第五十一話~掉尾~
第五十一話~掉尾~
合体したことで、二十メートルに届かないまでもさらに大きくなったゴーレムに対抗する為に、俺は開発していた機体……巨大人型ロボットとなるキュラシエに乗り込み、合体したゴーレムと対峙したのであった。
ロケットパンチという、予想すらしていなかった攻撃のせいで時間を稼がれてしまった為に、ゴーレムの再生時間を稼がれてしまったのは痛恨だったと言えるだろう。斬艦刀や、魔力を介在させていない通常のミサイルを使ってまで合体したゴーレム……長いから合体ゴーレムとしよう。その合体ゴーレム撃破を狙っただけに、いささか悔しさがあった。
しかし、これで分かったことがある。幾ら弱点かも知れない物理攻撃であったとしても、悪魔の操る合体ゴーレムを屠るには生中な攻撃では難しいということだ。
何といっても、あの再生が厄介なのだ。多分だが、土を使っての再生であろう。正確には再生というより、補充といった方がいいのかも知れない。攻撃されたことで欠損した部位を、地面から土を取り込んで補っているのだと推察する。しかも、よりスムーズに補う為に、土の状態ではなく泥の状態にして行っていると考えられた。
ただその場合、どうやって泥をまたゴーレムにしっかりと付着させているかという疑問は残る。カギとなっているのは、欠損部分を泥で補った際に放たれる光だと思われた。何せその光は、少し揺らぎながらも泥化した土の付着した部位を包みこんでいる。それから間もなくして光が消えると、損傷していた部位が損傷していなかった部位と変わらなくなるのだからほぼ間違いはないだろうと思えた。
となれば、より強いしかも物理的な攻撃で大きな損傷を与えるのが理想だろう。だがこれも、厄介といえば厄介だ。もし敵が機械ならば、それこそエンジン部分に損傷を与えるとかパイロットが乗り込んでいるコックピットを吹き飛ばすとかすればいい。だが相手はゴーレムなので、まず行動する為のエネルギーがエンジンに由来していない。だから、エンジン部分を吹き飛ばすなどという損傷を与えて倒すという手段が使えないからだ。
さらに言うと、あると仮定してだがコックピットの場所も判明していない。その為、操作している者がどこにいるのかも分からない。音声こそ対峙している合体ゴーレムから聞こえてきているようだが、音声を出している者が必ずしもゴーレムに乗り込んでいるとは限らないからだ。
しかし、悪魔の反応から想像を働かせてみるに、対峙している大型ゴーレムに搭乗している可能性はそれなりに高いと判断している。確信がないので五分五分としかいえないが、それでも搭乗している可能性があるだけましというものだ。
搭乗者については一まず置いておくとして、幾ら何でも合体ゴーレムの一部だけでなく纏めて吹き飛ばせば再生が行われることはないだろう。そしてその方法だが、実はキュラシエの搭載している武装として存在しているのだ。
「いつまでも鼬ごっこに付き合う気もない。これで、決めさせて貰う」
俺はキュラシエの斬艦刀をもしまうと、その状態で身構える。しかも腕に装備している盾を前にした形ではなく、盾が取り付けられている腕を引いた形でだ。するとこちらの様子に何かを感じたのか、悪魔の操る大型ゴーレムも腕を前に出してくる。そして次の瞬間には、さっきと同じように腕の中ほどから打ち出していた。
初見ならばまだしも、二度目では奇襲にすらならない。俺は腕を伸ばされた時点で、通常ミサイルとマジックミサイルを発射していた。これは迎撃を主の木庭としているが、副次効果として一種の目くらましも兼ねた行動でもある。間もなく合体ゴーレムより撃ち出された腕とキュラシエから放ったミサイルがぶつかり合い、お互いを破壊しあう。その隙を突いてキュラシエのローラーダッシュを作動させて肉薄すると、腕を撃ち出した合体ゴーレム目掛けて引いていた腕を突き出していた。
その瞬間、盾の中央部から金属質の棒が打ち出される。棒というより先が尖っているので、寧ろ槍と言っていいいかも知れない。いや、槍というのも烏滸がましい。その太い金属の棒は、もう杭といってよかった。
要するに、パイルバンカーである。
その大型の杭はいわゆるレールガンの要領で打ち出され、その破壊力はキュラシエ最強の武器となっている。しかも、杭自体も緋緋色金で作られており、その頑丈さも材質も性能も全てについて折り紙付きな杭なのだ。
それこそ、爆発といっていいぐらいの轟音すら伴い撃ち出された杭は合体ゴーレムに当たると、体幹部分をまるで紙でも穿ったかのように容易く貫いて見せている。十分に打ち出している杭も太いのだが、その直径よりも遥かに大きい風穴を開けた杭は、ジジッという微かに電磁的な光を放ちながら盾へと戻っていた。
「……あ、そんな……イスーン! ワヒド!!」
合体ゴーレムの体幹部分にとても大きな風穴を開けてあと、辺りは奇妙といってい静かな時間が流れる。やがてパイルバンカーの杭が盾へと戻ると同時に、俺はキュラシエを操作して距離をとった。するとその動きに漸く我を取り戻したのであろう、合体ゴーレムからと思われる声が聞こえてきた。しかもそこで聞こえてきた言葉には、覚えがある。イスーンとワヒドというのは、四魔将の誰かの名前だった筈だ。
確か、魔物の侵攻を率いていた悪魔がアルバで、こいつは俺が討ち取っている。そして俺たちも引いたあと戦場に残っていた四魔将の言葉からの推察だが、まず間違はないだろう。そしてイスーンとワヒドという名については、その戦場で実際に会話をしていた彼らがお互いに呼び合っていたのだからこちらも疑いようがなかった。
そこからの消去法となるが、今声を張り上げて名前を呼んだのはサラサという悪魔となる。その悪魔サラサが、呼びかけているところを見ると、こちらも憶測だがワヒドとイスーンとサラサという悪魔は大型ゴーレムに乗り込んでいたと判断して問題ないように思えた。
そのイスーンとワヒドという名を持つ悪魔だが、パイルバンカーの一撃で風穴の空いた合体ゴーレムと共に吹き飛んだと見て間違いないようであった。
合体ゴーレムに大きい風穴を開けてから暫くしたが、一向に再生する様子が見られない。つまり再生能力は、ゴーレムの持つ力というより、悪魔が何らかの術を用いて再生を果たしていたとみて間違いないだろう。しかも、未だに再生が行われないところから、イスーンとワヒドとサラサいう悪魔が揃っていないと再生も出来ないのではないかと思えた。
もしそれが事実ならば、撃破も簡単である。足が残っているのでまだ立っているが、胴体の半分以上、いや大半といっていいくらいを吹き飛ばしているゴーレムなど対象が大型だといっても物の数ではない。俺はツインライフルを引き抜き構えると、躊躇いなく引き金を引く。同時に、マジックミサイルとミサイルを全弾放つ。もはや動ける状態にない敵への飽和攻撃であり、問題なく合体ゴーレムの撃破に成功していた。
だがその撃破の寸前、モニター越しにではあるが、動いた姿があったように思える。センサーで確認すると、ゴーレムを破壊する直前に退去したと思われる反応が残っている。そこですぐに通信でシュネへ連絡し対応を任せると、了承の返答があった。
そちらに関しては任せるとして、問題はまだ残っている魔物やゴーレムとなる。町へ侵入を果たしていない敵はまだいいが、既に町へと侵入してしまった魔物やゴーレムに関してはキュラシエで対処するのには問題があった。
それこそ町や住人へ与える損害を全く考慮せず、更地にする気なら殲滅はできるだろう。だが、流石にまだ生き残っている人やエルフなどがいるかも知れない町へキュラシエのまま侵入して大量虐殺などしたくはない。そうなるとやはり、キュラシエから降りて町へ入るしかなかった。
「ビルギッタ。町の外の殲滅、頼むぞ」
≪お任せください、シーグヴァルド様≫
「ああ。それとシエ、キュラシエを任せる。ビルギッタと共に、町の外にいる残敵掃討に当たってくれ」
「了解しました、マスター」
その後、コックピットハッチを開けて機外へ飛び出すと、そのまま町へと向かう。しかしその途中で、勇者一行の姿が見えた。どうやら、かなりの手傷を負っているらしい。勇者や剣士はまだ何とか動けるようだが、後衛となる二人に至っては体を動かすこともままならないといった雰囲気なのだ。
顔立ちや情報から、一人を除いてほぼ同郷といっていい勇者一行であり、このまま放っておくというのもいささか寝覚めが悪い。彼らのバックにいるアシャン神皇国やアシャン教の存在が気に掛かるが、これも仕方がないだろうと判断して取りあえず勇者の元へ向かった。
スラスターを使って空を飛び、すぐ近くに着地する。しかし、流石に警戒された。だが、そのお陰で勇者と剣士の負っている傷の状況が大体わかる。やはり倒れていないだけで、重症であり体を動かすのもつらいと見える。それでも一応、治癒術による応急処置は施しているようだが、本当に応急といってよかった。
俺は、マスクのフェイスガードを開けて顔を勇者たる祐樹へ見せる。その上で、治癒術を掛けようと近付いていった。
「今から治癒術を掛ける。じっとしていろ」
「待って……くれ。これ以上……は、厳しい……んだ」
「厳しい? ああ、そういうことか」
実は治癒術を行使するに当たり、必須の条件が二つある。その一つは、言うまでもなく魔力である。だが、実はもう一つ必要であり、それは治癒術を掛けられる本人の体力というか生命力というか、そのようなものが必要なのだ。
つまり治癒術とは、術を掛けられた相手の体力というか生命力というかそういったものを引き換えに治癒能力を活性化することで、治療の効果を施しているのである。だから体力が著しく減少している相手に治癒術を施すと、その行為が原因となって逆に悪化しかねない。最悪な場合、治癒術を掛けられた者が死にかねないのだ。
簡単にいえば、重篤な者に治癒術を掛けられないのである。前に悪魔の拠点で見つけたセレンは、怪我こそ重傷だったが重篤ではなかったので問題にならなかったのである。しかし、今の勇者一行は、揃いも揃って重篤といっていい。だからこそ、声を掛けた祐樹が厳しいと表現したのだ。
そうであるならば、なおさら放っておくことはできないだろう。現時点における彼らの状態は、はっきり言って瀬戸際に近い状況にあるということだから。
もう一刻の猶予もないと判断した俺は、研究所へ連絡を入れる。そしてネルトゥースを介して、医療用バイオノイドであるイルタとヘリヤとエルヴィを転送するように指示を出す。その際に、医療用キットも持ってくるように命じた。
転送の座標に関しては、俺が今いる場所を目標にするようにと合わせて指示を出す。一まずの指示を出し終えると、視線を勇者へと向けた。
「治療の為の人員を出す。お前たちは、ここで大人しくしていろ……といっても、動くこともままならないか」
「あ……あんたは……いったい……」
「いずれあとで……ん?」
その時、勇者たちから何か不穏というか不快なナ二かを感じる。一瞬気のせいかとも思えたが、そうではない。確証はなく殆ど勘に近いが、勇者には理解しがたいかつ不快と感じさせるナ二かがあるようだった。
それはこちらに敵意を持っているというとか、そういったものではない。しかも気を付けてみれば、勇者だけでなく四人全員からもまるで滲み出ているかのように不快なものを感じたのだ。しかし、今は他に優先させることがある。気にならないわけではないが、悪いが取りあえず棚上げすることにした。
「いいな! 大人しくしていろよ」
祐樹たちからの返事すら聞かずに、そこで踵を返すと町の中へ急ぐ。すると間もなく、近くに二つの人の気配を感じた。一つは空中にあるセレンのものであり、もう一つは走り寄ってきたオルのものだった。
しかもシュネとエイニがいないところを見ると、彼女たちはきちんとお願いしたことを実行してくれているようである。恐らくだが、こちらの手が足りないと考えてオルとセレンの二人を派遣してくれたと思えた。
「町中へ侵入している魔物とゴーレムを駆逐するぞ」
「うん」
「任せて」
オルとセレンから出た力強い返答に頷き返すと、悪魔が崩した町外周部の壁の亀裂から町の中へ入ったのであった。
主人公命名、合体ゴーレムとの決着がつきました。
悪魔が一人脱出していますが、そちらはシュネへ任せて町へと向かいました。
ついでに、勇者たちも助けるように動いていますが。
ごいちどくいただ、ありがとうございました。




