第六十六話~共闘~
第六十六話~共闘~
いよいよというか、ついにセレンの仇討ちが実行された。それにより悪魔王スイフルこと五十年前の勇者斗真は、彼女の拳によってボコボコにされたのであった。
ある意味で俺の自爆により、サブリナに掛かっていた呪術の内容が当人に告げられてしまった。内容が内容だけに折角隠していた意味が、これでなくなってしまったわけである。こうなると、もう隠していても仕方がない。それに、斗真たちへ説明する必要もあるので、結局、呪術の内容を告げることにした。
とはいっても、説明するのは俺ではなくシュネだったりする。理論的にも内容的にも、解呪の研究を行った彼女が説明する方が適格だからだ。だがそれは、俺がしでかした自爆の尻拭いをして貰ったことにほかならない。何とも、尻の座り具合の悪い状況であった。
そんな俺の状況は置いておくとして、今は説明を受けた相手の様子である。しかして実際に被害を被った斗真と悠莉は改めて怒りをあらわにし、もしかしたら将来的に仲間へ刃を向けたかも知れないという事実を知ったサブリナもまた、怒髪天を突くという表現がぴったりという状態となっていた。
そんなあり様の三人を、祐樹と俊と舞華、それから斗真の部下である悪魔の男女、えーっと……なんて言ったんだったかな。名前までは憶えていないが、何であれ二人の悪魔が同情の目を向けていた。
それはオルとキャスの兄妹も同じなようで、同情を現している。その一方で、セレンは少々複雑な様子が見て取れた。恐らくだが彼女の中では、嘗ての仲間の仇が被った状況と、それがメジャーな宗教であるアシャン教の手によって行われたことに対する憐憫の気持ち。それが、せめぎ合っているのでは? と思えた。
因みにもう一人の女性の悪魔の名だが、斗真から聞いた話ではサラサというらしい。しかしその彼女は絶賛気絶中なので、話自体に参画していなかった。
「えっと……話を続けていいか?」
「ああ!」
『ええ!』
俺が問い掛けると、斗真と悠莉とサブリナが揃って言葉を返してきた。
斗真と悠莉は別にしてサブリナからも声が上がったのは意外だったが、考えてみれば彼女も当事者である。本人の与り知らぬところで術を、しかも呪術を掛けられたことに対して思うところはやはりあるのだろう。
「それでだが、アシャン教が秘匿しているといっていいだろう転生の秘術だったか? それだけでもどうにかしたいというのが斗真の考え、でいいよな」
「ああ! あんたからの話で、人間やエルフに対する蟠りが消えた……とまでは言わないが、それでも復讐対象ではないことは分かった。だから少なくとも、これ以上攻撃をするつもりは失せた。だけれども、アシャン教は別だ!!」
俺の問いに答えた斗真の言葉には、並々ならぬ思いが詰まっている。それは、斗真の言葉に同意している悠莉に関しても同じのようだ。恐らくだが、今まで分散していた思いが、全てアシャン教へ向いているからだろう。
「では、その上で提案だ。手を組む気はないか?」
「……どういう意味だ?」
「文字通りの意味だけどな。俺としても、アシャン教が秘匿している転生の秘術とやらは放置できないと思っている。これを放置して、これからもお前たちや俺たちのような存在を生み出させたくはない。はっきり言えば「自分のけつぐらい、自分で拭け」といったところだな」
前にも言ったことだが、このフィルリーアで起きたことに対して縁もゆかりもない人物を強制的に呼びつけ、しかもそいつらをいいように操り事態を収拾させる。そして、終わったあとで呼び出した者たちを消してめでたしめでたしとするなど、俺たちからしてみればふざけるなと言いたいのだ。
このことを終息させる為にも、転生の秘術はどうにかしておきたい。どうせなら、悪魔王にやらせればいい。何より斗真は、五十年も振り回されたのだから。
「その言葉には賛同する。だけれども、現状では難しい。アシャン神皇国の聖都を覆う結界が破れなかった」
「ああ。それが、先の襲撃が失敗した理由か。だが、結界を破る当てはある。といったらどうだ?」
「なっ! 本当か!!」
「もっとも、その答えはお前の目の前にあるけど」
『……はい?』
俺の言葉に、斗真は無論のこと悠莉や男女の悪魔が首を傾げている。いや、その仕草をしているのは彼らだけではない。祐樹や俊や舞華やサブリナ、そしてオルやキャスやセレンも同じ仕草をしている。違う態度を取っているのは一人だけであり、それはシュネである。流石に彼女は、思い当たったようだった。
「できれば、一度観測をしたいわ」
「ちょ! 本当にできるのか!!」
「できる……よな。シュネ」
「現状で絶対とは言わないけれど、大体十中八九問題ないと思うわ」
ほぼできるという言葉をさらりと告げたシュネに対し、俺を除く全員はただ絶句していたのだった。
斗真へ行った提案から九か月、俺たちはついに動き出した。
ここに至るまでには、色々(いろいろ)な変遷があったといっていいだろう。まず斗真への提案だが、結果だけいえば受け入れられた。俺に負けたというのもあるが、何より俺たちの持つ技術力に屈したといっていい。何せその旨を知った斗真が「対立前に知り合うことができていたのならば!」と悔し涙を浮かべたぐらいなのだ。
その後、斗真了承の上でこの施設の掌握を行っている。というのも、この施設だが半分以上が休眠状態であったのだ。あの悪魔を誕生させる装置と、この施設の防衛機能を一部だけだが何とか動かせる。その程度の把握しか、できていなかったのだ。
そこで、ネルトゥースによる施設の維持システムへの介入が行われたというわけである。とはいえ、施設側からすれば侵略者以外何物でもない。当然ながら抵抗を受けたが、ネルトゥースは先代シーグヴァルドが生み出し、地球にいた頃は天才とまで称されたシュネによりバージョンアップされたマザーコンピューターである。しかも、機械工学の天才であるシュネも介入の際には手を貸しているのだ。
いかにこの施設の中枢とは言え、抵抗し続けることはできなかった。ついにはネルトゥースの支配下に置かれたが、逆にそのお陰でこの施設の機能が十全に使えるようになる。その中には、嘗て悪魔王が勇者として打ち破った最強の魔獣を生み出した装置もあった。
しかし施設を掌握したシュネは、悪魔を生み出す装置と並んでこの装置も、完全封印に及んでいた。
また斗真としても、かろうじて倒すことができた魔獣を生み出す装置など、忌避こそすれ興味などは抱かない。そして悪魔を生み出す装置だが、自らの勢力を増やす目的で使用をしていた側面が強い。今や各国へ攻める気がなくなった彼としては悪魔を増やす、即ち仲間を増やす装置を使用する理由が薄い。ゆえに、彼もまた封印に同意したのだ。
だが、理由はそれだけではなかった。
実は、斗真を含めて全ての悪魔は、俺たちと一緒にこの惑星より旅立つこととなっている。何ゆえにそうなったのかというと、要するに斗真たちはやり過ぎたからだ。幾ら斗真に、アシャン教とほぼ同じといっていアシャン神皇国を除いて各国への襲撃を行う気がなくなっているとはいえ、数十年に渡ってフィルリーアに混乱と騒動を起こし続けてきたという事実は変わらない。その為、活動を止めたあとも悪魔全てが各国からの討伐対象であるとことに変わらなかった。
そこで斗真は、各国へちりばめている悪魔全ての招集を行ったのである。迫害を受け続けるなら、彼らを引き連れて脱出を行う決意をしたのだ。共闘の提案を承諾してから今日に至るまで、九か月ぐらい掛かっている理由もそれなのだ。
「五百は越えているが、千には届かないぐらいか。多い……いや、少ないか」
「でしょうね」
悪魔自体、いわゆる改造人間である。しかも、改造後に生きている可能性が決して高くはないということを考えれば多いと言えるかも知れない。しかし、種族の総体として考えれば多いとは思えなかった。
とはいえ、斗真が悪魔はこれが全てだというのだから間違いはないのだろう。
「ところで、シーグ。本当に、宇宙へ行けるのか」
「問題ない。生物実験も、そして実際に人が乗り込んでの試験も終わっている」
実は既に、宇宙船自体は完成している。しかし天才科学者シュネと言ども、宇宙船の建造など初めての試みであったので実験は行った。まず行ったのは、生物実験である。完成した宇宙船に生物を乗せて、宇宙へ飛ばしている。その結果、生物は問題なく帰還していた。
無論、一回だけでなく何度か行い、その都度問題がないことも証明している。こうして生物を使って問題がないことを確認したあと、いよいよ行ったのは人が乗り込んでの試験だった。その試験を実際に行った俺が言っているのだから、間違いはない。
因みに、宇宙へ出た際に見た最初の景色、俺は生涯忘れないだろう。無事に宇宙へと出て、自身の目で見た宇宙。そのさまに、心を奪われたのだ。
確かに日本にいた時でも映像や写真などで宇宙の景色を見たことはある。しかしながら、自分の目で見たのは当然だが初めてである。その景色は唯々きれいでしかなく、思わず見惚れてしまったのだった。
なお俺が試験を行ったのにも、理由がある。一つは俺が、自ら名乗りを上げたこと。そもそも宇宙へ行き旅をするというのは、俺の願望であり夢である。ならば俺が名乗り出るのが、筋というものだ。
そしてもう一つの理由はというと、俺たちの中で曲がりなりにも宇宙を理解しているのが俺とシュネしかいないという実情がある。そもそもからして、オルとキャスとセレンは宇宙というもの自体を知らなかった。今は知っているが、それだけでは候補としてはまだ適さないだろう。となれば、俺かシュネしかいないことになる。そしてシュネには、問題が起きた場合には対応して貰わなければならないことを考えれば、結局のところ俺の一択でしかないのだ。
それにデュエルテクターがあれば、宇宙でも問題はない。デュエルテクターを装着していれば、宇宙でも行動はできるからだ。流石に大気圏突入は厳しいが、宇宙で事故が起きたとしても迎えがくるまでの間ぐらいならば、十分に持ち堪えられるのだ。
「そうか。ならばあとは、アシャン神皇国聖都への襲撃を行うだけだな」
そういった斗真の顔には、何としても成功させるという不退転の決意のような物が感じ取れるのであった。
主人公シーグと現代の勇者祐樹、そして嘗ての勇者であった悪魔王が共闘関係となりました。
頑張れ、アシャン教(笑
ご一読いただき、ありがとうございました。




