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第四十九話~合体~


第四十九話~合体~



 お祭り騒ぎとなっていたルドア王国の王都から出て、同国の国西部地域へ到着してから暫くした頃、緊急の情報が入ってくる。その内容は、何と勇者一行が危機に陥っているというものであった。





 目的地へ向かう為に一まず研究所へ戻り、そこから現地に転送する。その現れた地点は、四魔将だか三魔将だかが襲撃している町から少し離れた場所であった。しかしてその町であるが、煙などが上がっており正に襲われている最中さいちゅうで間違いない。だが距離があるので、正確なところは分からない。ただ一つ目立つのは、町の外でかなり大きい何かが三体、動いているということだけだった。

 その時、研究所のネルトゥースから連絡が入る。すると間もなく、転送する為の座標基点となったドローンがとらえていた映像が送られてくる。その映像を見る限りでは、町を負う外壁が何か所かひどく壊れている。ということは、既に町は悪魔の軍勢の侵入を許していると考えていいだろう。つまり見えた煙は、悪魔の軍勢によって引き起こされたものだったわけだ。

 さて、悪魔が率いている軍勢の構成としては、前回の襲撃と同じように魔物の比率が多い。しかし、その魔物の数自体はあの戦いの時ほどにはいないように思える。しかしその代わりなのだろう、多数のゴーレムが投入されているようだった。

 しかもゴーレムは三種類あり、一番多いのは人とほぼ大きさが変わらないゴーレムとなる。その他に人より大きいゴーレムがいて、そのゴーレムの攻撃で町を囲む壁が壊されたのではと思えた。

 恐らく、何度も攻撃を食らっているのでそのうちに壁が耐えきれず壊されたのだろう。その壊された壁に魔物やゴーレムが集中して攻め寄せたことで、町にいる兵士や冒険者の防衛も間に合わず突破されたのだと判断できた。

 一方で殊更に大きい三体のゴーレムが存在していて、こちらは勇者一行を相手にしているようである。だが相手をしている勇者たちの旗色はかなり悪いらしく、勇者にしても剣王の称号を持つサブリナにしても、相当な手傷を負っているようであった。

 しかも、彼らのやや後方には二人の男女が倒れている。映像を見る限りでは、生きているのか死んでいるのかは分からなかった。


「ネルトゥース。これはリアルタイムの映像か?」

≪はい。ドローンから送られている現在の映像です≫

「かなり大きいな……五メートル以上はあるか?」

≪大きさですが、七.三五メートルとなります≫

 

 思いの外、大きいゴーレムのようだ。

 こんな大型のゴーレムを相手しているとすれば、それは勇者たちといえども苦戦していても不思議ではない。何よりこれだけの相手であれば、回りに対するフォローなどできる筈もないだろう。どうやらその辺りの事情も、悪魔の軍勢を町への侵入を許してしまった原因だろうと思われた。


「……シュネ。機体だが、問題はないよな」

「勿論、万全よ。使うの?」

「ああ。最悪、こちらの攻撃が効かない可能性がある。シュネは、どう思う?」

「ゼロ、とは言えないわね。確かに、布石は打っておいた方がいいわ」

「そうだな。ネルトゥ-ス!」

≪はい。シーグヴァルド様≫

「聞いていたのだろう? 出せ!!」

≪了解しました。「キュラシエ」、発進します≫


 これで、事前に打てる手は打った。あとは、介入するだけだ。どうやら、勇者たちも町を防衛中のルドア王国側も余裕はないらしいからな。

 手順としてだが、まずは近付かないと意味がない。この距離では、ビルギッタやエイニが持つ対物魔ライフルがギリギリ狙える距離となるってしまう。ただ、俺が持つ武装であれば話は別だ。流石にガトリングは無理だが、マジックミサイルやミサイルランチャー、そしてマジックカノンであれば届かせることが可能な距離だからだ。

 しかし俺の場合、近接戦を最も得意としている。それゆえに、できうるなら距離は詰めておきたい。最低でも、ガトリングを使っても有効な距離までは接近しておきたいのだ。そこで、まずは接近することを最優先に動く。つまり、前回で魔物の群れと一戦交え得た時と同じだった。


「では、始めるぞ」

「ええ」

『転装!』


 直後、俺たちはドゥエルテクターを纏う。前回の時はオルとセレンが纏ったドゥエルテクターは取りあえず合わせたぐらいであったが、今回はしっかりと調整済みとなっていた。全員が身に着けると、オルが先祖返りの姿となる。その変身を契機として、オルとビルギッタとエイニが、地上を疾走して接近を始めた。

 そして俺とシュネとセレンは、スラスターを使用して空から接近する。やがて、魔術の射程に入った辺りまで近づく俺たちは地上へ降りると、そこに地上を疾走していたオルとビルギッタとエイニが合流した。

 するとビルギッタとエイニの二人は、すぐに対物魔ライフルを取り出して狙撃を始める。同時に、シュネとセレンも魔術による攻撃を悪魔の軍勢に対して始めていた。そんな四人の姿を視界の隅に収めながら、俺も全ての武装を転送させたのだった。


「食らえ!」


 両肩のマジックカノンが、右足の三連式マジックミサイルが、左足の三連式のミサイルランチャーが火を噴く。さらに両手に持つ三銃身ガトリング式重魔機関銃が、魔物とゴーレムの混成部隊目掛けて連続的に弾丸を吐き出していった。

 結果としてほぼ奇襲に近い俺たちからの攻撃であり、魔物が気付く間もなく駆逐されていく。しかしながら、ゴーレムとなると魔物ほど簡単にはいかない。流石の耐久性を、見せていたからだ。

 つまるところ撃破率が悪くなるのだが、それでも倒せないわけではない、ゴーレムが魔物より耐えるとはいえ、あくまで耐久性の問題でしかないからである。有り体にいえば、魔物を倒すことが出来る以上のダメージを負わせられれば、たとえ相手がゴーレムだとしても駆逐できるのだ。

 それでなくても、シュネとセレンの魔術やビルギッタとエイニからの対物魔ライフルの銃撃によってダメージを負わされている。そこに、オーバーキルに近いダメージが蓄積されるのだからから幾ら耐久性が高いといっても限度はあった。

 だが襲撃を受ければ、相手も対処をする。まだ町へ侵入を果たしていない魔物やゴーレムが、こちらへ向かってきた。


「……魔物やゴーレムの動きから見ると、あの大きいゴーレムから指令が出たみたい。流石に、三体のうちでどのゴーレムか出ているのかまでは分からないけれど」

「あの、ゴーレムか……」


 物は試しとして、シュネが指摘した三体のゴーレムに対してマジックカノンと、マジックミサイルとミサイルランチャーを撃ってみる。ガトリングを使わなかったのは、単純に相手の数が少なかったからだ。

 ガトリングというか機関銃の場合、求められる性能は制圧射撃となる。しかし三体しかいない相手に、制圧射撃をしてもあまり意味があるようにも思えない。しかも相手が大きいので、より破壊力が高い武器を使用したのだ。

 何より三体の大型ゴーレムの近くには、勇者たちがいる。三体のゴーレムの気を引く相手が俺たちへ変わったことで、勇者たちからある程度だが距離が出ている。この状況であれば、マジックカノンやミサイルは着弾地点を大体でもコントロールできる。それゆえに、勇者たちへ損害が出る確率は低いだろう。しかし、ガトリングとなると反動がある分いささか難しい。その意味でも、ガトリングを使用することがはばかれたのだ。


「……多少は効いたか?」


 マジックカノンやミサイルが着弾したことで、ゴーレムの周辺が煙に包まれる。その為、すぐには成果を確認することはできなかった。

 やがて着弾後の煙が晴れると、そこには三体のゴーレムがたたずんでいる。受けた損傷は三体で差はあるようだが、それでも効いてはいるように見えた。しかも、三体のうちで一体だけがやや大きい損傷を負っている雰囲気がある。とはいえ、あれだけの直撃を受けても撃破できないとは、相当な頑丈さだと思えた。

 だが、効いてはいるのも間違いない。ならば、継続的に損傷を与えることが出来れば、撃破も出来るだろう。問題は、それが可能かということだ。現状で俺が持てる最大破壊力をぶつけても、撃破できていない。しかも、贔屓目に見ても最大の損傷を負っている一体であっても半壊までは至っていないのである。この事実から、どうみてもただのゴーレムとは思えなかった。

 その時、予想もしていない事態が起きる。何と大型ゴーレム三体の足元が、泥濘でいねいと化したのだ。しかも次の瞬間、ゴーレムの体をその泥濘が這わせていく。やがて泥濘は、損傷を受けた場所に到着するとまるで埋めるように損傷部を覆ってしまった。

 それだけにとどまらず、損傷部を覆った泥濘を含めた辺りが青白い何かに覆われる。見た感じ、炎のようにも思えたその青白い光が収まると、ゴーレムが負っていた損傷などまるでなかったように奇麗な表面となっていた。

 そんな余りの出来事に、俺もシュネも目を丸くして絶句する。いや俺とシュネだけではない、オルとセレンも同様な反応を示していた。

 再生などという想定外の事態に、思わず攻撃の手を緩めてしまう。するとどこからともなく、音声が発せられてきたのだ。


「その攻撃……貴様らがアルバを倒した奴らか」

「誰だ!」

「そなたの目は節穴か。攻撃をしてきた者が何を言う」

「……まさか、そのゴーレムか?」

「その通り。正確には、ゴーレムの中だが」


 どうやら、予想した通りただのゴーレムではないらしい。何と、搭乗が可能なゴーレムのようだ。そのようなことが可能なのかと、思わずシュネを見てしまう。しかし彼女も分からないようで、ただ首を横に振るだけだった。


「しかし……多少なりとはいえこのゴーレムに損傷を与えるとは、やはり侮れぬ。そこの勇者どもより、遥かに」

「……それはどうも」

「ワヒド。やはり、ここは万全を期しましょう」

「そうだ。サラサのいう通りだ」

 

 アルバにワヒドにサラサ、それは確か四魔将とか名乗っていた悪魔の名前の筈だ。ということは、三体の大型ゴーレムに搭乗しているのは、死んだアルバを除く四魔将ということになる。どれだけの力を持つのかはまだ分かってはいない相手だが、それでも相当な実力者なのだろうことは想像に難くなかった。

 何せ本当かどうか知らないが、万を遥かに超す魔物の群れを率いた悪魔アルバを四魔将で最弱だとまで言っていたのだから。


「お前ら、四魔将とかいった奴らか」

「やはりあの戦場で潰した小型のゴーレムみたいな物は、その方らの持ち物か……そういえば、悪魔王様も驚いておったな。「どうして、これがフィルリーアにある!」と」

『……え?』


 あそこで監視をしていたドローンは、恐らくだが魔術で壊された。それは、間違いはない。その壊されたドローンが持っていかれたのも、仕方がないだろう。何せ壊されたことで、研究所からのコントロールを受け付けなくなってしまったからだ。自壊させようにも、指示が届かなければ意味がない。この辺りも、改善点だなとその時はシュネと話し合ったものだった。

 兎に角、持っていかれたことも問題なのだが、それ以上に驚いたことがある。それは、壊れたドローンを見た悪魔王が、ドローンであることに気付いているだろうということだった。そうでなければ、ドローンを見てなどといった言い方はしないだろう。この言い回しは、対象が理解でいていない限り使わないからだ。


「悪魔王……その正体、何なんだよ……」

「ふん! そのようことは決まっている、我らの主様よ! その主様を脅かすそなたたち、やはりここで潰しておくべきだ!!」


 三人の悪魔で誰が言ったのか分からないその言葉が紡がれた直後、大型ゴーレムの三体から光が発せられる。そのまぶしさに、俺たちは一瞬だが目がくらんでしまった。しかし間もなく、ドゥエルテクターにより遮光が施される。お蔭で、すぐに視界は回復していた。

 だがその回復した視界で、驚くべきものを目撃することとなる。何と三体の大型ゴーレムが消えており、代わりにより大型となったゴーレムが一体だけ立っていたのだ。その事案から推察されること、それは三体のゴーレムが合体したということだろう。それはシュネも同じであったらしく、彼女も一言呟いていた。


「……まさか、合体したの?」


 半ば無意識にシュネの漏らしたその言葉こそ、俺の気持ちを代弁した一言であった。


シーグ側ではなく、敵である悪魔側で合体イベントが発生しました。

敵の合体ってあまり見なかったので……


ご一読いただき、ありがとうございました。

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