第六十二話~疑惑~
第六十二話~疑惑~
シュネとセレンとエイニが、オルとキャスの兄妹とアリナが、そして勇者たちがそれぞれに幹部だと思われる悪魔と対峙している。そして俺には、悪魔王スイフルが攻撃を仕掛けてきたのだった。
オリハルコン製だと思われる剣を持つスイフルと俺が対峙する。そのやや後方には、スイフルと同様に玉座へ腰を降ろしていた女性の悪魔が立っているのが見える。あくまで推測だが、恐らく悪魔妃とか呼ばれている存在だろうことは想像に難くなかった。
その二人の悪魔だが、絶妙な立ち位置を保っている。それこそ、長年連れ添ってきたパートナー同士だと思わせる二人であった。しかしこうなると、彼らを抑える為味方の救援に向かうことは難しい。かといって、悪魔王と悪魔妃を放っておくというのもいささか憚られた。
「ビルギッタ。お前がいけ」
≪それは! ……分かりました≫
「任せたぞ!」
そう返答すると、ビルギッタが俺の傍から離れてオルたちの元へ向かう。だが相手は悪魔王とまで言われた存在であり、それを許容しようとはしなかった。一瞬だけ遅れたが、すぐにビルギッタへ攻撃を仕掛けようとする。しかしてそれは、俺も同じであった。
そもそも指示を出したのは俺であり、ビルギッタが動けば相手も動くことは想定済みである。ビルギッタとスイフルの間に立ち、剣を受け止めることで妨害して見せた。しかし、悪魔王の後ろには悪魔妃がいる。その彼女が何か魔術を行使しようとするが、その動きも妨害される。それを成したのは、通信越しとはいえ俺とビルギッタの会話を聞いていたシュネだ。どうやら、ビルギッタと入れ換わる形でこちらへきたらしい。その彼女だが、仲間内でもあまり見せることのない愛用の武器を使って悪魔妃の行動を邪魔している。シュネ愛用の武器、それは円月輪であった。
形状としては、中国武器である風火輪に近い。そして円月輪もそして風火輪も、投げて攻撃することも可能な武器である。だが、一たび投げてしまうと、当然だが手元に還ってこなくなる。それでは手持ちの武器がなくなってしまうので、彼女は投げつけたあとで敵に当たっても当たらなくても手元に戻るように設計したらしい。つまり、シュネの持つ武器自体が魔道具なのである。しかも緋緋色金製であり、スイフルの持つオリハルコンの剣とも同等の能力を持つ武器であった。
となると、問題となるのは寧ろ俺のツインマジックブレードである。魔刃は魔力によって形成されている。しかも密度を上げることで、半物質化しているといっていい。つまり、エネルギーソードでありながら物質である剣などを受け止めることができるのだ。
一方で、魔刃を発生させている短杖はそうではない。短杖は、アダマンティンという実際にフィルリーアで存在している希少金属となるアダマンタインを元にしてシュネが作り出した金属によって作成されている。そもそもからしてアダマンタインは、オリハルコンより硬度など色々(いろいろ)な面で劣る。そのアダマインタインよりも、残念ながら僅かだが劣る人工金属、アダマンティンによって作られているのだ。
有り体にいえば、シュネとスイフルの持つ武器は、明らかに性能という面において俺の持つ短杖より一つ上であるということであった。
「疾ッ!」
「ちぃ!!」
その時、スイフルが踏み込んでくる。それは突きによる攻撃であり、受け止めることは難しい。かといって下手に避けると、そこから変化させてそのまま連続攻撃でもされかねない。そこで俺は、体を半歩だけずらしながら、ツインマジックブレードでオリハルコンの剣を滑らせていた。
これは予想外だったようで、悪魔王の表情に驚きの色が見て取れる。しかも受け止めているわけでも避けているわけでもなく、攻撃してきた剣を滑らせたことで、目論見通り相手の体が泳いでいた。当然だが、この好機を見逃す気はない。相手に近い足を引いて半ば回転するような動きをとると、体が泳いでいることで動きが取りづらいであろうスイフルの後頭部へ肘を叩き込んだ。
完全に死に体の状態となっている相手への追撃であり、まともに食らったスイフルはたたらを踏む。そこへさらにツインマジックブレードによる横なぎの一撃を仕掛けるも、彼は前のめりに体を投げ出すことで避けて見せたのだ。
お蔭で、俺の攻撃は何もない空間を薙いだに過ぎない。あの状態からまさか完全に避けられるとは思ってもみなかったので、思わず目を見開いた。
「……驚いたぜ。まさか、あそこから避けるとは」
前転して立ち上がったスイフルへ、賞賛の言葉を掛ける。さっきも言った通り、あそこから無傷で回避するとは思ってもみなかったのだ。しかしながら、スイフルの表情は少し歪んでいる。それは明らかに、俺の言葉へ不服を感じているからであろう。こちらとしては純粋に褒めたつもりだったが、どうやらスイフルは侮辱されたと感じたようである。
何とも、心外だな。
「舐めてんのか?」
「いや。本気で褒めた」
「……それが、舐めてるっていってるんだよ!」
後頭部をさすりつつも剣を構え、そして睨んでいたスイフルだったが、俺の返答に怒りを覚えたらしく、激昂して切り付けてくる。その攻撃は感情による影響か、少し大振りであり避けるのは難しくないだろう。そう判断した俺は、最小限の動きで避けるとそのまま反撃しようとするが、しかしてそれはスイフルの罠だった。
彼がいきなり、至近距離で魔術を発動させたのである。なまじ最小限の動きで攻撃を避けようとしていただけに、そこから体捌きを大きく動きを変化させることが難しい。俺はその魔術を、まともに食らってしまった。
だがデュエルテクターは、オリハルコンとほぼ遜色がない金属といっていい緋緋色金製である。至近距離で魔術を食らったとはいえ、余程の高レベル魔術でもない限りはそう影響は出ない。実際、デュエルテクターは、スイフルの魔術を完全に遮断していたのだ。
その点についての問題は大丈夫であったが、だからといって問題がなかったわけでもない。効いていないとはいえ魔術をまともに食らったせいか、それとも元からそういった魔術なのかは分からないが、俺の視界は直後に発生した煙によって閉ざされてしまったのである。完全に視界を遮られたことを理解した俺は、咄嗟に敵の気配を探る。すると、スイフルの攻撃が迫っているのを感じた。
その直感とも言える感覚に従い、俺はツインマジックブレードで受け止めようと動く。しかし、聞こえてきたのは金属と金属がぶつかる甲高い金属音であった。次の瞬間、手に持つ短状が欠けて、そこから火花が出ているのを視界の隅に認める。どうやら俺は、魔刃ではなくオリハルコンの剣を短状の部分で受けてしまったようだ。
偶然にもそうなったのか、それとも相手からの攻撃が予想を越えていたからなのか、はたまたスイフルが初めから狙っていたものなのかは分からない。ただ分かっているのは、もうこの短杖は使えないということである。
それだけではない、他にももう一つある。それは、火花を出している短杖をこのまま持っていると拙いかも知れないということだ。短杖が修理不能ということは勿論だが、このままでは故障が原因で、最悪の場合、手の中で爆発すらしかねないのだ。
そこで俺は、既に煙が晴れたことで晴れて明瞭となった視界の先にいるスイフルへ壊れた短杖を投げつけた。だからといって、相手がまともに食らうわけもない。振るった剣によって弾かれた短杖は、一瞬だけ大きく火花を散らしたあと、ついには小さな爆発と共に壊れてしまう。正に、止めの一撃だった。
「……まさか、懸念したことが本当に起きるとは思わなかった。あれもフラグだったのか」
「フラグ、だと!? 何でその言葉を、知っている! あそこの勇者たちならばまだしも!!」
「……なるほど。お前も知っているということは、やはり転生者か」
悪魔王スイフルが転生者かも知れないと思い付いたこと事態、ただの偶然だった。だが、これではっきりした。スイフルが転生者だということに、間違いはないだろう。
だが、そうなると分からないこともある。俺やシュネの場合は特殊なので除くとして、普通の転生であれば、力こそ持つが肉体的外観は普通である。これは祐樹たちにも確認したことだから、間違いはない。であるならばスイフルも、肉体的外観は普通の人間と同じだった筈だ。しかし実際は、悪魔としての体となっている。ならば、間違いなくそこに至る事情があった筈なのだ。
それとも、俺やシュネと同じく、何か特殊な事情でもあったのだろうか。
ふむ。
これは、気になる。戦いに入る前の舞華ではないが、倒しきる前に事情を聞いてみたい気もしてきた……しかしてそれは、スイフルが生きていたのならば。だろう。何より、下手に手加減をして、もし俺が死んだらそれこそ本末転倒となる。それに、あくまでも想像だが、スイフルは追い込まれなければ、こちらとの話などしないような気がするのだ。
「くっ! その言い方、やはり転生者か! となると、まさかドローンもお前のものか」
「答えてやる理由はないが、それぐらいはいいか。ドローンに関していえば、そうだ。そして転生に関してだが、厳密には違うと言える……か?」
「その、曖昧な言い方……そうか! 煙に巻く気だな」
「いや。これでも、誠意をもって答えたつもりなのだが」
少なくとも、今ここでわざわざ、転生と憑依の違いを長々と答える気はない。それに実際に説明するとなると、ややこしいということもある。しかしながらスイフルは、俺に愚弄されたと思ったようだ。
「それのどこが、誠意ある答えだ! 言う気がないなら、言うようにしてやる!!」
その言葉と共に、スイフルが切り掛かってくる。それは、第三幕の始まりであった。
戦闘回です。
何か、疑問点がでていますが。
ご一読いただき、ありがとうございました。




