するとそこで、階段は終わっていた。その先は通路なのか、真直ぐに伸びている感じがする。やがて階段を降り終えると、やはり通路となっていた。だが、それほど長いわけでもなく、数十メートルぐらいしかない通路だった。
斗真と改めて頷きあうと、その長くはない通路を進む。そしてその先には、押し開くタイプの両扉が鎮座していた。取りあえず皇王を床へ降ろし扉を押してみるが、びくともしない。このまま力任せに開けてもいいが、その前にやれることはやっておこうと思う。俺は、相も変わらず気絶したままの皇王を抱えて扉の前に立たせる。すると間もなく皇王が首から掛けていたネックレス……形からしてアシャン教の聖印だと思われる……の飾りから、両扉の合わせ目中央付近へ光が伸びる。その光は、そのまま扉の合わせ部分の上下方向へ走り、やがて光が天井付近と床付近にまで到達すると両扉がゆっくりと開いていった。
「ほう。今度は、皇王が鍵ではないのか」
「そうみたいだ。色々と凝っていることで」
その様子を見て斗真が声を上げたが、その言葉からは彼が感心しているのか、それとも揶揄しているのか分からない。そして俺は、肩を竦めながら答えたのだった。
改めて、皇王を担ぎ直してから扉の中に入る。するとそこは、宝物庫になっていた。多分、ここにある物全てが色々と曰くがあるモノなのだろう。そうでないなら、幾ら宝物といってもここまで厳重に隠された場所へ置いておくことなどないからだ。
さて、この宝物に引かれるものがないわけではないが、今は目的を優先させることにしよう。俺たちは、件の転生の秘術、これを二度と使用できないようにしなければならないのだ。その為に、聖都に攻撃を仕掛けてまで潜り込んだのだから。
とはいえ、どうしたものか。何せ、どういった形で転生の秘術が保管されているか分からない。事前にシュネから聞いた話だと、巻物の形で保管されているのではとのことだった。その根拠を聞くと、魔術的なスクロールだと一回使ってしまうとそれで終わってしまう。それでは二回目以降、使えなくなる。だが少なくとも、斗真と祐樹、都合二回使われている以上、スクロールというのは考えづらい。ならば、手順を記した巻物という形で保管されているのが一番理にかなっているとのことだった。
確かに、それならば何回でも使える。あくまで巻物は、転生のやり方を記したノートに過ぎないからだ。それで成功確率がどうなるかは分からないが、既に成功例が二例ほどあるのだから問題はないのかも知れない。ゆえにそれらしいものを探すが、煌びやかな物や魔術の掛った武器や防具、それと希少な魔道具などは見つかるが、肝心要となる転生の秘術が記された巻物らしきものは見つからなかった。
「うーん。ここまで厳重に隠されていたのだから、あってしかるべきだろうと思うのだが……シーグは、どう思う」
「もしかして、他の場所にも秘密の隠し場とかがあるのか? だけど、九か月もの時間を掛けて徹底的に情報取集をしても、そういった様子はなかったし……どういうことだろう」
「う、うぅ……っは!? ここは一体どこ……まさか!!」
俺や斗真だけでなく、ハムーサやシュルンらと頭を捻っていると皇王が気付いたらしい。だが完全に縛り上げているので、動くことなどできない。身動きもとれず声を張り上げるだけである。そんな皇王だが、気付いたあとで目に入ってきた景色から自分がどこにいるか見当がついたようだ。しかもその彼は驚きの声を上げつつ、頻りに蠢いている。体の自由が完全に拘束されているにも関わらずビチビチと動いているさまは、さながらエビのようであった。
食べる気が、全く起きないエビだけどな!
核心へ近づいております。
あと、もうちょっと。
ご一読いただき、ありがとうございました。




