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第五十八話~側杖~


第五十八話~側杖~



 勇者である祐樹の一行へこれからについての提案をした結果、俺たちと合流するという判断をする。ある意味、呪術で意識をコントロールされていたと知ったのだから、そのような判断をしても当然だろうと思える結果であった。





 祐樹たちの考えも聞くことが出来たことであり、取りあえず彼らが滞在する部屋の確保をする。といっても、そもそも俺たちの居住エリアにまだ使われていない部屋は幾つかある。その使われていない部屋を、祐樹たちへ提供するだけだった。

 しかしそれらの部屋は、今まで使われていなかった部屋でもある。ゆえにガイノイドやアンドロイドたちに指示を出して、部屋の掃除などを任せたのだった。

 するとその様子を見たからか、祐樹たちがいささか申しわけなさそうな雰囲気を醸し出しながら頭を下げてくる。だが、彼らを受け入れるという選択を提案したのはこちらである。つまりそこまで気にしなくてもいいのだが、やはり世話になる以上は無理というものかも知れない。


「あ、そうだ。祐樹クン。貴方あなたたちって、転生の魔術でフィルリーアへ来たのよね? それは、どういう状況で起きたのかしら?」

「えっと……シュネ。どうして、そんなことを聞く?」

「それはねシーグ、単純に興味にかられたからだけよ……それと、祐樹クン。言いたくなければ、言わなくてもいいからね」


 言葉の前半は俺に、そして後半は祐樹へと投げかけている。すると祐樹は、別に隠すようなことでもないからと前置きしたあと、転生した際に起きたことを話し始めた。

 何でも、転生する直前に自分のすぐ下に光る何か……それこそ陣のような物が現れたのだそうだ。すると間もなく意識が遠ざかり、気が付くと祐樹と俊と舞華の三人はこのフィルリーアにいたというのがあらましらしい。しかも彼らがあとで聞いた話では、現れた場所というのがアシャン教の本部、即ちアシャン神皇国の宮殿ともなるわけだが、そこにある秘密の場所であったらしい。その場所に関しては、それこそ極一部のアシャン教関係者しか知らない場所なのだそうだ。

 その場所で気付いた当初、彼らも混乱したらしい。だが、当然と言えば当然だ。何せ陣のような物から光が溢れたかと思うと意識が遠ざかり、気がつけば全く身に覚えがない場所にいたというのだからその反応も当然だろう。しかし、なぜかアシャン教関係者と話しているうちにいつの間にか落ち着いていたそうである。しかも祐樹たちは、彼らからの話を疑うことなく信じていたのだそうだ。これはやはり、呪術による影響だろう。


「だけどある意味で、助かったと言えば助かった状況ではあったんだよな。その光る陣と思わしきものが現れた時って、空港から乗った列車が事故に巻き込まれた直後だったから。なぁ、俊、舞華」

「そうだな」

「ええ、そうね」

『……ええっ!?』


 ち、ちょっと待ってくれ。列車事故に巻き込まれただと!?

 それはまさか、俺とシュネが巻き込まれ、そして走馬灯そうまとうまで見たあの列車事故ではないよな。

 思わず同じ体験をしていると思われるシュネへと視線を向けてしまったが、やはり彼女の表情も驚愕に彩られている。俺とシュネがあげた驚きの声と、そして表している表情を見て祐樹たちは勿論、オルたちもいぶかしげな顔しているのが見えた。

 しかし、そんなことはどうでもいいことでしかない。俺は、感情に動かされるままにすぐ近くにいる祐樹の両肩を遠慮なく掴んでいた。


「な、何だよ……ちょっと、力を抜いてくれ。マジ、痛いから」

「ゆ、祐樹! その事故にあった列車って、成田空港発の列車じゃないよな!」

「え? いや、成田空港発だけど……それが、どうした?」


 祐樹から出たまさかの言葉を聞き、俺は彼に対してそれこそ矢継ぎ早に年号や日にち、乗った列車の発車時刻などを尋ねた。その結果、何と俺とシュネが乗った列車は、祐樹と俊と舞華がり合わせたれせた列車と同じだったことが分かったのである。そこから紡ぎ出された考え、それは俺とシュネが列車事故にあってのちに意識が途絶える寸前に感じた光に包まれたような感覚は、もしかしたら転生の術が発動したことで現れたものなのかも知れないということだった。


「ねぇ、シーグさん。何でそんなに驚いているの?」

「……え? その、舞華。何か言ったか?」

「え、ええ。その、何でそこまで驚いているのかなぁって聞いたのだけれど」

「ああ。それはだな」

「ちょ、ちょっと! 手を離してくれ! 肩、肩が潰れるから!!」


 ほぼ無意識に祐樹の肩を掴んでいたこともあって、全く手加減などをしていなかった。その痛みに耐えられなくなったのか、彼から悲鳴に近い声を上がっている。もっとも、相変わらず肩を掴んでいたことを気付けたのも、その祐樹の声のお陰であったのであるが。


「す、済まん」

「……おー、痛ぇ。馬鹿力かっつーの」


 まだ痛むのか、肩をさすりながら祐樹が悪態を吐いたのであった。



 ちょっとした混乱が起きたが、それも落ち着いたところで舞華が今一度、問い掛けをしてくる。その問いに対し俺は、少し躊躇ったあとで答えを口にしたのだった。


「多少の推察も入るが……恐らく祐樹たちが乗っていた事故に遭ったという列車、そこに俺とシュネの乗っていた」

「え? それって本当!?」

「ほぼ間違いなく」

「……はー……もし本当なら、凄い偶然ね」

「そう、だな」


 だが、仮に同じ列車に乗っていたとして分からないこともある。それは俺とシュネが憑依という形でフィルリーアに現れたことに対して、祐樹たちは転生という形でフィルリーアに現れているという点だ。この違いがなぜに生まれたのか、それが分からない。しかし、考えたとしても答えが出なさそうな点でもあった。

 その時、ふと俺は思わずシュネを見てしまう。だが、流石のシュネにでも分からないようである。その証拠に俺の視線に気づいた彼女は、少し申し訳なさそうな顔をしながら首を左右に振る仕草をしていたからだ。

 まさかシュネが興味本位で聞いたことが切掛けとなって、思いも掛けなかった話へと展開するとは思わなかった。しかし、だからといって結論に変わりが出るわけではない。ただ、同郷の士というか、何ともいえない絆のような物を感じたのは事実であった。


「そうか! 思い出した!!」

「な、何だよ俊。いきなり」

「祐樹! 舞華! お前たちも聞いたことはないか? シュネ……じゃない。雪村瑠理香ゆきむらるりかの名前を!」

『……え?』


 俊の言葉に、俺とシュネと祐樹が不思議そうな声を上げた。

 幼馴染みの俺やこのフィルリーアにはいない家族や親戚がシュネ……というか瑠理香こと瑠璃姉のことを知っているのは当然として、何で見ず知らずの俊が瑠理姉の名前を知っているのだろうか?

 少なくとも、俺の記憶に俊や祐樹や舞華の姿はない。いや。俺が知らないだけで、瑠理姉にはあるかも知れない。そう考えて彼女に視線を向けるが、首を左右に振るだけである。つまり、シュネも瑠理姉……じゃなくて瑠理香として生きていた地球での面識はないと思えた。ならば、何で瑠理姉の名前を知っているのかという点が気になる。そこで問い掛けようとしたのだが、その前に舞華が声を上げていた。


「……あ、わたしも思い出した。雪村瑠理香って、確か不世出の天才とか言われていた人の名前だ」

「そうそう。ドイツで就職したとかで、学会がドイツに取られたと嘆いたとか何とか」


 ああ、それか。それがあったか。確かにシュネは、有名人だったな。

 一般的に有名かどうかは兎も角として、少なくとも工学系の業界ではかなりのメジャーネームだった。あくまで家族伝手に聞いた話でしかないが、シュネがドイツで就職したことで日本の工学系科学界で相当に荒れたらしい。どうして、しっかりと確保していなかったのかとか、それはまぁ色々いろいろとあったのだそうだ。

 もっとも、当人はどこ吹く風だろう。そういった権威とか派閥とか、シュネは全く気にしていないからだ。いや。寧ろ、煩わしいとすら思っている節がある。そんなことにかかずらうぐらいなら、研究の方が楽しいとまで言い切るぐらいだ。

 だが、これではっきりした。間違いなく祐樹と俊と舞華は、同世代同時間を生きた日本人だと。たが、パラレルワールド(並行世界)の可能性もあるらしいから確実だとは言えないのだが。

 実はシュネから聞いた話だと、量子力学や宇宙論では空想ではなくあるとされているらしい。理論的には超弦理論ちょうげんりろんがどうとか言っていたが、専門的過ぎて全く理解できなかったのだけれど。





 祐樹たちを研究所に迎えて暫く、主に祐樹たちの実力上げに時間を使っていた。何せ悪魔王と戦う以上、彼らの実質的な戦闘能力の底上げは必要不可欠だからだ。それにどのみち、シュネがあえて逃がした悪魔の動向次第というところもある。それゆえに、時間がいつまで取れるかは分からないがやらないよりはましだろうとして指導を行っていた。

 まず魔術に関してだが、俺やシュネたちの師匠とも言える先代シーグヴァルドの疑似人格が存在するから、そちらに任せれば問題はない。そして直接的な戦闘に関してだが、そこに関しては俺が担当していた。


「……お、俺もフィルリーアにきてから鍛えたとは思っていたけど、その強さは何だよ」

「あ、あたしも。剣王の称号を授けられるぐらい腕には自信がありましたが……へし折られました」

「そこは、年季の違いだと思ってくれ。俺も子供の頃から鍛えていたからな。しかも俺の流派は、古武術の流れを汲んでいる。伊達に長い時間、技術や経験が蓄積されていたわけじゃないということさ」


 このフィルリーアにも、武術はあることは知っている。しかしよく言えば力強い、有り体にいえば力任せなのが主流なのだ。つまり、攻撃を受け流すとか攻撃をいなすといったことは、あまりというか殆どないらしい。その点を突けば、比較的簡単に受け流しやいなすことができてしまえるのだ。

 勿論、力強いことが悪いわけではない。それはそれで、一つの形なのだ。しかし、それ一辺倒では問題だろう。だが、今までは相手も同じような攻めだったので問題とはならなかったというわけだ。


「いなす、受け流す。こういったことも覚えれば、戦闘に関してはさらに一段上がるぞ。だから、頑張れ」

「へーい」

「はい」


 祐樹よりはサブリナの方が、性格的には素直だなと思いつつ彼らへ指導していた。しかし、そんな生活はいつまでも続かない。それはついに、ネルトゥースからある報告が上がってきたからだ。

 それは、悪魔王のいる拠点を探し出す為にシュネがあえて見逃した悪魔の移動が止まったというものである。それもただ止まっただけでなく、数日間もその場所近辺から移動をしていないらしい。この事実から、ほぼ間違いなくこの地点に悪魔王がいると思われた。


「もしくは、悪魔側の重要拠点ね」

「シュネは、この場所に悪魔王がいないというのか?」

「それは、可能性の問題よ。私も、悪魔王がいる本拠の可能性が一番高いと思っているわ。だけど、違う可能性もあるということ。でも、仮にこの場所が本拠ではなく重要拠点であったとしても、やはり悪魔王へと繋がるでしょうね」

「そうかー。ともあれ、確認した方がいいよな」

「そうね。ネルトゥース! 衛星を座標の上空へ回して」

「了解しました」


まずは現地の確認をする為として、人工衛星を一基だが向かわせることにする。その直後、シュネからの指示を受けたネルトゥースが、すぐに人工衛星を一基向かわせていた。以前は一基だけだった飛ばしていた人工衛星だが、最近になって第二号も追加している。その二基のうちの一基を、追跡装置から出るビーコンの座標上空へと移動させたのであった。


今回、変なところでシーグたちと祐樹たちの関係性が判明しました。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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