第五十五話~提案~
第五十五話~提案~
治療を終えて目覚めた勇者御一行と、情報交換を行う。その過程において、オルやキャスやセレンにも告げていなかった俺とシュネの身の上について明かす。しかもそれは、勇者たち四人全員へ掛けられていた呪術をも併せてであった
俺とシュネが地球、それも日本出身であるという事実を告げたことで、生じた叫び声が部屋に木霊するも、ほどなくして消えた。そうなると、当然のように問い詰められたわけだが、まずは待つように伝える。どちらにしても気絶させた祐樹にも知らせる必要があるので、彼が目覚めてからとしたかったからだ。
おおよそ二時間も掛からずに目覚める筈だからと伝えると、渋々だがみんな頷き了承する。それから一時間半を少し超えた頃、気絶していた祐樹も俺が言ったように目を覚ました。だが、状況が理解できなかったのだろう。彼は、何とはなしに周囲へ視線を巡らしている。やがて俺を視界に収めると、あからさまに警戒をし出した。
一瞬で気絶をさせられた相手であることを考えれば、彼の反応も当然だろう。しかし襲ってくることもなかったので、まずは気絶させた目的を果たしたといってよかった。その祐樹へ俺とシュネが改めて自己紹介をすると、彼もまた驚愕の表情と驚きの声を上げたのである。
「そ、それは! 本当なのか!?」
「何度も言うが、俺たちがお前たちに嘘をつくメリットとがない。ましてや、気絶させる前にシュネが言ったように、同郷だと思われる相手を罠に嵌める気もない。その上、剣王サブリナを除く勇者一行のメンバーである三人は、俺やシュネと同じ立場にあるのだと思っている」
転生と憑依、このフィルリーアに現れた形は違うが、それでも望んでこの地へ現れたわけではないだろう。何といっても俺やシュネ、そして祐樹や俊や舞華の意思は全く無視されている。それが一番、いただけないのだ。
もしかした祐樹たちは望んでいたかも知れないとも一瞬だけ思ったが、俺の言葉に反応して日本出身の三人が揃って表情を歪めたので、意思とは無関係という点だけは間違いないと判断して間違いないと思えた。
ただ一つ気になったのは、祐樹と俊と舞華だけでなく、なぜかサブリナまでもが表情を歪めたかということである。だが彼女が何も言わなかったので、表情を歪めたのかについての理由は分からなかった。
「そうか……そうだよな。俺にしても俊にしても、そして舞華にしても別にこのフィルリーアというか異世界にきたかったわけじゃない。異世界自体は小説のお話として憧れを抱かなかったわけでもないが、だからといって来たいとまで思ったことはない。それなのに、どうして俺……いや俺たちはこの状況下で、疑うこともなく信じたんだろう」
漸く、自身に襲われていた異常な事態を把握した祐樹が独り言ともとれるような呟きを漏らす。そして声こそ出さなかったが、俊と舞華も同様である。そんな彼らへ、シュネが自身の見解を述べていた。
「恐らく転生に成功した場合、件の呪術が掛かるのでしょうね。そして掛けられていた呪術の効果だけど、ある事象や言葉に対して疑いを持たないように仕向けていると思われるわ。その点を考慮すると、貴方たちはほぼ盲目的にアシャン教側の言葉を信じたのでしょう」
「マジか!」
「ええ。それから呪術だけど、既に四人全員解呪してあるわ。だから、もう問題はないわよ」
「え? あたしもですか?」
シュネの言葉に、サブリナが驚きの声を上げた。
だが、彼女の言葉はもっともだろう。祐樹と俊と舞華という日本出身者たちと違って、サブリナはフィルリーア出身の現地人である。ならばその彼女へ、呪術を掛ける必要はない筈なのだ。
それであるにも関わらず呪術を掛けられていたと告げられたのだから彼女の反応も推して知るべしであった。
「ええ。サブリナさん……だったわね。残念だけど、貴女にも呪術は掛かっていたわ」
そういったシュネの表情は、かなり曇る。そして呪術の内容について既に聞いていた俺やオルやキャスやセレンについても、それは同様だった。あまりいいとは言えない俺たちの表情とシュネの言葉を聞いて、祐樹たちの表情に不安の色がありありと現れる。しかしシュネは、静かに当事者であるサブリナへ告げていた。
「サブリナさん。貴女へ掛けられた呪術だけど、ある特定の状況においてのみ発動する特殊な呪術だったわ」
「……それで、その状況というのは?」
「悪魔王を倒した直後に発動するみたいね。そしてその効果だけど、残念ながら特定するまでには至らなかったわ。だけど、かなりたちが悪そうな術だったから、解呪はしたの。迷惑だったかしら」
「……いえ。ありがとうございます」
「そう。よかったわ」
実は、シュネが語ったのは嘘である。本当は、呪術の効果についても把握していたのだ。しかし呪術のえげつなさから、告げることが憚られた。しかして呪術の効果とは、事前に指定された特定の状況となると本人の意思とは無関係に特定された者へ攻撃を仕掛けるという実にえぐいものである。しかも特定の対象というのが、祐樹と俊と舞華というあたり、反吐が出る呪術だった。
要は、命を預け合い共に戦い抜いた仲間に対して、目的が完遂した途端にそれこそ機械のように殺させるように仕向けているのだ。実際、シュネから呪術の効果について聞き及んだ時、俺は怒りのあまり激昂している。そしてそれは、オルとキャスの兄妹やセレンも同じだった。
「えっと、シュネさん。サブリナにも呪術って、本当なの?」
「何度でも言うけど、貴方たちを騙すメリットはないわ」
『……』
恐る恐るといった感じで舞華がシュネに尋ねていたが、彼女はきっぱりはっきりと嘘ではない旨を返答する。その態度にはうしろめたいところなど全くなく、それだけに尋ねた舞華を含めた勇者たちは気圧されていた。
「さて、祐樹。これからだけど、どうする気だ?」
「どう……とは?」
「このまま勇者を続けるか、それともやめるかと聞いている」
何せ、呪術を掛けられていた事実が判明しているのだ。言葉は悪いが、攫われてその攫った犯人に洗脳されて意のままに操ることができる兵士にされたといっていいだろう。この状況を把握した以上、勇者を続けるなどできるかと言い出したところでおかしくはない。実際、同じ状況なら言い出す者は絶対に出てくるだろうからな。
「……やめたくても、できない。このフィルリーアで、生きる術を他に知らない。今まで勇者としての行動しか、させてもらえなかったから……」
「普通に、冒険者ギルドにでも所属でもすればいい。戦闘能力なら、高いだろう」
「だけど、顔でバレると思う」
あぁ、そうか。
一般大衆ならばまだしも、冒険者ギルドや商人ギルドなどの上層部、そして国や貴族であれば勇者一行の顔は知っていると考えていい。そんな祐樹が仮に勇者を止めたとしても、またぞろ持ち出されることは必至だ。
そうなる未来があると分かっていれば、確かに辞められない。というか、やめたとしても今までと変わらない。下手をすれば、また呪術でも掛けられてしまう可能性すらあるのだから。
「だったら、俺から提案をしよう」
『提案?』
「ああ。一つは全員が整形をする。二つ目は、俺たちのところに身を寄せる。もしくは、どこか辺境にでも隠遁する。いわゆる、田舎のスローライフだな……それとこのまま勇者を続けるというのも、有りといえばありだな」
さて、彼らがどう判断するかなんて分からない。それにもしかしたらだが、呪術を掛けられていたという事実をした上でも、本気でこのフィルリーアを悪魔の魔の手から救うと考えているかも知れないのだ。それなら、勇者を続けるという決断をすることも考えられる。
だが、仮に俺が勇者の立場だったら、絶対にアシャン教からは離れる。そして、何とかアシャン教へ報いを受けさせるべく動くだろう。
勿論、実行して成功できるかどうかは別にしてだが。
「その……提案自体ありがたいと言えばありがたいけど、迷惑は掛からないのか?」
「別にないな。やろうと思えば、それこそ国を相手にしても対抗はできるから。それに、俺たちも悪魔とは対立している。その意味では、同じなのかな」
「え? そうなのか?」
「そうでなければ、あの戦場に現れない。あ、因みにバートの町を襲った魔物の群れ、駆逐したのは俺たちだから。信じられないのなら、証拠の映像もあるぞ」
「……え? え、えー!!」
再度、部屋に叫び声が木霊したのであった。
祐樹たちの上げた叫び声も収まると、部屋の中には奇妙な沈黙が流れる。ただ、オルとキャスとセレンの三人が、現状に対して奇妙に納得をしているような表情を浮かべていること、それが不思議ではある……解せないが。
するとその時、祐樹が呟くような声を紡いでいた。
「……そうか。あんな大型人型兵器を操っているから、可能なのか……」
「祐樹! 人型兵器って何だよ!!」
「え? 見ただろって、俊は見ていなかったな……えっと、俺たちは町で大型のゴーレムと戦っていた。それは、幾ら何でも覚えているよな?」
「あ、ああ。確か、三体のゴーレムだったよな」
「そう。あのゴーレムだけど、合体した。多分だけど、二十メートルぐらいはあったかな……と思う。その合体したゴーレムと戦ったのが、大型の人型兵器だった。あれを操っていた、そうなんだろ?」
「そうだな。因みに名称だが、キュラシエという」
『……』
俊が絶句し、舞華は想像が追いつかないのか不思議そうな顔をしている。そしてそれは、サブリナも同じだった。ただ、サブリナの場合、舞華と違って言葉の意味が理解できていないように思えた。
あくまでキュラシエは、地球のフィクション元にした兵器である。祐樹や俊、それから舞華は微妙だがそれでも知識としてはあるだろうからゴーレムとの違いは判るだろう。しかしフィルリーア出身のサブリナからすれば、ゴーレムとキュラシエの差などないというか分からない。彼女の認識からすれば、同じゴーレムのカテゴリーに入る筈だ。しかも合体した大型ゴーレムなどというものを見ているだけに、それはなおさらだと思えた。
「回答を先延ばして、暫くここにいるというのもいいけどな。ただ、お前たちが敵になるというならば、相応の対応となるぞ。だが、そうでないなら受け入れたところで困りはしない。それで、どうする?」
「……少し時間をくれないか? あまりにも一気に情報が入ってきて、今は判断ができない」
まぁ、それぐらいなら別に構わない。
ただ、考えることに時間を掛けすぎると、俺たちは悪魔王と決着をつけてしまうかも知れない旨は伝えておく。すると、祐樹たちは一様に驚いていた。
「ど、どうやって!」
「四魔将の一人をあえて逃がした。あの損害だ、悪魔王のところに行くだろうと考えて追跡している。その情報が入り次第、俺たちは動くつもりだ」
「そう……なんだ。でも、どうして?」
「さっきも言ったが、俺たちは悪魔と対立した。その決着の為だ」
宇宙に行かず、このフィルリーアという名の惑星に留まっている理由が正にこれである。悪魔王との一件さえかたをつけることができれば、あとは用意を調えて宇宙という名の未知の海へ漕ぎ出すだけなのだから。
勇者たちへ選択を与えてみました。
さて、彼らはどういった決断をするのでしょうね~。
ご一読いただき、ありがとうございました。




