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第五十三話~治療~


第五十三話~治療~



 四魔将と自称していた悪魔たちが率いる軍勢を蹴散らし、大きな怪我を負ってしまった勇者たちの治療を行う為に研究所に転送する。その彼らの治療と並行する形で、勇者たちへと掛けられている呪術の解呪が行われたのであった。





 シュネとセレンと研究所のメインコンピュータといっていいネルトゥ-ス、それと先代シーグヴァルドの疑似人格が雁首を揃えて議論を行っている。その一方で俺はというと、その議論には参加していなかった。

 ならば何をしていたかというと、キャスの相手である。アリナと共に研究所へ残された彼女が、悪魔との戦いを聞きたがったという理由もある。しかし何より、俺が手持ち無沙汰であったという方がよりしっくりくる理由だった。

 特にキャスは、キュラシエと合体ゴーレムの対決話を面白そうに聞いている。女の子はこういった話題には興味がないと思っていただけに、キャスの反応は少し意外だった。

 これが、もしキャスと共に会話へ参画しているオルならば、まだ分からなくもない。男であれば、こういった話は好きだからだ。しかし、一介の女の子が興味を持つとは完全に埒外だった。

 ただ単純に研究所で待っている間、キャスは暇だったからという可能性もなくはない。悪魔率いる軍勢に襲われた町へ向かわず、直接戦闘をしていないキャスからすると、もしかしたら娯楽的な空想話に聞こえるのかも知れない。だがそう考えてみれば、キャスが楽しげだというのも分からなくもない気はした。

 その後、大体の話を終えた頃になると、オルの腹の虫が鳴いて食事をよこせと訴えてくる。するとその腹の虫につられたのか、キャスのお腹もかわいらしく鳴く。まさかのことに、キャスは顔を赤らめていた。


「ははは。そういえば、腹が減ったな。食堂に行こうか」

『うん!』


 俺の言葉に、オルとキャスの兄妹が、揃って同意する。それから食堂へ向かう為にと立ち上がったその時、オルがふとある方向へ視線を向ける。そこは部屋の壁があるだけだが、そのずっと先にはキャスたちが呪術の解呪の為にと頭を捻っている部屋がある筈だった。


「ねぇ、シーグ兄貴。シュネ姉貴たちはいいのかな」

「そうだな……ネルトゥース、俺たちは食事にする。そうシュネたちへ伝えてくれ」

「承知しました」


 ネルトゥースへ伝言を頼んだあと、俺はオルとキャスとアリナを伴って、食堂へ移動すると夜食にする。しかし、オルが気にしたシュネたちは食堂へ現れなかった。

 そこでネルトゥースに話を聞くと、夜食の旨はシュネとセレンへ伝えている。だが、彼女たちは了承の返事こそしたが、全く部屋から出て行こうともしなかったらしい。それどころか、解呪に向けての手を休めることもせず、あれやこれやと議論を進めていたようである。どうやらシュネの物事にのめり込むという性格がここで表れ、セレンも引き摺られてしまったようだ。

 とはいえ、一段落つけば食事もする気になるだろう。幾ら何でも、議論を阻害するほど腹が減れば、食べようという気にはなる筈だからだ。もしそれでもダメなようならば、最悪俺が議論を力ずくで中断させればいいと判断していた。

 そういったことを考えながらも、食事後は寛ぐ。するとそのさなかに、ネルトゥースからキュラシエが研究所へ到着したとの連絡が入る。その連絡を受けて俺は、格納庫へと向かった。

何といっても、キュラシエ初の実戦である。だからこそ、様々(さまざま)なデータが得られたことは間違いない。そこで、得られたデータのチェックでもしようかと考えたのである。間もなく到着した格納庫では、既にキュラシエがたたずんでいた。

 その形態は飛行ユニットとの合体状態ではなく、人型巨大ロボット単体としてとなる。今は、整備を担当するアンドロイドやガイノイドたちによって、整備とチェックが始まっている。そんなキュラシエを何となく見上げていると、隣にいるオルがポツリと一言こぼしていた。


「いいなぁ」

「オル。そのうちな」

「本当!? シーグ兄貴」

「ああ。今は、実動機というよりテスト機としての性格が強い。何れデータが揃えば、テスト機ではなく実動機をシュネに作ってもらう。そうなれば、お前も乗れるぞ」

「うん!」


 頭を撫でながらそう言うと、オルは嬉しそうに頷いた。

 因みに、俺の言葉は嘘でも何でもない。このキュラシエも、そして飛行ユニットもいわばプロトタイプといっていい。つまり、実動機というより実験機という方が近いのだ。無論、先の戦闘で使ったように、ちゃんと実動機としても使えるまでには完成させてはいる。だからといって、実験機に変わりはないのだ。それから一頻り、オルの頭を撫でたあとで俺は、あるアンドロイドへと近づいていった。


「マウノ」

「そこ! ちゃんと見ろよ……何でしょうか、シーグヴァルド様」

「少し、キュラシエの頭の中を覗くぞ」

「分かりました」


 整備班の班長となるアンドロイドのマウノへ声を掛け、キュラシエに搭載されているコンピューターをチェックする旨を告げる。別に断らなくてもいいのだが、報・連・相をしっかりとしておけば間違いがないのだ。

 こうしてマウノから許可を得ると、キュラシエのコックピットに向かう。すると興味があるのか、オルとキャスの兄妹もついてきていた。

 邪魔をしないなら、別に気にすることもない。ゆえに、少しだけ二人に視線を向けただけで特に何も言わなかった。やがてコックピットに乗り込むと、シエに先の戦闘に関するデータの呼び出しを指示した。

 流石にシュネやキュラシエの整備チームを統括するマウノや、整備班に所属するアンドロイドやガイノイドにはかなわないが、それでもこれぐらいはできる。というか、これぐらいのことができないと、キュラシエの操作すらままならなってしまうのだ。

 間もなくモニターへ出したデータをチェックしながら、稼働や戦闘を行う上で問題となるような動きがなかったかなどとを洗い出していく。すると幸いといっていいだろう、キュラシエの動きに致命的なエラーに繋がりそうな点は見受けられない。そのことに俺は安心し、胸を撫で下ろした。

 その後、合体ゴーレムとの戦闘で得たデータや稼働したことで蓄積されたデータをコピーする。そのことを、現場責任者であるマウノへ伝えてから俺は、コピーしたデータを持ってシミュレーション用の筐体きょうたいが置いてある部屋へと移動した。

 実は機体のシミュレートだけなら、キュラシエ搭載のコンピューターであるシエでも可能なのだが、こういった検証などについては、手間などを考えるとやはり専用の筐体でやる方がいいのだ。

 筐体が設置されてある部屋に到着後、データをインストールしてシミュレートを行う。二度ほど検証を兼ねた状況の確認を行ったあと、オルから自分もやりたいとの申し出があった。

 いずれ渡すことになる機体を動かす訓練となるし、何より俺以外のパイロットが動かしたデータなどはしておいて悪いこともない。そこで、オルの望み通りに操縦を変わる。するとキャスからも同様に申し出があったので、そのままオルとキャスへ教えることにしたのだった。



 勇者たちを伴って研究所へ現れてから暫くした頃、驚きの情報が冒険者ギルド経由で入ってくる。その情報が示す内容だが、何と、アシャン教の本部へ襲撃があったというものだった。

 しかも話が入ってきた時期から考えるに、勇者たちが襲撃されたか巻き込まれたかが判断つかないあの戦いの時期と重なる。奇妙な偶然と言えないこともないが、それにしてはタイミングが合いすぎている。となると、町への襲撃が陽動でこのアシャン教本部への襲撃こそが本命だった可能性すらあった。

 しかもアシャン教の本部はアシャン神皇国の首都たる皇都アシェルトにあるので、事実上アシャン神皇国が襲われたに等しい。だがそれだけに戦力が充実しており、守りも堅い。そのお陰もあって、襲撃自体は退けている。その意味では、流石といえるだろう結果であった。

 さらにこの襲撃時に、驚きのが使われている。それは、魔力飛空艇であった。魔力飛空艇とは、古代文明期にあった空飛ぶ乗り物である。地球における、飛行機や飛行船と同列に考えれば分かり易いだろう。ただ、見つかっても殆どが壊れている上に複雑な機構を持っているので、現代のフィルリーアでは技術的などの理由で運用が殆ど出来ない代物だった。

 とはいえ、全てが壊れているわけではない。フィルリーアの歴史を紐解けば幾度かは登場するので、古代文明の崩壊を乗り切った魔力飛空艇もあったようである。現在でも二機だけだが現存しており、一機はドワーフの国であるドゥエフ王国王家が所有し、もう一機は皇帝が治めるマガト帝国の皇室が所有していた。

 この二国が所有している理由は、単純と言える。ドゥエフ王国の場合、ドワーフの持つ技術のお陰である。そしてマガド帝国の場合、マガド帝国の持つ国力と経済力ゆえであった。

 また、魔力飛空艇には二種類の呼称がある。これは大きさで分かれていて、小型のものは魔力飛空艇と呼称されるが、中型以上となると魔力飛空船と呼称される。そしてドゥエフ王国が所有しているのは魔力飛空艇であり、マガト帝国が所有しているのは魔力飛空船であった。

 そのような事実から、当然のように今回の皇都襲撃にはドゥエフ王国とマガト帝国の関与が疑われた。だがそもそも、皇都襲撃に使用された魔力飛空艇と両国が持っている機体とは姿かたちが全く違う。しかも、今回の皇都襲撃に使われた魔力飛空艇とよく似た魔力飛空艇が歴史上現れている。そのこともあって、両国が皇都襲撃に関与したのではという疑いは、間もなく晴れていた。

 なおその過去に現れた魔力飛空艇だが、登場自体は割と近く五十年ほど前である。当時の勇者であるトーマが、驚いたことに遺跡で完品を発見し、その後は各国の合意の元で勇者が使用していたらしい。しかし、その魔力飛空艇も、当時のフィルリーアにおいて世界の脅威とされていた強力な魔獣との最終決戦の際に失われてしまったらしいのだ。

 そんな過去の栄光に彩られ、しかし失われている筈の魔力飛空艇にとても類似している魔力飛空艇が現れたばかりか、アシャン神皇国の皇都を襲撃したという事実の方が重要視され各国首脳部を騒がせていた。何せ、件の魔力飛空艇を使用していた勇者トーマだが、魔獣との最終決戦で相打ちとなり死亡したとされている。本当かどうかは定かではないが、少なくとも各国の公式発表ではそうなっていたのであった。

 さて、これらの話がなぜに冒険者ギルド経由であったのかというと、アシャン神皇国にはドローンを配備していなかったからだ。その為、冒険者ギルド内に流れた噂を聞き、人工衛星を回すことで漸く襲撃を把握したというわけである。何ゆえにアシャン神皇国へ派遣していなかったのかというと、勇者一行に張り付けていたので、それで十分だと思ったからに他ならなかった。

 

「宗教ということもあってあまり関わり合いたくなかったからだけど、手落ちだったわ」

「そうだな。だけどシュネ、今はドローンを派遣しているよな」

「ええ。ただ、次があるかは分からないけど」


 確かに、そうだ。

 悪魔王に直接、皇都を襲撃した理由を聞くことが出来れば早いだろうが、そんな仲でもない。実際に聞きに行くことは可能かも知れないが、相対すればまず間違いなく戦いになるだろう。しかも、勇者たちの治療が終われば、多分だが悪魔王の本拠地へ行くことになるのは必至だった。

 その勇者たちの治療だが、間もなく終わるらしい。既に呪術の解呪は終わっており、あとは身体的な怪我の治療だけだったのである。実は見た目以上に怪我が重く、より慎重な治療を行った為であった。

 さて、解呪の方法だが、切掛けは魔力溜まりの研究だったそうだ。の現象を研究する過程で、シュネたちは魔力溜まりを消滅させる方法を見つけたらしい。その方法を応用して、術そのものを崩壊させるという手段へ到着したのである。この方法なら、呪術だけでなく魔術全てへ対抗できるようなのだ。

 シュネたちはこの成功に気をよくして、いずれ魔術として成立させると意気込んでいるぐらいである。ともあれその新発見の手段を使って、見事解呪に成功したというわけであった。



 こうして解呪や研究を行っている中、その件には関われない俺やオルやキャスは何をしていたのかといえば、届け物依頼の完遂である。俺たちは、ルドア王国西部にある侯爵家の領都にある冒険者ギルドまで物品を届けるという依頼を受けていた。だが、途中で悪魔に関する情報が入ったのでそちらを優先した形だが、だからといって依頼を放棄するつもりもない。だからこそ手すきとなっている俺とオルとキャスが、依頼を完遂しておこうと動いていたのだ。

 既に、先の戦いが始まった頃ですら目的地まで大した距離が残っているわけではない。お蔭で勇者たちの治療が終わる前に、最終目的地へ辿り着くことができたのだ。俺たちは到着した侯爵領の領都にある冒険者ギルドまで行き、残った届け物を全て渡す。その後、受領のサインを貰うと、晴れて依頼を完遂した。

 この依頼完了を持って、俺たちはカッパーから青銅ブロンズへランクが上がっている。だが、既にシルバーという中級ランクとなっているセレンは、ランクの昇格はなかったのであった。


多少、時が掛かっていますが治療も終わりです。

目覚め後は、どうなるんでしょうか?


ご一読いただき、ありがとうございました。



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