第六十話~対峙~
第六十話~対峙~
悪魔王がいると思われるその場所だが、俺たちが拠点としている研究所と同じように結界によって護られていたのである。しかしシュネには何か手立てがあるようで、彼女はセレンを伴って部屋より出ていったのであった。
シュネがセレンと共に結界の対応としての手立てに没頭して暫く、他でもないシュネの呼び掛けで俺たちがネルトゥースを設置してある部屋へと集められる。間もなく部屋に入ると既にシュネとセレンがいて、彼女たちはとても満足そうな表情を浮かべている。その二人の前にあるテーブルの上には、見たこともない道具が一つ置かれていた。
「シュネ、これは?」
「結界を無効化できる魔道具よ」
「マジか!?」
シュネの言葉に、思わず驚く。いや、俺だけでなく他のメンバーもそれは同様であった。それも、そうだろう。数日掛けたとはいえ、まさか短時間でこれだけのものを作ってしまうとは思わなかったからだ。
「ええ。幸いにも、データが手に入ったからね。これがないと、流石に無理だから」
つまり、派遣したドローンによって結界の詳細データを手に入れることができた。だから、結界を無効化することができるようになった。そういうことか。
だが、これは有難い。結界を破る手段というと、普通はいわゆる飽和攻撃となる。どのような結界であろうとも、限界というものは存在するからだ。その限界を超えてしまえば、いかに結界といえども耐えられるものではない。だが、それだけのことをしでかせば、当然だが相手には気付かれてしまうことは必至なのだ。
しかし、無効化できるというならば話は別となる。無理に壊す必要もなくなるので、相手に侵入を悟られる可能性がかなり下がることになるからだ。
「流石だ。とはいえ、シュネとセレンも疲れているだろうから今から向かうというのは無理があるな。そこで、明後日に現地へ向かおうと思う。それでいいか?」
「ありがとうシーグ」
「うん。助かるよ」
俺の提案に、シュネとセレンが礼をいった。
実際、道具が完成したことでテンションこそ高いようだが、傍から見る分には疲れているのがすぐに分かったぐらいなのだ。そんな彼女たちへ、今から現地へ行こうとは言いづらい。そこで体調を整えるという意味もあって、二日後に出発ということにしたのだ。
するとセレンは、彼女付きとしたガイノイドのファンサの手助けを借りてすぐに部屋から出て行く。そしてシュネだが俺が連れていくので、彼女付きのガイノイドであるエイニと共に残っていた。部屋の中にいるメンバーへ取りあえずの解散を告げると、俺はシュネをお姫様抱っこで抱える。そして、ビルギッタとエイニを従えて出て行くとシュネの部屋まで送り届けた。
明らかにお疲れのようなので、そのままベッドの上へ降ろそうとする。だが、その前にシュネから軽い口づけをされた。
「ありがとう、お礼よ」
「そうか。御馳走様」
それだけ言葉を残し、俺も自分の部屋へと戻ったのだった。
それから二日間、現地で活動させているドローンや人工衛星からの映像にこれといった変化はなく、これは幸いと言っていいだろう。やがて当日の早朝になると、研究所から転送する。間もなく現地に到着したが、待ち伏せを受けるようなこともなかった。
といっても、これには理由がある。実は突入までの二日間の間でさらに周囲の探索をしたところ、正面入り口と思われる個所も見つけていたのだ。正面から堂々と、という選択もないではなかったが、どうせ入り口が二つあるのだからとして一つ手を打っておく。その手とは、ズバリ陽動だった。
まず、鉱山で現場指揮を執っているネルを呼び寄せる。そして彼女に、ガイノイドやアンドロイドで構成された別動隊を指揮させて、新たに見付かった正面入り口付近で騒ぎを起こさせたのだ。
無論、ネル率いる部隊の面々には無理などはさせるつもりはない。ある程度の注意を集めさせた頃に、撤頃合いを見計らって引くようにと指示を出しておいた。
そのタイミングについては、ネルに一任しているが。
一方で先に見付けていた通風孔より侵入を果たした俺たちはというと、ドローンが前に焼き切った金網を越えて先に進む。やがて、通風孔の出口とも入り口とも言える場所へと差し掛かる。するとそこには、前に確認した通り侵入者防止用の金網が存在していた。
勿論、俺たちはその金網の手前で止まっている。下手に近づきすぎると、結界に触れてしまう可能性が高いからだ。それに、通風孔を塞いでいる金網から結界までの距離は、ほぼ確定している。ゆえに俺たちは、必要以上に多くの距離を取り、通風孔を進むのを取り止めていた。
「はい。これ」
「これって、ディテクトスコープだろ? それならもっているぞ」
「ざーんねんね。これは、ディテクトスコープの改造版よ。これを使えば、結界が可視化できるわ」
「……そんなものまで作っていたのかよ」
「ええ。結界無効化の魔道具と並行してね」
つまり、結界を無効化する魔道具をお披露目した時は、既に完成したということだな。てことは、だ。あえて黙っていたのかシュネの奴。サプライズなのか、ただ単に出し忘れたのかは知らないけどな。
とはいえ、ありがたいことに間違いはない。実際、どうやって無効化するのかとか考えていたぐらいだ。その点、この改造版のディテクトスコープ……長いからD・S改としよう。そしてこの魔道具なら、見えることができるということだ。
すぐに顔を覆っているマスクを外して、身に着けていた古いD・Sをシュネへ渡す。それから、新ためて彼女から渡されたD・S改を身に着ける。すると、シュネの言った通り、結界を視認することができた。
その視認した結界へ、こちらもシュネの作った結界を無効化する魔道具を使用する。その直後、通風孔をも覆っていた結界、その一部が雲散霧消してしまった。
なお、この魔道具の効果だが、事前に指定した一定範囲の結界を無効化できるものらしい。そして今の設定では、通風孔よりさらに一回り大きいぐらいの範囲まで結界を無効化できるとのことだ。
因みに別の結界無効化装置を使用すれば、この悪魔の拠点を覆っている結界全てを無効化することも可能らしい。だが、それだけの規模の結界を無効化するには、それこそ大型のものが必要とのことだそうだ。
もっとも、現時点でそれほどのことをする必要はない。既に結界は無効化されて、問題なく先へ進めるからだ。魔道具をシュネへ返したあと、そのまま意味のなさなくなった結界を超えて未だに通風孔を塞いでいる金網まで近づく。そこで短杖を取り出して、両端ではなく片方からだけ魔刃を発生させた。
そして金網が向う側へ落ちないように細工したあと、金網を切断して通行を確保すると通風孔から出る。果たしてその場所は、通路と思われる雰囲気を持っている。実際、左右へと延びているので、通路で間違いはないだろうと思われた。
「さて。どちらへ向かうかな」
「それは、言うまでもないでしょ」
「そうなんだけどな」
実は、方向に迷いはない。その理由は、追跡装置の反応を追えばいいからだ。相も変わらず、追跡装置からの反応は出ている。つまり反応がある方へ向かえば、最悪でもこの施設の中枢エリアにまでは向える筈なのだ。
一行の先頭を俺が、最後方をオルが守る。残りのメンバーを間に挟み装置の反応がある方向へ向かっていった。なお、今回はキャスも連れてきている。戦いに連れてきていることに弱冠の心配はなきにしも非ずだが、キャスも関係がない話ではない。そこで、今回はキャスも連れてきているのだった。
その時、こちらへ向かってくる悪魔の気配を感じる。流石に正面入り口で起こしている騒動に、全ての悪魔を振り分けてはいなかったようだ。しかし、こちらへ近づいてくる気配に、あからさまな警戒の雰囲気はない。つまり、俺たちはまだ気づかれていないということになる。それならば、奇襲を掛けることにした。
通路の先にある曲がり角から悪魔の姿が出ると同時に、俺は一気にスラスターを使い距離を詰める。ほぼ出合い頭といっていい状態であり、現れた悪魔も呆気に取られた表情をしていた。
しかし、これこそが狙いである。驚きのあまり碌に動けない悪魔の鳩尾に拳を入れ呼吸困難の状態にすることで、声を出せないようにする。さらに追撃として、両手を組んだ腕で悪魔の頭を殴る。この一撃で完全に意識が飛んだ悪魔は、その場に沈んだ。
このまま放置していこうかとも思ったが、ふと見ると悪魔が現れた方向に一つ扉がある。念のためにその扉を開けると、そこは使われていない様子の部屋だった。そこでその部屋へ、縛り上げただけでなく猿轡までした悪魔を転がしておくことにした。
その後、その部屋から出ると、引き続いて反応がある方向へと進む。とはいえ、これだけ動きがないと罠のような気がしてくるのが不思議だ。ただ向かう途中で巡回なのか、それとも入口の方で起きている騒動への援軍なのか。はたまたただの偶然かは分からないが、幾度か悪魔に遭遇はしているのでまるで無警戒というわけでもないのだが。
何であれ俺たちは、巡回化偶々か分からない悪魔に出会う度に撃破していき、さらに奥へと進んで行くのであった。
かなり奥へ進んだと感じた矢先、通信が入ってくる。通信の送り主はネルであり、その内容は陽動部隊の現状だった。定時連絡というわけではないが、あちらの状況も適宜知らせるようにと言ってあるからだ。
そして通信の内容だが、どうやら押し気味であるらしい。そこで、そのまま戦況を維持するように伝えると同時に、不利となったら即座に撤退してもいい旨も念を押すように併せて伝えておく。するとネルより、了承の旨が返答されてきた。
ネルとの通信を終えたあと、再び奥へと進んで行くと、やがて通路正面に大層豪勢な扉が見えてくる。しかもその扉の表面には緻密な装飾が施してあり、いっそ厳かといっていい雰囲気があった。
「ここで、間違いないだろうなぁ」
「そうだな」
扉を見ながら漏らした祐樹の言葉に、俺も同意しつつその大きな扉を見詰めている。だが、いつまでも見続けていた頃でどうにかなるわけでもない。俺は祐樹と頷きあうと、扉へ手を触れて力を込めた。しかし、予想に反して扉は酷くあっさりと開いていく。ある程度まで開き、できた隙間から中に入る。すると同時に光が溢れ、辺りが照らされた。
その照らされた場所の雰囲気としては、謁見の間を想像すればいい。そして部屋の一番奥には、豪華な椅子が二つ据えられている。その椅子それぞれに一人ずつ、男女が腰を降ろしていた。
さらに言えば、数名の幹部と思われる悪魔の姿も周りに見える。しかもその一人はというと、ゴーレムと対峙した戦場より離脱した四魔将最後の一人だった。他にも十名以上この場にいるが、こちらは幹部というより地位の高い兵といった雰囲気がある。強いて言えば、近衛兵といえばいいだろうか。そんな感じの兵だった。
「これは、これは。揃ってお出迎えとは痛み入る」
「……ふん。正面の騒動は囮だったか」
「そういうことだ。さて一応の確認だが、悪魔王で間違いないな」
「いかにも。我は悪魔王スイフルなり!」
気合の籠った名のりだが、その程度では大して気にもならない。俺は軽く肩を竦めたあと、シュネへ視線を向ける。その彼女も、肩を竦めていた。しかし、全員がそうであったわけではない。祐樹と行動を共にしている俊と舞華とサブリナに関しては、悪魔王の様子にいささか気圧された雰囲気がある。だが、それだけのようであり、いわゆる逃げるような者は、俺たちからはただ一人として出ていなかったのであった。
いよいよ、敵拠点へ侵入しました。
そして、悪魔王と相対したようです。
ご一読いただき、ありがとうございました。




