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第六十八話~潜入~


第六十八話~潜入~



 いかなる理由であれ、アシャン教の手によりフィルリーアへと移動させられた俺たち。その全てに対してけりをつける為に、いよいよ襲撃作戦が開始されたのであった。





 アシャン神皇国の首都となる聖都アシェルト、同時にここはアシャン教の本拠が存在する地でもある。その為、アシェルト自体が聖域とされており、わざわざ聖都と呼ばせているらしい。

 実に、傲慢なことである。

 またそれゆえか、アシェルトに入ることが出来るのは、アシャン教信徒に限定されていた。その聖都が斗真の飛空艇によって襲撃を受けたのは、およそ九か月前となる。しかしてその襲撃は失敗、退けられてしまった。その為、この襲撃は神に与えられた試練であるとされているらしい。そしてその試練を乗り越えたからこそ、アシャン教もアシャン神皇国もさらなる発展が望まれると信じられていた……だが、その思惑は再度の襲撃によって覆されることとなる。この辺りも、一種の意趣返しの意味合いを含ませていた。

 さて今回の主役の一端を担うといって申し分のない飛空艇であるが、ついに聖都の近くにまで到着する。とはいえ、まず見つかることはないだろう。その理由は、飛空艇の性能に原因があった。元々もともと、古代文明期に生み出された数少ない現存物である飛空艇であるが、性能は大きさに依存するところがある。これは、心臓部とも言えるエンジンの出力に関係していた。

 現時点でフィルリーアには斗真の持っていた飛空艇を含めて三隻が稼働することが可能だが、一番性能がいいのはマガト帝国の所有している飛空船であり、続いてドゥエフ王国の所有する飛空艇となる。そして、一番性能が低いのが斗真の所有する飛空艇となるのだ。

 しかし性能が低い飛空艇といえども、各国からすれば侮れないだろう。流石にドラゴンを相手にすれば、飛空船であれ飛空艇であれ勝つなど無理だが、亜竜とも呼ばれるワイバーン程度ならば勝てる可能性の方が高いらしいのだ。


「それでも、聖都を守る結界を打ち破れはしなかった」


 斗真より、聖都襲撃のあらましを聞いた際、悔しさに表情を歪めながら最後にそう漏らしたところに彼の気持ちが表れている。彼に取って飛空艇を使用しての聖都襲撃は、乾坤一擲けんこんいってきの策であったらしい。いわば持てる最大勢力を叩き込んだにも関わらず、結果として撤退を余儀なくされたのだ。その悔しさは、相当なものだったのだろう。

 すると話を聞いたあとでシュネは、その斗真の所有する飛空艇を改造したのである。彼女は徹底的なメンテナンスの上に、飛空艇の持てる性能をほぼ上限に近いところまで引き上げていた。それにより最高速度も限界高度も向上し、その性能はドゥエフ王国の所有する飛空艇を凌駕したらしい。

 但し、あくまで伝え聞くところから推測した性能を超えたとのことで、実際に超えているのかは分からない。それでも格段に性能が上がったのは事実らしく、実際に使用していた斗真や悠莉は驚いていたので性能の向上はまず間違いはないのだろう。

 そうして性能が向上した飛空艇が、限界高度ぎりぎりの高さを飛んで聖都まで飛行したのである。魔術の一つである遠見の術でも使っている魔術師が、偶々たまたま聖都上空へ視線を向けていない限り、見つかるとは思えない。そして案の定、そのような奇特なことをしている魔術師などいなかったらしい。飛空艇は見つかることもなく、聖都上空にまで飛行できたのだった。


「では、始めるぞ」

「やってくれ、シーグ」


 斗真から最終確認をしたあと、いよいよ作戦を開始した。

 まず、聖都上空にいる飛空艇を下降させる。無論見つかるが、今回に限ればそれが目的なのだ。完全に肉眼で視認できる高度まで下げれば、当然だが騒ぎは起きる。しかもその姿は、九か月前に聖都を襲撃した飛空艇と酷似しているのだからなおさらだろう。

 そしてその考えは図に当たったようで初めは小さく、やがてさざ波のように聖都内へと騒ぎは広がっていく。当然ながらその旨はアシャン神皇国の中枢、即ちアシャン教の中枢へと伝えられていった。

 こちらの思惑通りに。

 こうして聖都にいる者たちというギャラリーの目が注目する中、飛空艇の下部が開く。する間もなく、研究所から大小さまざまな岩石が転送された。

 シュネの手で改造されたことで飛空艇に生まれた爆弾倉へ現れた岩石は、自由落下して聖都を覆う結界へと当たる。幾ら結界があると分かっていても、物が岩石である。そのような景色を目の当たりにして、混乱や驚愕をしない肝の座った人間など少数しかいないだろう。そして聖都の住人も、ご他聞たぶん漏れず肝の座った人間など少数だった。

 ゆえにあちこちから悲鳴が上がり、聖都内は混乱の坩堝るつぼと化していった。そしてこの状況こそ、俺たちが画策したものである。あとのことはシュネに任せると、俺は斗真たちと共に岩石の転送の合間を縫って聖都近くへ転送した。

 その転送先だが、ドローンによる監視によって周囲に信徒やアシャン神皇国やアシャン教の関係者がいないことは確認済みである。だからこそ、俺たちの存在がアシャン側に判明することもなかった。

 問題なく現地に到着した俺たちは、すぐに行動を開始。結界を無効化する道具を使って、聖都内への進入路を作り始めた。性能が上がっているにも関わらず、斗真が本拠地としていた施設の結界を無効化するよりも少し長く掛ったことにいささか驚いたが、しかしそれだけでしかない。間もなく聖都覆う結界の一部が無効化されると、俺たちは無事に聖都内への侵入に成功したのだった。



 こうして侵入を果たした場所は、聖都の外れとなる。聖都内は飛空艇の空爆によって混乱しているので、余程のことでもない限りどこから侵入しても見付からないとは思う。だが万が一にも見つかる可能性もあることも考慮して、人目がつきにくい町外れから侵入を試みたというわけである。そのお陰もあって、見つかった様子はなかった。

 何であれ問題がないのであれば、この場所にいつまでいる理由はない。すぐに俺たちは、進入用に用意した装備の一つである光学迷彩を展開して、視覚的にも俺たちが確認されづらいようにした。

 さて、何ゆえに侵入前から光学迷彩を展開していなかったのか。それは、無効化したとはいえ本来結界がある場所を通過する際に、光学迷彩が影響するかも知れないとシュネから忠告を受けたからだ。できるだけ見付からないことが求められているので、少しでも懸念となることは排除したかったのである。だが、一旦結界内に入ってしまえば、考慮する必要などないのだ。

 無論、必ずそうとは言えないかも知れないことは分かっている。どのようなことでも例外はあるし、実際に例はあるからだ。その例に当たるのが、他でもないシュネ謹製の結界だったりする。ただ、彼女の作った性能を有する結界など、まずないだろうけどな。


≪さて、そろそろいくぞ≫

≪応っ!≫


 下手にしゃべると、せっかく姿を隠している意味がなくなってしまう。そこで会話は、通信で行うことにしていた。既に俺はデュエルテクターを纏っているので、特に問題はない。何せデュエルテクターは、頭部も完全に覆われるので、初めから外部に声が出るようにしなければ聞こえることはないからだ。

 しかし、斗真たちには、材料の関係もあってデュエルテクターなど渡していない。そこで彼らは、フルフェイスタイプのヘルメットを被ることで声が漏れるという問題を解決していた。

 そんな俺たちが街中を移動する方法はというと、空中となる。今いるメンバーは、全員が空を飛ぶことができるからだ。斗真たちは、本来の姿になれば全員が飛べるタイプの悪魔らしい。実は光学迷彩を使った理由の一つに、悪魔の姿となった彼らの姿を隠す為ということもあった。

 そして俺はといえば、デュエルテクターの性能の一つとなるスラスターを使えば問題なく飛べるというわけである。こうして空中を移動し、街中の混乱を町のやや上空から眺めつつ俺たちが向かったのはアシャン神皇国の中枢であり、同時にアシャン教の中枢となる宮殿であった。





 問題なく目的地の宮殿へと到着した俺たちは、数あるテラスの一つから宮殿内へ侵入を果たす。流石は宮殿であり、建物内は相当に広い。もし、事前にドローンを侵入させて把握をしていなければ、迷った可能性すらあった。

 しかし、この九か月という間に集めた情報は伊達ではない。宮殿内については、アシャン教が秘匿している場所も含めてほぼ把握していた。その情報を基に作成された地図に従い、宮殿内を進んで行く。当然だが気配を探りつつであり、他にも様々な検出装置でもあるディテクトスコープも使いながらの行動だった。

 といっても、闇雲に宮殿内を移動しているわけではない、ちゃんと目的地を決めて、行動していた。その目的地だが、皇王控えのとなる。その場所は、外国の国王や外交官などといった使節と会う為の場所となる皇王の間へと繋がる部屋であり、同時にアシャン神皇国へ派遣された使節等と面会するまでのあいだ、皇王が控えている部屋でもあった。

 しかし皇王控えの間は、もう一つの役目がある。それは召喚の秘術が行われる秘密の場所や召喚の秘術などといった、アシャン教内において秘中の秘と言える場所や道具などを保管しているいわば隠しエリアへの入り口でもあるのだ。

 通常であれば、アシャン教の重要な場所となる皇王の間と皇王控えの間まで辿り着くには、幾ら光学迷彩を使って姿を見えないようにしているといっても、一回も感づかれることもなく到着するには難しかっただろう。しかし、飛空艇のお陰で俺たちは殆ど怪しまれることもなく、皇王の間まで辿り着けたのである。しかし、その幸運もここまでだった。

 と言うのも、皇王の間に幾つもの気配があるからだ。流石に、百や二百の気配があるなどとはいわない。だがそれでも、確実に二桁以上は居るからだった。


≪シーグ、それは本当か?≫

≪ああ≫

≪それで、誰かまでは分かるか?≫

≪それは無理だな。そもそもからして、この聖都にきたのは初めてだ。その俺が、アシャン教の関係者の気配など分かるわけがない≫

≪つまり、入ってみなければわからないか≫

≪だが中にいるのが敵であろうがなかろうが、入らないといけない。そうだろう?≫


 先にも述べたが、この皇王の間から続く皇王控えの間へと辿り着けない限り転生の秘術の破棄という目的が果たせない。つまり、危険だと分かっていてもいかないという選択はないのだ。

 ただ、皇王の間にいる者たちが敵なのかどうかはまだ分からない。しかし、十中八九じゅっちゅうはっく敵だろうというのは想像に難くない。だからこそ俺たちは、初めから皇王の間の中にいる存在が敵であると判断していた。

 こうして最大限の警戒をしたまま、俺たちは皇王の間へ入る大きい扉を押し開いたのだった。


潜入開始です。

飛空艇を一隻、囮としての。

さて、飛空艇は生き残ることができるのか!?


ご一読いただき、ありがとうございました。

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