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第五十二話~呪術~


第五十二話~呪術~



 合体ゴーレムを撃破し、勇者一行を救助することに成功する。その後、町の外にまだ残っている魔物やゴーレムの駆逐はビルギッタとシエに任せると、侵入した敵を掃討する為に伴って町の中へと入って行ったのであった。





 壊され瓦礫の散乱している町を囲む壁から町中へと入った俺たちの目に飛び込んできたのは、正しく蹂躙のあとと言える光景だった。家は燃え尽き、そして破壊されている。そればかりではなく、地面にはおびただしい血と、その血を生み出したであろう犠牲となった者の遺体が幾つも倒れ伏しているのだ。

 さらに言えば、町のあちこちから破壊音も聞こえてくる。多分、魔物やゴーレムなどが家などを破壊しているからだろう。しかも破壊音に混じって、悲鳴や怒号なども聞こえてくる。破壊音に比べれば小さいが、確かに聞こえてくるのだ。


「……シーグ兄貴……」

「ひどい」

「オル、セレン。今は、敵の駆逐が優先だ」

「……うん、分かってる」

「そうね。そちらが優先ね」

「二手に分かれるぞ。オルとセレンは、町を右回り進め。俺は、左回りに進む」

「うん」

「了解よ」


 直後、オルとセレンの二人と軽く拳を合わせてから分かれる。あとは、見掛ければ当たると幸いに魔物やゴーレムを倒していった。無論、魔物やゴーレムを倒すばかりではない。襲われていた町の住人や、その住人を守ろうとしている兵士なども救助していくのも忘れない。

 その際、体高が二メートルを超えるような大型の魔物だろうが、身長が三メートルに達するゴーレムであろうが、全てお構いなしに駆逐していきながら住人や兵士を助けていたのだが、のちにその時の様子から「静かなるバーカーサー」などというあだ名が冒険者ギルドで流れることになるとは想像もしていなかった。

 もし、この時点でそんなあだ名を付けられると分かっていれば、もう少し穏便に戦っただろう。だがこの時点で、そんな未来のことなど分からない。俺は、ただ敵を淡々とほふることに力を注いでいたのだ。

 幸いなことに、デュエルテクターを装着していたこともあって、あだ名をつけられても正体が判明することはない。それだけが、唯一の救いだった。



 敵を倒しつつ町をほぼ半周すると、そこにオルとセレンが少し遅れて現れる。首尾よく二人と合流を果たすと、今度は町の中央を抜けていく。勿論、見掛けた敵は漏れなく駆逐していった。

 すると、少しずつであるが冒険者や町の兵士などが反撃をしている様子が見えてくるようになる。普段は仲が良くも悪くもない両者であるが、流石にこの非常事態では手を携えているようで、きちんと協力して魔物やゴーレムと対峙し倒せるならば倒したりしているようであった。

 このような景色が町のあちこちからそんな状況が目立つようになったということは、逆にいえばそれだけ魔物やゴーレムの数が減ったということでもある。そうなればこっちのものといっていい。彼らで対応できるような魔物やゴーレムは任せて俺たちは、町中からいまだに聞こえてくる破壊音や悲鳴などが発生している現場を求めて町中を移動していた。

 なお地上を移動すると建物や瓦礫に制限されるので、俺とセレンはスラスターを使って空中を移動している。屋根伝いの移動でもいいのだが、魔物やゴーレムが暴れているので形を留めている家屋敷でもどんな影響を被っているか分からない。だったら、初めから空中を移動した方が余計な被害を生む可能性もないとはいえないからだ。

 ただ、オルはスラスターが装備されていないので、地上を疾走していた。



 町に駐屯する兵や低ランクの冒険者では対峙するのも難しい強敵を中心に倒し、町の中から大分敵勢力の駆逐に成功した頃、ようやくシュネとエイニの二人と合流した。彼女たちというかシュネには、逃げ出した四魔将の生き残りの対応を任せていたのでまずはその話を聞くことにした。

 とはいっても、立ち止まってとはいかないだろう。かなり駆逐には成功しているとはいえ、まだ町の中から全ての敵を排除したわけではないからだ。寧ろ敵の数が減れば減るほど、残っている敵は手強くなる。それこそ、兵や中堅クラスの冒険者では対応できないような個体となっているからだった。

 その為、移動しながら通信でやり取りを行う。これならば、倒しながらでも報告を受けられるからだ。


「それで、どうした?」

≪逃がしたわよ。但し、追跡装置つきだけどね≫

「どうして、そんなことをしたんだよ!」

≪道案内をしてもらう為よ≫

「道案内?」

「そう。道案内」

「……ああ! そういうことか!!」


 俺としては、シュネが一人生き残った四魔将を討ち取るだろうと期待して任せたのだが、彼女は生き残りに別の目的を見出していたようだ。言われてみれば、まだ悪魔側の本拠地は判明していない。その意味で言えば、シュネが四魔将を逃がしたことに意味はあった。

 何せ四魔将などと大層に名乗っているのだから、幹部クラスなのは間違いないと見ていい。ならば、敵の本拠地へと戻ってもおかしくない。それどころか、これだけの事態となったのであれば、悪魔王へ報告するのは必至だった。


≪追跡自体は、ネルトゥースに任せているわ。だから私たちは、私たちの出来ることをしましょう≫

「了解だ」


 その後、まだ町中で生き残っている敵をあらかた倒すと、すぐに町から出る。既に町の外にいた敵も逃げるか倒されているかしていたので、何も問題にならなかった。

 それでも、敵の存在がまだ残っていないかの確認はしておく。だが、もはや敵の存在は認識できない。そのことを確認してから勇者一行の元に行くと、彼らはヘリヤたちにより治療を受けていた。

 とはいえ、勇者と剣王の称号を持つサブリナがどうにか意識を保っているに過ぎない。肩書から後衛だろう舞華と俊の二人に至っては、意識がない状態である。それでも彼らは、今すぐにでも死んでしまうほどの重篤というわけではなかった。


「どうやら、生きているようだな」

「……助けて貰って、ありがとう。だけど一つ、聞いていいだろうか?」

「何をだ勇者」

「あの飛行機は何だ!? ううん。何よりあの巨大ロボットは!!?……いててて……」

「あー、気持ちは分かる。分かるけど、まずは落ち着け。傷にさわるから。因みに、ロボットの名称はキュラシエだ」

「そ、そう……」


 その時、ヘリヤと共に治療をしていたイルタから俺と勇者が注意された。勢い込んで叫びながら訪ねてきた勇者の祐樹は兎も角、俺まで注意されるのは非常に不本意だが、何か言葉を返してまた注意を受けるのもしゃくなので、彼女へ反論はしなかった。

 その後、イルタからある提案がされる。それは二つあり、一つは勇者一行の治療に関してであった。彼らは生身で大型ゴーレムと戦っていたということもあって、傷が重くこの場で完治させることは難しいらしい。ゆえに、研究所で治療を施したいというのだ。

 ことは命に関することなので、その点についてはやぶさかではない。ただ、彼らの後ろ盾として存在するアシャン教とアシャン神皇国、それと彼らから感じる不穏とも不快とも取れるが気掛かりではあった。

 すると、近くにいたシュネからわざわざ通信を介して連絡が入る。口頭で伝えればいいのに、通信を使っていることへ眉を寄せつつ通信での会話を試みた。


≪シュネ。通信越しとは、どういうつもりだ?≫

≪……シーグ。彼らを連れて行きましょう≫

≪理由は、あるよな≫

≪ええ。シーグも感じているのでしょう。異様な感じ≫

≪まぁ、な≫

≪十中八九、勇者たち四人に呪術が施されているわ≫

「マジか!」


 シュネの言葉を聞いて思わず振り向いたばかりか、大きな声を出して問い掛けてしまう。そのことに、勇者である祐樹や剣王サブリナが驚いた表情を浮かべたみたいだが気にならかった。

 そんなことより、呪術の方が問題だろう。呪術は魔術の一分野だが、その効果は人の精神を操るなど正直に言えばたちが悪いのだ。効果という意味では幻術も似たところはあるが、幻術の場合は誘導の方が近いのでまだましと言える。しかし呪術の場合、それこそ呪といって差し支えがない。それだけに、忌み嫌われているといっていい魔術分野なのだ。

 因みにだが、俺やキャスは使えない。但し、同じ使えないといっても俺とキャスでは意味が違った。キャスの場合は、単純に教わっていないだけである。そして俺だが、呪術自体が魔術の中でも扱いが繊細で高度ということもあって使えないのである。より正確にいえば、扱いきれていないのだ。

 そしてシュネはというと、実は使える。もっとも、彼女も呪術は忌み嫌っているので、使う気は全くないらしい。俺としても使ってほしいとは思わない術なので、その点は安堵していた。


≪声を押さえて! ゴホン。だから研究所へ連れて行った方がいいわ≫

≪研究所なら解呪ができるのか?≫

≪残念だけど、この場で出来ないことは間違いないわ。何より怪我の治療もあるし、連れて行きましょう≫

≪……しかた、ないか≫


 シュネの言葉に同意して、勇者一行を研究所へ連れて行くことを決めた。この通信越しの話が終わった頃に、イルタからもう一つの提案をされる。それは、町での医療活動だった。イルタやヘリヤやエルヴィは医療用バイオノイドであり、その存在意義からも町をこのまま放っておくことはできないらしい。

 俺としても別に否はないし、シュネにも否はない雰囲気だ。しかし研究所へ連れて行って治療を行う勇者一行の面倒はどうするのかと思うが、そこはシュネがシュネーリアがとふたりで何とかなると太鼓判を押してくれた。

 何より、呪術の解呪がある。魔術となると、寧ろシュネこそが担当として相応しいだろう。


「分かった。イルタ、ヘリヤ、エルヴィ。頑張ってこい」

『はい』


 こうしてイルタたちを町へ残した上で、勇者一行を連れて研究所へ転送することにした。だがその前に、キュラシエの扱いを決めておく。飛行機形態に戻した上で、指示を出して研究所へと向かわせることにした。


「ビルギッタ、頼むぞ」

≪お任せください、シーグヴァルド様≫


 ビルギッタへ指示を与えたあと、俺たちも転送する。そして到着した研究所だが、そこで祐樹が驚きの声を上げている。しかしその直後、彼は痛みからだろうかうずくまってしまった。やはり、怪我は重いということなのだろう。そしてもう一人、サブリナはというと、口を大きく空けて驚いているばかりだった。

 どのみち、このまま薬液を満たした円筒型の槽へ入れるつもりなので、研究所の説明などは治療の終了後にしてほしいと祐樹へ伝える。彼自身も、まずは治療というのは分かっているようであり、表情的には不満を感じさせながらも頷いて了承していた。

 その後、治療する施設があるエリアにまで移動する途中で、俺はシュネーリアを介して行商をしているガイノイドやアンドロイドたちへ、今回襲撃を受けた町へ向かうように連絡をしておく。その際には、転送の許可も出しておいた。

 その指示を終えた頃に、治療エリアへ到着する。そして治療用の機器を見た祐樹とサブリナは、完全に絶句して声も上げられない様子だった。その呆気に取られている二人の意識を戻したあと、治療の手順をシュネが説明する。治療用機器の把握という点では、彼女の方が上だからだ。


「ほ、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。私とシーグとセレンが生き証人だもの」

「……」

「不安なのは分かるわ。だけどね、意識のあるあなたたちはまだしも、気を失っている二人はかなり不味い状態よ。躊躇っていれば、それこそ命にかかわりかねないわ」

「あー、分かった。分かりました! 従います」

「そう。よかったわ」


 半ば投げやりともとれる祐樹の言葉を聞いて、シュネがニコリと笑みを浮かべた。

 何はともあれ、彼らへ呼吸用の酸素マスクをつけてから薬液を満たした槽へ沈める。なお薬液には、鎮痛効果を兼ねた催眠薬の成分も混じっている。その為、間もなく意識のあった祐樹とサブリナの二人も眠りについていった。

 こうして怪我の治療を進めつつ、同時進行でシュネが呪術の解呪を行っていく。解呪に参加する人員は、シュネとセレンとネルトゥース。それと、先代シーグヴァルドの疑似人格であった。

特に先代シーグヴァルドの疑似人格は、生前の先代シーグヴァルドの魔術全てを受け継いだといっていい。それだけに、心強い味方と言える存在であった。


というわけで、勇者たちにも彼ら自身が知らない事情があるようです。

ただ、彼らの活動自体、多少は正義感もありますが。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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