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第五十四話~正体~


第五十四話~正体~



 勇者一行の治療と呪術の解呪を行うべく、俺たちの研究所へ転送し、治療を行う。その間に冒険者ギルから受けていた依頼を完遂させ、セレンを除く俺たちはカッパーから青銅ブロンズへ昇格したのであった。





 冒険者ギルドで請け負った依頼を完遂させたお陰で昇格をしたあと、情報収集を行う。すると、ルドア王国南部でまたしても起きた騒動や、アシャン神皇国聖都への襲撃という話題でもちきりとはなっていた。

 しかし、逆に言うとそれだけでしかない。それ以外では、目新しい物はない。つまり、今いる侯爵の領都に到着する前に聞き及んだことや、ドローン等を駆使して集めた情報とさして代わりはなかったのだ。それはそれで仕方がないと考え、一まず研究所へと戻ることにする。それというのも、数日のうちに勇者たちの治療が終わるからだ。

 取り敢えず領都から出ると、暫く街道を進んだところで道から外れる。やがて周囲に人の目がないことを確認すると、転送して研究所へと戻ったのである。それから二日後、いよいよ勇者たちの治療が完了した。

 まず治療の為にと薬液を満たした円筒型の槽から薬液を抜き、それからガイノイドたちが彼らの身嗜みを整えてベッドへと寝かせた。しかし、すぐには目覚めず暫く眠り続けていたが、その日の午後になると彼らは目覚める。その彼らの雰囲気は、町で直接会った際に感じた時と違って、全員が随分とすっきりとしていた。


「どうやら、目覚めたようだな」

「え? お前は……あっ、そうか。助けてくれたのか」

「そういうことだ。ところで体だが、問題ありそうか?」

「いや、大丈夫みたいだ……というか、以前より調子がいい……それに前から感じていた何かの違和感みたいなものが、すっきりしている」


 どうやら勇者も、何かされているとは本能的ではあるようだが感じてはいたらしい。この辺りは流石勇者、といったところなのだろうか。

 するとその時、勇者の仲間の一人が声を掛けてくる。その女性は確か、舞華まいかと名乗っていた筈だ。


「ねぇ、祐樹。この人たちだけど、誰なの?」

「何を言っているんだよ。俺たちを助けてくれただろう?」

「……それって、何時いつなの?」

「いつって、記憶がないのかよ!」

「待て。彼女は、気絶していた。だから、知らなくて当然だ」

「あ! そうだった……」


 確かに、彼女からすれば俺たちを知らなくて当然だといえるだろう。

 襲撃されていた町で出会った際に彼女は、魔術王の肩書を持っているしゅんと共に気を失っていたからである。祐樹とサブリナが俺を知っているのは、二人と違って何とか意識があり、俺との会話が成立していたからに過ぎないのだ。


「取りあえず、自己紹介だけはしておこうか。俺はシーグヴァルド、シーグと呼んでくれ。そして隣にいるのが、シュネーリアだ」

「シュネーリアよ。シュネと呼んでね」


 そのあと、オルやキャスの兄妹やセレン。さらにはビルギッタやアリナやエイニ、それから治療を担当したイルタやヘリヤやエルヴィを紹介していく。そして勇者こと祐樹や彼の仲間たちは、黙って俺たちの紹介を聞いていたのであった。

 ひとまずこの場にいる俺たちの紹介を終えると、祐樹たちも自己紹介を始める。ここで初めて俺たちは、サブリナを除く三人のフルネームを知ることができた。サブリナはフィルリーア出身であり、しかも身分的には先代皇王の娘としっかりしている。そんな理由もあって、サブリナ・ラ・ロットと判明していた。

 一方で残りの三名となると、名前しか知らない。実際彼らも、祐樹ゆうきと俊と舞華としか名乗っていない。そして、彼らの後ろ盾となっているアシャン教とアシャン神皇国も、そのようにしか告げていなかったので彼らの苗字については分からなかったのだ。

 そして判明した彼らのフルネームだが、勇者が磐邑祐樹いわむらゆうきというらしい。それからもう一人の男、魔術王という肩書を持っている男が小鳥遊俊たかなししゅんである。最後に聖女の肩書を持つ女性が、橘舞華たちばなまいかなのだそうだ。


「さて、と。こうしてお互いの紹介を終えたわけだが、早速さっそくだけど知っていることから話そうか」


 話を振ったということで、まず俺たちから得ている情報を出す。とはいえ全てではなく、あくまで今回の悪魔による襲撃について分かっていることを伝えたに過ぎなかった。何といっても、四魔将という肩書を持っていた悪魔たちが、どうして町を襲撃したのかについては分かっていないのである。ゆえにこちらから出せる情報は、四魔将を構成している四人の悪魔が襲ってきたことぐらいしか伝えられなかったのだ。

 なお、四魔将を構成している四人の悪魔のうち、三人は既に倒していることも併せて伝えておく。すると、祐樹たちからは驚きを持って迎えられた。どうも四魔将という存在は、各国の上層部にも知られている悪魔だったらしい。しかも悪魔を率いている悪魔王や、その悪魔王の妻とされている悪魔妃に及ばなくても、一人一人が悪魔の中でも群を抜いて強い個体として認識されているのだそうだ。

 その四魔将のうちで三人を既に倒してといわれたからこその驚き、だったらしい。


「それは、本当ですか?」

「嘘か誠かと言われれば、本当だ。だけど、証拠は出せない。悪魔は倒しても、何も残らないから」

「……それは、そうですね」


 勇者一行の一人である俊が問い掛け、そして返答した俺の言葉に彼は頷いていた。どうやらこういった対外的な話は、彼が担当していると判断していいようだ。曲がりなりにも魔術王という肩書を持っているからか、それなりに頭はいいと思われる。だからこそ、彼が担当していると思ったのだ。

 もっとも、先代のシーグヴァルドやシュネやキャスが操る魔術を知っている俺としては、どこが魔術王なのかと内心では思ってしまう。確かに魔術に関しては俺やオル以上にうまく魔術を扱うとは思うが、先に挙げた三名に比べると、どうしてもそれほどとは思えないからだった。

 ただ、その点を指摘するつもりはない。わざわざ波風を立てる必要など、全くないのだから。

 話を戻して俺から祐樹たちへ与えた情報だが、先の四魔将のうちで三人を倒したという情報の他に追加としてさらに二つ渡している。一つは、アシャン神皇国の首都となる聖都に存在しているアシャン教本部が襲われたという情報だった。

 幸い、聖都を覆っている結界に阻まれて、致命的な被害はないらしい。しかし今までにはなかった悪魔からの聖都襲撃に、アシャン神皇国もアシャン教も動揺しているようだ。

 そしてもう一つだが、言うまでもなく勇者たちに掛けられていた呪術に関してとなる。聖都が襲撃されたことに驚きを現した彼らであったが、それ以上に自分たちが呪術を掛けられていたことに驚いていた。


「それと、ね。非常に言いにくいのだけれど……この呪術を掛けたのは、貴方あなたたちが置かれている状況から推察するに……アシャン教よ」

『……えー!!』


 シュネから出たある意味で爆弾発言に、祐樹たち勇者一行からは驚きの声が上がった。そんな彼に対して俺たちだが、治療を担当した以上は驚く理由はない。ただ彼らへ、憐みと少し同情が籠った目を向けるだけであった。

 とはいえ、当事者である勇者たちからすればとんでもない話である。それこそ、人目もはばからず、揃って驚愕の表情と驚きの声を上げたことも納得できる。もし逆の立場であれば、俺でも同じような状況におちいっただろうと想像できるからだ。

 それから暫くの間、部屋に静かな時間が流れる。長いのか短いのかもわからない時間が流れたあと、祐樹がゆっくりと動き出した。その動きはとても機械じみており、ひどくぎこちない。まるでギギギ……とでも幻聴しかねないぐらい、彼の動きは不自然である。その祐樹だが、ついに近くにいたシュネの腕を掴むと、全く表情がない顔を向けた。

 彼の動きだけでなく、表情までも機械じみているなどと思っていると、シュネの腕を掴んだ祐樹が口を開く。その声はひどく平板であり、しかも全く感情というものが感じられなかった。


「ソレハ、ドウイウイミデショウカ。シュネサン」

「どうもこうも、そのままの意味よ。貴方たちは呪術を掛けられていて、一種の意識操作を受けていた。それを行っていたのが、アシャン教。そういうことよ」

「ジ、ジョウダンデスヨネ」

「私たちが、貴方たちへ嘘を言う理由も、メリットもないわ。信じるか信じないか、それはそちら次第よ。ただ、私は私の誇りに懸けて嘘はいっていないわ」

「ウ、嘘だー!」


 突然の感情の発露からか、シュネを掴んでいた祐樹の腕に力が入る。その力にシュネが表情を歪めた直後、俺は近付くと祐樹の腕のある場所を押さえた。そこを押されると、我慢できないほどではないが痛みが走り、そして本人の意思とは無関係に力が入りにくくなるのだ。

 こうして彼の腕から力を緩めさせた上で俺は、シュネの腕を掴んでいる祐樹の腕を外させた。実は力任せに行ってもよかったのだが、そうするとシュネが怪我を負うかも知れない。そう考えて、あえて先の手段による開放を行ったのだ。

 予想外の痛みと、自身の意思とは無関係に掴んでいた腕が解放されたことで驚いたのか、一瞬だけだが祐樹が静かになる。しかしそれは一瞬だけでしかなく、彼はすぐに次の行動に移っていた。


「俺を……俺たちを騙そうというのだろう!」


 そのさまを見る限り、完全に激情に支配されているといっていいだろう。しかも感情に任せているからか、行動自体は素早い。しかし、所詮それだけでしかない。はっきり言って、今の祐樹の動きは読み易いのだ。

 俺は延ばされてきた腕を跳ね上げて姿勢を崩すと、祐樹の鳩尾へ拳を叩き込む。取りあえず、落ち着ける為にも意識を失わせた方がいいと考えたからだ。そして祐樹の意識は、目論見通りに失う。その彼をゆっくりベッドへ寝かせてから俺は、視線を祐樹以外の三人へと向けた。

 予想もしていなかった話を聞かされたからだろう、三人はまだ固まっていた。それでも、リーダーとなる祐樹が倒されれば反応はする。しかしながら、まだ先に与えられた情報から受けた衝撃から抜け切れていないようである。俺を睨み身構えこそしているが、それだけだった。


「悪いが、気絶させた。あのままだと、シュネが怪我をしたかも知れないからな」

『…………』

「安心してくれ。同郷だと思われる相手に、それこそ襲われでもしない限りこれ以上の危害を加える気はない」

『……え!?』

「……」


 気絶させた祐樹は別にして、俊と舞華から驚きの声が上がる。そしてサブリナだけが一人、まだ静かに睨み続けているだけだった。そんな彼らからの視線を受けつつ、俺は隣にいるシュネへ視線を向ける。彼女が頷いたことを確認したあとで、俺は改めて自己紹介をすることにした。


「では、改めて名乗ろうか。俺はシーグヴァルド。但し、日本にいた頃の名前は、御堂裕也みどうゆうやだ。そして……」

「私はシュネーリア。そして、地球にいた頃の名前は雪村瑠理香ゆきむらるりかよ。よろしくね」

『…………え? ええー!!?』


 勇者一行だけではなく、正確な身の上話をしていなかったオルやキャスやセレンからも驚きの声が上がる。そんな叫び声が木霊する部屋の中にあって、一人祐樹だけは相も変わらず白目を剥いて気を失い続けていたのだった。


実は勇者たちも、被害者だったのです。

内容が内容だけに、勇者が少し暴走しましたが。

しかし速攻で、主人公に気絶させられました。

そして、憑依者のシーグとシュネが身の上を明かしました。やっとね。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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