第六十九話~収束~
第六十九話~収束~
アシャン教が秘匿している転生の秘術、その術を破棄するべく聖都への潜入を果たす。その為に、斗真の所有していた小型飛空艇すらも引っ張り出して行ったミッションは成功し、ついには皇王の間へと到着したのであった。
アシャン教の、そしてアシャン神皇国においても重要な場所でもある皇王の間へと入る扉は大きい。しかもその扉には、精緻な飾りも施されている。そのさまは、扉自体が一種の芸術作品といっていいだろう。そのような重厚かつ荘厳な扉であるが、見た目とは違い簡単に押し開くことができる。その為、いささか拍子抜けしてしまったのも事実だ。
いささか肩透かしを食らった感があるが、中の様子が分かったことでその気持ちも雲散霧消する。何せ皇王の間には、完全武装した騎士やローブを着た恐らく魔術師が合計で二十名以上はいたからだ。しかも、ローブを着ている者たちがつき出している手には魔術の光が生み出されている。おそらく、俺たちが扉を開き始めた時から詠唱を始めていたのだろう。
出会いがしらからの魔術であったからか、俺は兎も角、斗真たちも不意を突かれているのか行動に移せていない。このままではまともに食らいかねないと考え、俺は咄嗟に行動を起こすことにした。
「ええい! ままよっ!!」
瞬間的に魔力を拳に集めると、皇王の間の床を思いっきり殴りつける。皇王の間は、アシャン教及びアシャン神皇国のほぼ中枢ということもあってかかなり頑丈に作られていると考えられる。ならば多少床が削れたとしても、問題ないだろう。
そう判断して、俺は床を殴りつけたのだ。
しかもただ殴りつけたのではなく、魔力を集めた上である。そもそも身体強化の術が掛かり、さらには肉体自体も最高の状態で生み出されている。しかもデュエルテクターの持つ効果で、肉体のポテンシャルも最大にまで引き上げられているのだ。
そんな理由も重なり合って、咄嗟とはいえそんなに手加減をしないで殴った床は、予想外に壊れたらしい。考えていた以上に、多くの床材が巻き上げられることになった。
このフィルリーアにおける建物は、基本的に石材となる。だが、殴った感触から石材という感じが薄い。では何なのかといわれると、石工でも大工でもない俺では答えようはなかった。とはいえ、当初の目的は十分に果たしたと言えるだろう。殴られたことで破壊されて舞い上がった元床材の瓦礫が、俺が床を殴るとほぼ同時に放たれた魔術の盾となったからだ。
無論、全てが阻まれたわけではない。俺にしても斗真たちにしても、多少は魔術を食らっているからだ。しかし斗真たち悪魔は、基本的に肉体も精神も強い。それゆえに、威力が減退した上に術の数が少なくなれば耐えることができてしまう。しかもここにいる悪魔の面子は、揃って高ランクとなるので余計に耐えることができるのだ。
そして共に行動しているビルギッタたちだが、こちらもシュネの手によってより高性能となっている。元から生身ではないので、身体自体は大変丈夫となる。しかも耐魔術コーティングとでも言うのだろうか、そのような技術が使われているらしい。その為、ビルギッタを筆頭とする彼らも耐え抜いていた。
もっとも、ビルギッタたちや斗真たちにしても身に着けていた服などはほぼなくなっている。だが、サイズさえ合えばだれでも身に着けることができるミスリル製のインナースーツだけは残っていた。流石はミスリル製、といったところだろうか。
なお、残った俺はというと、そもそも緋緋色金製のデュエルテクターを身に纏っているので魔術に対する抵抗値は高い。しかも床を殴ったことで体勢が低くなっていたこともあって、魔術をあまり受けていないので問題とすらなっていなかった。
因みに殴った床だが、一番深いところ、即ち拳が当たったところは階下にまで穴をあけている。すり鉢状となっているので、実はビルギッタや斗真たちも床面から多少は下がっている。つまり彼らも、俺と同様に元来の床面から下がった分だけ魔術の直撃を幾らかでも避けた形となっていた。
「先に行くぞ!」
俺はビルギッタや斗真たちへ声を掛けると同時に、すり鉢状となった穴から飛び出す。瓦礫と魔術の着弾によって舞い上がっていた埃のベールを自身で切り裂きながら、そのまま最前線にいる騎士の一人へ肩からぶち当たりそのまま吹き飛ばした。
着地と同時に俺は、材質を緋緋色金製へと変更した短杖を取り出す。しかも取り出したのは、二本だった。
この二本の短杖だが、材質以外は初代といっていいアダマンティン製の短杖と同じ性能となる。そして短状の両端からもそして任意の端からも魔刃を出せるのも同じなのだ。しかし一つだけ、違う点があった。その相違点とは、二本の短杖を繋げられることにある。元々、七十センチメートルぐらいの長さを持っている短状だが、繋げることで倍ぐらいの長さを持つ杖となる。しかも状の端から魔刃を出せる機能は持たせたままなのだ。
さらに言えば、魔刃の形も変えられる。大身槍の穂先のように直刀に近い形の魔刃を出すこともできるし、従来のように刀と類似した魔刃を出すこともできる。しかも刀身の大きさは魔力によって変えることができるというのは、今までと変わらなかった。
今は相手の方が多いこともあって、威力を上げることよりも手数を増やすことを優先させる。その為、短状は繋げず両腕に一本ずつ持ったまま両端より魔刃を出している。そして、当たると幸いに騎士や魔術師などを切り捨てていった。
これが普通の剣ならば、完全武装した相手では少し分が悪いだろう。しかし魔力によって作られた魔刃なので、相手が完全武装をしていようが殆ど関係がなかった。
敵中に飛び込んだわずかの間に数人を切り捨て、そのまま前線の突破を試みる。目的とするのは、アシャン神皇国の王でありアシャン教の最高位でもある皇王だった。彼を押さえれば、無駄な戦いをする必要がなくなる。早期にこの場を抑えるには、それが一番手っ取り早いと考えたからだ。
ただ、それで彼らの抵抗を抑えたと言っても、彼らが助けるかは分からない。最終的に彼らの身柄は、斗真に委ねるからだ。俺も転生に巻き込まれたのではないかと疑ってはいるが、斗真ほどには恨みはない。はっきり言ってしまえば、彼や悠莉ほどにはアシャン教上層部に対しての恨みや拘りはないのだ。
俺自身は、アシャン教が秘匿している転生の秘術を完全に消滅させてしまえばそれでいい。これで、俺たちや俊たち。そして斗真たちのような者が出なくなればいいのだ。もっとも、皇王たちが転生の秘術に関しての知識を正確に把握していた場合、その限りではなくなるだろう。後顧の憂いは、残すべきではないからだ。
情に駆られて彼らを見逃し、画竜点睛を欠く、なるとなるわけにはいかないのだから。
そんな理由あって、皇王を含むアシャン教上層部が生き残る確率はかなり低いだろうと判断している。それはやはり、斗真と悠莉が彼らを許すとはとても思えないからだ。五十年以上前の話なので、厳密にいうと皇王にしてもアシャン教上層部にしても生き残っている人物は少ないだろう。つまり世代交代がされているわけだが、しかし当時の事案に関わっている者が全くいないというわけでもなかった。
何より、二人のアシャン教への恨みは骨髄なのだろう。それこそ「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」といっていい。そうでなければ、数十年もアシャン教上層部を狙い、そして嘗ての仲間に殺され掛けたからといって彼らと同じ種族だからという理由で戦争やテロを仕掛けたりはしないと思われるからだ。
その時、その俺に遅れること暫し、ついに斗真たちやビルギッタたちも参戦する。お陰で、今まで一人で突出していたこと発生していた俺への負担が軽くなる。こうなれば、あとはそれほど難しくはない。俺は繋げていなかった二本の短杖を繋げて一本にすると、目の前の敵を薙ぎ払った。
その一撃によって相対していた騎士数人が払われ、そしてそのうしろにいたのか魔術師がたたらを踏む。そこに生じた隙を逃さずに踏み込み、次々とすれ違いざまに杖で一撃を与えて気を失わせつつ皇王へと迫っていった。
ほぼ一直線に前線を抜いて、いよいよ皇王の目の前に到着する。その皇王の周りには、いわゆる僧侶が身に着ける衣装のような服を身に着けている者が二人いる。さらには護衛なのか、騎士も三人いる。通常ならばまだしも戦闘状態でこの数は、決して守りが堅いとは言わないだろう。
だが、邪魔であることには違いない。俺は小さく邪魔だと声に出しながら、薙ぎ払いまず騎士を除こうとしたが、流石に二度目はそう簡単にはいかなかった。それでも一人だけは払えたが、残った二人の騎士はたたらを踏みながらも耐えていた。そこに、僧侶が身に着けるような服を纏った二人から魔術が飛んでくる。だが、それらを杖で払うことで無効化した。
流石は、緋緋色金製である。神の金属とまで言われるオリハルコンと、全く遜色のない金属だ。まさか魔術が払われるとは、思ってもみなかったのだろう。魔術を放った二人もそして残った騎士の二人も呆気に取られているようだ。
但し、騎士に関しては、雰囲気からそうだろうと察しただけである。何せ騎士の二人は俺と同様にヘルメットを被った状態なので、顔の表情や顔色を察することはできないのだから。
何はともあれ、そこに生まれた隙を見逃すほど素人でも初心でもない。この際なので騎士は後回しにして、二人の術者に対して攻撃を仕掛けることにした。まず騎士の一人に三日月蹴りを放ってもう一人の騎士の方へ飛ばす。そのままスラスターを使って一気に間合いを潰すと、一本から二本へ戻した短杖をそれぞれの喉に一撃を与えて気を失わせる。これが完全武装の騎士ならば、幾ら急所の喉と言ってもまだ耐えた可能性があるかもしれないが、所詮彼らはローブぐらいしか着ていない術者でしかない。喉への一撃に耐え切れず、悶絶している。その二人に止めとして短杖の一撃を追加したあと、すぐに体の向きを変えて皇王へ肉薄した。
だが、彼自身は無能でもないらしい。驚いたことに、俺の速度に反応していたのだ。もしかしたら、その前に術者の二人へ与えた一撃に対しての反応だったのかも知れない。だがいかなる理由があろうとも、反応したのは事実である。ならば手加減などせず。一気に意識を刈り取るべく行動に移ることにした。
抜き打ちざまに皇王から放たれた剣の一撃を、短杖をクロスさせて受け止める。同時にクロスさせた短杖で剣を挟み込みそのまま床の方へ流し、クロスさせた短杖の先端を床に埋め込むことで剣を固定する。そこで短状を離すと、皇王の頭目掛けて蹴りを放った。
しかし皇王は、固定された剣より手を離すと腕で咄嗟に受け止める。だが、その程度で止められるほど俺も力がないわけじゃない。そもそも、吹き飛ばすぐらいのつもりで放った蹴りなのだ。受け止めることに成功はしているが、無事に済むかは別の話となる。実際、手応えというか足応えから、皇王の腕の骨が折れた感触があった。
「ぐっ!」
痛みから声を漏らし、しかも体勢が崩れた皇王。そんな隙を見逃すほど、俺も甘いつもりはない。片足を振り上げると、踵で皇王の脳天を打ち抜いたのであった。
一応、皇王の捕獲(?)はできたようです。
あとは、本来の目的を実行するだけかな?
ご一読いただき、ありがとうございました。




